やる気を引き出す「最強ルーティン」をつくる

やる気を引き出す「最強ルーティン」をつくる

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「元気スイッチ」を入れるには身体を使え! 科学研究が教える「元気が出る」一日の過ごし方。

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 新入社員も、ベテランも、経営者も、活気に満ちた仕事、日常、人生を送るために必要なのは「元気」です。しかし、その元気を出すためには、「元気になろう!」という気持ちだけではどうにもならないことも多いでしょう。ここでは、「元気スイッチ」を強制的にONにする「元気アクション」を考えていきます(ここでいう「元気になる」アクションは、ゼロが10になるようなものだけでなく、マイナスをゼロにリセットするようなものも含まれます)。

 なぜアクションなのか? 「元気スイッチ」は脳にあります。脳は、頭蓋骨という暗い密閉空間に閉じ込められているので、それ自体に直接アクセスして動かすことはできません。外部から信号を送り込んで刺激を与えることが必要です。そのような外部からの信号の代表が体の動き、すなわちアクションです。体を動かすことで脳に刺激を送り込み、「元気スイッチ」を強制的にONにすることができるのです。

 ここで紹介する「元気アクション」自体は、それほど実行が難しいものではありません。しかし、そういったアクションは自分で「やろう」と思わないことにはできないのも事実です。アクションの開始に強制力を持たせるためには、日々のルーティンを作り、それを守りながら生活することが有効です。

 歯磨きは元来面倒なことですが、ルーティンになっているので自然にできます。そしてその結果、歯の健康が保てています。元気スイッチの入力アクションも、歯磨き同様、ルーティンにして、心の健康を保つようにしてしまえばいいのです。

■朝の快調なスタートのために

 では、具体的にどのようなルーティンをやっていくべきか、1日の行動プランとして考えてみたいと思います。ただ、ここで提案する「元気アクション」ルーティンを全て採り入れる必要はありません。みなさんの生活スタイルに合わせて、採り入れやすいもののみを採り入れてみてください。

 まずは朝。朝は頭の働きが鈍くなるものです。特に、睡眠不足の時などは、なんとかしてシャキッとしたい。そんな時に有効なのは運動です。

 脳が働くために必要なのは糖分と酸素です。糖分は食事で確保できますが、酸素はそうはいきません。脳への酸素は血液を通して送り込まれます。だから心拍数を上げて、血液を脳にドンドン送り込むために運動をすると良い、というのがハーバード大学医学部のレイティ准教授の主張です。

 2015年に行われた山口大学の佐々木ら(※1)の実験でも、被験者にまずラジオ体操をさせ、そのあとにボールのドリブルやジョギングをさせて(心拍数120‐140拍/分)、計算をやらせたところ、解答数と正答数において良い方向への変化が見られたという結果が報告されています。つまり、運動してから仕事をした方が、頭がよく働いている状態でできるということなのです。

 村上春樹さんは毎朝1時間ほど必ず走り、それから午前中に仕事をするというルーティンを持っているそうです。こういう自分独自のルーティンを持っているからこそ、高い生産性で小説を書き続けられるのでしょう。ランニングのために1時間早く起きるのは、日常的に夜遅く帰宅するタイプの仕事ではなかなかハードルの高いことかもしれません。そんな場合は、10分くらいの筋トレはいかがでしょうか。これは筆者自身も実践しています。腕立て伏せやスクワットなどの自重トレーニングなら、自宅で手軽にできますし、一定の心拍数の上昇が期待できます。

 さて、運動して一汗かいたらひとっ風呂浴びるのも有効です。千葉大学のリーら(※2)は、朝、お風呂に入ったり、ミストサウナに入ると、α波が出やすくなるという研究を発表しています。α波は、リラックスした時に出る脳波で、脳を活性化させ集中力や記憶力の向上につながると言われています。朝、シャワーを浴びても、その後、数時間ごとに課題をさせてみると、パフォーマンスの向上が見られたそうです。

 お風呂もシャワーも血行を良くしてくれますので、頭をシャキッとさせてくれます。運動の場合もそうですが、血液の巡りが良くなると、脳にもちゃんと酸素が行きますし、肌に与えた温冷の差が刺激として脳に送り込まれるから、脳も活動を開始し、シャキッとするということなのでしょう。

※1 佐々木光流、塩田正俊(2015)「朝の運動が加算作業成績や記憶テスト成績に及ぼす影響」
※2 deBettencourt, Cohen, Lee, Norman, & Turk-Browne (2015). Closed-loop training of attention with real-time brain imaging.

■とにかくやり始める

 さて、朝の運動、入浴を終え、身だしなみを整えたら、通勤中は、胸を張って歩いてみましょう。

 これは、まだまだ発展途上の研究ですが、背筋を伸ばすこととその効果について、近年いくつか研究が発表されています。たとえば、2016年に公表されたオークランド大学のウィルキーズら(※3)による予備調査ですが、軽度・中程度の61人のうつ患者に、胸を張ってもらったところ、肩をすぼめていた人たちよりも、よく話し、ポジティブな気持ちになり、不安も減少するという結果が出ました。また、うつの人たちは、肩をすぼめる傾向があるといいます。

 そして職場に着いたら、「よし、今日も頑張るぞ!」とテニスの試合で勝った時のように、ガッツポーズをしてみましょう。

 エルサレム大学のアヴィゼールら(※4)の研究によると、被験者に勝利した時の顔と負けた時の顔をしてもらい、それに勝利のポーズと負けた時のポーズをつけてもらったところ、被験者は、表情にかかわらず、勝利のポーズをした時にポジティブな反応を示したのです。脳は体の動きに、より騙(だま)されやすいということです。ですから、ガッツポーズのような勝利のポーズをすることで、「元気スイッチ」をポジティブに持って行くことができるのです。

 なにはともあれ、そうやって得られた元気と共に仕事を始め、活動開始の合図が脳に送られると、脳はその信号を受け、作業するモードに入ります。一度、きっちりスイッチが入ってしまえばこちらのもの。あとは自動運転状態に入ります。

 例えば、気乗りがしない時に掃除を始めたらそのまま我を忘れて取り組んでしまうことがあると思います。この、やり始めたらいつのまにかノリノリでやってしまう現象は、「作業興奮」として言及されるものです。脳の研究で著名な東京大学の池谷裕二教授も「やる気スイッチ」のひとつとして挙げている作用です(『のうだま』 幻冬舎)。

 身体的運動がパフォーマンスに大きく影響するような仕事をする場合は、そこにちょっとした「掛け声」をつけてみるのも一つの手です。リヨン大学のラバヒら(※5)は、ジャンプするときに「ジャンプ」と言いながら飛んだら、平均で約5%ほどパフォーマンスの向上が見られたという研究結果を発表しています。

 実はこうした「スイッチ」は、私たちも普段から活用しています。たとえば、立ち上がる時に「よいしょ」、力を入れる時に「ふんっ!」、「おりゃ!」などと言ったり、綱引きの時の掛け声なども全く同じ原理と言えます。ですから、自分の仕事のパフォーマンスを上げるための掛け声みたいなものを一つ用意しておくと良いかもしれません。

※3 Wilkes, Kydd, Sagar, & Broadbent (2016). Upright posture improves affect and fatigue in people with depressive symptoms.
※4 Aviezer, Trope, & Todorov (2012). Body Cues, Not Facial Expressions, Discriminate Between Intense Positive and Negative Emotions.
※5 Rabahi, Fargier, Sarraj, Clouzeau, & Massarelli (2013). Effect of Action Verbs on the Performance of a Complex Movement.

■ボーッとするとアイディアが

 では、頭脳労働をしている方の場合はどうでしょう。頭脳労働で一番困るのは、煮詰まってしまった時です。アイディアがどうにもこうにも湧いて来なくなり、八方塞がりになってしまうことがあります。

 そんな時に有効なのが、意外にも、何も考えずにボーッとすることです。ボーッとしている時は、意識的に行動している時の15倍〜20倍も脳のエネルギーが消費されているとする研究もあります。

 ワシントン大学のレイクルら(※6)のブレインイメージングを使った研究では、ボーッとしているときと何らかの行動をしている時の脳の活動部位を計測して比較したところ、ボーッとしている時は、記憶や価値判断を司(つかさど)る部位が活発に活動していたという結果が出ています。

 脳が意識的な活動をしているときは、それぞれの活動の種類に応じて特定の領域にエネルギーが集中します。一方、ボーッとしているときは、次の活動に備えていつでも活動できるように、脳全体を準備状態に持っていこうとします。この状態では、脳の様々な部位がネットワークとして繋がります。この状態の脳のネットワークを、デフォルト・モード・ネットワークと言い、新たなアイディアなどが生まれやすい状態になっていると考えられています。

 確かに、アイディアを出そうと頑張って、煮詰まってしまい、その時は何にも浮かばなくても、ボーッとしていたり寝ぼけ眼で脳が活動していなさそうなときに、突然アイディアや解決策が浮かんできたりすることがあると思います。あれこそ、まさにデフォルト・モード・ネットワークによって、脳の各領域が相互作用して、創発的に考えが生まれてくる時なのです。

 エネルギーが特定の場所に集中していると、新しい情報も刺激も入って来にくいと考えられます。しかし、デフォルト・モード・ネットワークで全体がつながっている状態では、いろいろな情報のやりとりが行われるため、これまで見て来なかったものが見えてくるのです。

 煮詰まっている時にこそ、考えなければならない時にこそ、あえてボーッとする。ボーッとするための自分のスイッチも考えておくといいでしょう。コーヒーを飲む。空を見つめる。タバコをゆっくり吸う。自分がボーッとできるアクションを見つけてみてください。

 半日前後を会社で過ごす日本の働き方は、ある意味、持久戦のようでもあります。この長丁場を高パフォーマンスで過ごすために、取り入れたいのが昼寝です。NASA(アメリカ航空宇宙局)のローズカインドら(※7)の研究によると、パイロットたちに平均約26分の睡眠を取らせたところ、パフォーマンスが34%も向上したとのことです。寝ることにより、セロトニンとドーパミンの分泌のレベルが正常に戻るためです。

 最近では、厚生労働省も昼寝を推奨していますから、お昼休み、午後の休憩時間に積極的に軽い昼寝をとるようにしてみてはいかがでしょうか。ただ、寝過ぎは禁物です。本格的な睡眠に入ってしまうと、起きた後も頭が働かない状態が続いてしまうからです。

※6 Raichle, MacLeod, Snyder, Powers, Gusnard, & Shulman (2001). A default mode of brain function.
※7 Rosekind, Graeber, Dinges, Connell, Rountree, Spinweber, & Gillen (1994). Crew factors in flight operations:IX: Effects of planned cockpit rest on crew performance and alertness in long-haul operations.

■ヤケ酒は逆効果

 さて、仕事と言えば、チームで取り掛かることもしばしば。あるいは、社員が個々の仕事をしていたとしても、同じ部署のメンバーであれば、お互いに元気にやる気を高めていきたいものです。そんな時に有効なのが、お互いに声を掛け合うということです。プリンストン大学の研究チームの実験ですが、脳の活動をモニターしたところ、少し集中力が落ちて来た時に、「集中力が落ちている」と指摘されると集中力が戻る傾向があることがわかりました。つまり、誰かに自分の活動状態を知らされることが大事だということです。

 ただ、これを実行する際には、声の掛け方には工夫をしないと、人間関係の面で角が立つこともありそうです。対人コミュニケーションの訓練では、アサーションといって、相手を大切にしながらこちらの伝えたいことを伝える方法が重視されています。まず労(ねぎら)いの言葉や褒(ほ)め言葉を述べて、承認欲求を満たしてから、自分の伝えたいことをやんわりと、時にはっきりと言う方法です。

 自分の仕事での元気を取り戻す方法も考えてみましょう。ひとりで黙々と作業をするのは、仕事が捗(はかど)る場合があるのも事実ですが、同時に心のモヤモヤも溜まって来たりするものです。そんな時、誰かと会話することで心がリセットされた経験があると思います。

 これは人と会話をすることで、心身の安定に影響する物質、セロトニンも分泌されるからなのです。その際には相手の気持ちを考えながらコミュニケーションをとることが肝要とされています。相手のことを考える、つまり思いやりです。好意の返報性といって、人は、好意的に接してくる相手には好意を抱く傾向があるという心理学的な原理があります。

 周りにやる気を出させるという意味では、残り時間などを示すというのも有効な方策だと考えられています。たとえば、理化学研究所の水野敬氏(※8)の研究によると、45分間の作業記憶課題をやらせ、脳の活動を記録する実験を行ったところ、時間経過と共に脳は疲労を示していたのですが、残り時間を提示したところ、報酬感と関わりの深い脳の部位の活動が活発になっています。つまり、残り時間を示すと元気スイッチが入るということです。これは、当然他人に対しても有効です。

 そして、退社後、飲みの時間が始まる人もいるでしょう。飲みと言えば愚痴(ぐち)ですが、これが意外にもみなさんの元気をなくす原因になっているかもしれないのです。

 東京大学の野村・松木(※9)の研究ですが、ネズミに電気ショックによるストレスを与えたあとにアルコールを注射したところ、かえって電気ショックへの恐怖感が増し、より臆病になってしまったとのことです。お酒を飲んで忘れるどころか、嫌なことの記憶が強化されてしまうのです。

 しかも、アイオワ州立大学のブッシュマンら(※10)の研究によると、怒りを発散させるためにパンチング・バッグを殴らせた被験者たちは、怒りがおさまるどころか、関係ない人にまで攻撃的になってしまったそうです。仕事の怒りや不満は、お酒で忘れようとしたり、表現したりするのではなく、別の形で解消した方が良さそうだということです。

 さて、1日のゴールは睡眠です。やはり良質な睡眠なくして、翌日の元気は生まれません。早めに床について、しっかりと寝て、次の日に備えましょう。

 朝、布団から出られない。ルーティンをやらなくてはならないのにやる気が起きない。そんなときは、「あとでやろうはバカヤロウ!」(だから今やろう!)と自分を叱咤(しった)してください。そして、とりあえず体を動かし始めてください。前脳の側坐核(そくざかく)にあるとされる元気スイッチを強制的にONにするのです。

※8 水野敬(2012) 「報酬感と疲労感の脳内相互作用メカニズムの解明」
※9 Nomura & Matsuki (2008). Ethanol enhances reactivated fear memories.
※10 Bushman, Baumeister, & Stack (1999). Catharsis, aggression, and persuasive influence: Self-fulfilling or self-defeating prophecies?

(堀田 秀吾)

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