「皇居半蔵門上空にドローンのような物体を確認中!」――“ドローンテロ”が東京を襲う日は来るのか

「皇居半蔵門上空にドローンのような物体を確認中!」――“ドローンテロ”が東京を襲う日は来るのか

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「緊張が高まっているのがひしひしと伝わっていた」(警視庁幹部)

 5月25日、アメリカ・トランプ大統領が来日した。1万8000人の警察官による厳重な警備体制を敷いた警視庁は、大統領が滞在するホテル周辺に、ある部隊を密かにスタンバイさせていた。ホテル前の道路に停車していた機動隊の大型バス内に5人の男たち。

「ドローン迎撃・ジャミング(妨害電波)部隊」として特別に編成された部隊だ。隊員は一様に緊張していたようで、冒頭の話のように指揮した警視庁幹部が気をもんだのには訳があった。

■5月2日午後8時に流れた、悲痛な無線

「マル警PMより警視庁。皇居半蔵門上空にドローンのような物体を確認中!」

 悲痛な無線が警視庁の全警察官に一斉に流れた。

 5月2日午後8時ごろ、東京都千代田区の皇居周辺で、小型無人機ドローンのような物体が飛行しているのを警視庁の機動隊員が発見。同じ時間帯に都内の複数の場所でも目撃情報が相次いだという。

 捜査関係者によると、機動隊が目撃した物体は白と赤の光を点滅させていたという。皇居以外に、港区の赤坂御用地や、大正と昭和の天皇、皇后の陵がある八王子市の武蔵陵墓地の周辺でも目撃されたという。警視庁への通報は午後10時半ごろまで2時間半にわたり続いたのだった。

「警察官を大量動員して飛ばした人物を捜したが、見つからなかった」(前出・警視庁幹部)

■わずか4日後にもドローンのような物体が

 それからわずか4日後の5月6日の午後7時半ごろ。

 皇居近くの北の丸公園の上空で小型無人機ドローンのような物体が飛行しているのを警視庁の機動隊員が目撃したのだ。

 警視庁によると、その後、永田町や四谷、六本木方向の上空でも飛行物体が目撃されたという。飛行物体は光が点灯しており、プロペラが付いていたという。付近を捜索したが、こちらも操縦者は見つからなかった。

「2回も皇居周辺上空でのドローンの飛行を許し、おまけに操縦者も見つかっていない。『肝心の迎撃ドローン部隊は何をしていたのか』と警視庁内では大問題になっている」(前出・警視庁幹部)

 ドローンは遠隔操作や自動操縦で飛行する無人航空機だ。複数のプロペラで飛ぶタイプが一般的で、大きさが数センチほどの小型のものもある。一般的に有名になったのは海外の紛争地帯で主にアメリカ軍が使用している無人爆撃機のドローンだろう。

 羽音から英語で雄のハチを示す「drone」が語源とされ、2015年に施行された改正航空法では禁止空域や飛行方法が定められている。

 東京23区や地方都市の中心部など住宅密集地や空港周辺、夜間の飛行が禁止されている。首相官邸や霞が関、皇居周辺の上空についてはドローン規制法でも禁じられている。

■密かに引き合いに出されたテロ未遂事件

 警視庁内部で先例として、密かに引き合いに出されたテロ未遂事件があった。

 2018年8月4日。南米ベネズエラからの報道によると、反米左翼マドゥロ大統領が、カラカスで開かれた国家警備隊の関連式典で演説中、プラスチック爆弾を積んだドローンが上空で爆発した。

 マドゥロ氏ら政権幹部にけがはなかった。マドゥロ氏はテレビ演説で、複数の実行犯が拘束されたと明らかにし「私を暗殺しようと試みた」と述べた。

 爆発は大統領の演壇付近と隊列の周辺で2回発生した。ロドリゲス通信情報相によると、国家警備隊の兵士7人がけがをして病院に搬送。

 マドゥロ氏は「私の目の前で爆発した」と話し「背後に極右と(かねて対立姿勢を示す)コロンビアのサントス大統領がいるのは間違いない」と述べている。

 行事は国家警備隊創設81周年記念の式典で、演説は国営テレビで生中継されていた。マドゥロ氏や壇上にいた妻シリア氏、パドリノ国防相が何かの音に驚いて上を見上げた後、映像が整列する兵士らの遠景に切り替わり、その後兵士らが一斉に駆けだすところで生放送が中断されている。

 事件には背景があったとされている。2013年に死去したチャベス前大統領の後を継いだマドゥロ氏は、野党が多数を占める国会から権限を剥奪するなど強権的な姿勢で国際社会から非難されていた。経済の失政により国内は物不足やハイパーインフレに見舞われ、国民の不満も高まっていたのだった。

 その後の捜査で、ドローン2機はプラスチック爆弾を搭載。演説中の大統領らを狙ったが、妨害電波装置が作動していたため制御を失い、目的を達する前に爆発していたことがわかった。事件では実行犯6人と関与が疑われた野党関係者が拘束されている。

「この暗殺未遂事件は、庁内で綿密に検証された。ジャミング(妨害電波)装置が最も有効だとの結論となった」(警視庁警備関係者)

 しかし、未だに皇居付近で飛行させた人物は特定できていない。

「ドローン対策は、夜間の対策が実はウィークポイントなんだ。習熟している担当者でも夜の飛行対策は難易度が高いとされている」(警察関係者)

 このため、夜間のドローン飛行について、警視庁では交番勤務員など末端の警察官まで神経を尖らせているという。

■官邸屋上で不審なドローンが見つかった「苦い事件」

 そもそも警視庁にはドローン対策を講じなければならない「苦い事件」があった。

 官邸屋上で不審なドローンが見つかったのだ。ドローンが見つかったのは2015年4月22日。福井県警小浜署に男が出頭、25日に威力業務妨害容疑で逮捕されている。本人の供述によると、ドローンを飛ばしたのは4月9日未明。実に13日間も発見されなかったことになり、重要施設の上空警備の穴が浮き彫りになったのである。

 捜査関係者は「ドローンに生物・化学兵器が積まれていたら、取り返しのつかない事態になっていただろう」と苦々しげに振り返った。

 事件を受け、政府は事実上野放しだったドローンの扱いについて、ルール策定を急いだ。人口密集地での無許可の飛行を禁じる改正航空法を2015年12月に施行。2016年3月には首相官邸や皇居、外国要人がいる施設の上空飛行を禁じるドローン規制法を成立させた。

 こうした中、この5月にドローンによる自衛隊施設や在日米軍基地上空の飛行禁止を盛り込んだ改正ドローン規制法が成立。6月13日の施行後は、施設の同意がなければドローンによる空撮はできなくなる。

 改正法はドローンを使ったテロを防ぐ目的で、皇居や首相官邸など現行法が上空飛行を禁じる施設に、自衛隊と米軍の施設を加える内容で、具体的には防衛相がその都度指定する。

 施設内と、外側約300メートルの上空が規制され、飛行には施設管理者の同意が必要となる。違反すれば警察官や自衛官にドローンの破壊や捕獲を認め、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される場合もある。

■ゲリラ的なドローンテロに対処するための「オプション」

 9月開幕のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会と来年の東京五輪・パラリンピックの会場も、大会期間中は取材メディアを除いて上空飛行が禁止され、大会の警備対策には大きな後押しになる。

 ゲリラ的なドローンテロにどのように対処していくのか。別の警察関係者はさまざまなオプションが検討されていることを明かした。

「ドローンを発見次第、レーザー狙撃するというオプションがまことしやかに噂されている。五輪ではドローン群による爆弾テロに備えて、特殊急襲部隊のSATがヘリから捕獲する方法も検討され始めている」

 実際に政府は高出力レーザーの開発推進を表明しており、アメリカなど諸外国でも、次世代の兵器として開発が進んでいるとされる。

 果たしてドローンテロを防ぐことができるか。日本警察の真の力が試されるときがすぐそこまで近づいている。

(今井 良)

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