「誰よりも図太く生きてやる」一人、アパートの部屋で自分はゲイだと認めた後に、待っていたこと

「誰よりも図太く生きてやる」一人、アパートの部屋で自分はゲイだと認めた後に、待っていたこと

©平松市聖/文藝春秋

連載「僕が夫に出会うまで」

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2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京……僕が夫に出会うまで、何を考え、何を感じて生きてきたのかを綴るエッセイ。毎週連載。

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(前回までのあらすじ)高校時代の同級生・ハセとの3ヶ月間の共同生活が終わった後、僕は専門学校の同級生・達ちゃんに恋をした。しかし、達ちゃんは、僕が引き合わせた女友達のゆりと付き合い始めてしまう。嫉妬に狂う僕は達ちゃんやゆりにつらく当ってしまい、正義漢の同級生・いっしーに言動を咎められる。

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(前回の記事「 3度目の失恋を経験して、ゲイの僕が気づいたこととは 」を読む)

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 東京に来てから2年目の秋。北海道の実家に比べて東京のアパートは寒い。大きなストーブがないからか、寒さの質が違うのか。確かに東京の冷たい風は、人の肌を細かく斬るような寒さに思える。今では、芯まで包み込まれるような北海道の寒さが恋しく思える。

 僕は東京で何をしているのだろう。部屋でひとり考えていた。

 東京で出会い、初めて好きになった達ちゃんが、僕の女友達と付き合ってから、僕は自分を許せない気持ちでいっぱいだった。

■一生こんなことを繰り返すのか

 思い返せば、中学時代の司に始まり、高校時代のハセ、そして専門学校では達ちゃんと、僕は何度同じことで傷つけば気がすむのだろうか。一生こんなことを繰り返して生きていくのであれば、生きる意味はあるのだろうか。生きていても辛すぎる。

 僕はどうして男の人を好きになってしまうのだろう。うまくいく訳もなく、いつも傷つくだけなのに。傷つくのをわかっていて、それでも男の人を好きになってしまうなんて、僕はどれだけバカなのか。自分でも呆れてしまう。

 目に映る全てが、意味のない空っぽなものに感じる。この街も。この部屋も。この僕も。僕はなんのために生まれてきたのだろう。

「いつか女性を好きになる日が来る」「辛いのは今だけ」と長年自分に言い聞かせて生きてきたが、本当にそうなのだろうか。もう、いっそのこと、同性愛者だと自分で認めてしまえばどうだろう。本当はもう気づいているんだ。司も、ハセも、達ちゃんも、僕は大好きだった。きっと僕はこのまま一生、男性しか愛せないのだ。

 でも怖い。それを認めてしまうと、僕は自分を許せるだろうか。両親や友達は、そんな僕を許してくれるだろうか。きっと軽蔑されるに違いない。

 でももう、認めた方が楽なのかもしれない。自分を否定し続けるのはもう限界だ。認めちゃおう。自分は同性愛者という生き物なのだと。あの孤独なおじさんと同じ部類の人間だってことを。そして、それを認めた上で、これからは、人を好きにならないように、気をつけて生きていけばいい。誰にもバレないように、気をつけて生きていけばいい。

「認めますーー」

 一人、寒いアパートの中で、僕は恐る恐る、小さく声にだした。自分は同性愛者なのだと、自分自身で認めた瞬間だった。このときから、自分に対して「いつか女性を好きになれる……」と言い聞かせる必要はなくなったのだ。

 ある意味これで、「自分は男が好きなんだ」と開き直ったので、どこか少しだけ気持ちがスッキリした感じがした。

■「家庭を築く」という大きな選択肢が消えた

 だが、気持ちの変化はそれだけではなかった。「結婚すること」や「家庭を築くこと」は男同士ではできないのだ。まだ19歳そこいらの僕にとって、この先の人生で『結婚』という、一つの大きな選択肢が完全に途絶えてしまったのは、あまりにも悲しすぎる。

 僕の未来は、札幌のスピリチュアルの先生が言っていた今までの前世同様に、孤独死が確定したのだ。

 足元の地面がバラバラと崩れ、絶望の底に落ちていく感じがして、軽いめまいを感じた。

 今は友達がいて寂しくはない。だけどその友達はいつか異性と結婚して家庭を築いていくだろう。そんな時、僕は一人、取り残されることが確定している。

 きっと、みんなは、どうして僕は結婚しないのかと、尋ねてくるだろう。その時は「僕は一人が好きなんだ」とか「自分のお金は自分だけで使いたいから」と言おう。口が裂けても「男の人が好きだから」なんて事を言ってはいけない、決して、誰にも。

 僕は今後、どんな時も、一人で強く生きて行くしかないのだけど、もし、それが本当に寂しくて、辛くて、耐えきれなくなった時は、最悪、死ねばいい。どうせ一人なんだし、死ぬのは怖くない。それよりも、誰にも愛されず一人ぼっちで孤独に生きるほうが僕にとっては辛すぎる……。

■引きこもった数日間

 僕はそれから何日も、学校へは行かなかった。身体が動く気がしなくて、ただアパートの窓から外を眺めて過ごしていた。この先の人生や、世界のニュースも、なにもかもどうでもいい。学校なんかもっとどうでもいい。何のために東京にいるのだろう、東京なんてどうでもいい。ただ、北海道に帰ったとしても、親や友達に合わす顔が無いから帰りたくもない。そんなつまらないプライドだけはあるのか。だがこの先、希望を持って生きていける気がしない。そもそも、希望ってなんだ。どこにあるのだ、そんなもん、元々ないのかもしれない。

 数日間、こんな事を考え、ただ悶々として過ごした結果、母へ電話をかけてみることにした。なんとなく。もちろん、自分が同性愛者だと認めてしまったことは口が裂けても言わないつもりだ。母に電話をかけるなんて、いつごろからしていないだろう。

「もしもし、良輔、元気かい? どうしたの?」

「元気じゃない。特に何もないんだけどさ。元気ではない」

 僕は言った。

「まあ、珍しい! どうしたの?」

「わかんない。もしかしたら僕、鬱なのかもしれない」

 息子から鬱かもしれないと告白されても、母は平然としていた。

「まぁ……。良輔、あのね、言っちゃ悪いけど、あんたみたいな人は、鬱にはなりません。それは、お父さんの方の血だと思うんだけど、お父さんも、あんたも、鬱になるはずがない人間なのよ」

「そうなの? でも、ほんとにもう何もかもどうでもいいし、クソくらえ! って感じ」

「あんたはいつもそう。『クソくらえ!』とか、すぐ攻撃的になるでしょ? それは、あんたのおばあちゃんの血よ、もちろんお父さんの方のね。あんたはすぐカッとなるから、お母さん、それだけが心配。でも鬱にはならないから、それは心配してない。ただ、感情をちゃんとコントロールできるようになりなさいね」

 母は遠まわしに何人かをディスったが、母の言葉には説得力と、僕を元気付ける妙なパワーがある。

「自分の血と戦えってことね。でも鬱じゃないとして、どうしたら元気になれるかな?」

「あんた今、部屋の中が散らかってるでしょ。まずは掃除をしてみれば? 部屋は心を映すの。きっと遅い五月病みたいなもんよ、みんなあるの」

 見渡すと確かに部屋は散らかっている。数日前から食器を洗うエネルギーもなく、ひたすら汚れている。

「よし! 掃除してみようかな。ピカピカにしちゃおうかな!」

「あんたのその切替えの早さは、本当に素晴らしい事よ。羨ましいくらい。お掃除、楽しんでね」

■「図太く生きてやる!」と決意したあとにきた連絡

 何日も散らかりっぱなしだった部屋を綺麗に片付け、溜まったゴミを出した。お風呂やトイレも磨いて、お皿も洗った。部屋が片付いていくのに合わせて、心も洗われていく気がした。そして不思議なことに、ピカピカになったガス台や食器を見ていると、料理を作りたくなるものだ。

 何日も外に出たくなかったのに、気付けばシャワーを浴びて、髪をとかし、スーパーへ買い物へと出かけていた。

 ご飯を作って、それを食べた後には「僕はゲイとして、一人でやっていけるかもしれない!」と思えるようになっていた。

 きっと、辛いことはこの先まだまだ起こるだろう。だから、もっと図太くならなきゃいけない。誰よりも図太く生きてやる!  そう思えてきた、そんな時だった。友達から連絡が入った。

(続き「 意図していなかったカミングアウトから学んだこと 」を読む)
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(七崎 良輔)

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