花粉症は“コメ”を食べるだけで治る説

花粉症は“コメ”を食べるだけで治る説

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推定患者数が三千万人にもなる国民病というべき「花粉症」。その根本的な治療を、遺伝子組み換え技術で作った「花粉症治療米」で進めようという研究が進んでいる。“病気を治すコメ”の開発に取り組む、東京慈恵会医科大学分子免疫学研究部長の斎藤三郎氏に聞いた。(出典:文藝春秋2015年5月号)

■「緩和米」を食べて花粉症を治す

 毎年悩まされていた花粉症が、コメを食べるだけで治療できる――読者の方には、にわかに信じられないことでしょう。しかし、すでにニホンザルの動物実験はもちろん、ヒトを対象とした試験でも効果と安全性が確認されています。このまま順調に進めば、四〜五年で実用化できるのではないかと考えています。

 俗に言う「花粉症」の中でも、私たちは最も患者数の多い「スギ花粉症」をターゲットに、遺伝子組み換え技術を使って、スギ花粉の中に含まれている免疫反応の原因となる特定の成分だけをコメに組み込んでいます。このコメを継続的に摂取することで、体の免疫細胞が花粉に慣れて異物と感じなくなり、アレルギー反応が抑えられるというわけです。

 薄めたスギ花粉を体内に取り込んで免疫を作らせ、馴れさせていく「減感作療法」と仕組みは似ています。この減感作療法は昨年十月から保険適用になった「舌下免疫療法」に取り入れられ効果を発揮しています。

 ただ、私たちが取り組んでいる「緩和米」は花粉のうち特定の成分のみを摂取するため、より安全で大量に摂取できる。一回に投与される有効成分の量は、減感作療法で舌下に投与するエキスの実に約一万倍。それだけ効果も早いわけです。「舌下免疫療法」が数年単位の時間がかかるのに対し、「緩和米」の試験では八〜十二週間後には花粉症が改善する傾向があります。

 この「緩和米」は、農業生物資源研究所(生物研)の研究チームと共同で開発したものです。我々が花粉の中の免疫反応に関わる成分のみを特定し、生物研の技術でコメに組み込みました。

■味は普通のコメと同じ、安全面の心配もなし

 それにしても、なぜコメなのか。不思議に思う方もいらっしゃるでしょう。

 実は、コメにはタンパク質を蓄積させる「プロテインボディ」という“天然のカプセル”があります。このカプセルは、胃で溶けずに腸まで届いて吸収されるという特色があります。腸は体の中で最大の免疫装置ですが、コメを使えば、免疫に働きかける物質を、その腸まで確実に届けることができるのです。

 昨年春の花粉症シーズンには、初めてヒトに対する検証を行いました。一三年冬から翌一四年春まで、三十人のスギ花粉症患者を二つのグループに分け、一方には普通のコメ、もう一方には私たちが開発した「緩和米」を、毎日それぞれ八十グラム食べてもらいました。

 すると、普通のコメを食べたグループは、スギ花粉の飛散期に入るとアレルギー反応の原因となる免疫細胞が三倍から四倍に増殖したのに対し、緩和米を食べているグループは試験開始から四週間で免疫細胞がほとんど増えず、花粉飛散期に花粉症特有のアレルギー症状が軽減する傾向がありました。正直なところ、この劇的な結果を見た時には「何かの間違いでは」と疑ったほどでした。

 これまでの花粉症治療は、鼻や目に炎症を起こすヒスタミンの働きを抑え込む「抗ヒスタミン剤」の服用が柱で、対症療法でした。当然、薬ですから副作用もありました。

 一方、「緩和米」は、毎日一口大のご飯を食べるだけなのに、根本的に治療できる可能性がある。ちなみに味も普通のコメと変わらず、調理も可能。炊き込みご飯やチャーハンにしても問題ありません。

 遺伝子組み換え食品というと不安を感じる方もいますが、各種の試験をクリアしています。緩和米は安全な有効成分のみを含んでいるので、どれだけ摂取しても重大なアレルギー反応を起こす心配はありません。

 研究チームは、この「緩和米」の臨床研究の成果を踏まえて、効果がより期待できる「治療米」を作成し創薬に向けて臨床研究を開始しました。これらの技術は、スギ花粉症以外のアレルギー疾患の治療にも応用できます。さらに、イネの品種に関係なく作ることができます。

 研究が進めば、「スギ花粉症を治すコシヒカリ」「ハウスダストアレルギーに効くササニシキ」が登場する日が来るかもしれません。

取材構成/ジャーナリスト・長田昭二
出典:文藝春秋2015年5月号
著者:斎藤三郎(東京慈恵会医科大学分子免疫学研究部長)

(斎藤 三郎)

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