「好きでした。」ゲイの僕が4年間片思いしていた男の子に初めて告白した日

「好きでした。」ゲイの僕が4年間片思いしていた男の子に初めて告白した日

©平松市聖/文藝春秋

連載「僕が夫に出会うまで」

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2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京……僕が夫に出会うまで、何を考え、何を感じて生きてきたのかを綴るエッセイ。毎週連載。

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(前回までのあらすじ)何度も男の子への片思いを繰り返した僕は、友人・あさみの失恋話を聞いているうちに、つい「贅沢だよ」と言い放ってしまう。ゲイであることを初めてカミングアウトすると、あさみは「ななぴぃ、それは、つらかったよね」と寄り添ってくれた。誰にも理解してもらえないと思っていた僕の気持ちは、ほぐれていった。

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(前回の記事「 『僕は人を疑っていたのかもしれない』意図していなかったカミングアウトから学んだこと 」を読む)

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 あさみに、予期せぬカミングアウトをしたのをキッカケに、僕の中で恐怖はだんだんと薄れてきていて、カミングアウトをされた人が優しい言葉をかけてくれる度に、それを自分のパワーに変えて、また別の人にもカミングアウトをしていた。

 僕にとって主要な友達にはほとんど話せたし、地元北海道の友達にも話せるようになっていた。身近な人に、本当の自分を理解してもらえることや、自分を偽らなくても良くなっていくのが、気持ちよくてたまらなかった。まるでカミングアウトをする度に、脱皮して、身体が軽くなっていくようだ。

 僕にカミングアウトをされた人の中には「それを認めちゃうのは、ななぴぃの為にならない。だから、女の人を好きになる努力をしなさい」というようなことを言う人もいたけれど、その人はその人なりに、僕のことを考えて言ってくれているということを、理解できた。そんな人には「女の人を好きになる努力の方法」を尋ねてみるが、「それは、わからないけど」と、誰一人として答えられなかった。人が誰かを好きになる時、努力して好きになっている人はいない事がわかると、「やっぱり自分はゲイなのだ」とゲイとしてのアイデンティティが確立されていく。

 自分がゲイだと認めた日から、僕は自分の過去を冷静に見つめる事が出来るようになってきて、高校から、4年以上もハセに片想いをし続け、恋愛面では惨めな高校時代を過ごした自分を、可哀想だと思えるようになっていた(当時は同性を好きになる自分を許せなかったのだ)。

 ハセに4年間の想いを伝えることが出来たら、過去の自分も報われて、ひもじかった悲恋の想いも浄化できるのではないかと考えていたのだ。

 そのことを、高校時代の友人である、由貴に相談すると、ハセへのカミングアウトに協力してくれることになった。由貴はその頃、大宮に住んでいたし、ハセは東京の西の方に住んでいたので、集まるのは簡単だった。

■僕だけ1人でモジモジ

 由貴がセッティングをしてくれて、新宿の居酒屋に3人が集った。僕の向いには由貴が座り、由貴の隣にハセが座った。食事をしながら高校時代の話に花がさく。

 高校時代、ハセがよく、教室で、バスケットボールの上に立ちながら傘をさしていた事や、ハセが、仲の良い男子の、うんこしているところを個室の上から盗撮して「撮った〜♪」とトイレから飛び跳ねながら出てきたところを、先生に見つかって、携帯を没収された事を由貴が「ほんとハセはバカよね〜」と話していた。

 高校時代のハセの珍事の話で盛り上がる中、僕だけは「ハセにどうやって話を切り出そう」「もし気持ち悪いと思われたらどうしよう」と、どんどんネガティブになってしまい、食事の終盤までモジモジしていると、由貴がピシャリと言った。

「今日はね、ななぴぃからハセに話したい事があるんだって。はい、どうぞ。ななぴぃ!」

 話す時が来た。ハセは僕を見つめている。もう、言うしかない。でも、黙っていればこのまま友達で居られるのだ。言ってしまうとどうなるかわからない。でも伝えたい……。

「はぁ……、んー。やっぱり由貴が代わりに言ってくれない……?」

「え、私? でも……こういう事は自分から言わなきゃでしょう。ななぴぃ頑張って!」

「でも……やっぱり……」

 ハセはもじもじしている僕と、そんな僕を応援する由貴を交互に見て言った。

「ゲイなの? なに?」

 ハセは気付いていたというのか? 少し驚いたが、僕は「実は……」と言ってうなずいた。

 ハセは「え」と言い、少し固まって、今までの事を頭の中で振り返っているようだ。

「マジか! あ〜、マジか!……やっぱり……、だからか! 七崎! お前ゲイだったのか!」

 ハセは、僕がゲイである事に驚いてはいたが、「だからあの時……」と全ての出来事がいちいち腑に落ちていく様子だった。ハセも由貴も笑顔で、和やかな雰囲気なことに救われた。

「うん……。もしかしてハセは、気付いてたの?」

「いや、俺、全然わからなかったけど……。今考えると、何で気付かなかったんだよ俺! それに、七崎がゲイだって気付いてたら、七崎の隣で、パンツ1枚で寝たりしてないわ!」

■顔が青ざめても伝えなければならないこと

 ハセや由貴が、高校の頃と変わらず接してくれていることに僕は一安心していたし、これで満足だと思ったが、シッカリ者の由貴は気付いていたようだ。肝心なことがまだ伝えられていないということを。

「他にも、言うことがあるんだよね? ななぴぃ言える?」

 僕は首を横に振った。今僕の顔は青ざめて見えるかもしれないと思った。

「それじゃあ、私から言う?」

 今度は首を縦に振った。「わかった」由貴は隣にいるハセに向かって座りなおすと、丁寧に言った。

「ななぴぃはね、ずっとハセの事が好きだったんだって」

「七崎が、俺を?」

「そうだよ。高校の時からずっとだって。ハセ、良かったね。そんなに長く想ってくれる人なんていないよ? しかもこんな、ハセなんかを」

「やったー! 俺って男からもモテるんだな!」

 ハセはお気楽な返事をした。緊張気味な僕を和ますためなのかもしれないが、「いやいや、男女問わずそんなにモテてはいないだろう」と言いたかった。

■今までの気持ちを浄化させて、前に進む

僕はようやく口を開いた。

「最近、気がついたんだ、ゲイだって。ってか、本当は前から気付いてたんだけど、認めるのが怖くて、最近認めたって感じなんだけどさ。高校の時からずっとハセの事が好きで、一緒に住んだ時もハセが好きだったんだ。だから、ハセの彼女の事で、ハセにたくさん嫌なことを言っちゃったりしてごめんね……。

 きっと、僕の人生で一番好きになった人はハセだと思う。ハセ以上に好きになれる人なんて、この先、もう現れないと思うんだ。だから、自分のためにもハセにちゃんと伝えて、今までの気持ちを浄化させて、前に進もうと思うんだよね」

「七崎なら大丈夫だろ。……それよりお前、俺の事を好きだから、俺と津田さんをわざと引き離すようにしてたんだろう! だから俺は津田さんとうまくいかなかったんだな!」

「津田っちは、ほんとにハセに興味がなかったんだよ! 今だから言えるけど、ハセの喋り方の真似して笑ってたんだよ」

「そんな津田さんも好きだ」

「ほんとハセってしつこいよね」由貴が言った。

「あ、でも、愛がハセのことを好きだった時は邪魔しようとしたわ。それに、ハセがマミちゃんと付き合った時なんて、マミちゃんを許せなかった。当時大嫌いだったよ。ハセを盗られたと思ってたから」

「でもマミは、七崎のことを『良い人』って言ってたよ」

「ほんと? よかった。反省してたんだ。マミちゃんを恨むべきじゃなかったって」

「当時のななぴぃ、ヤバかったよね。『あんなクソ女とさっさと別れなよ!』って毎日ハセに言ってたよね。毎日だよ? 私はそれを見てて、ななぴぃって、友達に対する独占欲が強いんだな〜って思ってたの」

 由貴は懐かしむように、笑いながら言った。

「ハセを好きだったって聞いて、全て納得したよね。早く言ってくれてれば良かったのに。ね!」

「でもさ、高校の時、由貴に打ち明けていたとしたら、今みたく受け入れてくれてたと思う?」

「ん〜、あ〜。どうなんだろう。当時は皆、若かったし、今と状況も違うから何とも言えないけど、ななぴぃを嫌いになるって選択肢はなかったと思うな。けど難しい……。だから高校生のゲイの子って大変かもしれないね」

「そんなことより、俺は、津田さんのことを七崎に頼んだのは失敗だったな! 津田さん大好きだったな〜。でも、津田さんがいなければ、七崎ともこんなに仲良くなってないだろうな!」

「津田っちのことばっかり! ほんとしつこくてウザい!」

「ほんと。ハセってウザい」

3人は笑った。

■好きな人に好きと言える喜びを、生まれて初めて知った

この日の僕らは話が尽きることが無かった。僕は散々に飲みすぎてしまい、その後は3人でカラオケに行き、みんなウチに泊まったらしい。

次の日には、苦しい二日酔いが待ち受けていたが、それでも気持ちだけは晴れやかだった。

ハセに告白できたことによって、想いを寄せていた4年間、報われることのなかった気もちや、同性を好きな自分を責め続けていた、負の感情をスッキリさせることに成功した僕は、なんとも言えない達成感に包まれていた。

ハセと付き合うことはできなかったけれど、自分の想いを伝えることができるなんて、思ってもみなかったことだったし、カミングアウトをしたことによって、大切な友達が減ることもなかったのが、どんなに幸せなことか。

由貴とハセのお陰で僕は、好きな人に好きと言える喜びを、生まれて初めて知ったのだった。

(続きは5月14日(火)に掲載予定)
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(七崎 良輔)

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