名倉潤さんがうつ病で休養 1年前のヘルニア手術に問題はなかったのか?

名倉潤さんがうつ病で休養 1年前のヘルニア手術に問題はなかったのか?

休養を発表した名倉潤さん(左) ©getty

 8月1日、お笑いトリオ・ネプチューンの名倉潤さん(50)がうつ病を発症し、2ヵ月間休養することを発表しました。

 名倉さんは昨年6月に頸椎(首)の「椎間板ヘルニア」の手術を受けたそうです。椎間板ヘルニアとは、背骨のクッションにあたる軟骨組織(椎間板)の中身(髄核)がはみ出し、そばを通る脊髄や枝分かれした神経の一部を圧迫する病気です。この飛び出した部分のことを、医学用語で「ヘルニア」と言います。

■内視鏡手術や顕微鏡手術が普及している

 首よりも腰(腰椎)に起こることが多く、腰椎の場合は片側の腰やお尻から足にかけて、痛み、しびれ、歩行障害などが起こり、神経まひや排尿・排便障害が出ることもあります。また、頸椎の場合は首や腕、背中に痛みやしびれが出て、お箸が持ちにくくなる、ボタンをかけられなくなるといった症状が出ます。

 手術は、ヘルニアを摘出したり骨を削ったりして神経の圧迫を取り除くもので、傷が小さくすむ内視鏡手術や顕微鏡手術が普及しています。また、髄核の中に針を刺してレーザーを照射し、一部を蒸散させてヘルニアを解消させるレーザー治療を行っている医療機関もあります。

■うつ病の原因となった「手術の侵襲」とは?

 頸椎椎間板ヘルニアでは首の右側を切開して、食道や気管を避けながら頸椎の一部を削り、ヘルニアを摘出する顕微鏡手術が一般的で、名倉さんもこの手術を受けたと推測されます。ところが、事務所の発表によると、手術の経過は良好な一方で、「手術の侵襲という普段の生活圏にはないストレス」が要因となって、うつ病を発症したとのこと。

「侵襲」とは医学用語で、手術や検査、薬などによって、患者の体や心にダメージを負わせることを言います。詳しい経過がわからないのでなんとも言えませんが、名倉さんも術後1年以上経っているにもかかわらず、手術によって受けた体や心のダメージから、なかなか回復できないでいるということなのかもしれません。

 ただ気になるのは、他ならぬ「椎間板ヘルニア」の手術を受けた後、うつ病になったとされていることです。というのも私は以前、椎間板ヘルニアで手術を受けたにもかかわらず、痛みやしびれが余計に悪くなったり、後遺症で歩けなくなったりして、精神的に追い詰められる状況に陥った人を何人か取材したことがあったからです(週刊文春「腰痛治療革命」2013年4月4日号から7回連載)。

■「精神状態を維持していくのがやっと」

 ある患者Aさん(当時40代)は、腰痛がなかなか治らないためMRIを撮ったところ「椎間板ヘルニア」と診断され、手術を受けることになりました。ところが、術後しばらく経っても痛みがとれないため、次に背骨を固定する手術を受けました。しかし、下半身の痛みとしびれが悪化。歩けなくなって結局は車いす生活を余儀なくされるようになりました。

 また別の患者Bさん(当時40代)は、太ももの裏側の痛みが取れないため病院を受診。椎間板ヘルニアと診断され、手術を受けました。「こんなものは手術で簡単に治る」と執刀医に言われたそうですが、その言葉とは裏腹に手術は失敗。右足に行く神経を切断されて、松葉づえがないと歩けなくなってしまいました。痛みで右足を地面につけることもお尻をつけて座ることもできなくなり、「精神状態を維持していくのがやっと」と語っていました。

 お二人とも腰椎(腰)の椎間板ヘルニアで、頸椎(首)が悪かった名倉さんとは異なります。また、名倉さんは「手術の経過は良好」とされているので、Aさん、Bさんのように手術自体に問題があって、後遺症が残ったのではないのかもしれません。とはいえ、名倉さんが手術を受けたのは1年以上前です。手術に何か問題があった可能性もゼロとは言い切れないのではないでしょうか。

■100%の手術をしても、100%よくなるとは限らない

 実は、椎間板ヘルニアの手術は、患者が思うような結果にならないこともあるのです。手術がうまくいって痛みやしびれがなくなる人がいる一方で、完全に痛みが取れないことも少なくないと言います。取材当時、ある脊椎外科医(脊椎が専門の整形外科医)はこう話していました。

「100%の手術をしても、100%よくなるとは限りません。術後に少し痛みやしびれが残ったという人は結構います。『完璧に痛みを取りたい』と思う人か、『日常生活に支障がない程度に改善すればいい』と考える人かで、術後の満足度も違ってきます。それを理解しないまま手術を受けると、トラブルになりかねません」

■かつてはレーザー手術でも多くのトラブルが

 また、手術がうまくいかなかった患者の再手術を多く手がけてきた別の脊椎外科医は、「どこが原因となっているかしっかり診断せず、漫然とヘルニアを取ったとしか思えないケースや、神経が傷つくのを恐れるあまり除圧が不十分なケースも見受けられる」として、次のように厳しく語っていました。

「にもかかわらず、術後に痛みが取れないのは『あなたの心に問題がある』と言われ、泣かされている患者さんがいる。医師の技術不足を患者さんに転嫁すべきではありません」

 私は、「名倉さんも手術でトラブルにあったに違いない」と言いたいわけではありません。そうではなく、椎間板ヘルニアの手術には上記のような問題点があることを知っていただきたいのです。AさんやBさんのケースだけでなく、20年ほど前には、椎間板ヘルニアのレーザー手術を実施していた一部のクリニックでトラブルが多発。脊椎外科医の間で問題視されたことがあり、それを取材して記事にしたこともあります。

■リスクを語らず手術を勧めてくる医師には要注意!

 そもそも、椎間板ヘルニアは痛み止めや神経ブロック注射などでしのげば、ヘルニアの部分が消えるなどして、数ヵ月で自然治癒することが多い病気です。それに、MRIでヘルニアがあっても痛みやしびれが出ない人や、逆にヘルニアがないのに痛みやしびれが出る人がいることもわかっています。つまり、骨や関節の構造異常が痛みやしびれを引き起こしているとは限らず、原因が特定できないことも多いのです。

 ですから、椎間板ヘルニアと診断されたら、まずは痛み止めや神経ブロック注射など保存療法を試し、様子を見てください。通常は、保存療法を3ヵ月続けても治らない場合や、痛みが激烈な場合、筋肉が衰えてきた場合、排尿・排便障害などが出ている場合に、はじめて手術が検討されることになっています。

 しかし、椎間板ヘルニアを看板に掲げている医療機関の中には、手術を売りにしているところが多く、中には保険の利かないレーザー治療を強く推している医療機関もあります。そうしたところでは、保存療法よりも手術を勧められることが多いかもしれません。ですが、手術には上記のようなリスクが伴います。もし手術を勧められたら、保存療法で治る見込みがないのか、手術したらどれくらいの改善が見込めるか、手術に伴うリスクがどれくらいあるかなど、十分な説明を求めてください。

 リスクのことをあまり話さず、「簡単な手術だから大丈夫」と甘いことばかり言う医師は、疑ってみたほうがいいと思います。心配ならば、画像診断などの検査データと診療情報提供書をもらって、別の脊椎外科医(保存療法をしっかり行っている医療機関が理想です)のセカンドオピニオンを受けてから、手術するかどうか決めるといいでしょう。

■「できない」ことより「できる」ことを評価する

 私も30代で椎間板ヘルニアを発症し、痛みとしびれで車が運転できず、仰向けで眠れなくなるなど、とても苦しみました。ですから、体だけでなく精神的な辛さや、早く手術でよくなりたいという気持ちはよくわかります。しかし、半年ほどで痛みもしびれも消え、何事もなかったようによくなりました。

 体の痛みは精神的な落ち込みによって、増幅されるとも言われています。ですから、痛みで「できない」ことより「できる」ことを評価するなど、痛みに囚われ過ぎないことも大切です。名倉さんがどのような状態なのかわかりませんが、とにかく今は仕事のことは忘れて、安心できる環境でゆっくり休んでいただきたいと思います。
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(鳥集 徹)

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