松居一代を支える「不倫許すまじ」な女性たちと、スピリチュアリズムの関係

松居一代を支える「不倫許すまじ」な女性たちと、スピリチュアリズムの関係

速水健朗(右)=1973年生まれ。ライター。おぐらりゅうじ(左)=1980年生まれ。編集者。 ©山元茂樹/文藝春秋

■結束を強め続ける松居一代の“家族”

速水 最近は、テレビのワイドショーが松居一代の問題一色になってるね。

おぐら お昼のテレビは松居一代とヒアリで大騒ぎです。どうにかマツイ棒で退治できないもんですかね。

速水 マツイ棒は虫を殺すためのものじゃないから! すき間のほこりを取るためのもの!

おぐら 実際どのくらいの脅威なのか、いまいちピンとこない人も多いでしょう。

速水 でもほら危険じゃない? 日本各地で見つかってて。移動速度も思いのほか速いらしい。

おぐら 1日500キロ以上も移動するとか。

速水 それは速すぎるでしょ。所詮アリなんだから。

おぐら いや、アリじゃなくて。松居一代のほう。1年5ヶ月も尾行されていて、日本中を愛車のフィアット500に乗って逃げていたって。

速水 そっちかよ。後部座席で寝泊まりしたってね。フィアット500はよく知ってるけど、狭くてとても寝るとか無理なのに。

おぐら 芸能人とはいえ、基本はプライベートな問題ですし、ここまで大きく取り上げなくてもいいのでは? という意見もありますよね。病気の可能性も指摘されてますし。

速水 でも、あれは松居一代側がうまくテレビを誘導している。頻繁に「爆弾発表」を予告して、暴露動画をYouTubeに投下するということを繰り返してるわけだから。

おぐら もちろん、かまってほしくてやってるんでしょうけど。

速水 興味深いのは、彼女のブログの大量のコメント欄ね。「あなたを信じてます!」「応援してます!」という支持者たちの声で埋まってるんだよ。

おぐら そういった支持者のことを、松居一代は「家族」と呼んでますね。「家族のみんな!!」と呼びかけていたり。だんだん精神的な結びつきが強くなってきているように感じます。

速水 その一方、夫で不倫疑惑の船越英一郎が所属する事務所のことは「黒い権力」と呼んでいて、ブログでも自分を消しにかかる芸能界の圧力についてはしょっちゅう書いてる。ほのめかしが多いんだけど、強大な敵を作って自分はそれに押しつぶされそうになっているというアピールがうまい。

おぐら 自分は孤独だ、もう還暦だ、無力だ、という弱音と、叩き斬ってやる、命尽きるまで戦う、といった強気な発言と、支持者である「家族」に対する絶大な感謝と、高低差と人情を巧みに使い分けるバランス感覚が人を酔わせるんでしょう。

速水 そういった人心掌握は、小池百合子の戦術とよく似ているね。

おぐら 小池都知事も自民党都連と揉めたときに、「大きな黒い頭のネズミがいっぱい」と言ってました。

速水 松居一代は「黒い圧力で消された」って。抽象的に悪を表現すると、みな黒くなってしまう。でも、松居一代と小池百合子って、並べてみるとおもしろい。女性中心に支持者が多いとこも含めて似てるかも。

■元祖“ジャンヌ・ダルク”主婦から、“お掃除で開運”のカリスマへ

おぐら 松居一代って、1979年に『11PM』でデビューしてるんですよね? その頃をタイムリーに見ていないので、いつの間にかバラエティ番組で掃除をする人になっていたイメージなんですけど。

速水 彼女は女優としてのキャリアもあるけど、それ以上に、主婦の代表として今のポジションを得ている感じじゃないかな。だから元々お高くとまったスターとかでは全然ない。ちなみに、彼女が大きく注目を集めたのは、欠陥住宅問題で、ここは結構重要な要素だと思う。

おぐら 2000年にPHP研究所から『欠陥マンション、わが闘争日記―ゼネコンに勝った! 壮絶600日の全記録』という本を出してます。

速水 彼女のマンションで水漏れがあって、大手のデベロッパー相手に訴訟で勝利したんだよ。欠陥住宅問題で苦しんでいる人たちにとっては、彼女みたいな、いち主婦が声を上げて大企業に勝つって、ものすごく劇的な物語だった。

おぐら もうこのときから戦っていたんですね。たった一人で巨悪に立ち向かい、勝利する。みんなが大好きな物語です。

速水 その後、お掃除でさらにブレイクするんだけど、テレビのワイドショーで活躍していって、ある種、和製マーサ・スチュワートに近い存在になっていく。

おぐら アメリカの「カリスマ主婦」ですか?

速水 マーサは、家事全般についてのコラムとかでテレビに出たりするようになって、ベストセラー作家でもある。松居一代の場合は、おしゃれとかセンスというよりも、スピリチュアリズムの成分が高めだけど。

おぐら いや、そうなんですよ。ブログの逃亡記でも「日本人は2人しか知らない、奇跡の、パワースポット」「覚悟の、エネルギー充電しているから」と書いていたり、「お財布も人間と一緒で、きちんと休ませることでパワーアップする」という持論を展開した『松居一代の開運お財布ふとん』とか、『松居一代の開運生活』といった本を出しています。

速水 彼女のことを統合失調症じゃないかっていう声も多いけど、統合失調症の人って、自分の身の回りの片づけができなくなってゴミ屋敷になることが多いけど、彼女はその逆だからきっと違うと思います!

おぐら そもそも掃除って、スピリチュアル案件なんですよね。近藤麻理恵の大ベストセラー『人生がときめく片づけの魔法』にしても、まんま魔法って言っちゃってるし、掃除をするにはまず精神の話をしないといけない。

■鳴り止まない「不倫許すまじ」の声

速水 ただ、今のユーチューバーとしての松居一代を応援しているのは、スピ系の支持者じゃないような気がするんだよな。それよりも「不倫」との戦いを支持してる人たちのほうが多いような。主には主婦層なんだろうけど、不倫嫌悪ってすごいんだよね。ほんとに夫の船越英一郎が不倫していたのかどうかはわからないけど。

おぐら いま「不倫許すまじ」の声は、とてつもなく大きいですよ。とくに保守的な中間層による「普通はそんなことしない」っていう。節度を守り、道を踏み外すことなく、当たり前に常識を守ってきた人たちにとっては、不倫とか浮気とか、自分たちが押さえ込んできた欲望に忠実な行為は絶対に許すわけにはいかない。しかも数としては、この層が一番多いですから。

速水 ベッキーの不倫にしても、ネット上の既婚女性たちからのバッシングはすごかった。

おぐら 最近だと、『あなたのことはそれほど』というドラマで、なんの負い目も罪の意識もなく不倫をする女性を演じた波瑠に、視聴者が怒りをあらわにしていました。

速水 波瑠本人がブログで「私は美都には共感できないけど、毎日やらなきゃ仕方ない」「自分が何か得をするためにこのお仕事をしてるつもりもない」と言及したり。

おぐら それよりも僕がグッときたのは、同じくブログで「もちろん不倫はいけないと思います」「でも赤の他人が清く正しく生きているかどうか、私はあんまり興味ないなぁ」って。波瑠! クール! 最高だ!

速水 『VERY』で武田砂鉄がコラムに書いてたけど、VERY妻の不倫もタブーらしくて、かつてセックスは外で済ませてますという発言が載った座談会記事は、超不人気だったらしい。

おぐら どちらも自分に直接的な迷惑や被害が及んだわけではないけど、とにかく不倫は徹底的に批判する文化が出来上がってますよね。

速水 相手がいるから不倫が成立してるはずなのにね。おもしろいのは、ネットで不倫叩きをしている層も、VERY読者も、同じように不倫が大嫌いでバッシングしているというところ。そこの階層が同じなのか、階層を超えた不倫嫌いが蔓延しているのかは不明だけど。

■“魂の劣化”が不倫を招く?

おぐら 一方で、不倫をテーマにした「昼顔」の上戸彩はバッシングされてないんですよね。

速水 あっちは、プラトニック感があるからかな。不倫といっても、手をにぎってどきっとするみたいな、すごく純情ドラマなんだよね。

おぐら というか「昼顔」の場合は、不倫をした結果、いろんなものを失って、いわゆるハッピーエンドを迎えなかったからだと思います。映画版のほうは、当人の気持ちは別として、客観的に見れば不幸な結末でした。

速水 ちゃんと痛い目にあったから、納得できたのか。これは当てずっぽうなんだけど、過度の不倫嫌いってスピリチュアリズムと結びつく問題じゃないかと。

おぐら 不倫をするのは魂の問題?

速水 スピリチュアルカウンセラーに聞いたことがあるんだけど、浮気する人間は、霊性の低い生き物なんだって。

おぐら 不倫と霊性の関係については、考えたことなかったです。

速水 不倫と霊性どころか、日常で霊性についてなんて考えないよ。

おぐら 他人の家庭を壊すのが悪いとか、人を裏切ることは罪だとか、そういう問題じゃないってことですよね。

速水 うん、倫理とか以上に、魂の劣化の結果が不倫であると。スピリチュアルな恋愛においては、肉体は二の次なんだよね。霊的に結ばれた相手とはセックスは関係ない、みたいな。上戸彩が許されるのは、そのへんもあるのかも。

おぐら 霊性が低いとか、魂の劣化とか言われちゃうと、もう何も言えないですよ。

速水 サブカルは霊性の低い生き物だとかね。

おぐら おっと、サブカルの悪口はそこまでだ!

速水 でも不倫嫌いの人たちの中にも、自分は不倫してたり、過去に経験がある人はいると思うけどね。それは表には出したくないのかな。

おぐら 不倫を許せない人たちが驚くほど多いのと同じように、不倫してる人、したことある人も驚くほどいますよ。それこそ「1匹いたら100匹いると思え」です。

速水 ヒアリか!

おぐら 一度でも定着してしまうと、根絶は困難だそうです。

速水 不倫もクセになるとやめられないって言うしね。

はやみずけんろう/1973年生まれ。ライター。TOKYO FM『速水健朗のクロノス・フライデー』(毎週金曜日朝6:00〜9:00)、同局『TIME LINE』(第1・3・5火曜日19:00〜19:54)、フジテレビ・ホウドウキョク『あしたのコンパス』、日本テレビ『シューイチ』などに出演中。近著に『東京β』(筑摩書房)、『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)、おぐら氏との共著『新・ニッポン分断時代』(本の雑誌社)などがある。

おぐらりゅうじ/1980年生まれ。埼玉県出身。フリーの編集者として雑誌『テレビブロス』ほか、書籍や演劇・映画のパンフレット等を手がけている。企画監修を務めた、テレビ東京の番組『ゴッドタン』の放送10周年記念本『「ゴッドタン」完全読本』、速水氏との共著『新・ニッポン分断時代』(本の雑誌社)が発売中。

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