適齢期はいつ? おカネの問題は? できれば失敗したくない老親との同居

適齢期はいつ? おカネの問題は? できれば失敗したくない老親との同居

「元気なうちは夫婦だけで気兼ねなく暮らしたい」 ©iStock.com

 離れて住む親が病気がちで心配――多くの場合、人はいつか「親との同居」という選択肢を考える時がやってきます。同居の“適齢期”はいつ? おカネの問題は? 専門家の方々に皆が幸せになる同居術を伺いました。
『 文春ムック 令和最新版 死後の手続き 』より「失敗しない“老親との同居”を全文転載。

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■もはや1割しかいない「3世代同居」家族

 波平とフネ夫妻。その長女のサザエと夫のマスオに、一粒種のタラオ。さらにサザエの弟妹、カツオとワカメの7人がひとつ屋根の下に暮らす、ご存知「サザエさん」の磯野一家。

 こうした「親・子・孫」の3世代が一緒に暮らす家庭は、1980年には国民全世帯の半数を占めていた。また、当時は65歳以上の高齢者の7割が子供と暮らしていた。

 時代は下って2015年、親子同居している世帯は全体の4割を切っている。3世代同居に至っては約1割しかない。

 生産人口が都市部へ集中する傾向が強まったために「都市部の子供世代」と「地方の親世代」が分断されたことなど、理由は幾つか考えられようが、「元気な高齢者」が増えたことも大きなポイントだろう。

 介護を受けたり人の手を借りることなく、自立して生活できる指標の「健康寿命」(16年)を見ると、男性が72・14歳、女性は74・79歳。

 子供の世話にならなくても暮らしていける。そんな親世代が増えているのだ。

 一般社団法人日本エンディングサポート協会の佐々木悦子理事長が指摘する。

「今は、嫁・姑問題に悩んだり、日常生活でお互いに気を遣うくらいなら夫婦だけで、あるいは単身で暮らしたいと考える高齢者も少なくない。

 一方、子供の側が同居を考える最大の理由は「親の介護」です。離れて住む親の状態があまり良くない、事故を起こしたりしないだろうか……。そう考えて親に同居を切り出す方が多いはずです。その次に多いのは家事や保育園の送り迎えなど、子育てのサポート役として、親との同居を望むパターンでしょう」

 今、同居を選択する人たちには理由がある。ただし親子であっても、いったん別個の世帯を持った者同士が生活を共にすることは決して簡単ではない。

■早めに同居することのメリットは大きい

 まず最初の問題は「いつから同居するか」だ。

 同居を始める最も多い理由、親の介護。だが実は「介護を目的とした同居」は難しいと佐々木氏はいう。

「一緒に住む以上は“家族”です。しかし、同居と同時に介護がスタートしてしまうと、それはもはや家族ではなく、“介護者”と“被介護者”になってしまう。お互いにとって決して幸福な関係ではありません」

 それを避けるためには、同居のスタートを早めることが答えのひとつになる。

「親が元気なうちに一緒に住み、家事や家計を分担し、孫と遊ぶ。そういう営みを通じて、本当の意味での家族になっておくことが重要だと思います」(同前)

 介護や同居トラブルなどに詳しい、実家相続介護問題研究所の江本圭伸代表も指摘する。

「老いた親は、子に対して『悲劇のヒロインを演じていたい』という気持ちを抱くことがあります。つまり、『構ってほしい』『助けてほしい』という依存的願望です。それは、ともすれば『思ったように大事にされていない』という被害者意識にも?がる。

 70代のお姑さんに『嫁は味が薄くて不味いご飯しか出してくれへん。虐待や』と涙ながらに相談されたことがありました。お嫁さんに聞くと、『糖尿病だからわざわざ薄味のご飯を用意していたのに……』という。

 こうしたボタンのかけ違いは、子供世代が50〜60代で、同居開始が遅いことによるコミュニケーション不足が原因のことが多いのです」

 加えて、介護のための同居は、必要に迫られ十分な準備もなく始まることも多いが、それもリスクになる。遺言作成の代行や高齢者施設選びの相談など、介護・福祉問題に特化した活動を行う外岡潤弁護士が語る。

「介護のための同居は、金銭的にも決して簡単なことではありません。

 たとえば自宅で看られなくなったらどうするか? 介護保険を超える自腹の支出が必要になった時、誰がお金を出すのか? 親の医療依存度が高まると、子供の負担は当初の想像より大きくなります。最悪の場合、親子が共倒れになる危険もある。あらかじめ、きちんと将来のイメージをもち、金銭的裏付けを確認することが最低限必要です」

 そう考えれば、同居から介護へ至る“助走期間”は長いに越したことはない。

「同居適齢期があるとすれば、“親の介護が始まる前”。子供世代が40代のうちに、親子で同居について話し合いを始めておくべきだと思います」(前出・佐々木氏)

■同居がとてもうまくいった家族

 理想的と思える同居を実現している一家がいる。

 神奈川県に住む吉田あづささん(43)は、夫と8歳の息子、そして自分の母親と同居。父親は10数年前に亡くなっている。

 吉田さんは航空関連企業で働いており、出産後も仕事は続けたいと考えていた。そこで母親が1人で暮らしていた生家を2世帯住宅に改築。1階には母親が、2階に吉田さん一家が住むことにした。以来、至極円満に暮らしている。

 吉田さんは円満の理由として、まず「孫の存在」を挙げる。

「週の半分、帰宅が夜遅くなることもありますが、その間は母が子供を見てくれます。母は子供と仲が良く、たまに本気のケンカをしています。子供もおばあちゃんの料理が好き。

 同僚たちはベビーシッターに頼んだり学童保育に預けていますが、ケンカするくらいの自分の母親に委ねる方が安心できますね」

 孫の存在が“潤滑油”となり、コミュニケーションや、家族としての一体感を高められているという。

 吉田さんが「自分の母親」と同居している点も見逃せない。

「どうしても母の都合がつかない時、夫の両親に子供の面倒をお願いすることもあるんですが、負担をかけることに対して『申し訳ありません』という気持ちになってしまいます。遠慮せず、ワガママを言えるという点で、実母はありがたいです」(同前)

 前出の江本氏も「やはり『嫁・姑』の同居よりも実の親子の方がうまくいく傾向はあります」と語る。

 当然といえば当然だろうが、さりとてすべての夫婦に娘がいるわけでもないし、娘が義理の親と同居することもふつうにある。その場合、どうすればいい同居になるだろうか。

■「どうしよう、大変なことになった」という家族も

 ここに“反面教師”的なケースがある。

「大変なこともあるだろうと覚悟していたつもりでしたが、想像以上でした」

 千葉県のベッドタウンに住む主婦の竹井美亜さん(仮名・45)は、そう苦笑いする。

 彼女は義理の母親と夫、6歳の娘と暮らしている。父親を早くに亡くした夫は、自分の結婚で母親が独りになってしまうことを案じた。そこで「家賃も折半だから助かるし」と、母と住んでいたマンションでの同居を竹井さんに提案。彼女は受け入れた。

 だが、すぐに「どうしよう、大変なことになった」と感じたという。義母はアパレルの販売員をしており、仕事柄か声が大きく、押しも強い。

「義母は何をするのも手早く、無駄がキライ。お味噌汁を作りながら酢の物用のワカメを戻して、その間にパパパッと洗濯物を干したり。私が手伝おうとすると『あなたがやるより早いから』とか『このあいだ作ってもらった味噌汁が口に合わなかったから、今日は私がやる』と言われて。

 座って待っている訳にもいかないので、味噌汁にワカメを入れたら『それは酢の物用なのに!』って怒られたり……」(同前)

 一事が万事その調子。竹井さんは段々とストレスが溜まっていったという。

 読書が好きなインドア派の竹井さん。かたや休日は友人とワインを呑みに行くアクティブな義母。性格が真反対の女性が共に暮らすのだから、ストレスがかからない方が不思議だ。

■嫁姑問題を乗り切って同居生活するには

 家計コンサルタントの八ツ井慶子氏は「日常のルール作り」を提案する。

「住まいが変わり、生活が変化すれば誰でもストレスはかかる。親と子、どちらの側も同じです。だからこそ、火種の小さい時にルールを決めたり、話し合う時間を持つことが重要です」

 たとえば「それぞれが料理を担当する日を決める」「朝は自分が、夜は義母が作る」などと役割分担を明確にする。

「“ケア”ばかりを念頭におかず、親の役割をつくれば、それが親の居場所にも、やりがいにもなる。食事に限らずゴミ出し、掃除、洗濯、何でもいいと思います。家族なのですから」(同前)

 その際の行司役はやはり夫。竹井さんが1度夫に家を出ることを提案した際、「母親に不満があったのかと思われて角が立つよ」と言われ、それ以上は強く主張できなかったと明かす。だが、竹井さんは実際不満がある。2人の関係に1歩踏み込む勇気が、夫に必要かもしれない。

 竹井さんの日常は、2年前に義母が仕事を辞めたことでさらに窮屈感を増してしまった。

「日中は基本的に2人で家にいます。私の部屋はないので、夕方娘が保育園から帰ってくるまでテーブルに向かい合い、義母が好きなクイズ番組を見たり……」(竹井さん)

 もちろん先に登場した吉田あづささんのように、2世帯住宅を構えられればそれに越したことはない。吉田さんの場合、玄関は一緒だが上下階それぞれにリビングと寝室があり、居住空間は完全に分かれている。食事はみんなで1階に下りて食べ、母親が2階に上がってくることはまずない。母親の生活は1階で完結するようになっている。

 一方、マンション住まいであれば、竹井さんのように自室を確保できない状況も珍しくないだろう。

 竹井さんは、

「1人で本を読む部屋があれば、それが無理ならせめて自分用のテレビがあればと思います。好きなときに好きな番組を選べれば、随分とストレス解消になるでしょうね」

 という。吉田さんも、2世帯住宅のメリットのひとつとして「テレビでチャンネル争いをすることもありません」と“チャンネル権”を挙げていた。「せめてテレビだけは別に」。これならば実現性は大いにアップしそうだ。

■言って後悔……「少し節約したら?」で同居解消

 神奈川県川崎市に住む守屋節子さん(仮名・76)は、2世帯住宅に夫と住んでいる。3年前まで息子夫婦と2人の孫も暮らしていた。同居を解消したのだ。

 解消の理由は、義理の娘との“些細な衝突”だった。義理の娘は百貨店の外商も訪れるような裕福な家庭に育ったという。

「だからか、毎日の買い物が高級品ばかり。ウチが100グラム160円の豚肉を買うのに、あっちは2000円もする牛肉を買ったり。お豆腐とか牛乳も一番高いものを買うんです。

 見かねて『子供も小さいんだし、少し節約したら?』って口を出したんです。その時は何もなかったんですが、後で息子から『買い物の中身まで見張られて、文句言われる……』と言ってたと聞きました」(守屋さん)

 守屋さんにとっては好意のアドバイスだったが、「過剰干渉」と受け取られたのだ。その後は何となくギクシャクした関係が続き、結局下の孫が小学校を受験する際、通いやすい都心に移ると言って引っ越した。同居は2年で終わった。

 守屋さんは「育ってきた環境が違う者同士が一緒に生活することに、私の準備が足りていなかった」と反省する。

 子供たちは十分な収入があるから贅沢しているのか。あるいは育った環境がそうさせているだけなのか。デリケートな話題ではあるが十分に話し合い、金銭感覚をすりあわせて、納得しておくことが肝要だろう。

■金銭トラブルを避けるための“情報開示”

 同居に金銭面のトラブルは多い。「同居にかかる費用を誰が負担するのか」という問題だ。

 相続コーディネーターの曽根恵子氏が指摘する。

「同居を始める前に、必ず親の資産の確認をして下さい。金融資産の額や預け場所、不動産の有無。重要なのは、一緒に住まないきょうだいにも情報を開示・共有することです」

 たとえば、母親と同居する長男一家が、日常的な出費の一部を母親から援助されるケース。

「これは、同居していない弟や妹は、兄が自分たちの相続財産を“先食い”していると受け止めがちです。“親のおカネを何に遣うのか”という線引きを明確にし、全員で了解しておくことが大切です」(同前)

 前出の江本氏もいう。

「たとえば娘が離婚し、シングルマザーとして実家に戻って10数年。もはや娘にとって実家は“親の家”というより“自分の家”という感覚になるもの。別居しているきょうだいより親を介護してきたという自負もあります。そんな状況で親が亡くなり、きょうだいたちが『この家を売って、財産を分けよう』と主張すると当然ぶつかります。遺産といえるのは家だけ、ということが多いので、遺産分割で揉めるんです」

 金銭に関することは、親の健在なうちにきちんと話し合っておくべきだろう。

■同居は誰のためなのか? 親の意思を再確認

 話し合いの中で、1度基本に立ち返るのも有益だ。同居は誰のためなのか、と。

 実家、つまり親の住まいに子が合流する場合は、さほど問題は大きくないだろう。理想的な同居を続けている吉田さんもそのケースだった。

「母からすると、慣れ親しんだ地で暮らせているというのは大きいと思います。違う町への引っ越しが前提だったら、母は同居に同意しなかったでしょう。ここには昔からのお友だちもいるし、今は月に何度か社交ダンスにも通っています」

 前出の佐々木氏も指摘する。

「地方に住む親を自分の住む町に呼び寄せる形の同居は、リスクが高い。親にとって、長年住み慣れた土地と知己から切り離されることは非常な負担。加えて、地元では近隣と家族同然の付き合いをしていても、都市部のマンションでは隣に住む住民の顔も知らないケースも珍しくない。人間関係が大きく違うことでストレスを感じる親は多いはずです」

 それを見越して、同居に二の足を踏む親は多い。

「もちろん親を心配する子の気持ちは尊い。でも、子供側は同居ありきではなく、まず親の意思を確認することが大切です。場合によっては同居ではなく、家の近くの高齢者住宅への住み替えを提案するなど、柔軟に考えた方がいいでしょう」(前出・外岡氏)

 同居に踏み切るなら、どうしたらお互いに気持ちよく暮らせるかをしっかり考えよう。

「せっかくの同居が親のためにならなかった、ということのないよう、家族の温かいサポートは必須です。

 高齢になって環境が変わるのはとても心細いし、身体の不調で落ち込んでしまうこともあります。小さなことですぐに怒らず、家族の間でよく笑えるような雰囲気づくりを。

 近隣に親との同居を伝えておいたり、地元の地域包括支援センターを確認しておくなど、いざというときに自分たちだけで抱え込まないようにする備えも怠りなく」(前出・八ツ井氏)

 先人たちの教訓を活かして乗り越え、大いに実りある同居生活にしたい。

(初出『週刊文春』2019年1月31日号)

(「週刊文春死後の手続き」編集部/週刊文春 増刊号 令和最新版 死後の手続き100の疑問)

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