「万葉集という選択は自分でも思いきったなと」新元号発表後の発言に見る安倍首相の“思い入れ”

「万葉集という選択は自分でも思いきったなと」新元号発表後の発言に見る安倍首相の“思い入れ”

新元号について会見する安倍晋三首相 ©時事通信社

 4月1日、新元号が「令和」と発表された。安倍晋三首相は記者会見のほか、さまざまなメディアを通じて、元号に込めた意味や期待などを繰り返し発信した。安倍首相のメッセージから何が読み取れるのか考えてみたい。

安倍晋三 首相
「歴史上初めて国書を典拠とする元号を決定しました」
首相官邸ホームページ 4月1日

 安倍晋三首相は4月1日12時過ぎより首相官邸で記者会見を開き、新元号「令和」の出典が「万葉集」にある歌の序文「初春の令月にして 気淑(よ)く風和(やわら)ぎ 梅は鏡前の粉(こ)を披(ひら)き 蘭(らん)は珮後(はいご)の香を薫(かおら)す」から二文字をとったことを明らかにした。「万葉集」については「我が国の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する国書」と説明している。

 元号は、これまで確認できる限りすべて中国の古典から選ばれていたが、安倍首相はかねてから「元号の出典は日本で書かれた書物がいい」と明確な要望を口にしていた(日テレNEWS 3月1日)。「国書」を選んだのは安倍首相の強い意向と考えていいだろう。

■「令和」は日本由来と言えるのか?

 とはいえ、「令和」が日本独自の言葉というわけではない。岩波文庫編集部の公式ツイッターは「新元号『令和』の出典、万葉集『初春の令月、気淑しく風和らぐ』ですが、『文選』の句を踏まえていることが、新日本古典文学大系『萬葉集(一)』の補注に指摘されています」とコメントした(ツイッター 4月1日)。

『文選(もんぜん)』とは中国の美文を集めた詩歌集で、6世紀に成立したもの。7〜8世紀の遣隋使・遣唐使が持ち帰り、文章をつくる上での最高の模範とされた。歴史学者で東京大学名誉教授の保立道久氏も「『仲春の令月、時和し気清らかなり』(張衡『帰田賦』文選15)が原型。漢文からとらず『日本の古典』からとったと主張するは奇妙な話である」と指摘した(ツイッター 4月1日)。

 中国哲学の宇野茂彦・中央大名誉教授は「日本の文化というのは漢籍に負うところが非常に多い。文化に国境は無い。漢籍を異国の文化だと思わないでほしい」とコメントしている(毎日新聞 4月1日)。

安倍晋三 首相
「有識者の皆さんにご意見を伺い、有識者全員から国書から選ばれるべきだというご意見があり、多くの方々から令和が支持されたと伺いまして」
テレビ朝日「スーパーJチャンネル」 4月1日

 安倍首相は4月1日午後6時からテレビ朝日「スーパーJチャンネル」に出演、新元号「令和」が選ばれた経緯に触れた。

「有識者」とは4月1日の「元号に関する懇談会」に出席した山中伸弥京大教授や経団連の榊原定征前会長、直木賞作家の林真理子氏らを指す。有識者全員が「国書から選ばれるべきだ」と意見した。

 有識者会議の後に行われた全閣僚会議の冒頭では、杉田和博官房副長官が「有識者会議では令和を評価する意見が多かった」と告げ、閣僚たちの意見も「中国の古典ばかりでなく日本由来を使うべきだ」とまとまったという(日本経済新聞 4月2日)。

■あれ? 結局いつ知ったの?

安倍晋三 首相
「大変私は新鮮な響きがあるなと思いましたね」
NHK「ニュースウォッチ9」 4月1日

 4月1日午後9時からNHK「ニュースウォッチ9」に出演した安倍首相は、有馬嘉男キャスターから初めて「令和」を目にした時期とそのときの印象について問われ、今年の3月に学識者からの案を菅官房長官が整理して絞り込んだものを見たと返答。説明を受けて「新鮮な響き」を感じたと語った。

 ちなみに前述の「スーパーJチャンネル」では、有識者から「令和」を支持する声を聞いた後のタイミングで典拠を見て、「今までにない新鮮さを感じました」と語っていた。思いっきり矛盾している。「ニュースウォッチ9」での言葉が正しければ、安倍首相がかなり早い段階で「令和」に心惹かれていたことになる。その後の手続きも「令和ありき」のようだ。以前にもそんなことがあったような……。

■「漢籍を典拠としたものと違って、情景が目に浮かぶ」

安倍晋三 首相
「『令和』というのは、いままで中国の漢籍を典拠としたものと違ってですね、自然のひとつの情景が目に浮かびますね」
NHK「ニュースウォッチ9」 4月1日

 先に触れたとおり、「万葉集」の「初春の令月、気淑しく風和らぐ」は中国の『文選』を踏まえたものだということが複数の国文学者から指摘されている。たしかに「平成」からは自然の情景は感じられないが、それは漢籍か国書かは関係ない。

安倍晋三 首相
「元号は、皇室の長い伝統と、国家の安泰と、国民の幸福への深い願いとともに、1400年近くに渡る我が国の歴史を紡いできました。日本人の心情に溶け込み、日本国民の精神的な一体感を支えるものとなっています」
首相官邸ホームページ 4月1日

 安倍首相は記者会見の冒頭発言をこう締めくくった。作家の柳美里氏はこの発言が記された安倍首相のツイッターを引用する形で、「日本という国を構成しているのは、日本人だけではありません」「国民、日本人、と繰り返すことで、除けられた、弾かれたと感じる日本在住の外国人は多いはずです」と言及した(いずれも4月2日)。


 安倍首相の発言は、1989年、平成に改元した際に竹下登首相(当時)が発表した首相談話の一節「長い歴史の中で日本人の心情に溶け込み、日本国民の心理的一体感の支えにもなっております」を下敷きにしたものだ(データベース「世界と日本」国会外の演説・文書 総理大臣より)。「心理的一体感」が「精神的一体感」に変わっている。

 簡素だった竹下氏の首相談話に比べ、「国書」への強いこだわりを見せた安倍首相の発言や姿勢に柳氏が反発を感じたのかもしれない。なお、柳氏は「令和」の考案者だと報じられた国文学者の中西進氏とともに「万葉のこころを未来へ」というシンポジウムに出席している。

■改元で支持率上昇?

安倍晋三 首相
「万葉集という選択は自分でもよく思いきったなと思ったけど、反応も良くてよかった」
日本経済新聞 4月3日

 新元号の公表から一夜明けた2日、安倍首相は周囲にこう語ったという。

 今回の改元について、政治ジャーナリストの泉宏氏は「安倍改元」と表現した(東洋経済オンライン 4月1日)。共同通信社が行った全国緊急電話世論調査では、73.7%が新元号に「好感が持てる」と回答。安倍内閣の支持率は3月の前回調査に比べて9.5ポイントも上昇して52.8%となった。

 新元号は広く受け入れられ、「安倍改元」は大成功だったと言えるだろう(日刊スポーツ 4月3日)。だが、これで数々の問題がチャラになったわけではない。「令和」を平和な良い時代にするには、まだまだ解決すべき問題は多い。

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(大山 くまお)

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