吉本興業はいつから、どのようにして”国策企業”にまでなったのか?

吉本興業はいつから、どのようにして”国策企業”にまでなったのか?

6月5日の南海キャンディーズ・山里亮太と女優の蒼井優の結婚会見 ©文藝春秋

おぐら 今回は吉本興業の話をしたいと思います。とにかく6月は、吉本興業に関連するニュースが本当にいろいろありました。

速水 明るいほうのニュースでいうと、6月4日に南海キャンディーズの山里亮太と女優の蒼井優が入籍したことをスポーツ報知がスクープして、翌5日の結婚会見が大きな話題になった。でもいまは断然、闇営業問題のほうが目立ってる。

■「闇営業」問題で揺れ始めた大企業・吉本興業とは

おぐら カラテカの入江慎也が吉本との契約を解消されたのも6月4日でした。

速水 その後、カラテカ入江の仲介で、雨上がり決死隊の宮迫博之やロンドンブーツの田村亮をはじめ、何人もの吉本芸人が振り込め詐欺集団の宴会に出席してギャラをもらっていたことが発覚。結局、処分されたのは何人だっけ?

おぐら いまのところ発表されているのは14人です。7月19日には、吉本が宮迫博之とのマネジメント契約を解除すると発表。田村亮などは謹慎処分、暴力団関係者の会合で営業していたスリムクラブと2700は無期限の活動禁止処分になりました。

速水 「芸人は闇営業なんてみんなやってる」的な声もある一方で、レギュラー番組を何本も抱えて、これだけ名の知れている人だと社会的な影響力もあるだろうから、吉本としてはそれなりに厳しい処分を下すしかないよね。

おぐら それだけじゃなく、いま吉本興業は企業としてクリーンにならざるを得ないんですよ。ここ何年かの吉本は、政府関係や官公庁との仕事にものすごく力を入れていて、4月には安倍首相が吉本新喜劇の舞台に登場、6月6日にはG20大阪サミットに関連して吉本新喜劇の芸人たちが総理大臣公邸を訪問しています。

安倍総理のG20大阪サミット関連の視察のため、大阪府を訪問(新喜劇に登場)
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201904/20osaka.html

吉本新喜劇メンバー一行によるG20大阪サミット関連の表敬
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201906/06hyoukei.html

速水 まさに闇営業問題で揺れている最中に官邸へ行ってるのか。6月の3日間だけで、有名女優から反社会的勢力に総理大臣と、だいぶ幅広いね。

おぐら 経済産業省が公表している「 吉本興業事業概要資料 」というのがあって、そこの「官公庁 取り組み事例」の項目を見ると、経済産業省や内閣府、法務省、外務省、観光庁、国土交通省から消費者庁まで、もはや日本の中枢にどっぷり入り込んでいるのがわかります。

■クールジャパン機構の役員には吉本興業の名前も

速水 官公庁でいうと、6月18日に行われた沖縄・北方担当大臣の会見では、沖縄の基地返還を見込んで結成された「基地跡地の未来に関する懇談会」に、吉本の大崎洋会長がメンバー入りしていることが明らかになった。

政府、普天間跡地利用で有識者懇=吉本興業会長ら5人
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019061800827&g=pol

おぐら 沖縄と吉本の結びつきも強いですね。2009年にはじまった「沖縄国際映画祭」(※2015年より「島ぜんぶでおーきな祭」に名称変更)の運営も吉本ですし、劇場「よしもと沖縄花月」があって、事務所は「よしもとエンタテインメント沖縄」、吉本が作った学校「沖縄ラフ&ピース専門学校」まであります。

速水 その大崎会長は、7月13日に配信されたインタビューで「ぼくが社長になった当時、社内に反社のような人たちもいた。役員にもいて、身を賭して戦って、やっと追い出したんです」と答えてた。まあでも、社内に反社がいるっていうのは、ある程度歴史のある芸能事務所ならわりと当たり前のような気もするけど。

闇営業、契約書なし、安いギャラ、宮迫の今後…吉本・大ア会長が答えた60分
https://www.businessinsider.jp/post-194568

おぐら 吉本はクールジャパン政策にも深く関わっていて、クールジャパン機構の役員を務めていたり、2月にできた「COOL JAPAN PARK OSAKA」に出資して、パーク内のホールは明石家さんまが命名しています。つい先日、取材で台湾に行ったら、商業施設の一角が吉本の所有で、そこでは4月まで野性爆弾のくっきーを招いた「超くっきーランド in 台北」を開催していました。

感動は国境を越えて -日本のエンタテインメントが挑むアジアという舞台-
https://www.cj-fund.co.jp/investment/project/vol7/

COOL JAPAN PARK OSAKAオープン、明石家さんま「初心に返って」
https://natalie.mu/stage/news/321352

吉本興業、台湾にコンテンツ発信拠点をオープン 第一弾は渡辺直美の展示イベント
https://www.oricon.co.jp/news/2091164/full/

■渡辺直美、ゆりやんレトリィバァ……さらに推し進める「海外進出」

速水 芸人の海外進出も積極的にやってるイメージあるね。

おぐら 渡辺直美が海外で知名度を上げたりとか。最近だと、ゆりやんレトリィバァがアメリカの人気オーディション番組『America’s Got Talent』に出演して、6月11日にYouTubeで配信された番組の公式動画が大きな話題になりましたよね。

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速水 あれも6月か。会社としてはもう、反社の集まりに営業行ってる場合じゃない。

■「言葉を支配する」吉本興業が”国策企業”に生まれ変われた背景

おぐら で、ようやくここからが本題。いまや吉本興業は芸能界の一大勢力というレベルではなく、国策企業なんです。芸能界での影響力を背景に、日本の空気を作り出していると言っても過言ではない。話はだいぶ遡りますが、まずはコミュニケーションの基本となる、言葉の問題。たとえば、テレビ局のアナウンサーが方言やイントネーションを標準語に改めるなか、芸人だけはずっと関西弁を話していますよね。関西弁の普及は、吉本マナーを全国に展開させるための第一歩です。

速水 たしかに、関西弁がこんなに全国へ広まったのは、吉本興業の影響だ。

おぐら テレビの絶大な影響力を使って関西弁が全国に普及したあとは、芸人の間で使われていた「ボケ」「ツッコミ」「フリ」「オチ」「ウケる」「スベる」といったお笑いの専門用語を一般層にまで流通させます。

速水 もはや誰でも使ってる。言葉の支配は人心掌握術としてかなり効果ありそう。

■「お笑いって高尚なんだ」ダウンタウンが作った芸能界の下克上

おぐら 言葉の流通に成功した次は、芸人の地位向上です。これはダウンタウン、松本人志の影響も大きいのですが、とにかく「おもしろいやつが正義」的な、おもしろ至上主義の思想を広めました。ダウンタウンは『HEY!HEY!HEY!』などで、どんなに人気のミュージシャンがゲストに来ても、イジって叩いて笑いに変えた。相手が俳優でもスポーツ選手でも、たとえ大御所や巨匠だとしても、その強硬な姿勢を崩さず、芸人の優位性を誇示していたのが90年代から2000年代。

速水 それまでは芸能界の中でも、芸人は歌手や俳優とは同列に扱われてなかったよね。あくまで下の存在だった。それがダウンタウン以降、芸人の地位も向上して、なんなら「お笑いって高尚なんだ」と思う人が増えたのは納得。

「芸人のマルチプレイヤー化」で一躍”モテ職業”に

おぐら 近年の「笑ってはいけない」シリーズで、芸能人が次々と体を張って笑いをとるようになったのは、そういった活動の集大成にも思えます。そして、2001年にはじまった吉本主催の『M-1グランプリ』では、娯楽だった笑いを競技化させ、芸人を一流のアスリート、あるいはヒーローのように扱うことで崇高な存在に押し上げた。日本全国に、お笑いってすごい、芸人ってかっこいい、そう思わせることに成功します。同時に、数多くのバラエティ番組で、その卓越したトークスキルを披露し、芸人は頭の回転もはやく、全方位的に優秀であることを見せつけた。もうこの段階になってくると、たとえば「理想のタイプは?」みたいな質問に対して、「優しい人」や「かっこいい人」を凌駕する勢いで「おもしろい人」がランクインするようになる。ここから一気に芸人たちはバラエティ番組を飛び出し、俳優として評価されたり、情報番組の司会やコメンテーターにまで仕事を広げていきました。

速水 万能なマルチプレイヤー化していったんだ。だってもういまの時代、芸人は完全にモテ職業でしょう。だから蒼井優と山里亮太が結婚してもみんな大絶賛したわけで、佐々木希が渡部建と結婚しても何の違和感もない。

■コンプライアンス時代に”清廉潔白”として確立された「人気芸人」

おぐら 藤原紀香が陣内智則と結婚した2007年の時点で、モテ方面のブランディングは達成したとも言えますね。社会背景的なことでいうと、就職活動をはじめ、日常の人付き合いにおいても「コミュニケーション能力が大切」と言われ出した時期に、その能力の高さを発揮していたのが芸人です。芸人たちの闇営業問題が発覚したあと、昔の番組で上岡龍太郎が「芸人ちゅうのはなんやいうたら、落ちこぼれ人間です。社会のはみ出し者、アウトロー。いわば暴力団と一緒ですから。我々とヤクザは一緒」「芸人とヤクザが癒着したらいかん言うけど嘘。根が一緒やから癒着も何も」と語っている動画が共感を呼んで拡散されましたが、いまの時代の芸人像とは完全にかけ離れている。いま売れている芸人は、真面目で、誠実で、清潔で、優しくて、人当たりがよくて、コミュニケーション能力と自己プロデュース能力に長けている人たち。もし芸人になっていなかったら、一般の企業でも優秀なサラリーマンとして十分にやっていけるようなタイプ。これはコンプライアンスが叫ばれるようになった時代の要請からいっても必然です。

速水 高学歴の芸人もかなり増えてるし。

おぐら だからいまだに芸人に不良性を求めているのは、ロマンチック幻想とノスタルジーでしかないと思うんですよね。いまの時代、人間としてはめちゃくちゃだけど、ネタは抜群におもしろい、みたいな芸人は、熱狂的な一部の支持は集めることはあっても、大々的に売れることはありません。かつてのアウトロー的な芸人像を体現するような、破天荒で倫理観も欠如しているようなタイプは、メディアからも大衆からも敬遠されます。なんなら、ミュージシャンや俳優よりも、芸人のほうがよっぽど品行方正であることを求められているのが現状でしょう。これは収益構造の問題でもあるのですが、芸人がテレビを主戦場にしている以上、お金の出どころはスポンサーという名の企業です。

速水 ライブや映画なら観客からの直でギャラがもらえるけど、テレビのバラエティで活躍している芸人は、枠としては好感度タレントと一緒だもんね。反社との関わりだけじゃなく、不倫とかについても芸人のほうが許されない立場にいるよ。

おぐら 一方で「M-1グランプリ」や「キングオブコント」といったコンテストで勝ち上がるような、超絶技巧を身につけた芸人や、作家性の強いネタ、ハイコンテクストな笑いを追求するタイプも、数として多くは求められていない。

速水 決勝まで行ってもバイトを辞められない芸人がたくさんいる。

■吉本が仕掛ける”芸人輸出プロジェクト”

おぐら そういった状況のなか、吉本が仕掛けたのが、47都道府県に吉本所属の芸人たちを実際に住まわせて、地域の情報発信を担うご当地タレントに育てる「 よしもと住みます芸人 」プロジェクトです。

速水 吉本に入ったあと、自分の出身地にUターンするってこと?

おぐら いや、違います。出身は関係ありません。縁もゆかりもない土地に行くんです。そのほうがむしろ地元に馴染みやすい。一度は故郷を捨てた人間よりも、新参者による「ここはいいところですね〜」「これが地元の名産ですか? 初めて食べます〜。うわ、おいしい〜」みたいなリアクションが喜ばれるんですよ。地元の人たちとの交流においては、ネタの完成度や作家性は必要ない。となると、地方だけではなく、海外でも通用する。必要なのは、ハイコンテクストな笑いではなく、ローコンテクストな触れ合いですから。いまは国内にとどまらず、海外に移住する「住みます芸人」もいます。

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■お笑いだけじゃない「多才な人材会社」と変換していく吉本興業

速水 立派な輸出産業になりつつあるんだ。芸人が向いているのはわかったけど、他の事務所はなんでやらないの?

おぐら いま吉本に所属する芸人は、およそ6000人です。この数が47都道府県に分散したらもう、他が入り込む余地はないですよ。いくら吉本が自前の劇場をいくつも持ち、マスメディアとも深いつながりがあるとはいえ、6000人は捌けない。この有り余る人材を活用する意味でも「住みます芸人」は理にかなっている。芸人としての苛烈な競争を勝ち抜かなくても、地方のご当地タレントになれば、そこそこ食えるようになる。もともと芸人としての月収が1万円とかであれば、空き家の掃除やリノベーション、農作物の収穫まで、なんでもやりますよね。当然お祭りやイベントも盛り上げますし、地元のテレビにまで出演できる。

速水 役所なんかより、よっぽどしっかり地方創生に貢献してる。

おぐら もうひとつ人材の話でいうと、ピースの又吉直樹が芥川賞を受賞したのを筆頭に、吉本は笑い以外の才能も大量に抱えています。

速水 闇営業の主犯である入江の相方、カラテカの矢部太郎は手塚治虫文化賞短編賞を受賞してた。

おぐら 芸人の「多才であること」アピールは、芸人の地位向上ともリンクします。文才や絵の才能はもちろん、高学歴、高い身体能力、プロ並みの料理が作れるなどなど、吉本はあらゆる方面の人材を抱えている。そう考えると、キングコングの西野亮廣やオリエンタルラジオの中田敦彦がオンラインサロンを運営しているのも、一見すると吉本芸人のメインストリームからはずれていると思いきや、実は会社の方向性的には最前線とも言えます。

■6000人の所属芸人を活用する「教育」の参画も発表

速水 これまでの“芸人仕事”の枠に収まらないことをいかにやるか、っていう。でも多才な人材を抱えたあと、それはどう活用していくの?  全員が「住みます芸人」になるわけじゃないでしょう。

おぐら そこで吉本が乗り出したのが、教育分野への進出です。今年の4月には、吉本とNTTグループが組んで教育関連のコンテンツを配信するプラットフォームを立ち上げることが発表されました。これにはさっき話に出た官民ファンド「クールジャパン機構」が100億円を出資すると伝えられています。

吉本興業が教育に本格進出。NTTと動画配信。大崎会長「吉本は教育の会社になる」
https://www.businessinsider.jp/post-189486

速水 なるほど。いまの吉本なら、国語、算数、理科、社会、体育、美術、どの教科にも教えられる芸人がいてもおかしくない。しかも人気のある先生になりそうだし。

おぐら もちろん、すべての取り組みに対して、吉本が事前に綿密な戦略を立てていたわけではないでしょうが、所属する芸人が増えすぎたことで、どうにか人材を有効活用しようと、地方創生に乗り出したり、これまでの芸人仕事ではない領域へ進出させていったんだと思います。もうひとつ大きな要因として、芸人の売り込みやマネジメントを担う吉本の社員の数が、芸人の数と比べてあまりに少ないせいで、芸人たちが自ら動き出した。テレビのバラエティ番組に出るにも席は限られているし、マネージャーも放任だし、じゃあもう自分でやりたいこと、得意なことを仕掛けていくしかない。たとえば 「ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル」 のブレイクは、そういった本人主導の流れで起きた現象だと思います。

■”芸人”の多種多様化とともに変化する「NSC入学希望者」

速水 そもそも、そんなに芸人を抱えることになったのは何でなの? ほとんどの芸人が、養成所であるNSCに入学して、そこから吉本に入るという経緯だと思うんだけど。

おぐら NSCが儲かるからですよ。入学金と授業料で学費は年間40万円ほど。そこに毎年何百人という入学志望者がやって来る。面接などの試験はありますが、よっぽどのことがなければ合格するので、会社にとっては大事な定期収入になります。さらに、芸人の地位向上と多才化に成功したいま、入学志望者も多種多様。明るくて元気なクラスの人気者や、飲み会で「からの〜?」とか「で、オチは?」みたいな芸人用語を積極的に使っていたような自称“盛り上げ担当”みたいな人、単純に芸人はモテると思って志望する若者もいれば、稼げる職業として選ぶ人もいます。もしくは、芸人が完全に市民権を得たあと、クリーンなお笑いの影響を受けた真面目な人たち。このタイプは、大学のお笑いサークルとかに入って、お笑い好きの仲良しグループでお笑いライブに通っていたような人たちです。

速水 松本人志のお笑い論に影響を受けたような、お笑いマニアはもういないんだ。

おぐら 2018年の「M-1グランプリ」で優勝した霜降り明星の粗品は典型的なお笑いマニアのタイプですが、数としてはかなり少数派だと思います。「お笑いで天下を取る」的な骨太な動機よりも、モテる稼げるチヤホヤされる的な軽い動機のほうが大多数。だって、教室の隅っこでひたすらネタ帳を書いていたような、個性と作家性に溢れる才能のある芸人が、ようやく「キングオブコント」の決勝にまで進んでも、それ以降メディアではほとんど活躍できていないのが現状ですよ。それよりも、バラエティ番組で明るく楽しく芸能人と絡んでいるほうが芸人の活動として目につく。志望者の質も変わってきますよ。

速水 しかもそういうタイプのほうが現に活躍できるんだから、当たり前っちゃ当たり前だね。

おぐら もちろん、劇場やライブハウスに目を向けると、芸人の質や状況も違うんですけどね。ちなみに、動機が軽いタイプでも、さっき話した上岡龍太郎の言っていた「社会のはみ出し者」とはまったく違います。あくまで“ノリがいい”程度で、アウトロー気質ではありません。

■”大阪のノリ”が全国を席巻している「吉本の成功」

速水 吉本の成功という意味では、大阪が東京に勝利したとも言える。

おぐら とくに、競技化されたコンテストで勝ち上がるタイプのネタは、ガラパゴス化したハイコンテクストな笑いなので、マニア層に向いているというか。それよりはノリの良さとか、コミュニケーション能力重視のローコンテクストな楽しさを提供できるほうが、大衆受けもいいし、インバウンド政策とも相性がいい。だからこそ、吉本新喜劇をはじめ、大阪のベタな笑いがクールジャパンに取り込まれるという。

速水 1997年に矢作俊彦が書いた『あ・じゃ・ぱん』という小説があって、そこでは日本が東西に分断して、東側がソ連になり、西側がアメリカになるという、世界大戦後の架空の未来が描かれている。地理的な中心は箱根なんだけど、首都が大阪という設定で、吉本興業の創業者の妻が首相になり、日本が吉本化しているの。おそらく矢作俊彦は大阪が嫌いだから、吉本化したことで日本はえげつない国になったというパロディなんだけど。

おぐら でも実際、現実の日本でも吉本によって“大阪のノリ”が全国規模に広まってますね。

速水 これまでの見立てとしては、輸出産業の要であるトヨタが名古屋にいて、首都は成長を続ける東京で、それに比べると大阪は沈没していると思われていた。でも現実の日本は、クールジャパンとか含め、大阪であり吉本が勝っていた。これ、すごい大事な視点だよ。それこそ「やる意味あんの?」とまで言われている大阪万博を開催する勢いが、いまの大阪にはあるってことだから。

おぐら 大阪は勢いありますよ。だって吉本芸人しかり、吉本マナーがこれだけ日本の空気を作っているんですから。

速水 新喜劇なんて、まさに大阪のイデオロギーだよね。庶民の生活の中にあるおかしみを、大げさにして大衆演劇にするっていうさ。

■芸能事務所ではなく”国策大企業・吉本興業”が抱えた一大事

おぐら だからこそ、今回の闇営業問題は、いち芸能プロダクションの問題ではなく、国策企業が抱える一大事なんです。

速水 そんな国策企業にもかかわらず、所属する芸人との契約は「口頭のみ」「書面では交わさない」っていうのがおそろしいね。

おぐら 今回の闇営業問題は、そういった背景で吉本が会社として過剰とも言えるクリーン化をすすめていた時期であり、芸人の地位が向上したことで、芸を売るというより、好感度を売るタレントのような存在になっていたこと、そういった存在による不祥事を世間が許さない風潮、世間が許さない人はスポンサーも許さない、そして芸人の多くがそのスポンサーからのお金で収入を得ていたという収益構造、そういったすべてが芸人という個人に降りかかってきてしまった。

速水 うん、もはや個人でどうにかできるレベルじゃないってことはわかった。その後の7月の宮迫、亮の告発会見の話などについては、また次回。

写真=山元茂樹/文藝春秋

(速水 健朗,おぐらりゅうじ)

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