この酷暑をどうやり過ごすか――日本の夏、水冷の夏、マッパの夏

この酷暑をどうやり過ごすか――日本の夏、水冷の夏、マッパの夏

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■空冷か水冷か

 あくまでも個人的な好き嫌いの話として聞いていただきたい。

 本田技研工業の創業者、本田宗一郎は空冷エンジンに固執した。二輪メーカーとしてスタートしたホンダにとって、四輪市場でも空冷エンジンを選択したのは自然な成り行きだった。初期の大ヒットモデルN360にしても空冷エンジンを搭載していた。水冷と比べ、造りがシンプルで低コストの空冷エンジンは、本田にとって理想の技術だった。

 しかし、時代は水冷化へと進んでいく。最大の課題となったのが排ガス規制だった。冷却のコントロールが難しい空冷エンジンでは排ガス規制を突破できない。「空冷には限界がある。これからは水冷の時代だ」と若手に説得されても、本田は「水冷といえど結局最後は空気で冷やすんだ。それなら最初から空冷でいいに決まっているじゃないか」と取りつく島がない。

 しかし、1969年に発売した空冷式のホンダ1300は失敗する。ことここに及んで、創業以来の右腕、副社長の藤澤武夫が「あなたは社長なのか、技術者なのか」と本田を問い詰める。暫くの沈黙の後、本田社長は「自分は社長でいるべきだろうな……」と答え、空冷エンジンを捨てた――。

 ホンダで起きた「水冷空冷論争」の有名なエピソードである。僕も断然水冷を支持する。といってもクルマの話ではない。夏場の自宅での冷却方法の話である。

■日本の夏こそ水冷生活

 僕は極力冷房を使わずに夏の自宅生活を過ごすようにしている。何も自然が好きということではない。むしろ逆で、海や山に出かけてアウトドアライフをエンジョイ、というのは金を払ってでも勘弁してもらいたい。いたって非活動的な性分のインドア派を自認している。

 海よりもプール、プールよりもプールサイド、プールサイドで寝転がって冷たい苺のスムージーでも飲みながらだらだらと本を読んでいるに越したことはない。山の方面に行くとしても、登山などというのは論外で、せいぜい高原どまり。涼しい避暑地の家の庭に寝椅子でも出して、冷たいコーヒー牛乳でも飲みながらゆるゆると本を読んでいるのがいちばんの幸せである。

 そういう人工物万歳の僕でもなぜか夏の冷房だけは好きになれない。もともと暑さ寒さに強い体質ということもあるのだが、一日中冷房が効いた部屋にいると体がだるくなってやりきれない。仕事場は都心のビルの一室で窓が開かないので冷房を入れるしかないが、家にいるときはよほどのことがない限り冷房は使わない。

 日々の仕事で使う営業車の中でもそうだ。全ての窓を全開で走っていれば自然と風が入ってくる。暑い夏に風に吹かれるのはわりと気持ちがイイ。暑い暑いと言うけれど、アジアに位置する日本の夏が暑いのは当たり前。カルカッタ(名前を聞いただけで暑そう。行ったことないけど)やデスバレー(名前を聞いただけで死にそう。行ったことないけど)じゃあるまいし、寛かな姿勢で受け止めたい。

 ということで、休日は冷房をいれずに扇風機だけ。いつも通りベッドの上に横になって本を読んでいる。もちろんものすごく暑い。

 ここで頼りになるのが水冷である。すなわち水シャワー。夏の生活は空冷よりも水冷を断固として好む。ちょっと暑くなったと思ったらすぐに水シャワー。すぐそこに開ける涼しい世界。昔だったら庭にたらいを出して行水、という手間のかかる話だったのだが、いまは思い立ったら即シャワーが使える。ありがたい。

■真夏の厳寒

 5分ほど頭から水シャワーを浴びていると、いよいよ涼しくなる。もはや寒いといっても過言ではない。で、シャワーを止めたらその場で5回ぐらいジャンプ。水滴を落としてからタオルで体を拭く。頻繁にタオルを使うので、一度体を拭いたタオルはすぐに戸外で干す。この時期ならすぐに乾く。ありがたい。

 水冷をしておくと、扇風機だけで十分に涼しい。外気温が36度でも「今日は涼しい。ちょっと寒いぐらいだな。今年は冷夏か。やっぱり夏はもう少し暑くなってもらわないと……」という声が心の中から聴こえてくる。

 もちろんそのまま時間が経過すると暑くなってくる。問題ございません。迷わずもう一度水シャワーのルーティンを作動させる。水道がある限り冷夏体験を味わえる。ビバ! 水道。そのままベッドに倒れこみ、扇風機の風を受けていれば、相当に暑い夏の午後でも、そのうちまどろみのひとときを迎えるのは必定だ。

 仕事のある日は帰宅してすぐに水シャワーを浴びる。で、寝る前に長めの水シャワーをもう1回。休日は何度も水シャワーを浴びる。

 そのうち1回は普通のシャワーと同様に頭と体を洗う。僕は正真正銘のハゲだが(ハゲについてはそれなりに意見と主張をもっている(それについては〈ハゲ徹底討論「いちいちハゲを気にするな!」〉を参照)。髪(というか、髪がないので正確には頭部)を洗うときはちゃんとボディソープではなくシャンプーを使う。ハゲの生活をよくわかってない人はここをよく誤解するので注意していただきたい。

 で、わりと重要なのがボディソープの銘柄である。水冷生活を営もうという方はとにかくクールなものを選んでいただきたい。今のところシーブリーズのいちばんスカッとするやつを使っているが、どこかにもっとクールなのがあるのではないかと虎視眈々としている。

 これで体を洗って水シャワーで洗い流すと夏の寒さも極限状態。真夏の厳寒を味わえる。体を拭いた後でさらに頭や体にシーブリーズをふんだんに塗布する。追い鰹ならぬ「追いシーブリーズ」である。若い頃から使っているが、このスースーする液体、まさに日本の夏のためにあると言っても過言ではない。夏のさなかにもかかわらず、一人寒さに打ち震える。これ以上の贅沢はない。

■夏のオールマイティ・ウェア

 さらに大切なのが服装である。前にこの連載で「オールマイティ・ウェア」という話をした。家にいるときはひたすら同じ服を着ている。秋冬のオールマイティ・ウェアは前に話したように厚手のコットンのスウェットの上下なのだが、夏のそれは理想的には真っ裸である(もはや「ウェア」ではないが)。

 確認しておこう。オールマイティ・ウェアの目的、それは2重の意味での楽(ラク)の追求にある。まずは服装そのもののラク。着ていてもっとも楽でストレスがない。もうひとつは行動のラク。選ぶ必要がない、しまう必要がない、取り出す必要がない、着替える必要がないのでストレスフリー。

 このオールマイティ・ウェアの条件からすれば、マッパは最強である。選ぶ必要がない。というか選べない。服自体がないのだから、しまう必要もない。エアリズムや高機能のスーパードライメッシュ生地もいいが、全裸のほうが圧倒的に通気性に優れている。当然ですけど。全裸になるやいなや体感温度は数度下がる。当たり前ですけど。マッパこそ真のノーストレス。日本の夏、キンチョーの夏、マッパの夏。

 全裸オールマイティ・ウェア(?)の最大の利点は、水冷生活との親和性が高いところ。思い立ったらすぐ実行。1秒後には水シャワーに入ることができる。

 ただし、難点もある。秋冬のオールマイティ・ウェアであれば、近くの用事どころか丸の内あたりまでそのままの服装で出て行けるが、夏のオールマイティ・ウェアは自宅内にきつく限定される。近くのコンビニどころか丸の内までマッパで行きたいところだが、これをやると法治国家と全面的にコンフリクトが発生する。

 最大の難点は家族の非難である。いちばんイイのは家族全員でマッパ生活をすることだが、これは容易ではない(その点、独身生活者にとって全裸のダウンサイドはゼロ。ノーリスクノーコストハイリターン)。

 僕も娘が小さい頃はマッパを堅持していた。大切なのは「慣れ」、はじめは非難囂々でも、そのうちに「この人はそういう人なんだ……」という諦観が生まれるのを期待していた。が、そうは問屋が卸さない。

■パンツ一丁

 で、代案はパンツ一丁。この十数年、一歩譲って盛夏はパンツ一丁で暮らしている。日本の夏、キンチョーの夏、パンイチの夏。これが基本である。水シャワーを浴びてからパンツ一丁で出前一丁ラーメンを食べているとしみじみと幸せを感じる。

 ここはパンツのチョイスにもこだわりたい。パンツ一丁スタイルのパンツは、アンダーパンツ(下着のパンツ)でなく、コットン100%の薄くて柔らかいショートパンツ(短パン)を強くお勧めする。そのほうが通気性に優れている。生活の基本は水冷式だが、パンツはあくまでも空冷でいきたい。

 スーパードライとかクールマックスとかの高機能素材を使った短パンもいろいろとあるが、これはアンダーパンツをはくという前提でつくられている。ノーパンで着用するとベタベタして不快である。ノーパンで直に短パンを着用するに限る。この点、女性はスカートという手段があるのでうらやましい限りだ。僕が女だったら絶対にノーパンスカートを励行していると思う。

 以前、夏の暑い盛りにテレビの収録の仕事でご一緒した女性キャスターと休憩時間にこの話題になったところ、「私も同じ主義です」とのこと。「イイなあ、ノーパンスカートは風通しがよさそうで……」と羨ましがっていたら、「いまもノーパンです」。この人はイイ人だと思った次第である。

 水シャワーと扇風機とパンツ一丁さえあれば日本の夏は一丁あがり。皆さまにおかれましては、それぞれお好きなやり方でどうぞお元気にお過ごしください。

(楠木 建)

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