「ワイドショーの主役」小泉進次郎の遊説を支える鉄壁の自民党軍団

「ワイドショーの主役」小泉進次郎の遊説を支える鉄壁の自民党軍団

©常井健一

「安倍さんはレガシーをつくった」進次郎から飛び出した発言は何を意味するのか から続く

 JR予讃線は瀬戸内海の海岸線をなぞるように走る四国のローカル線である。選挙戦中盤の7月13日、香川県と愛媛県の両選挙区(1人区)に入った小泉進次郎はそこを通る特急電車を利用して4か所で演説する予定だった。

 この日、四国一帯では梅雨前線上に発生した低気圧の影響で、台風もかくやという大雨が続いていた。それが原因で、小泉は思わぬトラブルに見舞われてしまう。

■「選挙の基本」を年上の新人に教え込む

 16時過ぎ、新居浜市役所前の公園でその日3回目の演説を終えたばかりの小泉は、愛媛選挙区の新人候補者と新居浜駅の1番線ホームに立っていた。

 移動中とはいえ、常在戦場である。小泉は向こう側のホームに座っている2人組の女性たちに向かって声をかけ、隣にいる候補者を指さして「この人、よろしくね」と売り込んだ。

「あれ、タスキは?」

 小泉にそう言われた候補者は慌てて一度仕舞ったタスキを取り出した。地元では名の売れたタレント候補者とはいえ、生で見たらタダのおじさんにしか見えない。小泉が「選挙の基本」を年上の新人に教え込む姿は、政治家歴10年のキャリアを窺わせた。

「さっきの演説中、『社会の窓』が開いてたんです」

 候補者がトイレに行った瞬間、付いてきたウグイス嬢が小泉に耳打ちした。

「ホント!? ボクが?」

「いえいえ(笑)。候補者の、です。車に乗っている時に直して」

「そうかあ、開いてんだったら、2人で開いていたほうが良かったかなあ。それで、『新しい扉』をこじ開けようと訴えれば良かった。どんな、コンビなんだ(笑)」

 小泉は劣勢に立たされていた愛媛の自民党スタッフたちを笑わせ、場を和ませた。しかし、特急しおかぜ15号に乗り込むと「開かずの扉」に悩まされることになる。

■「電車は止まってしまいましたが、選挙戦は止まりません」

 次の遊説先は、50万人都市の松山だった。だが、小泉を乗せた特急は大観衆が待ち構える会場の最寄り駅まであと15分というところで、落石による立ち往生を余儀なくされる。

 同じ頃、松山の街宣車の上では、党女性局長の三原じゅん子がマイクを握っていた。小泉は17時45分には颯爽と現れ、彼女と揃い踏みするはずだったが、予定時間を過ぎても電車の中にカンヅメにされていた。

 18時、小泉は動いた。候補者と一緒に車内のデッキに立ち、20キロ離れた聴衆に語りかけた。

「はーい、もしもし、松山のみなさん、小泉進次郎です」

 演説会場のマイクにあてがわれた携帯から電車が止まっていることを釈明した上でこう締めくくった。

「電車は止まってしまいましたが、選挙戦は止まりません。諦めずに一歩一歩、勝利に向けて支援の輪を広げてください」

■永田町にある自民党本部は「小泉救出作戦」に動いた

 候補者にとっては、泣きっ面に蜂だ。小泉は電話を終えると、候補者と並んで席に座り、「ピンチはチャンス」と繰り返し、「プラスに、プラスに」と励まし続ける。

 電車に閉じ込められてから1時間後、ようやく途中下車が許可された。だが、無人駅にはタクシーは1台も止まっていない。松山空港から搭乗する予定だった飛行機にはもう乗れない。四国にある他の空港をいくら探しても、そこから間に合う最終便はない。その日のうちに東京に戻れなければ、翌日からの遊説計画は大きく狂ってしまう――。

 そこで、東京・永田町にある自民党本部は「小泉救出作戦」に動いた。

 まず、足止めを食らっていた無人駅に、松山に待機させていた党の車を向かわせた。小泉が到着を待っている間、党本部は「広島空港なら21時35分発の遅い便がある」ということに気づく。瀬戸内しまなみ海道を走れば、海の向こう側にある広島空港まで1時間半で辿り着く。

 他の乗客より一足早めに車外に出た小泉は無人駅の待合室で車の到着を待った。その間、振り替え輸送のための大型バスが2台到着すると、待合室はごった返した。

「どうぞ、どうぞ、写真撮りましょう。一緒に閉じ込められたカンヅメ仲間なんだから」

 小泉は乗客たちに積極的に語りかけ、一人ひとりの携帯電話にタスキをかけた候補者とのスリーショットを納めさせた。

「これ、SNSでどんどん拡散してよ」

 予定外のフォトセッションは10分ほど続いた。小泉はそこでも新人にしたたかな選挙戦術を見せつけたのである。

 乗客全員がバスに乗り移った頃、小泉を乗せた白のバンも広島空港に向けて走り出した。八方ふさがりの状態から道なき道を切り開き、救出作戦を成功させた背景には、知られざる「特命チーム」の存在があった。

■「ごく普通の38歳」を等身大以上に見せる特別の舞台装置

 小泉進次郎という政治家は、天才でも変人でもない。私は「ごく普通の38歳」だと唱えている。政策面ではブレーンたちの助言を得ているようだが、演説技法にいたっては地道な努力の賜物だ。

 しかし、「未来の総理」を強く意識し始めた3年あたり前から、経営コンサルタントの如くわかりにくい横文字を多用したり、凝りすぎたキャッチコピーを得意げに披露したりする場面が目立ち、演説で言い出す「国づくり」の内容は選挙ごとにコロコロ変わる。誰のために何がしたい政治家なのか、わかりやすいようでわからなくなっている。

 それでも、小泉の演説が一定の集客力を保ってこられたのは、自民党の中に「ごく普通の38歳」を等身大以上に見せる特別の舞台装置が存在するからだ。私の手元にある内部資料が、その手がかりの一つとなる。

 タイトルは、「第25回参議院議員通常選挙 事務態勢について」とある。A4判3枚の紙には、220人ほどいる党本部職員全員の名前が記されている。事務方トップに君臨する「永世」事務総長の元宿仁を「統括」に位置付けるそのリストを見ると、一強与党が誇る兵力と布陣が浮かび上がってくる。

■当選1回の頃から精鋭職員を割り当てた

 東京・永田町にある自民党本部では昔から、大型国政選挙に突入する直前に通常の部署の壁が取っ払われる(参照: 「来るなと言われても田中角栄は行く!」 “選挙の神様”が挑んだ史上最大の作戦 )。今回は、「選挙対策グループ」「組織・政策グループ」「広報班」「参議院選対班」「総務・経理グループ」の5グループに再編され、全職員が振り分けられた。

 なかでも「組織・政策グループ」に一番多くの人員が割かれている。総裁の安倍晋三を始めとする党執行部の遊説日程や企業や団体への働きかけを担当する、6班・130人体制の実働部隊だ。その傘下にある「党役員・閣僚遊説班」に、小泉のための遊説チームが立ち上がったのは、6月のことだった。

 総裁や幹事長のために特命班がつくられるのは慣例だが、自民党は小泉を特別扱いしてきた。当選1回の頃から精鋭職員を割り当て、3人がかりで彼の全国遊説を演出してきたのだ。過去6回は男性だらけのチーム編成だったが、今回から若い女性職員が加わった。

 自民党関係者は言う。

「中央よりも地方の声が比較的強い自民党では、大物弁士が各選挙区に送り込まれる際でも、9割5分が地方組織の意向に従って会場や日時が決められています」

■寸分の狂いもない移動時間を独自に割り出す

 残りの「5分」が、総裁、幹事長、官房長官、そして小泉が来援するケースだ。しかも、小泉の場合は演説に立つ地点まで自身でこだわり、党本部がトップダウンで指定するケースが多かった。

 演説会そのものは多くても1日5か所に過ぎないが、小泉が投入されるのは自民党が苦戦を強いられている選挙区。1か所目は高齢者が多い集落で10時半、2か所目は地方都市の中心部で12時半、3か所目は夕方のショッピングモール前――などと、それぞれの演説会が「最も人が集まりやすい時間」に設定されている。小泉は選挙戦が始まれば2週間以上も、乗り物に座って、降りて、喋って、握手して、また車に乗って……を60〜90分ごとに繰り返す毎日を送る。2日に1回は、地方の宿で朝を迎えている。

 一方、「チーム小泉」の面々は党本部7階の一室にこもり、JTBの時刻表や路線サイト、党の地方組織や現地のタクシー会社に直接問い合わせた情報を掛け合わせ、寸分の狂いもない移動時間を独自に割り出す。こうして組み立てられた日程表に基づき、各県警の警備態勢も敷かれ、党本部からはマイクとスピーカーの性能が抜群に良い高機能広報車「あさかぜ」が派遣される。

 さらに、現場にはメンバー3人のうちの1人が毎日派遣され、小泉のかばん持ちをしながら、ツアーコンダクターのような役割をこなす。小泉が分刻みで動き、効果的な応援演説をこなすべく、不可能な移動を可能にする「魔法のじゅうたん」を手作業で敷いているのだ。

 こうして「ワイドショーの主役」はつくられてきた。

写真=常井健一

「潮風に当たるとボクは元気になる」人口200人の離島で進次郎が久しぶりの笑顔を見せた へ続く

(常井 健一)

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