B級グルメとゆるキャラばかりの「地方創生」に欠けているもの

B級グルメとゆるキャラばかりの「地方創生」に欠けているもの

©iStock.com

 最近、あれだけ喧伝された「地方創生」の言葉をメディアで見かけることが少なくなった。鳴り物入りで始まったはずの「地方創生担当大臣」も、安倍首相のライバルと目される石破茂氏がその職を退いたあとは、正直「なにをやっているのかわからない」というのが国民からみた素直な感情だろう。

 安倍内閣の国民受けを狙ったスローガンは、今や「地方創生」から「一億総活躍社会」へ、さらに「働き方改革」へと、猫の目のようにくるくると移り変わっている。そんな中で、地方の在り方を根本から議論していこうという気概は、残念ながら今の政府からはあまり感じられない。

■ネットで何でも手に入る時代、東京からわざわざ行く価値が感じられない

 私も、仕事で地方に赴くことが多いが、どこの都市や地域に行ってもB級グルメとゆるキャラばかりというのが実態だ。

 B級グルメもゆるキャラも、地元の人々を集めるといった意味では有効な策かもしれないが、仕事で来ている「都会人の私」の目からみれば、少なくともわざわざ東京から食べにいく、見にいくといった対象とは言えないものがほとんどだ。

 ちょっと気になった食材であれば、今やネット通販で買えないものなど、この国にはほとんど存在しない。ゆるキャラの動画ならネットでいつでもお目にかかることができるし、ほとんどのキャラが幼稚で、正直あまりかわいいと思ったこともない。

■従来の地方発展の方程式はもはや通用しない

 日本の地方発展の施策は、高度成長期以降、「製造業」中心の経済において、もっぱら工業団地の造成と団地への工場の誘致というステレオタイプなものばかりが繰り返し行われてきた歴史がある。

 地域の産業振興と雇用の確保というお題目だが、これらの工場の多くは所詮、大企業を頂点とする巨大なピラミッドの一部に組み込まれており、雇用が確保できたとしても地域自体の文化が育まれるような、地域の基盤や根幹となるようなものとはなり得ていない。

 加えて、90年代後半以降は、円高を嫌気して多くの工場はアジアにその拠点を移し、自治体がいくら土地を造成して、有利な税制などをこしらえて企業を誘致しようとも、反応する企業は少なく、もはやこの方程式が全く通用しなくなっていることに多くの自治体が困惑している。

■燕三条の製作所×アート×リサイクル=?

 新潟県に燕三条といわれるエリアがある。行政的には燕市と三条市に分かれ、両市合わせて約17万人の人口を数える県内の中核都市のひとつである。このエリアは江戸時代から金属加工の街として栄え、現在でもはさみ、爪切りなどの刃物、金属製の洋食器などで世界的な認知度を誇る。

 これらの工場は、今では一般の見学者にも広く開放され、諏訪田製作所という爪切りなどの金属加工を行う工場では、型枠をとりだした鋼板を利用した数々の芸術作品を作成、展示し、さながら美術館のような趣を醸し出している。

 またこのエリアには、海外からも広く注文を取り、フランスの高級レストランの食器に採用されている工場まで存在する。

 ゴールデンウィークにはこうしたユニークな工場を巡るツアーも催され、観光と燕三条のブランド周知に役立っている。

 また同じ新潟県南西部の角田浜という地に、「カーブドッチ」という、ワイナリーがある。新潟ワインというとピンとこない人が多いかもしれないが、1992年から砂地を生かした敷地にぶどう畑を造成、ここに現在では5つのワイナリーが集結し、産出するワインの質を互いに競いあっている。

 こうした試みはただ単に、「衣食住」のみを整え、町から人を出ていかせないための施策に頭を悩ますのではなく、町をどのように演出し、国内外の人を呼び寄せるかという立派な事業戦略なのだ。

■京都は観光だけで食っている町ではないからこそ発展した

 京都が昔から多くの人々を魅了して、今でも観光都市としておおいに発展しているのは、食事のおいしさだけではないし、ましてやゆるキャラがあるせいでもない。京都には多くの人たちが出入りし、様々な産業を興し、栄枯盛衰を繰り返していく中で、独自の文化が生まれ、育まれていった結果としての現在の姿があるのだ。

 京都は現代においてすら、京都をオリジンとする京セラ、オムロン、日本電産などの産業が勃興している。何も観光だけで食っている町ではないのだ。

 これからの地方創生は、豊かな自然と食を強調した「Iターン」だ、「Jターン」だといった移住を含めた「人集め」からやるのではなく、腰を据えて、町の産業を企画立案し、町から一歩出て東京や大阪、あるいは外国の知恵も利用して、良いものを積極的に取り入れていく中で、独自の産業・文化を形成していくことが求められている。「衣食住」だけの観点からでは、町の発展はありえないのだ。

■地方に残っている若者たちの冷めた視線

 地方を旅していて気になることがある。地方に今、残っている人の多くが、「もうこのままでいい、ほっといてくれ」という感情で地方創生を眺めている点だ。特に、若い人の中でも「自分たちはさして困っていないし、東京からのアイデアの押し売りはやめてほしい」といった冷めた見方が支配的になっていることに愕然とする。

 地方に残った人たちほど、東京などの大都市との間を頻繁に行き来し、そこで得た人脈や事業上のヒントを自らの町に持ち込んで、町の発展に役立ててほしい。

 新幹線と高速道路は、地方から都会に人を吸い上げるストロー効果などと言われ、地方衰退の元凶とまで言われているが、なんてことのない「下り」電車にも、バッグに入れて持って帰れる都会の知恵はいっぱいあるはずだ。

 みんなで同じような店に集まり、「このままでいいや」と言っている人たちには決して「未来」は開かれていないのだ。

(牧野 知弘)

関連記事(外部サイト)