「ストッパーが壊れたようにしゃべってしまう」中野信子が“お悩み脳”を解決します

「ストッパーが壊れたようにしゃべってしまう」中野信子が“お悩み脳”を解決します

中野信子氏

『 週刊文春WOMAN 』2019 GW号の発売を記念して、『週刊文春WOMAN』を代表する中野信子の人気連載「あなたのお悩み 脳が解決できるかも?」第1回を特別公開する。

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 読者のみなさま

 はじめまして。脳科学者の中野信子です。わたしが初めて「脳」に興味を持ったのは、同級生たちと馴染めずにいつもひとりでポツンとしていた小学生のころのことです。ある日、いつものようにひとりで子ども向けの科学の本を読んでいて、ふと、わたしが浮いているのは脳に原因があるのではないかと思ったのです。大学院で脳神経医学を専攻し、フランスの国立研究所で2年間博士研究員を務めてわかったのは、そのときの直感は正しかったということ。普段悩んでいることも、迷っていることも、脳を知ることで解決できることがたくさんあるのです。

 週刊文春WOMANは社会人、家庭人、学生といった属性や年齢を問わず、あらゆる大人の女性に向けて編む雑誌と伺いました。女性の人生は進路の選択に迷ったり、家族のことで悩んだりの連続ですね。そんなあなたのお悩みに、脳科学がお役に立てればうれしいです。どうぞ何なりとご相談をお寄せください。

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■不倫の恋しかできません
─39歳・シングル・化学メーカー研究職からの相談

“恋に落ちる相手は必ず既婚者です。中野さんの『 不倫 』(文春新書)を拝読し、「もともと一夫一婦制の結婚に向いていないタイプが人口の半数程度いる」と書かれてあったのでホッとしました。でも待てよ、わたしは結婚したことがなく、したがって一人の夫ではガマンできないのよというタイプではないのです、たぶん。だからホッとしている場合ではなかった。間もなく40歳になりますし、いい加減に不倫じゃない恋をしたいです。ムリでしょうか?”

 拙著をお読みいただき、ありがとうございます。あなたに親近感が湧きました。わたしと同様に、団塊ジュニアの世代にあってリケジョですね。当時の大学の理系というと男子が圧倒的に多く、女子は稀少価値があったがゆえにモテましたよね。わたしの場合も女子は学部にたった5人でしたから、「撃墜王」「ギャル将軍」と呼ばれるほどモテました。実は、わたしのあだ名も「女王」だったのです(恥)。

 当時は現在よりはるかに受験戦争が激しかったですよね。そこをくぐり抜けてきたあなたですから、攻略する歓びを知っているはず。恋するときは純粋に“好き”という気持ちもあるにはあるでしょうが、相手の心を自分に向かせたという歓びも大きいのではありませんか? それはすなわち、攻略してゲームに勝った歓びなのです。

 人工知能に「世界平和を実現せよ」と命令すると「人間をみな殺しにする」という“解”を出します。人間というのは戦い、奪い、平和を乱すものなのですね。あなたが恋した相手を本当に好きなら、あなたも戦って奪えばいい。奪われた側(妻)には気の毒ですが、プロテクションに不備があったのだからしかたありません。もっとも、あなたはそんなことはとっくにわかっていて、誰かと戦って夫を奪われたくないから今まで結婚しなかったのかもしれません。

 さて、あなたが結婚するかしないかはさておき、本当に「不倫じゃない恋」をしたいのですか。

 残念ながら、男性は既婚者のほうが魅力的に見えてしまうのです。男性独りの写真と、男性が隣で微笑む女性と一緒に写っている写真では、同じ男性なのに女性と一緒の写真のほうが魅力的に見えるのです。でもこれは錯覚ですから、あなたはこれからも既婚者に惹かれることがあっても、わたしたちは既婚者のほうが魅力的だと錯覚してしまう生き物なのだということを思い出してください。

 シングルの男性はあなたの目に魅力的に映らない。それならあなたがその人を魅力的な男性に育ててみませんか。化学メーカーの研究職なのだから、細胞を培養するようなモチベーションで。もし、わたしが育ててみせようと思えたら、それが「不倫じゃない恋」の第一歩です。今節、ボクを育ててくれよと思っている男性は少なくないですよ。大丈夫、まだまだイケます。

■ヤワ過ぎる娘は社会人としてやっていけるでしょうか
─46歳・銀行パートタイムの母からの相談

“専門学校を卒業して春から会社勤めを始める娘(20)は、あんなに盛り上がったサッカーワールドカップも日本が失点するところを見たくないから、一度もテレビ観戦することはありませんでした。小学生のグループが縄跳びの新記録に挑戦する番組は、誰かが縄に足を引っかけるかもしれないから見ない。ドラマで主人公が嵌められそうになっただけでテレビを消します。ピンチや失敗のシーンを見ないで済むようにしているのです。これから社会人として現実を直視しなければならない場面が必ずやあるに違いないのに、やっていけるのだろうかと心配です。”

 あなたの娘さんのように、他人が失敗するのも見たくないというのは「共感性羞恥」という現象です。

 わたしたちの脳には他人に共感する、集団で協力して行動するといった人間らしい社会的活動を促す働きをする「社会脳」と呼ばれるエリアがあります。そのうち前頭葉の両側にある眼窩前頭皮質(OFC)は、他人の気持ちを理解しようとする機能を持ちます。この機能が高い人もいればまったく機能しない人もいるのですが、娘さんは極めて機能が高いタイプと思われます。共感性が高いのです。

 その真逆がサイコパスです。サイコパスとは連続殺人鬼などの反社会的な人格を説明するための概念だったのですが、近年、サイコパスといわれる人たちはOFCの機能が働かないという科学的な事実がわかってきました。他人に共感できないから、他人が痛がって手足をバタバタさせていると、おもしろいとしか思えないわけです。

 娘さんは誰かが痛い思いをすると自分も痛いと感じます。人間としてものすごくいい人、ぜひお友だちにしたい人です。ただ、脳のOFCと扁桃体の結びつきが強過ぎると、みんなが自分を見て笑っているのではないかとか、わたしはダサいと思われているのではないかとか不安になる社会不安障害が起きやすいということがあります。これはかつて対人恐怖症といわれ、日本人の国民病といわれるほどポピュラーなものでした。

 文面から察するに、あなたもそうとう心配性ですよ。娘さんがまだ就職もしていない段階からそんな心配することありません。厳しい現実に立ち向かわなければならなくなったときは辛い思いをされるでしょうけれど、娘さんはきっと乗り越えます。誠実に、堅実に家庭を築いてきたあなたのように。

■高校3年生の娘が感じ悪くて、つらいです
─55歳・出版社勤務からの相談

“2年前に夫を亡くし、大学2年の息子(19)、高校3年の娘(17)と暮らしています。悩みは娘が感じが悪いことです。「息子さえいれば、わたしのことなんかどうでもいいんでしょ」「フン、わたしにはイヤな言い方をするのに、お兄ちゃんには声からして違う」と常にひがんだ物言いをします。息子は小さいころは手こずりましたが、成長して話もよく聞いてくれるし、判断力もあるし、助かることが多いです。娘には身構えますが、息子にはフツーに接することができて楽なのです。娘はそれを見抜いているのでしょう。

 仕事が終わり、「あれが家にいる」と思うと帰途の足取りが重くなります。こういうとき、夫が生き返ってくれたらバランスが取れるのに……。わたしはフツーの気持ちで暮らしたいだけなのです。生きているわたしにできることは何でしょうか?”

 親子というのは、良好な関係でいるのは実は難しい。娘とうまくいかないとか、きょうだいのうち一人だけうまく話ができないとか、悩んでいるお母さんは少なくないと思います。あなたの場合はまず、「わたしのことなんかどうでもいいんでしょ」と子どもから言われたときに、どう返すかというのが問題ですね。これも同じような悩みを持つお母さんがいます。

 こんなとき、「そんなことないわよ」と“お為ごかし”を言ってしまう人が多いんです。「そんなことない」というのは嘘ではない。でも、確かに息子のほうがかわいいと思っているのに……。

 ところで、「大脳皮質」という脳の表面を覆っている層があるのをご存じですか。ここは論理的な思考を働かせたり、記憶したりする“思考”の中枢です。いわゆるアタマがいいか、おバカかについてですが、知能というのは母から受け継ぐものなのです。人間はどの程度受け継ぐのか検証の余地はありますが、マウスで実験したところ、大脳皮質はほとんど母の遺伝子からできるということが明らかになりました。

 あなたの娘さんがあなたの心のなかを見抜いているのは、アタマが働くから。それはあなた譲りなんです。アタマが働く人に「そんなことはない」とお為ごかしを言おうものなら、フン、またウソ吐いているわという気持ちにさせるだけです。

「確かに息子のほうがつきあいやすい」と言ってみることを考えてみてもいいと思います。17歳をどう見るかは、そのお子さんによると思いますが、母親が本当のことを言っているか、嘘を言っているかを見抜く知能は既に育っているのではないでしょうか。だから、親というのは完璧であって当たり前と思っているかもしれないが、親も完璧ではないし、わたしも完璧ではない。55年生きてきても完璧な人間になりようがない。ミスもするし、選択を間違えることもある─ということを教えてもいい。

「それでもあなたは、わたしの血を分けた子どもだ」ときちんと伝えたら、通じ合えるものがあるかもしれない。ここらへんで、腹を割って話せる関係になることを強くお勧めします。

■話し出すと止まりません
─43歳・週刊文春WOMAN編集長からの(小誌編集部としても深刻な)相談

“上司から「話が長い」と言われます。語り草になっているのは、私自身の結婚披露宴です。両親への感謝の手紙を書かずにスピーチで済ませようとしたわたしは、気がつけば30分もぺらぺらしゃべっていました。感動と涙のシーンだったのに誰ひとり感動せず、両親の涙さえなかったのは明らかです。お客様を見送る際には、みなさまより「あんなにしゃべる花嫁は初めて見た」という感想をいただきました。

?

 実はわたし、子どものころは外に出るとひと言もしゃべれない人間でした。公園の砂場で遊んでいても、ほかの子どもの気配を察知するや否やこそこそ退散。小学校時代は、授業中に挙手したことがありません。徐々に人格改造をして社会性を身に付けた結果、会社では編集者の人格で人と話せるようになり、特に年上の人との会話は無理せずできているように思います。ただ、ときにストッパーが壊れたようにしゃべってしまいます。修理は可能でしょうか。

?

 そうそう、そういえば先日……”

 お話の途中ですが本当に止まりそうにないので、このぐらいにしておきましょう。あなたのお悩みは理解しました。

 わたしは驚くほどあなたに似ています。冒頭で自己紹介させていただいたとおり、わたしも子どものころはボッチでした。あなたが人見知りを克服しようと頑張ったこと、そして実は今も頑張っていること、よくわかりますよ。

■人格改造ではなく、ペルソナをつくる能力を発達させた

 編集者としては人と話ができるというのは、「編集者」というフォーマットがあってそのとおりに振る舞えばいいから楽なんです。会社では編集者のペルソナを被っているんですね。あなたは人格改造したのではなく、TPOに合わせたペルソナをつくる能力を発達させたのです。年上の人となら会話ができるというのも、年上には敬語を使い、わたしが目下でございますという顔をしておけばいいとわかっているからです。だから同年代や年下が相手だと、かえって疲れてしまう。立ち位置に困り、一から計算しなければならないから、しんどいですよね。

 話が長いのは、このようにふだんの抑圧が大きいからです。歓びを感じるとき、幸福を感じるときに脳内で大量に分泌する「快楽をもたらす化学物質」があります。お馴染みのドーパミンですね。人は、自分のことを語るときにもドーパミンが大量に出ています。ほかの人に話を聞いてもらっていると性行為のときよりもドーパミンが出ているという研究報告もあって、それほど話を聞いてもらうというのは気持ちのいいことなんです。

 あなたはおしゃべりによってドーパミンを分泌し、抑圧された分を取り戻そうとするので話が長くなるのでしょう。修理は不可能です。ですから、自分で話すよりも人の話を聞いているほうが好きな人をたくさん確保しておくというのが、全方向をまるく収めるための方法になるのではないでしょうか。

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 連載「あなたのお悩み脳が解決できるかも?」第2回には、相談者として山口真由さんも登場。東大在学中に司法試験にも国家公務員試験にも合格。東大法学部を首席で卒業し、財務省から弁護士に転身、その後ハーバード大学ロースクールをオールAで修了。現在は東大大学院の博士課程で研究をしながら、メディア出演もこなす山口さんのお悩み「予定どおりにコトが運ばないとフリーズします」への中野さんの回答は『 週刊文春WOMAN 2019GW 』にて掲載中。

中野さんにあなたのお悩みを相談しませんか?

読者の皆様のお悩みを、woman@bunshun.co.jpか(件名を「中野信子人生相談」にしてください)、〒102-8008 千代田区紀尾井町3-23「週刊文春WOMAN」編集部「中野信子人生相談」係までお寄せください。匿名でもかまいませんが、「年齢・性別・職業・配偶者の有無」を必ずお書き添えください。

なかののぶこ
1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書にベストセラーとなった『 サイコパス 』『 不倫 』(ともに文春新書)など。

(中野 信子/週刊文春WOMAN 2019年正月号)

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