2022年ワールドカップに黄信号!? 中東断交でどうなる海外旅行

2022年ワールドカップに黄信号!? 中東断交でどうなる海外旅行

©iStock.com

「サウジアラビアなど湾岸諸国がカタールと断交」

 6月5日に報じられた内容は衝撃的なものだった。具体的には、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなど、中東7カ国が、カタールとの国交を断絶するという。カタール政府がテロ組織を背後で支援していることなどが理由とされているが、サウジアラビアにもテロ支援の疑惑はつきまとっており、この点については、判断が難しい。

 いずれにしても、今回の断交によって、日本人の海外旅行にも影響が出るのは必至。そこで、実際にどのようなことが生じているのか、検証してみたい。

 断交により、往来が不可能となっている区間は以下のとおり。

カタール−サウジアラビア(含む陸路国境)
カタール−エジプト
カタール−バーレーン
カタール−アラブ首長国連邦
カタール−イエメン
カタール−モルディブ
カタール−モーリシャス

■■日本人に影響が大きいのはエジプト行き?

 このうち、日本人に大きな影響がでそうなのはカタール−エジプト・アラブ首長国連邦だろう。カタール航空で羽田・成田からカタールの首都ドーハを経由してエジプトのカイロ・アレクサンドリア・ルクソールへの便を利用したり、UAEのドバイやアブダビに行ったりすることはできなくなった。

 同様にエミレーツ航空で羽田・成田・関西からドバイ経由でカタールのドーハに行ったり、エティハド航空で成田からアブダビ経由でドーハに入国したりすることもできない。

 すでにこれらの区間の航空券を購入ずみの場合どうなるのだろうか。カタール航空は、6月5日〜7月6日までの出発便を予約している場合、出発予定日の30日以内なら、全額払い戻し、もしくは代替便への無料変更(1回)を受け付けることを明らかにしている。

Suspension of Flights to Kingdom of Saudi Arabia, UAE, Egypt and Kingdom of Bahrain
http://www.qatarairways.com/us/en/travel-alerts.page

■■空域が制限され、カタール航空は遠回りに

 これだけであれば、中東に関心のある旅行者以外にはそれほど影響はないだろう。だが、国交を断絶するということは、それぞれの国が断交した国の上空を通過することが原則としてできなくなることを意味する。

 たとえば日本の航空会社は、国交がない北朝鮮の空域(平壌FIR=Flight Information Region:飛行情報区)を通過できないことを想起してほしい(大気圏外の人工衛星はその対象外)。すでにサウジアラビア・アラブ首長国連邦・エジプト・バーレーンの民間航空当局は、カタールの航空機の自国領空内の通過を禁止している(ただし、バーレーンはイラン空域に抜けるフライトのみ特例で許可)。

 カタールは小国なので、サウジアラビアがカタールを回避して飛ぶことにさほど支障はない。しかし、カタールにとって、今回の断交は由々しき問題である。

 Airliners.netでsadiqutp氏が作成した地図によると、赤い部分が今回の断交により、カタール航空が飛べなくなった空域。黄色い部分はもともと内戦によって上空を飛行することを避けるべき空域。両方合わせるとかなりの広範囲であることがみてとれる。

http://www.airliners.net/forum/viewtopic.php?f=3&t=1365009&hilit=sadiqutp&start=106#p19587079

 カタール航空が現在この空域を利用できないために、2つの問題が生じている。

 まず第一にカタールから南西方面、具体的にはアフリカ方面に向かうフライトは大幅な遠回りを強いられ、所要時間が長くなるうえに、コスト増となる点だ。同航空は近年、アフリカ方面のネットワークを充実させてきただけにこの影響は少なくない。
もう一つ、カタール航空はサウジアラビアの広大な空域を回避して飛ぶために、イラン上空やオマーン上空などを飛ぶ航空機が増え、これらの空域が混雑している点だ。こうしたことから、当面の間、遅延が常態化する可能性が高い。

 空域とルートに関心のある方は以下の記事を参考にしてほしい。

Flight Ban for Qatar Flights in UAE, Saudi Arabia, Bahrain, and Egypt
https://blog.flightradar24.com/blog/flight-ban-for-qatar-flights-in-uae-saudi-arabia-bahrain-and-egypt/

■■今回の断交で原油価格は?

 だが、旅行者にとってマイナスばかりとはかぎらない。今回の断交を受けて、原油先物相場は一時高騰したものの、すぐに下落した。これまで湾岸諸国などの産油国は協調して減産し、原油価格が一定の水準で維持されていた。それが今回の断交により、足並みがそろわなくなり、下落すると見込まれたようだ。

 原油価格が下落すれば当然のことながらジェット燃料は安くなり、燃油サーチャージが引き下げられる。この点については今後の動向を注視しなければならないが、少なくとも湾岸諸国での緊張→原油高という単純な構図にはあてはまらないようだ。

■■カタール航空のキャンペーンが実施されるか?

 今回の措置はカタール航空にとってはおそらく会社設立以来の最大の試煉となる。

下のリンク先でも示されているように、サウジアラビアとアラブ首長国連邦とドーハを結ぶ路線は,カタール航空にとって旅客輸送量1位と2位の区間であっただけに損失は大きく、調査会社のフロスト・アンド・サリバンによれば、カタール航空の利益減は30%におよぶという可能性もあるという。

Saudi and UAE are the largest source markets for Qatar Airways
https://centreforaviation.com/insights/analysis/qatar-airways-landing-and-airspace-restrictions-in-middle-east-damages-key-source-markets-348493

 世の常として、航空会社はこうした窮地に陥ると、需要回復のために大型キャンペーンをうつ。もともとカタール航空は2015年、2016年と2年連続で10万マイルキャンペーンを実施しているうえ、トリプルマイルキャンペーンを頻発するなど、ボーナスマイルキャンペーンの大盤振る舞いで知られるエアラインだ。今回の断交は同社にとっては災難だと思うが、旅行者目線でみれば好機ともいえる。

■■断交でメッカ巡礼はどうなる?

 多くの日本人にとってみれば、たとえばカタールとエジプトの間のフライトが飛ばなくなっても、トルコ経由やアラブ首長国連邦経由などで代替することができる。しかし、かりにこの断交が長期化すると、2022年にドーハでの開催が予定されているFIFAワールドカップに断交したサウジアラビアをはじめとした国々から観戦に行くことは不可能になるから、当然のことながら集客に影響する。

 ちなみにサウジアラビア国内にある聖地メッカへの大巡礼(ハッジ)については、特例として、カタール国民の訪問を許可するとしている。国交断絶でも、これだけは妥協せざるをえないということだろうか。

(橋賀 秀紀)

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