猫の命を守るために闘う人々の証言――奄美大島「猫3000匹殺処分計画」の波紋 #3

猫の命を守るために闘う人々の証言――奄美大島「猫3000匹殺処分計画」の波紋 #3

「奄美ノネコセンター」の壁に貼られた子どもたちが描いた絵

クロウサギを守り、ノネコを殺す理由――奄美大島「猫3000匹殺処分計画」の波紋 #2 から続く

 筆者は今年2月に続いて、5月に再び奄美大島を訪れた。獣医師の齊藤朋子氏(NPO法人「ゴールゼロ」代表)が捕獲されたノネコを引き取りに訪れるというので、同行させてもらった。

 捕獲した猫の一時収容施設「奄美ノネコセンター」の壁には子供たちの絵が貼られている。「奄美の自然を守ろう」というテーマなのだが、ノネコがクロウサギをくわえていたり、ノネコとクロウサギが対決していたり、どう見ても猫が悪者になっている絵だ(写真)。ちなみに「ノネコがクロウサギをくわえている姿」を描いている絵は、環境省が「ノネコによる食害」の根拠として、さまざまな啓蒙イベントで使う1枚の写真とそっくりだった。

「これって子供たちが洗脳されているということではないんでしょうか」

 齊藤氏が怒ったように言う。

■ノネコを引き取るには1匹あたり1万円程度かかる

 奄美ノネコセンターに足を踏み入れた。生後2か月の子猫はなんともかわいかった。反対に捕獲時に暴れたらしい顔が傷だらけの猫を見て胸が痛んだ。

 ノネコ管理計画の根本的な見直しを私は望むが、今すぐにそれが難しいのなら、少なくとも「殺処分前提」という姿勢を改めるべきだ。捕獲した猫の殺処分を急ぐ理由はどこにあるのか。

 奄美大島の猫の命を守るために闘ってきた人々を紹介する。

 奄美大島からこれまで捕獲されたノネコを最も引き取ってきたのは、沖縄の「動物たちを守る会ケルビム」という動物愛護団体だ。代表の中村吏佐氏がこう訴える。

「二つ改善してほしいです。一つは、ノネコ管理計画に予算があるのなら、譲渡にまつわる費用に補助を出してほしい。もしくは自分たちの近くの動物病院で処置を受けさせてほしい」

 ノネコを引き取る際、奄美大島の動物病院で不妊手術とマイクロチップの処置を受けなければ島外輸送ができない。費用は引き取る人が持つのだが、マイクロチップの装着代が先日、4000円から5000円に値上がりした。離島のため沖縄への空輸費も発生し、1匹あたり1万円程度の費用がかかるという。つまり、これまで30匹以上のノネコを引き取ってきた中村氏は、「猫を引き受ける」だけで30万以上の費用を負担している。当然ながらそのあとも飼い主が見つかるまでは飼育するため、その費用もかさむ。

 また処置を受けるのは、奄美大島ねこ対策協議会が指定する動物病院に限られる。先日、島内動物病院で不妊手術後、傷口をかみきり内臓が飛び出し、翌朝亡くなったノネコがいた。引き取り人が信頼する動物病院で処置を受けさせるべきではないのだろうか。

「もう一つは、譲渡の間口を広くしてほしいんです。どうして奄美市のホームページなどで捕獲された猫たちの写真を公開しないんでしょう。所得証明や家の間取り図などの書類を提出して譲渡引き受け人に認定されないと、捕獲された猫の情報がわからないなんておかしな話です。そして収容センターにスペースがあるのですから、1週間といわず、もう少し奄美ノネコセンターでの飼育期間を延ばしてもらえないでしょうか」

 猫の一時収容施設「奄美ノネコセンター」の収容上限は50匹。現状、1年間の捕獲数(43匹)さえそれを下回っているのに、捕獲してたった1週間という飼育期間、すなわち殺処分までのカウントダウンの日数は変更されない。

 これに対し、環境省は「明日、収容上限を上回る猫が捕獲されるかもしれないから」と説明する。

 中村氏が「本当にもう引き受けることが厳しい」とこぼす。

「でも、うちで引き取らなかったら、みんな処分されてしまうんですよ。だから殺させないために死ぬ思いで引き取っています」

◆◆◆

「ちよだニャンとなる会」代表の香取章子氏は4年前、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室が主催し、電通がプロデュースする「いま、希少種があぶない!! 希少種とノネコ・ノラネコシンポジウム」に登壇者(パネラー)として招かれたという。

「そうしたら最も持ち時間の長いパネラーから早く奄美大島で猫の殺処分を始めましょう、その方法は銃か罠か毒エサかという恐ろしげな話が次々と出て、座長も他のパネラーも猫の殺処分を容認する発言ばかり。私一人『殺処分する必要はない』と訴える状況でした。でもこんなに当たり前のことがなぜ理解できない、クロウサギが絶滅したら取り返しがつかないと、取り囲まれて説得されているような状況で……」

 そして翌年のシンポジウムでは、会場も座長も他のパネラーも全て同じで、香取氏のみが入れ替わっていたという。

「苦笑いでした。希少種は守らないといけない。でも、その方法が問題です。ヨーロッパでは交通事故死を防ぐためにさまざまな方策がとられている。その努力をしないで、目の前で見えやすくて弱くて殺しやすい猫にすべてを向けるのはどうなんでしょう」

◆◆◆

「なんでも猫のせいにしやがって」

 奄美大島で27年間、ネイチャーガイドをしていた荒田さんがそう話していた。ガイドツアーに申し込む人々の大半は「クロウサギ」が目当てだから、ガイドの立場からすればクロウサギが増えるほうが都合がいい。しかし、荒田さんは「クロウサギが減ったのは猫のせいじゃない。猫がクロウサギを絶滅させるなどあり得ない。人間の開発が原因だ」と訴えてきたという。

 今年4月、荒田さんは病気のため亡くなった。お墓まいりに同行させてもらい、皆とお線香を手向けると、その中の一人、獣医師の齊藤氏がその場で嗚咽をあげた。

「荒田さんが言った通り、クロウサギは10倍ぐらいに増えていたことが朝日新聞の調査でわかりました。荒田さんの思いを引き継いでノネコ管理計画の見直し、捕獲の中止を訴えていきます」

■「島のみなさんはすごく猫が好き」

 どうぶつ基金理事長佐上邦久氏が言う。

 佐上氏は現在複雑な思いを抱えている。奄美大島にあまみのさくらねこ病院を設立し、野良猫が1万頭いたとしても、すべての猫に不妊手術を行える体制を整えた。しかし、ボランティアの方々が探しても探しても行政の公表値ほどに猫が見つからない状態で、6月末をもって病院の閉院を決めた。

「環境省や奄美市などの行政のやり方には怒りがわきますが、奄美の島民の方々は私たちを温かく受け入れてくれ、感謝しています。島のみなさんはすごく猫が好き。頻繁に会えなくなるのは寂しいけれど、もうこの病院はこの地域に必要ありません。もともとそんなに猫はいなかった。(行政に)まんまとのせられたと思っています」

 同院で獣医師の足立萌美氏が猫に不妊手術する様子を見学した。日本でも有数の手術のスペシャリストと聞いていたが、たしかに早い。1匹あたりおよそ10分強といったところだろうか。足立氏が手術を行えば、たとえ野良猫が1万匹いたとしても1年かからずに不妊手術が終わったに違いない。病院の運営は、どうぶつ基金への寄付金だ。つまり行政の補助金などには頼らずに不妊手術を行ってきたあまみのさくらねこ病院は、本来なら感謝をもって行政から受け入れられたはず。ところが、それらの言葉が最初から最後まで全くないまま、奄美大島での活動を終了となったことに、とても残念な思いである。

■「人間と動物が共に生きていける社会」を

 獣医師の齊藤朋子氏は、小学4年生の時に獣医師を志した。今からおよそ10年以上前、30歳を超えた頃に、獣医師のみが行える不妊手術によって地域の殺処分ゼロが達成可能であることを知った。だから獣医師は最後の1匹まで救うことを絶対に諦めてはいけない、と自身に言い聞かせている。代表を務めるNPO法人「ゴールゼロ」は、殺処分ゼロへの誓いから生まれた名称だ。

「私がそうだったように、子供たちに夢を与える職業でありたい。犬猫と暮らすことは、こんなに豊かな生活なんだよ、と。『殺処分の計画もしょうがない』ではなく、『殺処分が嫌だから解決方法に向けて活動している』と伝える大人になりたいです」

 ノネコ管理計画への反対署名は、6万8000人を超えた。多くの人がノネコの命を大切に思っているのが伝わってくる。

「最初にノネコを引き取る時、すごくドキドキしました。引き取る前に『飼い方が難しい』と何度も奄美ねこ対策協議会から聞いていたので、どれだけ凶暴なんだろうと……ならすのに1年は覚悟していました。でもアマノくんと名付けた1匹目のノネコは、2か月ぐらいでなついてくれて飼い主さんもすぐに見つかりました。やって良かったって。“ノネコ”というハードルを超え、私でも引き取れると思った瞬間です」

 奄美大島の自然から、外来種である猫を完全に排除するか否かについては、意見が分かれるところかもしれない。けれども動物愛護管理法の基本原則は「人間と動物が共に生きていける社会を目指す」こと。排除した後にその猫を「殺す」必要性があるのだろうか。また、希少種保全のための税金の使い道としても、クロウサギの死因ナンバーワンである交通事故の対策費とするのではなく、ノネコ対策につぎ込んでいるという費用対効果を考えなければならない。「猫のせいではない」証言や数値は、数多くある。

(笹井 恵里子)

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