文在寅大統領「約3万個のポストに息がかかる」強大なパワーの実態

文在寅大統領「約3万個のポストに息がかかる」強大なパワーの実態

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 韓国の大統領といえば、その権限は絶大だ。 

 国家元首として国家間における条約締結・批准を行い、宣戦布告の権限や憲法改正の提案、戒厳令の布告はもちろん、国軍の指揮もできる。さらに、行政のトップとして長官(大臣)や大法院長(最高裁判所長官)の任命権を持ち、加えてテレビ局や新聞社などの代表者人事等、「約3万個のポストに大統領の息がかかる」(韓国全国紙記者)といわれるほどそのパワーは広範囲に及ぶ。

■大統領就任祝いの新聞広告に透ける各社の思惑 

 そんなパワーの一端を最初に垣間見られるのが、大統領就任祝いの新聞広告だ。

 これは就任翌日から掲載される大統領就任時の風物詩。今回は当選=即就任ということもあり当選翌日の5月11日朝刊には文在寅大統領の就任を祝う広告がずらりと掲載された。韓国の大手財閥は全面広告、その他の有力企業は7段1/2や数社合同で全面広告を出したりしていた。

 前出記者が言う。

「新聞の全面広告の費用は媒体企業ごとに異なりますが、約5000万ウォン(約489万円)ほどといわれます。歴代大統領就任時に必ず掲載されるもので、韓国では定番の光景。大統領の写真を使うか使わないかに大きな意図はないともいわれますが、それとなく企業の思惑も透けて見えます」

 必須フレーズはいずれも「第19代文在寅大統領の就任をお祝いいたします」で、さらに丁重な「お祝い申しあげます」の表現を使った企業もあり、それぞれだ。

■崔順実事件に関わったサムスンとロッテの広告は――。

 今回特に目を引いたのは、朴槿恵前大統領が弾劾、罷免となるきっかけとなった崔順実事件に関わったサムスンとロッテの広告だ。

 サムスンはグループ内の合併を有利に運ぶために朴前大統領などに賄賂を渡したとされ、現在、李在鎔副会長は起訴され、収監中だ。

 そんな背景からか、サムスンは朴前大統領、文在寅大統領ともに全面広告にはかわりなかったが、中身が微妙に違った。

 朴前大統領の就任の際には、朴前大統領が老人の手を握っている写真に、「お祝い申しあげます」と丁重な文言を添えていたが、財閥改革を標榜する文大統領には、幼い女の子の写真を使い、「第19代文在寅大統領の就任をお祝いいたします」とさらりとシンプル。また、朴前大統領の時は、コピーの締めくくりに「その夢のために向かう国民の幸福な時代。国民の新しいスタートにサムスンが共に立ちます」と大統領と「共同体」のイメージを感じさせたが、今回は、「より多くの夢が叶えられる国になることを願います」とどこか他人事のようだった。

 韓国の全国紙記者が苦笑する。

「李副会長が朴前大統領との関連で逮捕されたことを受けて、露骨に現大統領へすり寄るような紙面は避けたのでしょう」

 5大財閥(サムスン、現代自動車、SK、LG、ロッテ)の中でサムスン同様、文大統領の写真を使わなかったのがロッテだ。

 ロッテは、崔順実事件では免税店許可を巡る贈賄罪などに問われていて、5月23日の朴前大統領の初公判には神妙な面持ちの辛東彬会長の姿もあった。

 ロッテは朴前大統領就任時には大きな花のイラストを背景に微笑んでいる朴前大統領の写真を使った全面広告だったが、今回は若い女性の横顔のアップ。ただ、「みなが力を合わせて作っていく国の明日。ロッテが雇用創出と経済活力で共に開いていきます」と文大統領の第1号公約で、いの一番に業務指示した「雇用創出政策」に歩調を合わせていた。

 ちなみに大統領の権限を縮小させようという議論は十数年前からされていて、そのための憲法改正の是非が来年にも問われるといわれている。大統領の権限が縮小されれば今後はこうした大統領就任時の風物詩も見られなくなるかもしれない。

■組閣人事で迷走する文政権

 さて、文大統領が就任してからおよそひと月。大統領の職務遂行についての評価では「よくやっている」が84%(韓国ギャラップ)と歴代大統領のそれを大きく上回り、最初から人事でつまずいた朴前大統領(44%)の倍近い支持を得ている。

 しかし、組閣人事は朴前政権と同様、迷走中だ。

 5月末、指名した知日派で知られる李洛淵・全羅南道前知事(65)がようやく国務総理として国会承認されたのに続き、やはり、指名した過去2回の南北会談の立役者である徐薫・梨花女子大学前教授(62)が国家情報院長に決定したが、他の人事については人事聴聞会が紛糾している。

■物議を醸す女性の外交通商部長官候補

 なかでも物議を醸しているのが、外交通商部長官(大臣)候補者についてだ。

 外交通商部長官には「女性抜擢」の鳴り物入りで康京和(62)氏が指名された。康氏は名門・延世大学を卒業し、テレビ局の国際放送に勤めた後、米国留学を経て97年から金大中元大統領の通訳を務めた。その後、外交通商部に入部(入省)し、さらに国連に移り人権高等弁務官事務所などでの仕事に従事した華麗な経歴を持つ。

 ところが、康氏にはさっそく娘の高校転校のための偽装転入(実際に居住していない住所を居住地として届け出ること)と贈与税未払い、不動産投機疑惑などが次々と浮上し味噌をつけた。未払いの贈与税については康氏が長官に指名された2日後に支払われていたことが判明。故意に脱税を狙っていたという非難の声が上がっている。

 それでも、青瓦台(大統領府)は康氏を「慰安婦問題解決に最適な人選」と推している。

「青瓦台は、5月末のG7で飛び出したアントニオ・グテーレス国連事務総長の『慰安婦合意を支持すると共に歓迎する』という発言を巡り、翌日には国連が『日韓間の合意によって解決するという両国の原則を支持したもの』と釈明したことについて、康氏が国連事務総長と直接eメールのやりとりをして慰安婦合意についての誤解を解くのに一役買ったという報道資料を出しています」(韓国の全国紙の別の記者)

 康氏はまた、まだ指名された段階の身にもかかわらず、6月2日には元慰安婦ハルモニ(おばあさん)の住むナヌムの家を訪れてもいる。

「このナヌムの家訪問も本人の選択ではなく誰かの勧めで行われたといわれていますが、“政治家のコスプレ”と揶揄されましたし、ポピュリズム外交になる危険性はぬぐえない。韓日関係にとっても厄介な存在になりえます」(前出記者)

 7日に行われた人事聴聞委員会で康氏は野党から激しい攻撃を受け、キャスティングボードといわれる「国民の党」も翌日、康氏は外相として不適格という結論をだした。ところがその同じ日、元慰安婦ハルモニたちが康氏を長官にしてほしいという異例の記者会見を開いた。

「元慰安婦ハルモニが人事についてこんな記者会見をするなんて前代未聞です。康氏を押している勢力がやらせたと見られても仕方ない。国務総理は国会での承認が必要ですが、長官は大統領の裁量いかん。人事聴聞会でいくら追及されても世論を見ながら大統領がよしと判断して任命すれば就任してしまう」(同前)

■「埃の出ない」候補者がいない

 文大統領は人事について、「不動産投機、偽装転入、脱税、兵役回避、論文剽窃」なしの5原則を掲げていたが、李国務総理の偽装転入はおとがめなしとし、康氏にいたっては青瓦台が内定を発表した際すでに偽装転入に触れていた。

 50代のタクシー運転手はこう憤った。

「はたいて埃が出ない服はない。偽装転入も許されないことですが、まだ目をつむれる。ただ、いくら少額でも税金逃れだけは許されませんよ。康氏は長官としては不適格者でしょう。これで長官になったら文大統領には失望しますね」

 文大統領は原則を曲げて、果たして長官任命権という、その絶大な権限を行使するのだろうか。

(菅野 朋子)

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