飲んでもムダな薬リスト #3

飲んでもムダな薬リスト #3

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近年、アメリカから始まった「チュージング・ワイズリー(賢い選択)」運動が注目を集めている。現在行われている検査や治療を再検証し、本当に必要な医療を提供しようという取り組みだ。日本においても例外ではない(#1の「過剰な医療」リスト参照)。風邪で処方される抗生物質や年に一度受けるべきとされる健康診断など、普段何気なく受けている医療が実は「過剰」なものであることが明らかになってきたのだ(#2参照)。
(出典:文藝春秋2017年5月号・全3回)

■健康診断のデメリット「偽陽性」

 健康診断には、「偽陽性」の問題もあると指摘している。偽陽性とは、実際には問題がないのに「異常」とされることを指し、それによって不必要な追加の検査や治療が行われてしまうことがある。たとえば、血液検査で偽陽性があった場合、不必要な生検が追加される。また、心電図の解釈が不正確だった場合、放射線被ばくを伴う別の検査(筆者注・心臓CTなど)が行われる。さらには、「検査を受けた100人のうち2人が、心臓発作や死亡を招く処置を受けることになるかもしれません」とまで書かれている。

 このような健康に対する悪影響だけでなく、チュージング・ワイズリーでは、過剰な検査や治療による医療費の浪費に対しても、警鐘を鳴らしている。この項目では、米国の社会福祉制度が必要性の低い健康診断に、年間3億ドル(約330億円)をつぎ込んでいると指摘。さらに、追加の検査や治療のために10億ドル(約1100億円)以上が浪費されていると書かれている。

 もちろん、検査が必要なケースもある。

「体調が悪い」「病気の症状が出ている」「慢性の症状が続いている」「新しい薬の効果を調べる」「喫煙や肥満などのリスクをもっている」といった場合は、検査をしたほうがいいとチュージング・ワイズリーも勧めている。逆に言えば、こうしたケースを除いて、ふだん健康的な生活を送れているならば、定期的に健康診断を受ける必要はないということなのだ。

 他にも、「骨密度の検査」「腰痛に対する画像診断」「頸動脈の検査」「喫煙者に対する肺がんのCT検診」「PSA検査(前立腺がん検診)」などが、過剰になりやすい検査としてリストにあがっている。日本でもよく行われている検査なので、読者の中にも受けた経験のある人が多いはずだ。

 もし、こうした検査を医師に勧められたら、どれくらい役に立つものなのか、そしてメリットだけでなく、その検査で異常が見つかった場合、どんな追加の検査や治療を受ける可能性があり、それによってどんな害がありうるのか、しっかり説明を受けてから判断するべきだろう。

 このように、米国のチュージング・ワイズリーのホームページには、ふだん私たちが何気なく受けている医療の中に、ムダが潜んでいることを教えてくれるリストが掲載されている。患者向けのリストはわかりやすく書かれているので、英語が読める人はトライしてみるといいだろう。各リストの詳しい内容は、写真付きのパンフレットとしてダウンロードすることもできる。

 英語が苦手な人は、このリストのうち48項目(2017年3月現在)が、有志の医師や医学生らの手によって翻訳・監修され、「メディカルノート」という医療ウェブメディアのサイトに掲載されている(例:抗菌薬が必要なとき、必要ではないとき[https://medicalnote.jp/contents/150722-000017-IOJPUW])。「Choosing Wisely Japan」のホームページにリンクされているので、関心のある人はぜひ読んでみてほしい。

■日本発、5つの「推奨しない医療」リスト

 日本のチュージング・ワイズリー・ジャパンによる独自のリスト作りはこれからだが、2015年に地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問の徳田安春医師ら総合診療系指導医のグループが、推奨しない検査などについて5つのリストを作成している。その内容は次の通りだ。

1、症状のない成人に対するPET-CTを使ったがん検診
2、症状のない成人に対する腫瘍マーカーを使ったがん検診
3、症状のない成人に対するMRIを使った脳検診
4、とくに異常のない腹痛に対する習慣的な腹部CT
5、医療提供者の利便性のために尿道カテーテルを留置すること

 1番目、2番目のPET-CTや腫瘍マーカーによるがん検診は、民間の人間ドックなどでよく行われているものだ。これらの検診で死亡率が下がるというエビデンスはなく、高額な料金で行われていることに、以前からがんの専門医などから批判の声があがっている。

 また、3番目も「脳ドック」と称してよく行われているが、これも「リスクの低い無症候性脳梗塞や脳動脈瘤を見つけて患者を不安にさせるだけ」と疑問視する専門家が多い。4番目の腹部CTや5番目の尿道カテーテルも、医療現場で必要性を吟味しないまま行われていることが多いと指摘されるものだ。

 これら5つに限らず、日本でもムダな検査や治療はたくさんあげられるだろう。今後、各学会がこの運動に呼応し、5つのリストが増えていくことを期待したい。

■「価値の低い医療」もある

 小泉医師とともに、チュージング・ワイズリー・ジャパンの設立メンバーとなった徳田医師が話す。

「米国の医療費の3分の1が、ムダな検査や治療に使われていると試算されています。日本でも、かなり多くの医療費がムダに使われているでしょう。このままでは、保険財政が破綻しかねません。それを防ぐためにも、これからますます、『価値の低い医療(Low Value Care)』によるムダをなくして、『価値の高い医療(High Value Care)』に集中していく必要があります」

■価値の高い医療が高額とは限らない

 この運動は世界17カ国に広がり、カナダ、オーストラリア、イギリスなどでもホームページが開設され、リストが公開されている。おもしろいのがカナダの運動で、米国の歌手、ファレル・ウィリアムスのヒット曲「ハッピー」の替え歌がつくられ、チュージング・ワイズリーのメッセージを一般向けに伝えるミュージック・ビデオがユーチューブに公開されている。この曲は日本の自動車メーカーのCMにも使われているので、聞き覚えのある人も多いはずだ。ビデオを見ると中高年の人たちが、街中や建物の中でメロディに載せて踊りまくっていて面白い。その歌詞の一部を意訳してみた。

 私がおかしなことを言っているように聞こえるかもしれない
 でも、できるだけ少なくするのが、一番いいんだよ
 あなたが本当に必要としない検査や治療、処置がある
 いいこともあるけど、悪い結果になることも多いんだ
 さあ、賢く選択しよう
 CTや定期健診は、よいことよりも害をなすことが多い
 ちいさなことで画像診断しても、真実はわからない
 風邪で抗生物質を飲めば、かえって悪くなる
 たくさんのことを検査しても、大抵はやり過ぎなんだよ

 価値の高い医療が高額とは限らない。たとえば「禁煙」「リハビリテーション」「認知行動療法(うつ病の患者などに対して、悲観的な見方や考え方をしてしまう認知の歪みを修正していく精神療法)」なども、薬物療法に勝るとも劣らない、価値の高い医療だと徳田医師は強調する。

 医師だけでなく患者側も意識を変える必要がある。小泉医師、徳田医師らとともに活動する、医療ジャーナリストで京都薬科大学客員教授の北澤京子氏はこう話す。

「検査をすればするほど、あたかもいいことをやってもらっていると私たちは思いがちです。でもそれは、検査にもデメリットがあることを知らないから。医師から検査を受けるように言われたら、私でもなかなか断れませんが、そのメリットとデメリットを知って、自分で選択できるような情報提供を医療者の方々にはしてほしい。この運動が、患者が医師に質問しやすい雰囲気づくりに役立てばと考えています」

 チュージング・ワイズリーが広く知られるようになり、患者が賢く選べるようになれば、日本の医療も劇的に変わるだろう。

(鳥集 徹)

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