乳がん公表から1年 元SKE48矢方美紀が語る「妊娠できない人はかわいそう」への違和感

乳がん公表から1年 元SKE48矢方美紀が語る「妊娠できない人はかわいそう」への違和感

矢方美紀さん

 乳がんの公表から1年。「 #乳がんダイアリー 」(NHK名古屋)などで治療のリアルな日常を発信してきた元SKE48の矢方美紀さん(26)。抗がん剤と放射線治療を終え、ホルモン療法を始めて半年。今だから話せる、これまでの治療の日々について聞きました(全2回の1回目、 #2 へ続く)。

■今までと変わらない自分の姿に戻れたのが一番うれしい

──金髪、お似合いですね。白いワンピースとのコーディネートも初夏らしくて素敵です。

矢方 ありがとうございます。抗がん剤治療が終わり、最近はようやくウィッグなしで過ごすことも増えてきたので、ヘアカラーなどでアレンジを楽しんでいます。

──抗がん剤と放射線治療中は、肉体的にも精神的にも大変でしたよね。

矢方 そうですね。抗がん剤治療では、副作用による脱毛やむくみで、自分の外見が大きく変わってしまったのがすごいストレスでした。アピアランスサポートで外見のフォローや精神的ケアをしてもらい救われた部分もありましたが、やっぱり今までと変わらない自分の姿に戻れたのが一番うれしいです。

 でも、抗がん剤治療が終わってほっとする反面、もっと長く続ける方もいるので、ここで終わって再発しないか、本当にこの回数で大丈夫なのかと、不安に思う気持ちもあります。

──ホルモン療法が始まって半年経ちましたが、いかがですか。

矢方 目に見えるような症状が出ないのが大変だなと感じています。ホットフラッシュは抗がん剤治療中にもありましたけど、それが常に起こっているような感じで……。暑いと思った時にすぐに対応できるよう着脱しやすい服装を選んだり、冷たい飲み物を常備して、急に暑くなった時にそれを飲んで体を冷やしたりしていますが、寒い日に突然半袖になったり、冷たい飲み物を飲んだりすると、副作用を知らない方から「大丈夫? 寒くない?」と心配されたりして、どうやったら伝えられるだろうかと、困る時もあります。

──更年期の症状でもホットフラッシュで悩んでいる方は多くいます。

矢方 治療前に「ホルモン療法は、ホルモン依存性の乳がんの増殖を促すエストロゲンが働かないようにする治療法なので、更年期障害と同じ症状が出る方もいます」ということを教えてもらいました。個人差があるので、SNSや同じ乳がんの方のコミュニティなどで同じ症状で悩んでいると知り、「自分だけじゃないんだな」と安心することはあります。

──ホットフラッシュ以外にも不安や悩みはありますか。

矢方 抗がん剤治療は副作用による外見の変化が大きいのがストレスで、放射線治療は毎日通院しないといけないのがストレスでした。それに比べると、ホルモン療法は通院も3カ月に1回の注射だけで、あとは毎日1錠の飲み薬だけなので、気分的にはラクです。でも、突然起こるホットフラッシュや、私の場合は生理が来ないなど、受け入れにくい体の変化もあって、あと10年は治療が続くのかと考えると、時々心が折れそうになります。

■「卵子凍結はしない」と選択した理由

──ホルモン療法が続く間は妊娠できないそうですが、結婚・出産の時期と重なっている女性は悩む部分ですよね。

矢方 ホルモン療法を終えた1年後に生理が戻る人もいますが、なかには戻らない人もいるので、「相談したい時は、専門の医師と話すこともできます」と担当の先生から卵子凍結についてのパンフレットを見せてもらいました。でも卵子の保存って、お金がかかるんですよ。受精のタイミングでまたさらにお金がかかりますし、そういうのを考えると、卵子の保存をすることが、私にはかえってプレッシャーになるのかなと思い、卵子凍結はしないという選択をしました。

──子どもを持つ、持たないは夫婦によっていろいろな考え方もあります。

矢方 私はすごく子ども好きで、将来結婚したら子どもを持ちたいという夢もあります。でも、子どもを持たないという家族の形もありだと思うんですよね。

「なんで卵子凍結をしなかったのか」「子どものことを考えているのか」というような質問を受けることも多くありましたが、卵子の保存をしなくても、治療が終わったあとに自然妊娠された方もたくさんいますし、仮にもし妊娠できなかったとしても、いろいろな形で自分の子どもを持つことはできます。それは実際に巡り会ったパートナーと、その時に相談すればいいことですよね。「女だから妊娠して子どもを生まなきゃいけない」「妊娠できないのはかわいそう」というのは何か違うと思うんです。

──矢方さんが胸の再建手術をしないという選択をされた時も、同じように「かわいそう」だという声が多くあったそうですね。

矢方 「胸がないなんてかわいそう」と言われたりしました。でもそれって、人それぞれですよね。性転換の手術を受けてバストを作る男性もいますし、私はアニメが好きなので時々イベントでコスプレすることもあるんですけど、グッズを使えば、バストの大きいキャラクターにもなりきれますし(笑)。確かに今私には片方の胸がありませんが、それが私の人生のすべてではないので、そこだけに意識を向けて落ち込む必要はないと思っています。

──乳がんを公表してからしばらくは「病気の人」という見られ方をしたこともつらかったと、以前お聞きしました。

矢方 人によっては意識がすべて「病気の自分」にいって落ち込んでしまう人もいると思うんですが、私はずっと「病気」が自分の核ではないと思っているので。できなくなったことや失ったものも多かったですが、乳がんにはなったけれど、どうやったら楽しく過ごせるかということを意識して考えるようにしていました。そういう人もいるんだと知ってもらうことで、誰かの勇気や希望になれたらうれしいです。

■副作用による外見の変化を、自分なりにアレンジ

──矢方さんが治療と自分の体に起こるさまざまな出来事をアップし続けている「 #乳がんダイアリー 」も、多くの人に励ましを届けていると思います。

矢方 私は副作用による外見の変化がすごくストレスだったんですけど、指先の色のくすみが気にならないネイルカラーとか、医療用ウィッグに関する情報とか、顔色の悪さをカバーするチークの使い方とか、そういう情報って本当に少ないんです。私もいろいろな方にお聞きしたり、自分でネットや本で調べたりして少しずつ情報を集めて、それを自分なりにアレンジすることで前向きな気持ちになれたので、こういう方法もあるよ、というのをもっと多くの人に知ってほしくて、治療経過をオープンに語ってきました。

 動画がたまってきたので、それを最初から見なくても経過が伝わるように、『 きっと大丈夫。 〜私の乳がんダイアリー〜 』という書籍にもまとめました。動画と違って電源もWi-Fiもなくても読めるので、もっとたくさんの方に知っていただけたらいいなと思っています。

──アイドル時代を振り返ったエピソードも、綴られているそうですね。

矢方 乳がんを公表して以降、たくさんの方が応援してくださるようになったのですが、私がアイドルだったことをご存じない方もたくさんいらっしゃるんですよね。「元SKE48メンバー矢方美紀」という肩書きが一人歩きしているような気がして、私がどんな仲間たちとどんな活動をしてきたか、一度きちんと伝えたいという思いから、今回の本に書きました。アイドルって、華やかな舞台に到達するまでに、学業や生活などと並行しながら、みんな全力で努力しているんです。10代なら10代、20代なら20代の結構悩める年齢で、本気でアイドルというものにぶつかっているので、そういう舞台裏も知ってもらえたら……と。

──もともと、アイドルになる前から夢だった声優やナレーションのお仕事でも、ますます活躍が期待されます。

矢方 東海エリアでオリジナルの「ナゴヤアニメ」をつくるプロジェクトがあるのですが、オーディションで選ばれた人たちのプロジェクト(「ナゴヤセイユウ」)がもう進行していて、5月には事務所のイベントが予定されています。今年はアフレコにも挑戦してみたいし、やりたいことはたくさんあります。名古屋にもアニメファンは多いので、もっと地元から声優をめざす人も増えてくれたら嬉しいです。私も負けないように頑張りたいですね。

やかた・みき/1992年生まれ。名古屋・栄に誕生したアイドルグループ・SKE48のメンバーとしてデビュー。「チームS」のリーダーを務めた後、2017年2月に卒業。現在はZIP-FM 『SCK』のアシスタントのほか、テレビ番組やイベントでレポーターやナレーターとして活躍するほか、自身の経験をもとにした講演や番組出演など、幅広く活動している。

写真=末永裕樹/文藝春秋

(相澤 洋美)

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