「真由子ブログ」が原点 “ブラック部活”と“やりがい搾取”

「真由子ブログ」が原点 “ブラック部活”と“やりがい搾取”

(c)iStock.com

 今日盛り上がりを見せている「ブラック部活」問題の原点はどこにあるかと聞かれれば、私は「真由子ブログ」と答える。

 正式のブログ名称は「公立中学校 部活動の顧問制度は絶対に違法だ!!」。顧問の負担軽減をネット上で訴えている先生たちが必ずと言っていいほど訪れ、多くの追随者を生み出しているブログである。2015年には、「ライブドアブログ OF THE YEAR 2015」の話題賞を獲得している。

■部活動改革の原点「真由子先生」とはどんな存在か?

 真由子氏は、現役の中学校教員である。

 2013年3月24日、「はじめまして 教員5年目、真由子(仮名)といいます。もろもろの事情あり、公立中学校における部活動制度がおかしいと感じています。部活動の定義、また顧問の在り方について書いていきます。よろしくおねがいします」と、真由子氏は第一声を発した。

 以来、氏は公立中学校の教員の立場から、今日に至るまで現場の実情を発信し続け、いまや部活動改革のカリスマ的存在になっている。真由子氏を含む6名の教員から構成される「部活問題対策プロジェクト」(2015年12月に設立)も、ネット署名をはじめとして順調に啓発活動を展開してきている。

■「職員室のタブー」を突き破ったブログ

 中学校では「部活動を指導してこそ一人前の教師」という文化があるため、部活動の不満を言うことは「職員室のタブー」である。

 真由子氏は職員室では発することのできない声を、インターネットという手段を用いて世に発信した。その問題提起はマスコミにも届き、毎日新聞の社説「部活動の顧問 『真由子』はわがままか」(2014年11月3日)は、いまや伝説の記事となっている。

 かくいう私も、部活動改革の記事を積極的に発信することになったきっかけの一つに、真由子氏の活動がある。ブログを拠点としていた氏が2014年12月に入って、ついにツイッター上での情報発信を始めた際に、「これは新しい動きにつながるかもしれない」と思い、私も部活動改革関連の記事執筆を開始した。

■カリスマが陥りかけた「部活エクスタシー」というワナ

 部活動の問題点を訴えてきた真由子氏が、部活動にハマりかけたことは、意外と知られていない。真由子氏自身は、部活動がもともと好きというわけではない。だが、それに関係なく部活動には、先生たちを夢中にさせてしまう空気がある。

 2014年4月に配信された「部活中毒、そしてエクスタシー」というなんとも刺激的なタイトル記事で、そのときの様子を真由子氏はこう語っている。

《今日一日中、試合に携わり、また審判をしました。
 少しずつながら審判の技能も向上し、以前よりは審判を楽しめるようになってきました。

 そんな中で生徒が技術的な向上を見せ、またそこでの成功体験からくる成長を目の当たりにしたとき、教師としては喜びを感じざるを得ません。
 その際の笑顔、仕草、充実感に満ちた様子は、学習においての成長の瞬間と比べても遜色ないのではないかと思えるほどです。
 審判や監督をして身体的な疲れはありますが、「なんだかよかったな。教員として頑張ったな」という感想をもった一日でした。

 これが。
 これが部活動顧問の中毒性なのだと思います。

 自分の趣味や、教材研究や学級事務、読書や家事や、その他もろもろの自分の時間を大切にしたいと考える教員の、正常な感覚を蝕む中毒性なのだと思います。

「土日、休みたいけれども、生徒の成長が見られるから練習試合を組もう」
「保護者の要請もある。そしてなにより生徒の充実感を支援してあげなくては」

 などなどの、教員冥利に尽きる部分を刺激してくるのです。

 私もそうですが、教員になる人間というのは、生徒が大好きでたまらない人間がほとんどだと思います。

 私も学級で、廊下で、さまざまな場所において中学生と接するのが好きです。
 ふとしたきっかけで話し、またそこから生徒との信頼関係が始まる。
 できるだけ多くの生徒と触れ合い、そしてそこから得られるものがあればと切に願います。

 それが土日の部活動においてもなされるのです。
 そして当初は部活動に疑念を抱いていた教員も、次第に感覚を麻痺させ、土日を部活に費やすようになるのでしょう。

(略)

 中毒の先の快楽へ、「生徒のために」というエクスタシーを求めて。

 私は、正直、今日の部活は楽しかったと感じました。
 そして、同時に、そんな状態になっている自分を恐ろしくも思いました。

 ライフワークバランス、そして、パートナーとのバランス、さらには将来授かるであろう我が子とのバランス。

 それらを考えていくと、部活の制度というのは絶対的に根本における欠陥を抱えており、不条理と言えるほどにおかしい制度なのです。》

2014年4月26日「部活中毒、そしてエクスタシー」

■「生徒が大好きでたまらない」からこその「やりがい搾取」

 やや長めの引用であるが、その世界に入り込んで一気に読めてしまう。それくらいに内容が濃い。

 真由子氏は、けっして部活動が大好きというわけではない。だが、生徒のことは「大好きでたまらない」。すると、土日をやむなく部活動に費やしたとしても、そこで生徒の笑顔や充実感に触れたりすると、それが「教員冥利に尽きる部分を刺激してくる」というのだ。

 その結果、部活動のあり方に批判的であったとしても、次第にその教員冥利にハマっていき、気がつけば土日の時間を部活動に注いでしまう。この状況を、真由子氏は見事に一言で表現している。すなわち、「エクスタシー」である。

■「授業」の質を担保するため、部活規制も議論すべき

 今日、私たちはこの「エクスタシー」によるブラックな労働を、「やりがい搾取」と呼んでいる。

 自分の時間を犠牲にして、平日は早朝も夕方も、そして土日にまで部活動に力を注ぐ。先生が頑張れば、それなりの成果、すなわち生徒の笑顔や充実感が得られる。この教員としての「やりがい」こそが、部活動のあり方をブラックにしている。

 そして部活動に多大な時間が割かれるということはつまり、教員の他の業務を圧迫することを意味する。これはめぐりめぐって、「授業」という学校教育のなかでもっとも重要な営みの、質の低下をもたらすことにもつながりかねない。

 いま部活動改革に求められているのは、ハマってしまいかねない部活動に規制をかけることである。休養日の設定による活動日数の削減、民間の大会を含む参加大会数の制限など、打つべき手はたくさんあるはずだ。

(内田 良)

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