母の認知症発症から8年――阿川佐和子65歳が語る“笑う”介護生活

母の認知症発症から8年――阿川佐和子65歳が語る“笑う”介護生活

阿川佐和子さん ©石川啓次/文藝春秋

 作家・エッセイストの阿川佐和子さん(65)の母・みよさんは今年91歳。認知症の症状が出始めたのは今から8年前のことだった。それ以降、阿川さんは仕事と介護を両立しながら、親の老いに向き合ってきた。昨年、上梓した小説『 ことことこーこ 』は、認知症になった母親と娘を描いた物語だが、阿川さんの体験が大いに反映されているという。

 今や65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症になると言われる時代。私たちは、認知症とどう付き合っていくべきなのか――。阿川さんが実体験を通じて学んだことを語った。

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「これは普通の物忘れじゃないぞ」

 私がそう感づいたのは、2011年の秋。当時、母は83歳でした。狭心症の発作で母が入院し、血管にステントを2本入れる手術をしたあとのことです。

 病室でふと、半年前に起きた東日本大震災の話になったら、母はきょとんとした顔で、「エッ、そんな地震あったの?」と言ったんです。

 以前から兆候は感じていました。銀行に行って下ろしてきたお金をどこにしまったかわからなくなって、しばらくして下着の間から出てきた、なんてこともありました。

 この頃、長年来てくださっている家政婦さんから「こんなこと言うのはナンですけど、奥さまはちょっと物忘れが尋常じゃありません」と電話をもらって、ずいぶんショックを受けたことも覚えています。

 狭心症の手術より少し前、両親と私と弟の四人で外食したときのことです。母がお手洗いに立った隙に、父は私たちに向かって、神妙な顔で、「お前たちは気づいているかどうか知らんが」と、切り出すと、

「母さんは呆けた! 母さんは呆けた! 母さんは呆けた!」

 大きな声で3回、繰り返しました。私は心の中で、「そんな大きな声を出さなくたって、ちゃんと気づいてます」と思ったものですが、父にとっては母の変化がとてもショックだったのでしょう。

 その後、わずか半年前のあの大地震を忘れていたことで、「ああ、これは認知症が始まったな」と、私たちは覚悟を決めたわけです。

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 阿川佐和子さんによる本記事「明るく可愛くボケてゆく母」の続きは、 「文藝春秋」7月号 に掲載されている。

(阿川 佐和子/文藝春秋 2019年7月号)

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