安倍首相の「長い言い訳」と安倍チルドレンの「暴言」を“丁寧に”検証する

安倍首相の「長い言い訳」と安倍チルドレンの「暴言」を“丁寧に”検証する

(c)杉山拓也/文藝春秋

安倍晋三 首相
「『信なくば立たず』だ。何か指摘があれば、そのつど真摯に説明責任を果たしていく。国民から信頼が得られるように、冷静に、一つ一つ、丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならないという決意を新たにしている」
NHK NEWS WEB 6月19日

 名言、珍言、問題発言で1週間を振り返る。今週は、安倍首相の記者会見から始まった。安倍首相は会見で次のように反省の弁を述べている。

「印象操作のような議論に対して、つい強い口調で反論してしまう。そうした私の姿勢が、政策論争以外の話を盛り上げてしまった。深く反省しております」

 これまで強気な姿勢を崩さなかった首相が頭を下げたのには理由がある。まったく解明されない学校法人「加計学園」の獣医学部新設に関する疑惑、「共謀罪」の構成要件を改めた「テロ等準備罪」を新設する法律の強引な可決など、立て続けに起こった問題によって高かった内閣支持率が急落しているのだ。毎日新聞の世論調査では不支持率(44%)が支持率(36%)を上回り、首相に近いとされる読売新聞でも支持率は12ポイント減の49%にまで落ち込んだ。会見で安倍首相が「政府への不信を招いた」と語ったとおりの結果が出ている。

■国会を閉じた後に「丁寧に説明する」と表明しても意味がない

 そこで記者会見では「反省」の弁とともに「丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならない」と殊勝に述べたが、国会を閉じた後に「丁寧に説明する」と表明しても意味がない。「支持率回復のためにお詫びのポーズを見せればいい、という首相の本音が見え隠れする会見」と見られており、会見に続く質疑応答でも昭恵夫人が懇意にしている記者からの質問が続くだけで加計問題などが追及されることはなかった(『週刊文春』6月29日号)。「何も答えていない」「今回の低姿勢も口先だけ」(毎日新聞 6月19日)、「逃げた印象は拭えない」(河北新報 6月21日)と新聞各社も手厳しい。

 安倍首相の会見の翌日、自民党の竹下亘国対委員長は民進党が求めた閉会中審査開催をあっさりと拒否(共同通信 6月20日)。「真摯に説明責任を果たしていく」という首相の言葉は一日で反故にされた。その後、公明党の山口那津男代表も閉会中審査の検討を求める考えを示したが、竹下氏は同様に「早期に行わなくても良いのではないか」と否定的だ(中日新聞 6月23日)。やっぱり「口先だけ」だったのか。

 そもそも、安倍首相は第2次安倍政権発足時の所信表明演説で「丁寧な対話を心がけ……」と語っていた。その後も、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定、安保関連法、原発再稼働、沖縄米軍基地問題などについても「丁寧な説明」と繰り返してきたが、いずれも十分な説明は行われていない。政治アナリストの伊藤惇夫氏は「これまでの政権運営で、一種の成功体験として『世論を二分する案件も数の力で決めてしまえば国民の関心はやがて薄れる』と考えていることが大きい」と分析している(毎日新聞 6月22日)。安倍首相の言う「丁寧な説明」は国民の関心が薄れるのを待つという意味なのかもしれない。

 会見で安倍首相は「信なくば立たず」という三木武夫元首相が座右の銘にしていた言葉を使った。田中角栄首相の金脈問題で国民の不満が高まっているところへ抜擢された三木氏の二つ名は「クリーン三木」。小派閥の長が首相の座に就くのは異例のことだったが、国民からの信頼を大切にした姿勢が認められた(読売新聞 3月27日)。三木元首相は「私は何も恐れない。ただ大衆のみを恐れる」とも語っていたが、内閣支持率の低下は「丁寧な説明」がなされないことに不信を抱く「大衆」の意志を示している。

■「官邸は絶対やると言っている」

萩生田光一 官房副長官
「官邸は絶対やると言っている」
NHK『クローズアップ現代+』 6月19日

 安倍首相が記者会見を開いた19日の夜、NHKの情報番組『クローズアップ現代+』が文科省内で作成された新たな文書の存在をスクープした。「10/21萩生田副長官ご発言概要」と題された文書は、首相側近の萩生田光一官房副長官が文部科学省の常盤豊高等教育局長に伝えた内容を記したもの。翌20日には文科省が、調査により同じ内容の文書が存在したことを公表している。

 萩生田氏は、09年からの落選中、加計学園グループ傘下の千葉科学大学で客員教授を務めていたことが知られている。また、13年には首相の別荘で加計孝太郎理事長らとバーベキューを楽しんでいた。自身のブログには、加計氏、安倍首相との3ショットの写真がアップされている。

■「私は総理と近いし」

 新たに見つかった文書には、萩生田氏の発言として「官邸は絶対やると言っている」「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」などと記されていた。首相の意向として開学時期まで踏み込んだ発言をしていたとなると、「働きかけは一切ない」としてきた首相の答弁がひっくり返ることになる。

 ただし、松野博一文科相は、「副長官の発言でない内容が含まれている」と語り、萩生田氏に「大変迷惑をかけた」と陳謝したことを明らかにした。松野氏は首相官邸を守るため、いろいろなところに謝っている。萩生田氏は「加計学園に関連して、首相からいかなる指示も受けたことはない」として文書の内容を強く否定した(朝日新聞 6月21日)。『週刊文春』の取材に対しても「私は総理と近いし、加計学園グループの教授もやっている。ターゲットにしやすいのでしょう。しかし総理からいかなる指示を受けたこともありません」と反論している(『週刊文春』 6月29日号)。

 いずれにせよ、加計学園問題はまだ終わっていないことは確かだ。「真摯に説明責任を果たしていく」「丁寧に説明する」と安倍首相が言ったからには、有言実行しなければならないだろう。

籠池泰典 森友学園前理事長
「民主主義の国家ではありえない。独裁主義国家でやられている方法。総理は考え違いをしている」
BuzzFeed NEWS 6月20日

 加計学園問題だけではない。森友学園問題も依然として燻っている。6月19日夜、安倍首相の記者会見直後、補助金を不正に受給した疑いで、籠池泰典氏が大阪地検特捜部の家宅捜索を受けた。

 籠池氏は捜査について「最大限協力していく」としたが、首相会見終了とほぼ同時に始まった家宅捜索については「あまりにもひどいのではないか。戦前の特別高等警察を連想させる思いであります」と怒りを露わにした。また、自身の置かれた状況については「トカゲの尻尾切り」と表現している。

「私のほうなんぞは安倍昭恵夫人を名誉校長にさせていただいていたのに、トカゲの尻尾切りをされている。私だけじゃなく、加計学園でも(前川前)次官を社会通念上悪者だとしているやり方は、民主主義の国家ではありえない。独裁主義国家でやられている方法。総理は考え違いをしている」

■「なぜ父だけが呼ばれ、加計孝太郎理事長が呼ばれないのか理解できない」

 籠池氏の長男、佳茂氏も『週刊新潮』の取材に対してストレートに怒りをぶつけている。

「だいたい、国会の証人喚問にしても、なぜ父だけが呼ばれ、加計孝太郎理事長が呼ばれないのか理解できない。父は昭恵夫人との関係を追及されましたが、加計さんの場合は安倍総理その人との関係です。投じられた税金の額も、うちとはケタが違う。なのに、加計さんは一度も説明責任を果たすことなく、ずっと雲隠れをしたままです」

 安倍首相から「私の考え方に非常に共鳴している方」「妻から森友学園の先生の教育に対する熱意はすばらしいという話を聞いている」と絶賛され、「安倍首相ガンバレ! 安倍首相ガンバレ! 安保法制国会通過よかったです」と園児たちに言わせて悦に入っていたら、いつの間にか「トカゲの尻尾切り」されていた籠池ファミリー。身から出たサビとしか言いようがないが、国会の証人喚問などで説明責任だけは果たそうとしていた。次に説明責任を果たさなければいけないのは、誰?

■「ピンクモンスター」の暴言と暴行

豊田真由子 自民党・衆院議員
「このハゲーーーーーっ!」

 自民党の豊田真由子衆院議員が、政策秘書を務めていた男性に罵声を浴びせ続けた上、暴行を働いていたことがわかった。男性からの告発を受けた『週刊新潮』6月29日号が詳しく報じている。自民党現職国会議員によるこれほどまでの暴行・暴言は前代未聞だ。

 豊田氏は2012年に安倍晋三総裁が率いて自民党が大勝した衆院選で埼玉4区から出馬し、初当選を果たした“安倍チルドレン”の一人。当選後は文部科学大臣政務官、東京オリンピック・パラリンピック大臣政務官を務めてきた。東大卒、厚生省にキャリア官僚として入省し、ハーバード大の大学院への留学経験もあるエリートだが、気性の荒さは永田町で有名だったと言われており、2014年にはすでに『週刊新潮』で当選1年半の間に秘書が20人以上辞めたと報じられている。現在に至るまでアルバイトも含め100人の秘書が豊田氏のもとから去ったという噂もある。ピンク色の服装が多かったことから「ピンクモンスター」という異名もあった(産経新聞 6月23日)。

■つねる、殴る、蹴る、ハンガーで叩く

 つねる、殴る、蹴る、ハンガーで叩くなど、暴行は3日間にわたって断続的に行われ、暴行の被害者の男性は「顔面打撲傷」「左背部打撲傷」「左上腕挫傷」を負い、通常国会会期末の6月18日付で秘書を退職した。豊田氏の罵声はICレコーダーで録音され、音声の一部がインターネット上で公開されている。実際に耳にした人たちからは「想像してた100倍酷かった」「(兵庫県の)号泣議員に匹敵するくらいのインパクト」「こんなどうしようもない代議士がいるなんて信じられない」などの非難が集中した(産経新聞WEB版 6月22日)。豊田氏の声が耳について離れない人も大勢いるので、興味本位で聞くのは要注意。

 豊田氏の暴言の内容は『週刊新潮』にて詳しく報じられている。冒頭の言葉はまだ序の口で、「うん、死ねば? 生きてる価値ないだろ、もうお前とか」「このキチガイが!!!」など人格を否定する言葉のほか、なぜかミュージカル風に政策秘書の男性を罵ることもあったという。挙句の果てには男性の娘を例にしてこのような話をしている。

「お前の娘がさ、通り魔に強姦されてさ、死んだと。いや犯すつもりはなかったんです、合意の上です、殺すつもりはなかったんですと。腹立たない?」
「(政策秘書の)娘が、顔がグシャグシャになって頭がグシャグシャ、脳味噌飛び出て、車に轢き殺されても…… ♪そんなつもりがなかったんですーーー で、済むと思ってんなら同じこと言い続けろ〜〜〜〜〜」(後半部分はミュージカル調)

 ちょっと常軌を逸しているとしか思えない。豊田氏にも小学2年生の娘がいる。豊田氏の事務所は暴行などを大筋で認めているが、「『お前の娘が通り魔に強姦されて死んだらどうする』といったような発言はしておりません」と否定している。録音されてるのに! 結局、豊田氏は「党に迷惑をかけたくない」として22日の夕方に離党届を提出したが、議員はまだ続けるようだ。地元の有権者からは「地元として恥ずかしいので、離党だけではなく議員辞職してほしい」という声が上がっている(NHK NEWS WEB 6月22日)。

■失言・トラブル続きの安倍チルドレン「魔の2回生」

 豊田氏と同じく、現在2期目の自民党の衆院議員は不祥事が相次いでおり、「魔の2回生」と呼ばれている。「重婚」および女性へのストーカー行為が発覚した中川俊直議員は経済産業大臣政務官を辞任し、自民党を離党。被災地視察で長靴を持参せず、水たまりをおんぶされて渡った上、パーティーで「長靴業界はもうかった」と発言した務台俊介議員は内閣府兼復興政務官を辞任。「がん患者は働かなくていいのではないか」と発言した“失言のデパート”大西英男議員は党の東京都連の副会長を辞任。未公開株の購入に関する金銭トラブルを起こした武藤貴也議員は離党。育休の取得を表明した直後に不倫が発覚した宮崎謙介議員は議員辞職している。

 なお、豊田議員の「この、ハゲーーーーーっ!」発言に対し、ハゲ差別の根絶を目指す“全国最大のハゲサークル”「早稲田大学増門会」が「全国で薄毛や抜け毛に悩む人たちの心証を無視しており、彼らが深い悲しみと憤りを憶えた」「ある種のヘイトスピーチだ」と抗議声明を出している(ハフィントン・ポスト 6月22日)。彼らの心中を慮ると、いたたまれない気持ちになる。

■スルーできない自民党重鎮の「失言」、石川県知事の「兵糧攻め」発言

河村建夫 自民党・元官房長官
「かわいそうだ。男性の衆院議員なら、あんなのはいっぱいいる。気持ちは分かる」
産経新聞 6月22日

 さりげなく失言が飛び出した。自民党の河村建夫元官房長官が、豊田氏の暴力行為を容認した上、「あんなのはいっぱいいる」と証言してしまったのだ。また、「あんなもんじゃすまない」とも発言したと報じられている(朝日新聞 6月23日)。自民党の男性代議士の間では、もっと激しい暴力行為やパワハラが日常茶飯事ということなのだろうか?

 さらに河村氏は「録音して(週刊誌に)持ち込むなんてあり得ない。いくらパワハラがあったとしても、選挙をやる者なら怒る」と語っているが、そもそもパワハラ自体が許されないこと。パワハラや暴力を受けても泣き寝入りしていろというのだろうか?

 後に河村氏は自身のフェイスブックで「私の不用意な発言がいらぬ誤解を生み、発言を取り消させていただく」と発言を撤回したが後の祭り。自民党の男性衆院議員には豊田氏を上回るほどの暴力とパワハラをふるう人が「いっぱいいる」と人々の記憶に刷り込まれてしまった。今後もこのような告発が相次ぐのだろうか?

谷本正憲 石川県知事
「北陸電力志賀原発を狙う暴挙をするなら、兵糧攻めにして北朝鮮の国民を餓死させなければならない」
時事ドットコムニュース 6月21日

 豊田氏の騒動で霞んでしまった感がある谷本石川県知事の物騒な問題発言。21日、金沢市内で行われた県町長会の総会にて行われた発言だ。

 その後、取材に対して谷本氏は、「北朝鮮にはとんでもないリーダーがいる。北朝鮮国民を生活困窮に追いやれば内部から崩壊する。国民が痛みを感じる制裁を加えないといけない」と説明している(朝日新聞 6月22日)。最初の一文はまったく同感だが、後半部分は理解できない。人を人とも思っていないのだろう。

 なお、翌日には「人命は尊重されなければならない」として発言を撤回した(産経新聞WEB版 6月22日)が、何を今さらという感じがする。なお、志賀原発は、原子力規制委員会の有識者調査団によって「直下に活断層」があると指摘されている(毎日新聞 2016年3月3日)。北朝鮮のミサイルも心配だが、地震も心配だ。さっさと廃炉にしたほうがいいと思う。

(大山 くまお)

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