独自の進化をとげた中国の「カラオケ文化」は日本を超えたか

独自の進化をとげた中国の「カラオケ文化」は日本を超えたか

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 カラオケは日本の文化とはよく聞きます。一方では、日本人のカラオケ離れという意見もあります。全国カラオケ事業者協会が出している『カラオケ白書2018』を見ると、1995年には5850万人だったカラオケ人口は、2017年には4700万人へと、1000万人ちょっと減少しています。カラオケボックスの施設数は、1996年の1万4810軒から、2017年には9300軒まで下がっているそうです。

■最近のカラオケ選曲機はAndroid搭載端末

 かたや中国でもカラオケ文化はあります。内陸の省都クラスはもちろん、農村部の大きめな集落にも当たり前にあるほど根付いています。中国では、カラオケは「?拉OK」とか「KTV」と呼ばれています。どちらの名称にしても、店によっては女性が接待するいかがわしいサービスがあったらしいですが、それは昔の話。今はあまり聞かなくなりました。

 建物が一棟丸ごとカラオケ店舗になっているところや、モール内の店舗もあります。カラオケルーム自体は、日本のものとさほど違いはありません。選曲する機械とマイクが置かれていて、曲を選んで歌うだけです。

 東京でも中国式カラオケは池袋や西川口や新小岩など様々な場所にあり、リアルを体験することができます。最近はAndroid搭載のカラオケ選曲機が置かれていますが、かつてはWindows搭載のパソコンのソフトで選曲していたと記憶しています。今よりもクオリティが低いのか、数少ない日本の曲を選択すると、伴奏が何倍速もの早さで流れるバグにしばしば遭遇しました。そんな牧歌的な光景は、今ではもうありませんが。

■公園で熱唱するおばちゃんおじちゃんも

 もともと中国人は歌うのが好きなので、カラオケ文化は日本人以上に合うと思うのですよ。中国の広場や公園では、大音量で音楽を流しながら太極拳やダンスをするおばちゃんおじちゃんの団体をよく見かけますが、なかにはカラオケを熱唱するおばちゃんおじちゃんもいます。

 家だろうと外だろうと突然歌い出す人がよくいますし、それが中国では気になることはありません。幼稚園や学校どころか公園でも「騒いではいけない」と言われる日本と比べると随分おおらかなものです。

■カラオケアプリ「唱ba」のユーザーは2億人

「カラオケはちゃんと歌うならカラオケボックスへ」――そんな中国のカラオケの常識が大きく変わったのは2012年のこと。低価格なスマートフォンが入手可能となり、スマートフォンが身近な存在となって、ゲーム以外の使い方も模索され始めた年でもあります。

 2012年の5月に「唱ba」(※baは口編に巴)というカラオケアプリが登場します。スマホをカラオケにするというものです。これに若者が動きました。初日に10万人がアプリを登録し、最初の5日間でAppStoreのランキングでトップに躍り出ました。2013年10月に、ユーザー数は1億人、翌2014年には2億人になりました。中国のインターネットユーザー数は約6億5000万人(2014年末)という統計が出ていますので、実に3人に1人が「唱ba」を利用していました。「唱ba」によって、家の中で若者を中心にカラオケで歌うようになり、カラオケの習慣自体が変わったのです。

 比較対象として、日本で頑張っている人気のカラオケアプリ「nana」を挙げてみます。2012年8月にリリースされ、3年後の2015年6月に登録ユーザー数が100万人を突破し、最新の公表数値では2018年11月に700万人を突破したとしています。中国の人口は日本の10倍以上あるとはいえ、ユーザー数、利用率ともに日本のカラオケアプリは大きく水をあけられています。

■アプリから実店舗への進出も

 2014年の中国で、カラオケについて進化の動きがふたつありました。ひとつはネットで快進撃を続けた「唱ba」が、カラオケの実店舗に進出したというニュースです。「唱ba」は、ネットサービスと実店舗とを連携した新しいカラオケサービスを展開しようと計画しました。5年後、つまり2019年までに2000店舗のカラオケボックスに導入するという目標を掲げていましたが、現在の契約店舗数は500程度にとどまっています。

 もうひとつは、「全民K歌」という別のカラオケアプリの登場です。「全民K歌」は、単に歌えるだけでなく、実況動画(ライブストリーミング)機能や微信(WeChat)の知り合いと自動で繋がって、歌った歌を聞かせたり、知り合いの歌を聞いたりすることができます。これが時流に乗って、「唱ba」を上回る人気となり、2016年末にはユーザー数が3億人を突破しました。

 2017年9月には「全民K歌」も「全民K歌LIVEHOUSE店」というリアル店舗を出店します。これもまた普及したかというと怪しいもので、そうこうしているうちに「抖音(ドウイン)」(TikTokの本家アプリ)などのショートムービー系SNSが登場して、これで気軽に歌って公開する人が多数出てきました。「全民K歌」は生き残ってはいますが、カラオケの常識がまた変わっていったわけです。

■ガラス張りの無人カラオケボックス

 同じく2017年には、中国全土のショッピングモールやデパートなどでガラス張りの無人のミニカラオケボックスを見るようになりました。台湾でも普及しているようです。中国ではキャッシュレスのWeChatPay(微信支付)やAlipay(支付宝)が普及する中で、シェアサイクルなどと並んでキャッシュレスが利用できる先進的なサービスとして登場しました。

 ほぼ音がもれないガラス張りの設備で、ヘッドホン、椅子、マイクが2つずつ用意されているので、デュエットで歌うことができます。歌った後にはスマートフォンに歌をダウンロードでき、ネットの知り合いに歌声を披露することができます。ガラス張りだから恥ずかしいという人のためにカーテンも用意されていてカバーすることができます。

 現在に至るまで目立ってミニカラオケボックスが減ることがなく、若い女性2人組やカップルなどが歌っているのをよく見るようになりました。

 さらにはミニカラオケボックスを真似したサービスが出てきました。カラオケができるだけでなく、ゲームが遊べたり映画が見られたりするミニエンターテイメントボックスや、本の朗読ができるガラス張りのミニ朗読ボックスなんてのも登場しました。ミニカラオケボックスは日本に逆輸入されたほか、ベトナムのハノイやホーチミンでも見るようになりました。

■新橋の「ちょいKARA」は1カ月弱で撤退

 日本でも2011年ごろに、まさに同じコンセプトの製品「ちょいKARA」を中国に先駆けて出したのですが、普及したのでしょうか。残念ながら私自身は中国にいて、当時の日本の様子は知りませんが、そこまで人気にはならなかったようです。

 2013年の新橋経済新聞に、「ニュー新橋ビルの一人用カラオケ撤退へ−設置1カ月、需要見込めず」というニュースがありました。サラリーマンの街、新橋に設置された「ちょいKARA」が、1カ月弱で50人しか利用されなかったので撤退するというものです。オーナーいわく「3曲200円なので、採算が合わない」「黒字化するには最低1日30人の利用が必須。このままでは難しい」と、撤去を決めたそうです。まさかオーナーも、1日に数組程度の利用とは思いもよらなかったでしょう。

 日本でも中国のようにもっと設置すれば、日本でのカラオケシーンに変化があったんじゃないかなと思う一方で、設置したところで誰も利用しないという厳しい現実がありました。そうこうしているうちに、日本の文化であったカラオケは中国でスマホ社会に合うように形を変え、普及していきました。

 日本のアニメやゲームは世界のカルチャーに影響を与え続けていましたが、文化も時代に合わせて調整していかないと世界は待ってくれません。思わぬところで日本の地盤沈下を感じています。

(山谷 剛史)

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