LINEやメールを何度も送るのはストーカーですか?――ストーカー相談室

LINEやメールを何度も送るのはストーカーですか?――ストーカー相談室

著者の内澤旬子氏(左)とカウンセラーの小早川明子氏

 ストーカーとはなんなのか、誰がなってしまうのか、被害に遭ったときどうすればいいのか――被害者の立場から迫真のルポを書いた作家とカウンセラーがストーカーにまつわる疑問に答え、実践的な対策を語り合った。

◆◆◆

内澤 週刊文春で連載していたルポが 『ストーカーとの七〇〇日戦争』 という本にまとまりました。連載中からしんどい思いをして書いて参りましたが、本にするのにも苦労しました。ストーカー事件の関係者のカウンセリングをしておられる小早川先生には、ストーカーとの向き合い方についていろんなアドバイスをいただきました。あらためて感謝します。ありがとうございました。

小早川 出来上がった本を拝見して、あらためてすごいなと感服です。率直によくここまで書けたなと。自分のことをあけすけに書く難しさ、実際の被害について配慮しつつ書くという困難もある。内澤さんの強い精神力がこの本の根底にあるのは間違いないですよね。

内澤 ありがとうございます。こんなにたくさん付箋をつけてチェックしてくださって……。恐縮してしまいます。

小早川 作品としての面白さもそうですけど、なによりこれは世の中にとってとても貴重なルポですよね。被害者がこんな思いをしてこんな壁にぶち当たっていたんだ、とあらためて気付かされることも多かった。たとえば司法手続きの中でどういう苦労があるのかがとても良くわかります。これから私のところに相談に来るひとたちにも、この本を読めばだいたいわかるよ、とアドバイスできるので、助かります。

内澤 うれしいです。書き上げて今思うのは、これでようやく事件のことを忘れることができるということ。ストーカーのことを書くと決めてから、ありとあらゆるディテールを記録して記憶しておかなきゃいけなかったのはつらかったですね。でも、これはどんな被害者の方にもある辛さだと思うんです。世間のニュースだと、「逮捕されました」「裁判があって判決は○○です」でおしまいなんですけど、事件の当事者はそう簡単にはいかない。被害者は加害者が逮捕されるまで気が気じゃないし、刑務所に入っても出てきたあとのことがすごく心配になってしまう。被害に遭ったその時から、周囲の人間関係、自分の精神状態など、解決する見込みのない差し障りがたくさん出てくるんです。そんな中で先生と出会って、加害者の治療のことを知りました。

小早川 内澤さんもその答えにたどり着いてくれたことがありがたいです。ストーカーを20年見てきて、加害者の治療・無害化が被害者にとっても世の中にとっても大事だと訴え続けていますが、なかなか理解されないまま今に至っています。

内澤 それが理解されないのが本当に不思議です。実際に被害に遭った私としては、なにをもって解決とするかと考えれば、常軌を逸した、話の通じなくなってしまった加害者には、もはや治療して過剰な執着をとっていただくしかないだろうと自然に思い至ったんですけど。

小早川 現に被害に遭っている人の多くはそういう思考回路をたどるんです。でも周囲の支援する人たちにとっては、厳罰こそが被害者の心の傷を癒やし、被害の補償につながると思われることが多いですし、世の中もそう確信しているように感じます。被害者自身と周囲の認識のズレもこの本には描かれていますね。

内澤 この機会に、本の中では書ききれなかった、ストーカーとの向き合い方、対策について小早川先生から色々アドバイスをいただければと思っています。

Q どんなことをどこまですればストーカーなのか。LINEやメールを何度も送るとダメなのか。恋愛が絡まなくても、音信不通になれば心配するのは当たり前では。(男性・自営業・60代)

内澤 「文春オンライン」上で、読者にストーカーに関する疑問・質問を募ったんですが、やはり皆さんの関心の第一は、「なにがストーカーなのか」「ストーカーとはなんなのか」ということでした。実体験としては、たとえ善意であっても、受け取る側がその接触に違和感を持った瞬間に、もう怖くなってしまうんですよね。どのタイミングで、なにがきっかけでストーカーになるのかは、被害を受ける人の性格もあるし、それまでの人間関係もあるし、一概には言えませんよね。ただ、「もうやめてください」とはっきり相手に伝えること、意思を表示することは大事だと思います。「やめてください」と伝えたあとに、まだ同じような接触をしてくるなら、それは迷惑行為だし、ストーカーです。

小早川 警察もそういうロジックで案件にあたりますね。とにかく線引きが重要だと。質問者の方の場合、相手からはっきり拒絶の意思を突きつけられたのに、まだ連絡をとってしまうようならそれはストーカー行為だと思ったほうがいいですね。NGが突きつけられているのに、それでもなお……というのは、関心が過剰に暴走している状態ですから。

内澤 好きで好きでたまらないとか、四六時中相手のことを考えちゃうとか、どこか恋愛っぽい要素でストーカーを捉えるよりは、人への執着が高まってしまって自分でも止められない病気――そう考えたほうが、わかりやすいし、治療という解決にもつながると思います。

小早川 たとえば、ワイドショーなんかで紹介されるご近所トラブルもストーカーの一例と考えることができます。気に入らない隣人への嫌がらせのために、雨の降る日も風の吹く日も、毎日同じ迷惑行為を繰り返すというのは、生半可な固執でできることじゃないですから。自分では止められなくなってしまう、行動制御ができない病というわけです。

内澤 事例を見ていると、行動力のある人でないとストーカーにはなれないとすら思えてきます。一線を越えても、アクセルを踏み続けることのできる性格とでも言いますか。

小早川 当然ですが、個別の事例は千差万別。これがあてはまればストーカー、ないからストーカーじゃないというのはナンセンスなんです。ストーカーの定義を恋愛感情にだけ限っていると、現行のストーカー規制法のように、漏れてしまうケースも多いと思います。

Q ストーカーになりやすい性格、特徴はありますか?(女性・会社員・60代)

内澤 ストーカーになりそうな人物像は見極められるかという質問も多く寄せられていました。男女関係でいえば、交際相手がストーカー化しないためにどうすればいいのか、という趣旨の質問もあります。私も交際していて怪しいとわからなかったのかと、散々言われました。

小早川 理屈っぽかったり、こだわりが強いというのは総じて指摘できるかもしれません。「絶対、こうしなきゃいけない」と思い込みがちな人。そこに駆動力が加わるとストーカー化してしまうこともあるでしょう。でも、実際のところ前もって見極めるのは難しいんです。次善の策としては、付き合った以上、丁寧に別れることを考えておいたほうがいいでしょうね。

内澤 自分が相手を嫌ったから別れるんじゃなくて、相手に自分を嫌わせるよう仕向けるっていうのはどうなんでしょうか。失望させるために、鼻をほじってみるとか。

小早川 自分から嫌われにいくというのはおすすめできません。

内澤 連絡を一切無視するというのはどうでしょうか。ネットでは、逆に相手をストーキングして撃退するという解決策も散見されますが。

小早川 無視を決め込むのも相手からすれば立派なリアクションのひとつなんですよね。必ずしも良い方に出るとは限らない。逆に攻撃に出るというのもまったく賛成できないやりかた。いろんなケースの中には実際にそういう行動をとった被害者もいたけれど、解決したことはありません。なにより火に油をそそぐような展開にもなりかねません。何にせよ、別れたいと思ったら、しっかり作戦を立てて準備するのが大事です。

内澤 ドメスティック・バイオレンス(=DV)の場合、うまく別れるためのノウハウや、被害者がちゃんと暮らしていくために、警察だけじゃなく地域の自治体のサポートが充実している印象があります。

小早川 男女共同参画センターや、被害者支援センターなどです。

内澤 いま挙げてくださった場所ってDVだけじゃなく、実際はストーカーの被害の相談にも乗ってくれるんですよね。でもセンター名がちょっと仰々しすぎて躊躇してしまう人もいるんじゃないでしょうか。「まだ困ってるだけだし、被害者じゃないし……」と。

小早川 そう思わせてしまっているところが問題です。少しでもつらい、ちょっとでも困ったらすぐ相談にいらしてください、というPRをしなきゃいけません。

内澤 たとえばグーグルで「死にたい」という言葉を検索すると、トップに相談するための電話番号が出るようになりましたよね。ストーカー被害に遭って、怖いとかしんどいとか思った時に、まずはここに相談するという目印というか、誰もが思いつく共通の場所を、行政は予算をかけて築いてほしいです。

Q どういう状況になったら相談のレベルになるのでしょうか。ちょっと気持ち悪いと感じる程度だと相手に失礼だし、警察にも相手にされないような気がして。(女性・60代)

内澤 相談のハードルが高いから、こういう質問も来ると思うんです。普通の人は、ストーカー被害に遭って警察に相談にいくなら生活安全課、なんて知らないわけです。私自身、本にも書いてあるとおり、初期の対応は悪手の連続でした。それは専門家やそういった機関を知らなかったから。彼氏がストーカーっぽくて困ってるんだよね、って最初に相談するのは身の回りの友人や家族です。しかし彼らははっきり言ってド素人。「嫌われてみれば?」とか「俺が言って聞かせてやる」とか状況を悪化させかねないアドバイスを受けるくらいなら、然るべきところに相談に行くべきですよね。

小早川 カウンセリングの現場でも、もっと早く相談に来てくれていたらと思うことは少なくありません。事態が込み入ってしまうと実際的にも解決するのは大変だし、小火(ぼや)の段階であれば、被害も少なくてすんだのにと悔やむことも多いんです。

内澤 相談することをためらわないで、というのはすごく強調しておきたいです。この程度のことで相談するのは気が引けるとか、行ってもどうせ軽くあしらわれるだろうなっていうのは大間違い。

小早川 地域の福祉関係の部署や被害者支援センターに駆け込むとか、警察に相談に行くというのは、その行為自体がのちのち自分の身を守ることにもつながりますから。

内澤 これは実際に警察で言われたことですが、相談に行けばそれが重大な被害でなくても記録に残る。この実績を積み重ねることが大事だと。何月何日にこういうつきまといを受けた、と警察に細かく相談することで、警察としても次のアクションをとりやすくなるそうです。

小早川 いざ相談に行くとなったら、その時の振る舞いも重要なんですよ。ストーカー規制法では相手に不安を与えることが規制の条件なので、平気な顔して相談に行くと、まともに取り合ってもらえない可能性もあります。テクニックとして気丈な人こそ少し弱った雰囲気を出したほうが良いこともあります。

Q ストーカーの被害に遭って警察に相談する場合、届けを出したことが相手にわかってしまわないか、それで逆上してしまわないかと怖くなります。(女性・会社員・20代)

内澤 私の場合もそうでした。でも後が怖いから警察に相談しないというのは経験者として、選んではいけない選択肢だと思います。

小早川 警察に相談するというのは、その後のことも考えると勇気がいる。警察が動くことで、加害者の怒りが増幅することはあり得ます。

内澤 警察沙汰にする前の警告って有益な場合はあるんでしょうか。「これ以上やったら警察にいく」と居丈高に言うのは逆効果な気がします。警告を出すにしても、二人っきりではっきり直に言うべきなのか、メールでそれとなく匂わせるのか、どうすればいいかわからないです。

小早川 それは先程も出たように、千差万別でこれという正解はないのですが、具体的なアドバイスとしては、「これ以上あなたとやり取りするのはつらいから、どこかに相談します」と、相手を批判せずに告げることは有効だと思うんです。最終的には警察に行くにしても、話し合いの段階では警察のけの字も出さない。カウンセラーでも弁護士でもよいので、その前にワンクッション置き、警告の予告をしてもらうのはいい方法だと思います。

内澤 加害者に被害者の情報が漏れてしまった、というようなセンセーショナルなケースばかり報道されがちなので、こういう心配はわかります。でも実体験した人間として、警察はやるべきことはきちんとやってくれる、ということは強調しておきたいです。手続きは歯痒いことだらけですけど、被害者の身の安全を守るためにできうる限りのことはしてくださったという印象です。

Q 友人や家族がストーカーの被害に遭ったとき、周囲の人間にできることはあるでしょうか。(男性・会社員・30代)

小早川 じつは、被害者の周囲の人間にできることってそんなになかったりするんです。良かれと思って仲介したりすると、ストーカーからすれば相手が自分と真摯に向き合っていないと解釈してしまうことがあるんです。まずは、被害者本人がはっきりと困っていることを告げ、同時に職場などの周囲の人たちにも相談し、いざという時の協力を頼んでおくことです。逆に加害者の側にはできることが多いと思います。友達なり息子なり孫なりがストーカー行為をしていると気づいたら、医療機関や警察の生活安全課に相談してほしいです。最近は警察は、地元の医療機関と連携していることが多く、しかるべき医療機関を教えてもらえるでしょう。

内澤 なるほど。よく考えれば当たり前の話なんですが、ストーカーの場合はその当たり前の相談、治療をしなくてはならないとなかなか思えないんですね。

小早川 なによりもまず相談に来てもらわないとカウンセリングも何もはじまらない。

内澤 周囲の誤解という話だと、私が加害者の治療を望んでいること自体が意外だって驚かれることがあります。加害者を治療してあげることが、なんだか加害者にとっての利益だと誤解されてるみたいで。あれだけ話が通じなくなってしまった人、いつかまたストーカーになってしまうかも知れない人に治療を施すことは、私にとってみれば絶対的な安全保障なんです。刑務所に入れて軽作業に従事させれば、処罰感情は多少癒えるかもしれませんけど、出てきて何かされるかも知れないという私の恐怖は一向に消えません。

小早川 内澤さんの場合は、こうやって書くことがひとつの自衛になっていますよね。もちろん、発信することで加害者を刺激してしまうんだけど、それ以上に「私は命がけなんだよ」っていう抑止力になっている。

内澤 作家の桐野夏生さんが「書くことがあなたを守ってくれる」と言ってくださったんですが、その言葉の意味をひしひしと感じています。

Q 二十数年前に付き合っていた男性からSNSで接触がありました。別れた当時からしつこく私の個人情報を探ってきて怖かったのですが、昔のことでも相談にいくべきでしょうか。(女性・会社員・50代)

内澤 ストーカーへの治療が行われないままだと、この女性のように何年も何十年も、一生苦しまなきゃいけないんです。なぜ被害者が加害者のことを気にして、人生を楽しめなくならないといけないのか。そのことに腹は立つけど、それとは別に危機管理対策はしっかりととっていかねば。

小早川 どの程度なら危険で、どの程度ならまだ大丈夫なのかは、把握しておいた方がいいですよね。ご質問に対するお答えは、躊躇しないで然るべきところに相談に行きましょう、です。逮捕された、判決が出た、で事件はおしまいじゃないんです。

内澤 先生のようなストーカーにお詳しいカウンセラーがどこにでもいるわけではないので、困ったら地域の男女共同参画センターや警察、心療内科の先生でもいいから、とにかく相談しましょうよ。

小早川 5年、10年、20年のスパンで相談できる専門家を見つけておくのは大事なことですよね。被害者の心の平穏という意味でも必要でしょうし、プロの相談相手がついていること自体がストーカーに対する牽制にもなり得ます。私自身、被害者、加害者の双方とは一生付き合っていくつもりでいますから。

内澤 小早川先生にはもっともっとストーカーについての知見を広めていただきたいなと強く感じました。今日お話ししていてあらためて感じたのは、ストーカー化させないためにできることはまだまだあるんじゃないかということでした。個人的には『別れ方読本』が世の中には必要だと思っているんです。いつか先生と一緒に作りたいと思っていますので、今後共よろしくお願いします。

こばやかわあきこ
1959年、愛知県生まれ。カウンセラー。NPO法人「ヒューマニティ」理事長。500人以上のストーカーのカウンセリングを行う。

うちざわじゅんこ
1967年、神奈川県生まれ。作家・イラストレーター。著書に『世界屠畜紀行』『飼い喰い』『漂うままに島に着き』など。

(内澤 旬子,小早川 明子/週刊文春 2019年6月20日号)

関連記事(外部サイト)