なぜトランプ大統領は天皇と雅子さまに「特別な思い」を抱いているのか

なぜトランプ大統領は天皇と雅子さまに「特別な思い」を抱いているのか

トランプ大統領夫妻を接遇される天皇皇后両陛下 ©JMPA

 5月末から6月上旬にかけて、トランプ米大統領夫妻は日本と英国を相次いで国賓で訪問した。伝統と格式を重んじる皇室と英王室に丁重に迎えられた同大統領夫妻にとって、感じるところの多い外遊だったのではないだろうか。

■日本と英国訪問だけ、明らかに内容が違う

 トランプ大統領は2017年1月に就任してから、この6月初旬の英国訪問まで、計5カ国から国賓で招かれた。外国首脳の訪問形式には、国賓、公賓、公式実務、実務、非公式の5通りがある。このうち国賓が最も格式が高く、接受国は晩餐会をはじめ、さまざまなイベントを用意して厚遇する。

 しかし2017年11月に国賓で招かれた韓国、中国、ベトナムの3カ国は、韓国、中国、ベトナムの3カ国は、1泊、2泊、1泊の飛び石伝いの訪問となった。米ホワイトハウスのスポークスマンは「大統領の日程上の都合」としか述べなかったが、国賓訪問を1泊ですますのは異例だ。このため接受国は晩餐会以外のイベントを行う余裕はなかった。

 これに対して日本には3泊4日(5月25日〜28日)、英国は2泊3日(6月3日〜5日)と、明らかに先の3カ国に対する姿勢とは異なる。米韓、米中のギクシャクした関係から推し量ると、国賓訪問も、あまり気の合わない国や馴染みの薄い首脳とは早々に切り上げ、関係のいい国、気の置けない首脳とはじっくり付き合うようにも思える。

 さらに日英が先の3カ国と決定的に異なる点がある。それは、歴史と伝統と格式に彩られた皇室と王室を戴く立憲君主国であることだ。歴史が浅く、最長で2期8年で大統領が入れ替わってきた共和国の米国は、綿々と続く家系が政治から超越し、国民統合の役割を果たしてきたことにどこか憧れを抱いてきた。「特にトランプ大統領にはその傾向がある」と言われる。本来、外遊を余り好まない同大統領夫妻だが、皇室の日本、王室の英国は、「招かれて光栄な国」だった。特に日本は、新天皇と会見する最初の国賓という破格の待遇を与えられたからなおさらだ。

■トランプ大統領はどこか神妙で、どこか嬉しそうだった

 実際のところ、天皇、皇后両陛下、エリザベス女王やフィリップ殿下などの英王族を前にした同大統領には、ふだんのしかめ面した顔つきは消え、どこか神妙で、どこか嬉しそうな無邪気な様子が明らかに見てとれた。

 同大統領にとって日英両国は、いずれも2度目の訪問だった。日本には2017年11月、英国には翌2018年7月訪れているが、いずれも公式訪問。最初の英国訪問では、エリザベス女王の先を歩いたり、お辞儀をしなかったりと、作法を破って国内外から酷評された。今回、英紙テレグラフは、ボディーランゲージに詳しい専門家に取材し、「トランプ氏は前回に比べて非常にリラックスしていた。堂々とした振る舞いからは、作法を勉強してきたことが窺える」との談話を引き出している。好意的に見れば、最初のときは緊張していたのだろう。

■「上皇、上皇后両陛下はいかがお過ごしですか」

 2年前に同大統領夫妻が日本を訪れたときは、先の天皇、皇后がお住いの皇居・御所で接遇し、懇談した。帰りがけ、両陛下が車寄せまで見送ると、同大統領は皇后に「メラニアは皇后(美智子妃)を大変尊敬しています」と語った。このときの思い出があったのだろう、5月27日午前、皇居で行われた歓迎式典のあとの宮殿での懇談で、同大統領は天皇に「上皇、上皇后両陛下はいかがお過ごしですか」と尋ねた。新天皇は「両陛下はお元気です。大統領によろしくとのことでした。上皇陛下は、天皇陛下として象徴としての役割を全身全霊で果たしてきたので、今は少しゆっくりとした時間を過ごしています」と答えている。

 また天皇が前日の相撲観戦の感想を聞くと、「長い伝統があり、大変力強く素晴らしかったです。陛下は相撲をよくご覧になるのですか」と逆に尋ねた。「大統領が昨日ご覧になったほど近くでは見ません」との天皇の答えに笑いが起きた。

■皇室と英王室のドレスコード&マナーの違い

 トランプ大統領夫妻を歓迎する5月27日の宮中と、6月3日のバッキンガム宮殿の晩餐会を比べて興味深いのは、執り行い方の違いだ。バッキンガム宮殿の方がより格式を重んじ、ドレスコードは正式礼装の「ホワイトタイ(燕尾服)」だった。宮廷外交の本家本元のプライドでもあるのだろう。トランプ大統領、チャールズ皇太子など男性は皆、燕尾服に白の蝶ネクタイだった。

 一方、宮中晩餐会のドレスコードは「タキシード」。燕尾服に代わる男子の夜会用略式礼服である。天皇、トランプ大統領共に黒のタキシードで、黒の蝶ネクタイを身につけた。

 晩餐会場への入室の仕方も日英では異なる。宮内庁は令和の今回から、時間を節約するため、あらかじめ皇族全員が着席してから、天皇、皇后両陛下と主賓夫妻が入室することにした。映像を見ると、天皇とトランプ大統領が先頭で並んで入り、後ろに皇后とメラニア夫人が並んで続いた。男性同士、女性同士での入室だ。

 バッキンガム宮殿ではエリザベス女王をエスコートする形でトランプ大統領が先頭で入室し、二番手でメラニア夫人がチャールズ皇太子にエスコートされて続き、その後を他の王族が男女ペアを組んで進んだ。英女王の夫君エジンバラ公は2年前に公務から引退しており、もしエジンバラ公がいたならメラニア夫人をエスコートしたはずだ。英国にとどまらず、男女ペアでの入室は欧州の王室ではふつうだ。

 バッキンガム宮殿での入室のとき、英女王の横でトランプ大統領のムスッとした不機嫌な表情がメディアの話題になった。理由は、体に合わない燕尾服にあったようだ。映像を見ても、黒の燕尾服のジャケットは丈が短く、その下に着ている白いベストがエプロンのようにへその下まで下がっている。「ホワイトタイ&燕尾服をこんなにだらしなく見せた人を今まで見たことない」とのツイートも。

■故ダイアナ妃にも見えたメラニア夫人のファッション

 一方のメラニア夫人は完璧なファッションを見せた。宮中晩餐会では長い正装用ドレスであるガウンをまとった。ニューヨークのデザイナー、ジェイ・メンデルのデザイン。日本を意識したのだろうか、薄桜色の生地に羽が刺繍されている。バッキンガム宮殿の晩餐会では一転、仏ディオールの象牙色のノースリーブドレスで、正式礼装に合わせて肘まである白手袋をつけた。英女王も白手袋だった。

 メラニア夫人が英国王室の格式に合わせて服装を考えていたのは、英国に到着した日の歓迎式典でも明らかだった。紺のリボンを巻いたツバの広い白い帽子に、服は伊ドルチェ&ガッバーナのカッチリした白のワンピース。襟とベルトは帽子のリボンと同じ紺色で、広いツバで隠れた顔もあって、引いた写真では故ダイアナ妃にも見えた。

■日本では無帽で長い髪をなびかせていた

 宮中・東庭で行われた歓迎式典では、皇后をはじめ日本側列席者の女性ほぼ全員が帽子を被っていたのに対し、メラニア夫人は無帽で、長い髪を風に揺らせていた。花の刺繍が入った清楚な白いドレスは米デザイナーのキャロリーナ・ヘレラのプレタポルテ(高級既製服)で、靴は赤。日の丸カラーを意識した組み合わせだった。格式や作法よりも、より自然なファッションを心がけたのかも知れない。

 トランプ大統領夫妻は同じ立憲君主国でも、皇室と英王室はまた違うことを感じとったに違いない。世俗的な英王室に対して、より精神的で宗教的要素が漂う皇室。バッキンガム宮殿は絵や彫刻や装飾を重ねる足し算の美だが、宮中は何もない空間に一点、アクセントとなる墨絵が掛かるか、品のいい花瓶が置いてあるだけ。引き算の美だ。トランプ大統領は宮殿内を歩きながら天皇に「宮殿は本当に美しい」と語ったという。

■トランプ大統領訪問が照らす日本の問題点

 同大統領のロンドン滞在中、連日、反トランプのデモがあり、大統領を未熟な赤ん坊に例えた巨大バルーン「トランプ・ベビー」も空に浮かんだ。その点、日本ではデモもなく、心安らかに過ごせただろう。ただ大統領夫妻は英国訪問初日、ウェストミンスター寺院内にある無名戦士の墓に詣で、献花と黙とうを行ったのに対し、日本ではこのような儀式は行われなかった。外国を訪問した国賓が、その国のために命を落とした人を祀る記念碑や追悼施設を訪れ、黙とうするのは国際的慣行であり、相互主義になっている。しかし靖国神社はA級戦犯が祀られ、米大統領として行けない。靖国神社に代わる国立の施設はまだない。トランプ大統領はどのように感じただろう。

(西川 恵)

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