「まえだっち」と「横田さん」 それぞれの新宿潜入

「まえだっち」と「横田さん」 それぞれの新宿潜入

(c)浅沼敦/文藝春秋

 名を変え、身分を隠し、新宿に潜入する。今週の週刊文春には、そんな潜入者の記事が2本あるので、それぞれ紹介したい。

 先週号で「総理のご意向」文書について証言した前川前次官だが、今週号には、前次官と“出会い系バー”で知りあった女性の告白「出会い系バー相手女性」が掲載。読売新聞が報じた前次官の出会い系バー通いは買春疑惑を伴うものだが、前次官はこれを否定し、「貧困女性の実地調査」と主張していた。

■これはもはや「貴種流離譚」ではないか?

 女性・A子さんは証言する。「彼は『前田』と名乗っていた。愛称は『まえだっち』。週2回会っていた時期もあり、3年間で30回以上。5000円くれていた。私は前川さんに救われたのです」(リード見出しより)。前次官は記事によれば、A子さんやその友達らと歌舞伎町のダーツバーで遊ぶことが多く、また、すしざんまいやマック、焼肉店などの飲食店に行っていたという。

 華麗なる一族のエリートが「まえだっち」として歌舞伎町を生きる姿が見えてくる、面白い記事である。身分を隠し、いつもボロボロのカバンを下げてA子さんの前に現れる、まえだっち。いわゆる貴種流離譚に見えなくもない。貴種流離譚ってのは、ようは水戸黄門のような、高貴な身分の者がさまよう物語だ。

■新宿・歌舞伎町の人間交差点

 まえだっちは、キャバクラの体験入店を繰り返していたA子さんに会うたびに「ちゃんとした?」「仕事どう」と聞いては就職の相談に乗り、A子さんが百貨店で働くことが決まると「おしごとガンバレ」と書いたケーキを用意し、さらには「授業参観」と称して売り場に顔を出したという。勤労を尊ぶ、まえだっち。文科省よりも厚生労働省のほうが向いているんじゃないかと今さらながら思えてくる、まえだっちである。

 そんな、まえだっちとの日々のハイライトも就職祝いであった。「普段はおねだりしても何も買ってくれないのに、歌舞伎町のドン・キホーテに行って『今日は何でも買っていいよ』と、カラーコンタクトなどの日用雑貨を買ってくれました」

 その後、しだいに会うこともなくなっていく二人だったが、A子さんが再びまえだっちを見たのは、天下り問題でテレビに映し出された事務次官としての姿であった。

 新宿・歌舞伎町を舞台にした人間交差点が立ちあがってくる、そんなA子さんの告白である。

■「ユニクロ潜入一年」の横田さん、カジュアルな着こなしで登場

 ドンキからわずか数百メートルの場所にあるビックロ、ここで働いていたのが横田増生である。そう、「ユニクロ潜入一年」(昨年12月8日号)のジャーナリストだ。

 今週の「阿川佐和子のこの人に会いたい」はその横田増生がゲスト。誌面には、ボーダーのシャツを着こなす横田さんと阿川さんのツーショット写真が載る。このカジュアルを着こなし、軽い笑みを浮かべる姿を見れば、なるほどと思う。なにがなるほどなのかといえば、若者の多いアパレルの接客業のアルバイトに、50代にして採用されるのも納得なのだ。ちなみに「ユニクロ潜入一年」には、「髪を入念に染め、若者向けのメガネをかけ、小ざっぱりしたカジュアルウエアに身を包み」、面接におよんだとある。

 潜入するにはバイトの面接に受からねばならない。しかし横田さんは、身なりや笑顔では解決できない、根本的な問題を抱えていた。名前である。なにしろ『ユニクロ帝国の光と影』の著者、悪名高き人物なのだから。

「私は、まず法律に則って名字を変え、『横田増生』をペンネームとした」。「ユニクロ潜入一年」にはこうある。取材のために名字を変えた。その覚悟に世の中は驚いた。今回、その際のエピソードが阿川さんに聞き出される。

《横田 だから面接を受ける前に名前を変えたんです。どうやって変えたかというと、妻と離婚して、妻と再婚しました。
阿川 へ? どういうことですか?
横田 要するに離婚と再婚をすることで妻の姓に変えたんです。偽名を使うのではなく、きちんと法律に則って。》

 こうして堂々とユニクロに潜入し、「レジの所だけ、空気が薄いよね」などと会話が交わされるユニクロの影、闇の奥を取材するのであった。

(urbansea)

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