中国版の「ドヤ街」はネトゲ廃人の巣窟? 三和ゴッドの暮らしを追う

中国版の「ドヤ街」はネトゲ廃人の巣窟? 三和ゴッドの暮らしを追う

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 近年、日本では広東省深セン市の評判がうなぎのぼりだ。ファーウェイやZTE・テンセントなど名だたるIT企業が本社を置く、中国有数のハイテク都市。IoTやドローンといった現在流行の分野で成功しているベンチャー企業も多く、未来の中国を担うイノベーション都市として注目されている。

■経済特区の深淵を見せる巨大スラム街

 深センはもともと、香港に隣接する経済特区として整備された新しい街で、ここ40年間の中国経済の発展を象徴する場所である。一人あたりGDPが国内主要都市で1位の金持ち都市だけに、物価も中国国内ではかなり高く、市内で普通の衛生的なランチを食べれば日本より高くつくことも珍しくない。

 だが、この街はもうひとつの顔を持つ。市の北部郊外の一帯には、広大な工場地帯とそれに付随する巨大なスラム街が広がっているのだ。こうした傾向は以前からあったが、近年の深センがイノベーション都市として台頭し、国内外に向けてクールでスマートなイメージを漂わせはじめたことで、ギャップの大きさがより目立つようになった。

 この地域の人々の生活水準やライフスタイルは、わずか5〜10キロ向こうの市内に住む都市市民たちとは隔絶している。その中心地となっているのが、日雇労働者の雇用仲介市場がある龍華新区の「三和人力市場」周辺の一帯である。

 三和人力市場の付近には、シャープの買収で有名になった台湾メーカー・ホンハイ(フォックスコン)の大工場のほか多くの工場が並び、路上には臨時労働者や失業者、ヤミの職業仲介業者などがあふれている。いわば、日本で見られる「日雇い労働者の町」(ドヤ街)の中国版とでも言うべき地域である。

■サイバー・ルンペンプロレタリアート

 ただし、日本のドヤ街とは異なり、三和で生きる労働者たちは多くが20〜30代の若者だ。彼らはドヤ街でその日暮らしの毎日を送っているが、いっぽうで安価な娯楽であるスマホ・パソコンのインターネットゲームとの親和性が非常に高い。ネトゲ(オンラインゲーム)で遊び続けるために日雇い仕事でわずかなカネを稼ぎ、数日遊んでからまた日雇い仕事に戻り……といった日々を送る人も多く、いわばサイバー・ルンペンプロレタリアートとでも呼ぶべき存在だ。

 近年、彼らは中国のネット上で「三和ゴッド」(三和大神)と呼ばれている。一説には、人数は数千人から数万人にのぼるともいう。彼らの刹那的な生活については、すでに報道もなされはじめてきた。例えば以下のような記事だ。

「三和人力市場という中国版サイバーパンク地帯」(『新浪遊戯』2017/5/4)
http://games.sina.com.cn/g/f/2017-05-04/fyeycte8582792.shtml

「深センの不思議集団『三和ゴッド』。1日の消費はたった15元で、大学生になる夢を見ながら自堕落な生活を送る」(『網易訂閲』2015/12/28)
http://dy.163.com/wemedia/article/detail/BIR8IKLL052192PG.html

■ゴッドたちのエッジィすぎる日常

 上記の『新浪遊戯』の記事から、ある三和ゴッドの素顔を追ってみよう。

 広西チワン族自治区の農村出身の文華(仮名)は現在31歳。三和にやってきて5年目だ。中学を卒業してから、村の親戚とともに出稼ぎに出て工場で働くうちに、ネットカフェでのオンラインゲームにハマり、3年間で1000〜2000元を課金(彼らの収入水準からすれば、日本の物価感覚に置き換えて10万円以上を使った感じだろうか)。やがてもっとゲームがやりたくなり、ネットカフェ代や生活コストが安い三和へ流れ着いた。

“三和に来た1年目、文華は探せる仕事はだいたいすべてやった。店員・宅配便配達・城管(地方政府が雇う治安要員)・ガードマン・工場の臨時工といったところだ。

しかし2年目になると、彼は当日に仕事が終わり即金で報酬をもらえる日雇い仕事だけを望んでやるようになった。福利厚生や保険がなく、今日の仕事が終われば明日の保証もないのだが、三和の住民たちは日雇い仕事を喜ぶ。彼らは口をそろえて「日雇仕事で1日働けば、3日遊べる」と言うのだ”

■1日の稼ぎ約100元(1600円)はネトゲ、バクチ、「女神」に消える

 三和一帯の物価は現代中国としては異常なほど安く、都市市民が暮らす深セン市中心部の5分の1〜10分の1程度である。例えば、ヤミ営業の安宿が1泊8〜30元(約130〜500円)、同じくヤミ営業のネットカフェは1時間1〜1.5元(約16〜24円)、食事は1食5〜10元(約80〜160円)ほどでまかなえるという。

 いっぽうで三和ゴッドたちの日雇い労働の稼ぎは、1日あたりおおむね100元(約1600円)前後となる。確かに、1日働けば3日くらいはネトゲ三昧の暮らしを送ることが可能だろう。ヤミ営業の安宿やネットカフェに滞在して暮らすだけならば、もはやIDカードは不要というわけで、1枚100元くらいで売ってしまう人も多いようだ。ただし、代価がニセ札で支払われることも多く、初心者がしばしばカモにされているという。

 ほか、三和ゴッドたちの娯楽はネトゲだけではない。街頭ではしばしばアナログなバクチが盛り上がっているほか、『網易訂閲』の記事によればストリートガールもかなり多いという。同記事によれば、やはり三和の物価水準を反映しているのか、彼女らが要求する「1回15分間」のお楽しみの対価はわずか50元(約800円)。なかには「三和の女神」の二つ名を持つ紅姐(紅ねえさん)という名物女性までおり、三和ゴッドたちは彼女の携帯番号を知っていることが自慢になるのだそうである。

■ワーキング・プアの「蟻族」と「三和ゴッド」は何が違うのか?

 中国では10年ほど前から、都市郊外の狭い住宅に多人数で居住するワーキング・プアの若者たちが「アリ族(蟻族)」と呼ばれ、社会問題として注目されてきた。だが、中国の社会において、三和ゴッドたちはこのアリ族とは異なるものだと見られているようだ。

「アリ族の場合は現状に不満があり、もっとよい人生を得ることを目標に努力しています。しかし三和ゴッドの場合、アリ族以上に貧しいものの現状への不満はあまりなく、人生の目標も持たないのですが毎日をそれなりにエンジョイしている。そこが大きな違いでしょう」(大学院生 29歳男性)

 中国の貧富の格差は極度に拡大しており、すでに個人の努力だけで社会的な階層を逆転できる時代ではなくなっている。だが、生活コストが非常に安い場所に住み、3日おきに働く以外はネトゲで遊んだとしても、それなりに楽しく暇つぶしができてしまう―――。明らかに不健全極まりない社会のありかただが、いっぽうで不満の声は盛り上がらない。

 三和ゴッドたちの出現は、インターネットの大衆化と低価格化がもたらした、いかにも昨今の中国らしい現象であると考えるべきだろう。

(安田 峰俊)

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