「STAP細胞はありまぁーす」――名場面でふりかえる平成の記者会見 #2

「STAP細胞はありまぁーす」――名場面でふりかえる平成の記者会見 #2

電撃辞任を発表した福田康夫元首相 ©文藝春秋

「私は自分自身を客観的に見ることができるんです。あなたと違うんです」

 最後の最後に言っちゃいましたか、そう思った覚えがある。平成20年(2008年)9月、首相だった福田康夫氏は辞任会見の質疑応答で、こう言い返したのだ。

 いつも淡々と落ち着きはらい、時には皮肉をこめ、時には理路整然と人ごとのようなコメントの多かった福田氏は、質問者に「唐突に投げ出された」と問われ、身体を左右に揺らし「これらかの政治を考えて」と釈明した。だが退陣会見すら「人ごとのよう」と指摘されると、その声に怒気がこもり、冷ややかにこう言い切ったのだ。小泉政権では官房長官として、個性たっぷりの皮肉やユーモアのあるコメントが多かっただけに、そつなくかわすと思いきや、堪忍袋の緒が切れたように飛び出てしまった失言に驚かされた。

■人の印象は裏表、どう思うかはその人次第

「一番の被害者は俺だから」

 呆れてモノも言えない、とは、こういうことだろう。前日に逮捕情報が流れ、押し寄せる記者たちを前にふてぶてしくもこう言い放った人物。平成21年(2009年)2月、疑似通貨の「円天」や高額配当で、全国から巨額の資金を集めて破たんしたL&Gの波和二会長だ。

逮捕前だというのに何を言われても動じる風はなく、「(謝罪は)ありえない」と言いたい放題を繰り返す。大きな声ではっきりと、短い言葉でわかりやすく言い切るが、相手が相槌を打つタイミングも忘れない。堂々とした態度に独特の風貌、黒をベースにした服装は胡散臭さが漂うが、成り金風な存在感で一度見たら忘れられない。

 彼の話に興味を持てば、かえってその違和感や異質感に惹きつけられる。緩急織り交ぜ、声音を変化させ、覚えやすいインパクトのある数字を使うという巧みな話術が、儲けたいという人の欲求に入り込んでいく。まさにマルチ商法を使った詐欺犯の典型なのだ。信じている人にすればふてぶてしさも頼もしさに通じ、言いたい放題も自由奔放、豪放磊落に感じたのだろう。人の印象は裏表、どう思うかはその人次第なのだ。

 逮捕時にはもみくちゃにされながら「詐欺師かペテン師か、これから時間が解決する」と豪語したが、詐欺師もペテン師も同じだとは思わなかったようだ。

■本当の自分を露呈させる記者会見の怖さ

「どういうことですか?」

 なんだ、やっぱり聞こえていたのか、と呆れたのは、全聾の天才作曲家として話題になった佐村河内守氏の謝罪会見だ。

 平成26年(2014年)3月、謝罪のはずが途中から逆ギレし、自分が偽っていたことを忘れて、つい反応してしまったのだ。誰もが疑惑の目を向けて見ていた会見だけに、時すでに遅し。もはや言い訳は通用しなかった。

 作曲家新垣隆氏が18年間、彼のゴーストライターをやっていたと告白。その上、彼の全聾は偽りで難聴だったと謝罪会見が開かれた。冒頭は謝罪に徹していたが、自分のある発言について謝罪を求められた途端、表情が一変、「どういうことですか」と口調がきつくなる。ところがこの時、正面に座る手話通訳者の手話はまだ終わっていなかった。反応するのが早すぎた。手話がなければコミュニケーションが取れないはずが、感情的になりつい本当の自分を露呈してしまったのだ。それを指摘されると、手話通訳者をちらちら見るが、急に声音が怖くなり、口ごもっていた口調がはっきりクリアな言い方に変わる。

 最後は「ふざけたことはやめてもらえませんか」と手話通訳者を見続けた。感情的になるとつい我を忘れて墓穴を掘ってしまう。会見の怖さだ。

■“リケジョ(理系女子)の星”として注目を浴びたが……

「STAP(スタップ)細胞はありまぁーす」

 その話し方と当惑しているような表情に、「真実はどうなのだろう?」と首を傾げたくなった。

 平成26年(2014年)4月、理化学研究所の研究員だった小保方晴子氏は、報道陣から「STAP細胞があるのか、ないのか」と問われ、そう答えた。STAP細胞を作製したとして一躍注目を浴びたが、不正を指摘されて会見を開き、自らの未熟さから疑念を招いたと声を震わせ謝った。

 有無を問われると即座に頷きながら「あります」とはっきり答えたものの、「何をもって信用したらいいのか」と問われると、「何をもったら?」と、しばしキョトンとしてしまう。「各地で再現できるように」と瞬きしながら応えると、最後に「ふふっ」と強張ったような笑みを浮かべた。その笑みが、この研究の脆さと危うさを感じさせた。

“リケジョ(理系女子)の星”として注目を浴びていたのだから、客観的、論理的、分析的に理詰めで説明するかと思いきや、返答に窮し困惑気味に。再現性が重要な科学の世界で、「レシピのようなものはある」という言葉で実験手順を表す曖昧さに、彼女の見せた割烹着姿が重なってくる。優秀な科学者というイメージとあまりにかけ離れた受け答えが、研究の危うさを感じさせた。

■自身によるパワハラさえ感じさせるような会見

「そもそも伊調さんは選手なんですか」

 やらなきゃいいのに、なんでわざわざ……。この会見以上に、火に油を注ぐような会見はないだろう。そもそも問題の当事者でもないのに会見を開き、炎上させてしまったのだから。加えて、自分や大学のイメージまで落としてしまったのは、至学館大学の谷岡郁子学長だ。

 平成30年(2018年)3月、日本レスリング協会の元強化本部長で、至学館大学レスリング部の監督だった栄和人氏による伊調馨選手へのパワハラ疑惑に反論するつもりが、会見冒頭から怒りをぶちまけた上に、尊大な「上から目線」で語気を強める物言いが反感を買ってしまう。

 その上、4大会連続金メダルの伊調選手に対して、顔をしかめてこう言い放ったのだ。日本レスリング協会副会長という立場からしても、谷岡学長自身によるパワハラさえ感じさせるような会見は衝撃だった。

 もう1つ、この会見のインパクトが強かった理由がある。谷岡学長は国会議員の経験があるとはいえ知名度は低く、疑惑が持ち上がった後も注目される存在ではなかった。世間は誰も彼女に対するイメージを持っていなかった。だからこそ、あの会見が彼女の第一印象を決定づけた。これから先も、この時の印象はついて回る。感情の出し方、自分の見せ方を誤ると会見はマイナスでしかない。伝えたいメッセージすら伝わらなくなる。

■平成で大きく変わった会見の影響力

 この30年で会見を取り巻く環境は激変した。かつては、新聞やTVでしか見ることができず、会見を分析しようとすれば、ニュースか情報番組で流されるわずかな部分をビデオ録画して再生するしかなかった。それが今やネットで検索するだけで、いつでもどこでも注目の会見シーンや全録が見られるし、ネット中継によるライブ会見も珍しくはなくなった。

 SNSでリアルに反応があるだけでなく、下手な会見を行えばすぐさま炎上。それだけでなく会見中に反論や抗議が行われる時代になり、見ているこちらは面白いけれど、会見する側のリスクは高まるばかり。そのうちテレビ電話やビデオチャットで質問する記者やら、反論する関係者が出てくるかもだ。

 さて令和の時代が幕を開ける。最初に注目を集める会見は何だろう?

(岡村 美奈)

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