G20大阪サミット開幕 テロ対策の切り札は「ドローン検知器」と「兆情報」

G20大阪サミット開幕 テロ対策の切り札は「ドローン検知器」と「兆情報」

©AFP/AFLO

 6月28日、29日の日程で行われる「G20サミット」。会場となる大阪では、大規模警備が行われている。テロ対策の切り札として、機体と操縦者の位置を特定できるとされる「ドローン検知器」が取り入れられ、さらに様々な情報をもとにしたテロなどの兆候(通称「兆」きざし)をインテリジェンス活動に活用しているという。菅義偉内閣官房長官がサミット会場「インテックス大阪」を事前に電撃視察するなど、官邸もG20警備に前のめりな姿勢を見せた理由は何なのか。ジャーナリストの今井良氏が解説する。

■G20は来年の東京五輪に向けての警備前哨戦

「今後の都市部における大規模警備の試金石になると考えています」

 今月20日。大阪府警本部の会見室で、府警本部長の石田高久警視監が記者クラブ員たちを見渡しながらこう述べた。

 石田府警本部長は今月28、29日に開催される20カ国・地域首脳会議、通称「G20サミット」の大阪府内の警備に警察官約3万人態勢で臨むことを明らかにした。兵庫県内などを含めると最大約3万2000人が投入される計算になる。

 内訳は大阪府警が約1万2000人、46都道府県警から大阪への特別派遣部隊が約1万8000人、兵庫県内などが約2000人。大阪での大規模警備は1995年のアジア太平洋経済協力会議「APEC」以来となる。

 石田本部長は1985年に警察庁に入庁。生活安全部門畑が長い経験豊富な警察キャリアである。その石田本部長には異色の経歴がある。2001年には、翌年の日韓共催のサッカーワールドカップ大会に関わり、「2002年ワールドカップサッカー大会日本組織委員会セキュリティ部長」を務めている。つまり、国際スポーツイベントの警備は経験済なのである。この石田本部長を配置した人事は、日本警察トップの栗生俊一警察庁長官の強い意向とされている。さらに政府関係者によると、栗生長官は官邸幹部から、G20での警備強化を下命されていたという。

「警察組織内部では、今回のG20は来年の東京五輪に向けての警備前哨戦との見方が大勢を占めている。世界中のVIPが一堂に会するサミットだから、警備における緊張の度合い、責任は東京五輪に匹敵するものだ」(政府関係者)

■人工島・咲洲には検問所 地域住民は証明カードを所持

 官邸が前のめりするG20警備。それを象徴したのが、菅義偉内閣官房長官が今月22日、大阪市のサミット会場を電撃視察したことだった。

 会場となるのは、人工島・咲洲の国際展示場「インテックス大阪」だ。咲洲には2万4000人が生活しているが、24日現在、各所に検問所が設けられているほか、地域住民は、住民であることを証明する専用のカードを所持しているという。

 サミット会場で菅長官は、各国要人らの警護や会場周辺の警備に当たる警察官や海上保安官に対し「陸と海の両面の警戒を徹底してほしい。サミットの成否は皆さんの双肩にかかっている」と激励したのだった。

 菅長官は「準備が整いつつあることを確認した。会議の成功に向けて政府一体で準備に万全を期したい」と記者団に語っている。

「これで空気が入った。つまりG20警備に失敗は絶対に許されないということを全ての警察官が認識した」(警察庁関係者)

■ドローンショックが、トラウマとして残ったまま

 サミットという政治の花舞台ということもあったが、菅長官がここまで警備に神経を尖らせるのには訳があった。

 先月、都内の皇居周辺などで夜間、目撃されたドローンとみられる飛行物体。警察当局は結局、飛ばした人物を割り出すことが出来ていない。加えて、夜間のドローン捕獲作戦も弱点があるということが明らかになってしまったのだった。

「当時は皇室行事が控えており、機動隊の精鋭による、捕獲網を使ったドローン迎撃部隊、それに妨害電波を発するジャミングガン部隊を皇居周辺に配備していたにも関わらずドローンの飛行を許してしまった。ドローンショックが警察当局にトラウマとして残ったままなんだ」(警察庁関係者)

 ちなみにドローンショックは警察にとって初めてではない。かつて、官邸屋上に10日間以上も墜落した小型ドローンが放置されていた事件があった。この時には警戒責任者の機動隊幹部が左遷されたほか、逮捕された男が、危険物をドローンに装着・散布しようとしていたことも逮捕後に判明。警察庁には激震が走ったのだった。この警備史上最大の盲点とも言える、官邸ドローン事件で最も憤っていたのが、菅長官だったとされている。

 そうした「ドローン警備」の方針が徹底されているにもかかわらず、大阪では2件の「ドローン事件」が起こっていた。

■なぜ大阪ではドローン操縦者を特定できたのか?

 サミット会場の咲洲で小型無人機ドローン2機を無届けで飛ばしたとして、大阪府警は13日、府ドローン禁止条例違反の疑いで、操縦した男性2人から任意で事情を聴いた。

 府警警備部によると、13日午後0時半ごろに大阪府の60代男性が、午後2時15分ごろに京都府の30代男性がそれぞれドローンを飛ばしていた。2人は「条例で規制されているとは知らなかった」などと話している。いずれも応援部隊の警察官が発見。操縦者を特定した。

 大阪府ドローン飛行禁止条例は今年4月に施行。サミット期間を含む5月29日から6月30日までの約1カ月間、咲洲などの周囲300メートル、関西空港の周囲1000メートルで、届け出することなくドローンを飛行させた場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。

 さらにそのわずか5日後の18日。30代の男性が午後に小型無人機ドローンを無届けで飛行させていたことが判明。大阪府警は府ドローン禁止条例違反容疑で今後、男性を書類送検する方針で、男性は「テスト飛行だった。写真を撮ろうと思っていた」と話しているという。

 大阪府警の佐藤隆司警備部長は「サミットの安全開催に向けて、条例違反には厳正に対処する。発見したら110番などにご協力をお願いします」とのコメントを発表している。

 この2件。実はドローンが飛行しているところをいずれも警戒中の警察官が発見していた。そこに今回のG20サミット警備のポイントがあった。

「ドローン位置検知器が導入されたようだ。ノウハウがある警視庁特科車両隊のベテラン隊員らが大阪入りしており、指導にあたっている」(警察庁関係者)

 警察庁関係者によると、ドローン検知器とは日本警察が最も秘匿する対ドローン用の新型資機材だ。ドローンの発する電波を特別に探知。その位置を特定するという。機体と操縦者の位置を特定できるとされており、ドローン対策の切り札と位置付けられている。

■「兆(きざし)情報」をAIでリアルタイムに収集・分析

 ドローン対策に加えて、東京五輪を前に警察庁が本格的に導入するのが、AI・人工知能を活用した警備である。警察庁関係者が明かす。

「具体的には、会場やその周辺のあらゆる防犯・監視カメラ、更に一部の警察官が装着するウェアラブルカメラの映像の分析にAI技術を活用すれば、異常事態などを自動的に検知し、警察官、機動隊部隊を急行させることで安全性確保につなげることが可能になるほか、カメラに記録された規制場所への不審者の立入りや不審物件の置き去りなどを自動的に見付け出し、不法事案を未然に防止することができるようになる」

 加えてG20サミット警備では、「兆(きざし)情報」をAIでリアルタイムに収集・分析することで、突発的な襲撃者の出現等の情報を事前に把握することができる。公安関係者によると兆情報とは、公安警察当局が集めた、テロリストなどや関連する人物についてのストック情報とされている。この兆情報にAIの技術を掛け合わせることで、襲撃者を事前に予測し身柄確保するという「予測型警備」が可能となり、G20サミットが、その実践の場となりそうなのである。

「カメラシステムによるビッグデータ収集、それに警察が持つ兆情報がAIを通じて、更に進化を遂げるものとなり、事前にテロを防ぐことができるようになる」(公安関係者)

 更にインフラシステムなどを狙うサイバー攻撃に備えているという。

「1995年の大阪でのAPEC警備の時と一番違うのは、ネット社会になっていること。サイバー攻撃に一分の隙も与えない」(公安関係者)

 空前の警備は果たして機能するか。日本警察の真価が問われている。

(今井 良)

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