「オッパイ揉む」「女買いたい」なぜ政治家が“下品力”を競う時代になったのか

「オッパイ揉む」「女買いたい」なぜ政治家が“下品力”を競う時代になったのか

元外務省主任分析官の佐藤優氏(左)と思想史研究者の片山杜秀氏

「タンカー攻撃、真犯人はイランでもアメリカでもない!?」元外務省・佐藤優の推理とは から続く

 元外務省主任分析官の佐藤優氏と思想史研究者の片山杜秀氏は立て続けに『 平成史 』『 現代に生きるファシズム 』という対談書籍を出版。

 その“知の巨人”2人が丸山穂高議員の「戦争で取り返すことは賛成ですか?」発言を振り返り、政治家から失われてしまったもの、そしてそれが日本にもたらしうる悲劇について語る。(全2回の2回目/ #1より続く )

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■「オッパイ揉む」発言でも……3回当選している丸山氏

片山 日本政治の劣化について、佐藤さんとの共著『 平成史 』でさんざんお話ししてきました。最近も、耳を疑いたくなるような失言が相次いでいます。北方領土・国後島にビザなし交流訪問に参加中に、衝撃発言をした丸山穂高氏には、驚きました。

 酩酊しながら、「戦争でこの島を取り返すことは賛成ですか?反対ですか?」「戦争しないとどうしようもなくないですか?」と語ったと報じられています。日本維新の会から除名されても、逆に居直ったのか、いまだに国会議員を続けている。

佐藤 私は彼を、松下政経塾で教えているはずなんですよ。彼が政経塾で学んでいるときに講師として行っているから。

片山 あ、そうなんですか。ご記憶はないですか?

佐藤 なんとなくはあるんです。礼儀正しくてよい青年だったと思います。

片山 彼は、東大から経産省に入り、その後、維新から大阪で出馬し、当選した政治家です。つまりはエリート官僚です。下品な言葉を平気で発するような人間には見えない。表と裏がすごくあるというわけでしょうか。

佐藤 いや、私の仮説を言います。彼は、定向進化(生物の進化は一定の方向性をもっているという考え)を遂げたんだと思います。そういう意味で、彼はすごく優秀ですよ。

彼は、「オッパイ揉む」だとか「女買いたい」だとか、そうした言葉をどうも四島でも言ったらしいけど、そうした言葉を言えば気さくな政治家だと思われると、どこかで学んでいったんだと思うんです。実際、それで3回当選したという成功体験もあります。

■「ガルージン・ロシア大使が鈴木宗男さんに電話してきた」

片山 その手の発言は、彼を支持するような限られたコミュニティでは間違いなくウケていたということですね。日常的な発言だったからこそ、国後でも発してしまったということですか。

佐藤 はい。でも、これには困ってしまいました。当然、ロシア側が反応しますから。彼らはまず丸山氏の経歴を調べた。とくに小選挙区で3回も当選しているでしょう。つまりは民意の一定の支持を受けている。それから北方四島に行く代表団は政府が選んでいますから、事実上、日本政府のクリアランスも経ています。

 彼らとしては、これは酩酊したふりをしてロシアを挑発して、現在の日露関係の交渉を停滞させようとしている、日本の特殊な勢力による謀略じゃないか、というわけです。実際に、ガルージン駐日ロシア大使が鈴木宗男さんに電話してきたそうです。

片山 一体、どういう背景があるのかと探りを入れたわけですね。

佐藤 はい、でも鈴木さん、「助かったべ」と言っていた。普通なら説明しても理解してくれない。だから鈴木さんは、丸山氏は数年前に飲み屋で喧嘩をして、人の手を噛んだことがあると伝えたそうです。

片山 ああ、そういう報道を見ました。酒に酔った勢いで一般男性と口論になったうえ、この男性の手に噛みついて警察に任意で事情聴取されたという話でした。

佐藤 それです。鈴木さんが、丸山氏は一般人に噛みついたと言ったら、ロシア側は、そんなに激しい論戦をしたんですか、と勘違いした。そうではなくて物理的に手に噛みついたと説明すると、ようやく彼らも理解した。丸山氏は、正常な大人の行動範囲からかなり外れている男性だ、と。

片山 なるほど丸山氏のケースは特異で、政治的な背景は何もないことがわかったんですね。

佐藤 はい。見ず知らずの人と口論して居酒屋で噛みついた菊の紋章の国会議員のバッジつけた人間は、なかなかいない。憲政史上初めてじゃないかな。だから、ロシアを説得できた。

片山 レトリックとしての「噛みつく」はあっても、本当に噛みついた政治家なり、思想家なりは記憶にありません。でも、今回は大事にならなかったといっても、そういう人間が少なくとも3度は選挙で選ばれたわけでしょう。

 平成初期に小選挙区制度を導入して二大政党制を夢見たわけだけど、結局、それが上手くいかないことがわかってきました。日本だけでなく、モデルとなったイギリスでも、機能しなくなっている。

 日本では二大政党制が崩れていって、小さな党がたくさんできつつある。そうした政治風土から、限られた人たちを相手にしてウケるような形で、特異な政治家が輩出しているという見方もできます。

■「下品であることが政治家の推進力にさえなっている」

佐藤 最近、九鬼周造のベストセラー『「いき」の構造』を読み直したんですね。そこには、いき(粋)の内在的要因には3つあると書かれている。1つは媚態。媚びること。2番目は意気地。3番目は諦め。

 媚態の部分は、現代の政治家も持っているんですよ。ところが意気地はだいたいない。3番目の諦めは、すぐに諦めちゃうタイプか、あるいはストーカー的にねちっこく追いかけてネットで絡んでくるか、の二通りに分かれる。

 この3要素のバランスが崩れていることをもって、現代日本人の病理を説明できると私は思っています。

片山 なるほど。まさに九鬼周造が考えたときの「粋」からはるか遠いところに、日本人は来てしまったかもしれませんね。3つのうちそれなりに残っているのは媚態しかないというわけですか。

佐藤 それによって、一種の下品力みたいなのが生まれていると思うんですよ。下品であることが政治家の推進力にさえなっている。

片山 お笑いのブーム以降の日本を象徴するのが下品力という言葉かもしれません。人からは尊敬されなくても、下品になれば生き残れる――。そうした方向性で進化していったのが、丸山氏だったとも言えそうですね。教養より、下品力が求められる時代というのは、何とも悲しい。

■山本太郎はアメリカのサンダースに似ている

佐藤 最近、タクシーのなかで広告がでていますね。「英語ができないと大変なことになる」といった類いの動画です。あれは、脅迫としての教養ですよね。上昇しよう、上昇しよう。そのためには教養が必要だ。そうではなくて、中産階級から転落しないためにはおまえら教養だよ――という形です。ある種の脅迫としての教養で、結局、教材なりアプリを売りつけようとしているわけでしょう?

片山 そうですね。品がありません。むしろ粋など高望みしなくとも、「恥」という概念さえ残っていれば、こういうことにならなかったはずなんでしょうけど。いま、諦めもなければ恥もない時代です。

 とにかく、ピンポイントで確実にウケる人たちさえいれば、他の人がどう思おうと関係ないというところまで来てしまっています。

佐藤 そうです。これも、片山さんとの共著『 現代に生きるファシズム 』でさんざん話したテーマですけど中産階級の没落がもたらす悲劇を、まさに私たちは味わおうとしている。

片山 中産階級もなければ、組合や学校といった中間団体もなくなっている。日本人はアトム化(孤立化)する一方です。参院選も近いですが、そうしたなか選挙が行われても、まともな政治家は出てきませんよ。

佐藤 いまや有権者も、基本的には新自由主義なマーケットと一緒です。一人ひとりがバラバラの「個」で、数だけが評価される。一定の数を得るために、強い意見を言ったもの勝ちの雰囲気がある。NHKから国民を守る党なんて、まさにそうですよね。

 内情はよく分からないけども、世の中に対して怒っている雰囲気だけは伝わってきます。ワンイシューでNHKのことだけを訴えて、統一地方選で26人も当選したわけです。どちらかといえば右からのポピュリズムの要素があると思うんです。NHKが敵だと、人民の敵だと連呼しているわけだから。

 一方、左では、山本太郎氏の「れいわ新選組」に注目が集まっています。彼の立ち位置は、米大統領選のサンダースと似ている部分がありますよね。

片山 そういう政治家が両翼から出てきている。そのときそのときに一番言ってほしいことを言っては、一番危機感を感じる人の支持を集める。しかし、下品な態度で支持層をさらっても政治家としての地力がない。だから、丸山氏のように何かをやらかしては、次の下品な政治家と替わっていくわけでしょう。誰もが長続きしない。ポピュリズムがもたらす悪夢は、欧米の一部の国では日常風景になりつつあります。

 次の参院選は、日本がそうした負のスパイラルに陥るかどうかの一つの試金石になるかもしれません。

※本対談は、『 平成史 』『 現代に生きるファシズム 』の刊行イベント(紀伊國屋ホール)で行われた対談をもとに、再構成しています。

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(佐藤 優,片山 杜秀)

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