「解説上手なニューヒーロー」高見泰地叡王は防衛へ逆転できるか?

「解説上手なニューヒーロー」高見泰地叡王は防衛へ逆転できるか?

昨年の叡王戦七番勝負で4連勝し初タイトルを獲得した高見叡王 ©共同通信社

 これは高見泰地叡王が「きょうの叡王」という期間限定企画でTwitterに投稿したものの一つだ。現役タイトルホルダーが日常を記し、時々の赤裸々な心情を吐露するもので人気を博した。?

■25歳と思えぬ日本語の美しさ

 高見叡王のツイートには、25という年齢を思わせぬ日本語の美しさを感じる。番外編含めて計170回。応援するファンを楽しませた。

 高見叡王はプロ入りをかける過酷な三段リーグをわずか3期、18歳で卒業した。10代でのプロ入りでエリート棋士への切符をつかんだと言える。

 筆者は高見叡王がプロ入りしてまもなくの頃に対戦し、千日手(引き分け)をはさんで深夜3時を過ぎる激闘の末に敗れた。そしてそれが一つの縁となり、練習対局を行うようになった。

 練習対局を重ねる中で、筆者は他の人にない高見叡王の将棋の特徴に気がついた。玉を固く囲う形を好むのだが、固さに任せて強引に攻め込むのではなく、盤面全体を使ってこちらの駒を抑えこんでくるのだ。いまになって、強い将棋AIの指し方とどこか似ていると気がついた。

 いつの時代にも別人に見えない未来をイメージしている人がいる。まさに高見叡王はその人だったのだ。

■盤面を制圧する指し方で初タイトル

 そして2018年春、タイトル戦に昇格して初めての開催となった第3期叡王戦で大ブレークを果たす。予選を抜けた高見叡王は本戦で順に、豊島将之二冠、渡辺明二冠、丸山忠久九段とトップ棋士をなぎ倒して決勝七番勝負へ進出した。

 渡辺(明)二冠との対局は高見叡王の横歩取り(※1)で始まり、成桂(※2)で盤面を制圧して圧倒した。本来横歩取りは大駒飛び交う激しい展開に進むのだが、高見叡王が指すと盤面を制圧する指し方に変化する。高見叡王の将棋の特徴がよく現れた一局だった。

 決勝七番勝負は金井恒太六段との対戦だった。内容的には金井六段が押していたが、高見叡王は苦しい場面で類まれな終盤力を見せた。どんな不利になっても諦めない姿はタイトル獲得への迫力を感じさせた。

 そして高見叡王は結果的に4連勝で七番勝負を制してタイトルを獲得した。24歳の春だった。

(※1 横歩取り=序盤から相手の歩を取り合い、囲いも作らず激しく戦う戦法のこと)
(※2 成桂=敵陣に成りこんだ桂のこと)

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■斎藤王座、菅井前王位、永瀬七段……俊英揃いの同世代

 高見叡王の同年代は活躍が目立っている。

 同学年に、斎藤慎太郎王座、第10回朝日杯将棋オープン戦優勝の八代弥六段、第2回YAMADAチャレンジ杯優勝の三枚堂達也六段。

 1学年上に、菅井竜也七段(前王位)、永瀬拓矢七段。

 1学年下に、タイトル挑戦1回の千田翔太七段、あの藤井聡太七段の30連勝を止めた佐々木勇気七段。

 俊英揃いだ。豊富なライバル関係は強い刺激を与え合う。間違いなくこれからの将棋界を引っ張る世代であろう。ここにあげた棋士は、まっすぐで、コミュニケーション能力が高い。みんな育ちのよさも感じる。そういう人が勝つ時代なのかもしれない。

 高見叡王はプロ入りからしばらく、立教大学文学部史学科での勉学との両立に悩んでいた。筆者も経験したが、学業との両立は大変だ。しかしこれは若いときにしかできないことであり、長い人生でそういう時期も悪くない。経験は必ず財産になる。

 大学卒業後、高見叡王はニコニコ生放送やAbemaTVの将棋番組で解説の機会が増え始めると一気に人気を博した。これはその人柄とともに卓越した将棋の言語化に要因がある。この辺りは学業で培われた部分もあるだろう。

 高見叡王のタイトル獲得パーティーに筆者も2度ほど出席した。その際、ファンの数と熱気に圧倒され、高見叡王がファンに愛されていることを強く感じさせられた。女性ファンの比率も将棋イベントとは思えないほどで、関係者と「将棋界も変わりましたね」と話したものだ。

 タイトルを獲得すると将棋界の顔としての活動を求められ、日常が激変する。いいこともあるが、心を削られることもあるだろう。心が削られると成績に現れるものだ。筆者も3月末までモバイル編集長という肩書きで運営に携わっていたが、そちらで気を取られた時期は将棋に影響が出ていたものだ。

 高見叡王もその例に漏れず、タイトル獲得直後から苦しみ続けた。上記ツイートはとある対局に敗れた夜のものだ。

 さらにこの直後に筆者と対局したのだが、この対戦は高見叡王の良さが全く見られず、らしくない内容に心の疲労を感じたものだった。この敗戦でタイトル獲得から5勝6敗と負け越しに転じてしまったが、ここから防衛戦となる七番勝負開幕まで9勝2敗と見事な立ち直りを見せた。

■1学年上の永瀬七段相手に立て直しできるか

 第4期叡王戦七番勝負の挑戦者には1学年上の永瀬七段が名乗りをあげた。いまの永瀬七段はいつタイトルを取ってもおかしくない実力の持ち主だ。最強の挑戦者を迎えたと言っても過言ではない。

 第1局は4月6日(土)に行われ、永瀬七段が逆転勝ちした。高見叡王としては築いた優位をフイにする痛恨の逆転負けだった。だが、高見叡王は間違いなくこの敗戦を糧に立て直してくるはずだ。

 苦しいときに助けになるのは「言葉」である。将棋についても、精神状態についても、言葉で表すことができれば修正は早い。そのためには普段から考えを言語化している必要がある。美しい言葉を持つ高見叡王にとってそれは得意分野であろう。

 また苦しいときにファンの応援ほどありがたいものはない。高見叡王のツイートにはいつも温かいリプライがついていた。高見叡王の言葉の美しさ、ファンを思う気持ち、それにファンが応えてきた。今度はその声援が支えになる番であろう。

 第2局は4月13日(土)に行われる。連敗となると防衛に向けて黄信号が灯る。シリーズの行方を左右する一番となるはずだ。

 この春より、高見叡王はNHK将棋フォーカスの棋士MCに起用された。NHKの将棋番組は世間一般を相手とする。将棋を語る言葉美しき高見叡王にピッタリだ。この文章を読んで、将棋を、そして高見叡王をより知りたいと思われた方は、その話しぶりをぜひテレビでご覧いただきたい。

(遠山 雄亮)

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