東大に女子が入らない理由 #2

東大に女子が入らない理由 #2

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関東出身者60%、女子比率19%――地域・男女比の偏りという課題を抱える東京大学。昨年、東京大学は、地方で東大を受験する機会に恵まれにくい女子にアピールするため、女子学生の「3万円の家賃補助」を発表した(#1参照)。なぜ東大に女子学生が増えないのか。その理由の一つには、地方に根強く残る「価値観」がある。(出典:文藝春秋2017年6月号「50年後のずばり東京」・全3回)

■女が勉強してどうする

「家庭の収入と学力は比例します。それに、地方出身者にとっては、未だに東大はハードルが高い。女が勉強してどうする、という価値観は根強く残っているんですよ」

 そう語るのは、東京大学のOG同窓組織「さつき会」の幹事、大里真理子さんだ。1961年に結成された「さつき会」は、定期的に会報を発行しているほか、卒業生が集まって交流する機会を作ったり、地方出身の女子を対象に独自の「さつき会奨学金」を支給したりと活発に活動している。50周年を迎えた2011年には、卒業生を対象に大規模なアンケート調査も行っている。自らも地方出身であり、長年女子学生を見続けている大里さんの言葉は真実だろう。

 大学の調査を見ても、在学生の家計支持者の年収で最も多い層は1000万円前後。都心の大学を卒業した父と、専業主婦の母で構成される、東京かその近郊のアッパーミドルクラス以上の家庭で生まれ育ち、私立進学校の出身、というのが典型的な東大生のモデルである。

 自らが経験した地方学生との差を語るのは、16年に東大文学部を卒業した桜雪さんだ。

「朝4時に起きて、地方から新幹線で予備校の東大コースに通っている子は、気合が入っていました」

 東京学芸大学附属高校在学中に東大を目指し、「東大受験生アイドル」としてブログに受験生活をつづって、話題を呼んだ。現役時は不合格に終わったが、周囲も浪人する受験生が多かったので自分も浪人を決め(これも有名進学校の特徴ともいえる)、文IIIに合格。現在は地下アイドルグループ「仮面女子」に所属している。

「高校の同級生も東大に多く進学しているので、入学しても意外と世界が狭くて驚きました(笑)。試験の情報なども、現役で合格した同級生に聞けるので助かりますね。地方出身の女子は、あまりいなかったかな……。3万円補助のニュースを聞いたときは、地方出身の女子が増えたほうが、多様性が生まれるのでいいと思いました」

 東大女子ほど、その容姿についてとやかく言われる対象も、そうはないのではないだろうか。

 駒場キャンパスの生協書籍部で、レジの前の目立つコーナーに『東大美女図鑑』という冊子が販売されている。2016年11月発行の第6巻が最新で、全ページ「東大美女」が合計30人掲載されている、カラーグラビア誌だ。値段は1500円と決して安くはないが、よく売れているようだ。

 1989年に発行された『東大卒の女性』(さつき会編)のなかで、先輩の東大女子はこう著している。

「下世話な話になりますが、女子東大生について語るとき世間は必ずその容姿を話題にしたがります。しかも必ず、『天は二物を与えず』論にもとづいて」

「某女子大学に美人が多いのは、その女子大学の構成員がすべて女子学生から成り立っているからなのです。美人の出現率において、女子大も東大もちがいはないはず」

■最初期から存在する“東大女子の彼氏”にまつわる都市伝説とは

 東大には「銀杏並木伝説」と呼ばれる都市伝説がある。東大の女子学生は、入学した年の秋から冬にかけて銀杏並木の葉が散り終わるまでに彼氏ができなければ、在学中に彼氏はできない、という説だ。さらに、在学中に彼氏ができなければ卒業後も出会いは少なく、たとえ出会いがあっても敬遠されて結婚しづらくなる――これも最初期から存在する都市伝説である。

 小沢健二には、「いちょう並木のセレナーデ」という楽曲がある。80年代から90年代にかけての駒場キャンパスの雰囲気が感じられる曲だ。いまの現役女子学生はほとんどオザケンの存在は知らなかったが、「銀杏並木伝説」についてはほぼ全員が「はい、知っています」と苦笑した。なかには、「先輩に、大学を卒業すると出会いもないし、モテないと言われました。やっぱり本当ですか?」と不安そうにそう問い返してきた学生もいる。

 そんな現役学生の不安につながるイメージを覆すべくおこなわれた2011年のさつき会の調査によれば、東大女子卒業生は現在、若い世代も含めて約72%が既婚の状態にある。このデータを伝えると「わあ、よかった」と、学生たちの顔はぱっと明るくなった。伝説がデータによって否定される一方で、配偶者と知り合ったのは学内が53%、知り合った年齢の平均は23歳、という数字は、やはり在学〜卒業前後に彼氏を作ってそのまま結婚、というコースが多いことも見えてきた。

 データを見れば、東大女子は結婚できないどころか、むしろ、世間的には“スペックが高い”とされる、東大卒の男子と結婚できる確率が格段に高い、ということになる。

「女子が少ない分、大切にしてもらえます。恋愛市場でも有利です。周りの男子はみんな優秀です。女子が増えたらいいのに、とは思いません(笑)」(経済4年、Kさん)

 という声もあった。ちなみに今回聞いた女子学生の多くは彼氏がおり、いずれも相手は学内で出会った東大生だ。

■「大学は渋谷の方」と言わざるを得ない事情

 そしてもうひとつ、今も昔も変わらないのは、東大女子は「自分が東大だと言いづらい」ことだ。大学名を尋ねられると躊躇するという。たとえばアルバイト先で「東大です」と答えると、どうなるか。

「バイト先のカフェで、『東大生だからすぐ覚えられるでしょ』と言われたのがプレッシャーでした」

「『東大生の言うことなら正しいね』と、過剰に期待をされます」

 合コンでドン引きされることも多い。

「慶應の男子に『おれ、文IIに落ちたんだよね』と言われました」

「そもそも、合コンにほとんど誘われません(笑)」

「東大男子と女子大のカップルは普通にいるのに、東大女子と他大の男子というパターンは、ほとんど聞いたことがない」

 東大だと明らかにすると実に面倒が多いということを経験した後、彼女たちが導き出した模範回答は、駒場キャンパスに通う教養学部生の場合、「渋谷の方です」「井の頭線沿線です」など。青山学院や明治あたりを連想されても、あえて否定はしない。なかには、「身分証明には、学生証ではなく、運転免許証を使う」というテクニックまであるそうだ。

■「イカ東入門」に見る、東大生の特徴

 東大女子自身が語る、東大女子の印象の一例をあげれば、次のようになる。

「芯のある子が多いです。素朴で飾らない。一緒にいて安心します。他大の子はインスタ(写真投稿サイトのInstagram)にキラキラしている写真をアップするのに命をかけて、リア充アピールして、SNS疲れしている感じ。東大女子は……みんなで伊豆に旅行して集合写真や風景を撮り、加工もせずにそのままアップしているイメージかな(笑)」

 東大は女子が少ないため、「リケジョ(理系女子)」は特に、理学・農学・薬学系への進学が多い理科II類を好む傾向にある。その理由の大半が、「理Iより女子が多い」(理II・2年、Sさんなど)からだ。

 理Iから工学部に進み、大学院に進学が決まっているNさんは、「クラスで女子は、60人中3人。大学院の研究室では私だけです。高校は女子校だったので、いまだに男子との接し方はよくわかりません。やりたい研究があったので工学部に進みましたが、女子が多い科類を羨ましく感じることもあります」と言う。

 第二外国語は現在、履修者が多い順から、スペイン語、フランス語、中国語、ドイツ語、ロシア語、イタリア語、韓国朝鮮語の7つ。「文IIIフラ語」は女子が多いクラスの代名詞で、半数近くが女子になる場合もある。最近では、中国語なども人気だ。サンプルを取れば、たとえば文IIIイタリア語は29人中12人、理IIスペイン語は34人中10人が女子である。逆に「理Iドイツ語」となれば、男子数10人に女子1、2人、という“悲劇”も少なくない。

 東大には、『biscUiT』(ビスケット)という女子向けのフリーペーパーがある。年2回、春と秋に約3000部印刷し、主に学内で配布している。当初は、東大女子のネットワークづくりのため、学内にいる「普通の女子」に声をかけ、取り上げていた。いまは少し幅を広げ、毎号さまざまなテーマの特集を組んでいる。『biscUiT』を編集するサークルは、東大女子約20人で構成されていて、やはり居心地がいいそうだ。

『biscUiT』11号(2016年4月発行)に、「イカ東入門」という記事がある。いかにも東大生、略して「イカ東」(いかとう)は、近年使われるようになった言葉だ。男女いずれもその特徴が挙げられるが、やはり主には、男子を揶揄する際に使われることが多く、特徴は以下のように記されている。

「サイズの合わないチェック柄シャツの裾をカーゴパンツの中に収め、白地のメッシュが入った運動靴を愛用する。登山用などに市販される機能性の高いバックパックを用いる傾向がある。また、メガネを着用する者も多い」

 筆者自らの学生時代を思い出し、耳が痛い。現役女子に、男子のファッションについてどう思いますか、やっぱりダサいですかと水を向けると、残念ながら、誰にも否定はされなかった。「素材がいい子はいます」「中にはおしゃれな人もいる」「3割はがんばっていて、あとの7割は……勉強中?」など。清楚な服を上品に着こなしながら、「私もそれほどおしゃれではないので」と言って、そっと笑った子を見ていると、それこそがパーフェクトな回答のようにも思われた。

 17年4月、『biscUiT』は「編集部の欲望が詰まった別冊」として「東大男子推しメン図鑑」を発行した。東大出身のイケメンの筆頭に推されているのは、農学部を卒業し、日テレでアナウンサーとして活躍している桝(ます)太一さんだった。

(「東大に女子が入らない理由 #3」に続く)

(松本 博文)

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