ゲイの僕が悩みに悩んで、母にカミングアウトを決意するまで

ゲイの僕が悩みに悩んで、母にカミングアウトを決意するまで

(c)平松市聖/文藝春秋

連載「僕が夫に出会うまで」

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2016年10月10日に、夫と結婚式を挙げた七崎良輔さん。幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京……七崎さんが夫に出会うまで、何を考え、何を感じて生きてきたのかを綴ったエッセイが、待望の 書籍化 決定。

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5月14日(火)の 電子書籍 版先行リリースと、5月28日(火)の 書籍発売 を記念して、本編中の、エピソードを公開します。

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(前回の記事「『 好きでした。』ゲイの僕が4年間片思いしていた男の子に初めて告白した日 」を読む)

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 僕が母へカミングアウトをしたのは、20歳の時だった。

 その時僕は、すでに上京していて、両親とは離れて住んでいたから、年に1度あるかないかの北海道へ帰省するタイミングで、直接話したいと考えていた。

 親にカミングアウトをするかしないかは、僕なりに、小さい頭脳で悩みに悩んだ。

 その結果、一生隠し通す事は不可能だと考えた。いつかカミングアウトをするのなら、なるべく僕も両親も若いうちに、と考えたのだ。

 だが、両親は二人とも、昔ながらの体育会系の人間だ。僕をスポーツ選手にたくましく育てたいと思っていた彼らは、息子がゲイであることを快く思うはずがないと思ったし、子供のころを思い返しても、僕がゲイであることを受け入れてくれるような親ではないように思えた。

■「男はスポーツ刈りが一番いいんだ!」

 当時小学校高学年の僕にとって、前髪や襟足は命も同然だったのだが、ロン毛ではないまでも目に届く前髪が、両親(特に父)には許せないらしい。

「なんだその髪は! 今すぐ髪切ってこい!」

 父は僕にお金を渡した。僕はお金を受け取ったものの、髪を切るのが嫌で仕方なかったので、泣いて反発をした。

「いやだ! 切りたくない!」

「なんでだ! それがカッコいいとでも思ってるのか? 男はスポーツ刈りが一番いいんだ! 俺がバリカンでボウズにしてやってもいいんだぞ!」

「絶対いやだ!」

「カッコつけて、髪伸ばして、チャラチャラしやがって! お前は俺が一番嫌いなタイプの男だ!」

 そんな言葉で僕がめげるはずがない。

「お父さんは、男はスポーツ刈りが似合うと思って短髪にしてるんでしょ? それだってカッコつけてるじゃん!」

「俺はカッコつけたりしない!」

「本当にカッコつけない人は、他人の髪型にケチをつけない! だって自分の髪型がどうでもいい人が、人の髪型なんて気にしない!」

 子どもは理屈で責める。大人の常識では敵わない事がある。そして、大人はそれを口ごたえと叱るのだ。

「口ごたえするな! いいから今すぐ髪を切りに行け!」

「わかった! 髪を切れば、文句ないんでしょ?」

「そうだ」

「髪を切ったらもう文句を言わないと誓う?」

「おう! 誓うから行け!」

 僕は父にもらった2000円を握りしめて床屋に入った。目を泣き腫らし、ふてくされた僕に床屋さんは言った。

「どのくらい切りますか?」

「前髪と襟足を1ミリだけ切ってください」

「1ミリ?」

「そうです。1ミリでお願いします。難しければ5ミリでもいいです」

 こうして、5ミリほど切った頭で家に戻ると、父は「金を返せ」と言ってきたがそれ以上怒ることはなかった。だが、髪型での喧嘩は頻繁に繰り返された。

■中学時代、香水をつけてみたら……

 僕が中学生の時にも「男」の定義で揉めた事がある。

 その頃、同世代の間で流行っていた香水があったのだ。それを付けているところを、父に目撃された時、父はこう言った。

「そんなもの、男がつけるものじゃない! いいか、男の香水は『汗』だ! 女にモテたいなら汗を流せ!」

 引いた。

 確かに父はスポーツ万能で、学生時代も、実業団に入ってからも、汗を流していた。父がよく女性にモテていたことも、叔母から聞いていたし、想像もできる。だが、そもそも僕は女性にモテたくて香水をつけているのではない。もし仮にそうだとしても、僕は汗を売りにしてモテるタイプではないのだ。何から何まで、僕とこの人(父)とは違うのだということをイヤというほど学んだ瞬間だった。

 ただ、その違いを乗り越えるには、お互いに、考え方の違いを認め合わなくてはならないと思うのだ。なんとかそれを父に理解してもらいたかった。

「お父さんはさ、なんで自分の意見を僕に押し付けるの? お父さんと僕は考え方も価値観も違う。でも僕は、お父さんの言う、スポーツしている人たちや、お父さんの事も一度も否定した事はない! なのにお父さんは僕を否定する。なんで? なんで僕は否定されなきゃいけないの!」

 そこに3つ下の妹が現れた。妹は僕と違い、スポーツが得意でバドミントンに打ち込んでいた。妹と父は家族の中でも、よく2人でタッグを組む、仲良しコンビだ(父は妹にゾッコンで、妹はお父さんをうまく利用する天才なのだ)。

「くっせぇ! お兄ちゃん、香水つけてモテようとしてる〜。カッコつけ男〜」

 妹は「お兄ちゃん、香水くせぇ」と唄いながら、ダンスまで踊りだした。

「お兄ちゃん、くせぇよな〜? しぃちゃん」

「くせぇ〜かっこつけ男〜」

 厄介な人間が2人になり、僕1人では敵わない。そこに僕の味方が現れる。母だ。

「もう、やめなさい2人とも。良輔も年頃なんだから、香水くらいつけるでしょ。(父に向かって)あんただって学生時代、女にモテるためだけに、ギターを弾こうとしてたじゃないの。それに、しぃちゃんだって大人になったら香水くらいつけるのよ」

「えー、やだ〜。くっせぇ〜じゃ〜ん」

「しぃちゃんは、バドミントンの選手になるもんな〜?」

この時、僕は、妹が色気付いた時には、めちゃめちゃバカにしてやろうと心に誓ったのを今でも覚えている。

■カミングアウトのメリットとデメリットを考えてみた

 まずは母にカミングアウトしようと思った。なぜなら、母はいつも味方でいてくれたから、理解してくれる可能性が一番高いと考えた。

 だけどもまだ、自分の中で悶々としている。言うべきか、言うべきでないか。どちらが正しい生き方なのか判断ができずにいたのだ。そこで僕はイマジネーションを働かせた。

 親にカミングアウトした未来(メリットとデメリット)と親にカミングアウトしない未来(メリットとデメリット)を挙げていくのだ。

 カミングアウトをしたら、間違いなく母は落ち込み、悩むだろう。もしかしたら、自分の育て方のせいだと、自分を責めるかもしれない。何年も何十年も。いや、それどころではなく、落ち込みすぎて、自殺してしまったらどうしよう。耐えられない。そこまでならなくても、もしかしたら縁を切られるかもしれない。

 メリットは今後自分を偽らなくてすむことだ。認めてくれた場合、彼氏を紹介したりする事ができるかもしれない。

 カミングアウトしない場合、親が傷つくことはない。このまま愛されて生きていくことができる。デメリットは自分を偽り、ずっと隠しゴトをしている気分でいつづけることがイヤだ。彼氏を紹介することもなければ、永遠に「いつ結婚するの?」と聞かれ続けるかもしれない。そして、僕が独り身だと心配しながら親は死んでいくのだ。

 どっちもどっちだった。

■「同性愛=普通じゃない」を変えていきたいと思った

 次は、問題を、もっと広い視点から考えてみることにした。

 そもそも、なぜ親にカミングアウトをすることを、躊躇しているのだろうか。僕がゲイであることは別に悪いことではないし、誰の責任でもないはずだ。でもカミングアウトをすると、親を傷つけてしまうから躊躇しているのだ。

 ではなぜ、カミングアウトされた親は傷つくのだろうか。それは同性愛=普通じゃない。良くない。可哀想。気持ち悪い。変態というネガティブなイメージがあるからではないだろうか。そのイメージを変えていきたい。僕は将来、ゲイとして幸せな家庭を築くのだから。

 それならば、ごちゃごちゃした問題は置いといて、僕にとって、一番素晴らしい未来はどんなものだろうと想像しよう。僕にとって最善の未来、それは、僕の隣にはステキな旦那様がいる。お正月には彼の実家へ、お盆には僕の実家へ帰省するとかを話しあって決めている。家族の行事(葬儀や結婚式)にも、僕の隣には当たり前のように旦那様がいる。お互いの家族や友達に支えられ、旦那と2人で生きている。これが僕の一番の理想なのだ。

 そうと分かれば、もう迷う必要はない。自分の一番の理想が現実となる様に、努力するしかないのだから。腹が決まったと思った。まずはお母さんにカミングアウトしよう!

写真=平松市聖/文藝春秋

(続きは5月21日(火)に掲載予定)
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(七崎 良輔)

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