国民的人気キャラの“中の人”が訴える「着ぐるみ灼熱地獄」氷のうは秒で溶け、ネズミは…

国民的人気キャラの“中の人”が訴える「着ぐるみ灼熱地獄」氷のうは秒で溶け、ネズミは…

ひらかたパークの正面エントランス ©文藝春秋

 7月28日、大阪府枚方市の遊園地「ひらかたパーク」で、アルバイトスタッフの山口陽平さん(28)が着ぐるみショーの練習後、バックヤードで倒れ熱中症で死亡した。この件について「週刊文春デジタル」では、同パークの 元着ぐるみスタッフの告白 や、 パーク現場責任者が関係者へ送った懺悔LINE をスクープした。

 元スタッフによると、着ぐるみショーの業界では、いかなるときも人前で着ぐるみを脱ぐのはご法度とされているという。この8月の猛暑の中、日本中のイベント会場で着ぐるみスタッフが奮闘しているが、いつ、山口さんのような悲劇が起こらないとも限らない。着ぐるみスタッフたちに厳しい労働環境について聞いた。

◆ ◆ ◆

■実際は熱風が中で回っているだけ

「よく『着ぐるみに扇風機をつけて中に風を送り込めばいいのでは』って声がありますが、まったく意味がない。私は、話題になった黄色いネズミの着ぐるみに一時期入っていたことがあり、その着ぐるみはまさにエアーを中に送り込んでいたのですが、実際は熱風が中で回っているだけででした。着ぐるみの中に氷のうを入れたりする同僚もいますが、秒で氷は溶けて、逆に湿度が増して蒸すので、これも意味がない、我慢しかないんです」

 こう話すのは、関西の着ぐるみ業界で10年以上働くベテランのAさん(30代)。Aさんは現在フリーで活動しているが、今回死亡事故が起きた「ひらかたパーク」でも一時期働いていたという。

「ひらパーは、ショーやグリーティング(着ぐるみでの接客)だけでなく、着ぐるみを脱いでも仕事をさせられるので大変。休む暇がなかった。『USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)』や『スペイン村』といった大手テーマパークは夏場は事故が起きないようにグリーティングを時短にしたり、休憩も十分にもらえる。ただし皆さんが思うほど時給は高くない」

 日本一有名なあの“夢の国”で、主人公を3年ほどつとめたことがあるB子さん(30代)も日当は1万円前後だった。ただし安全管理は徹底されていたという。

「私はテレビ番組や会場のグリーティングがメインだったのですが、時間管理は徹底していて必ず20分まででした。ショーは別の外人さんが担当し、その後、(グリーティングは)私たちが引き継ぐかたちでした。たとえ、テレビの生放送や人気の番組収録でも、リハ室に入り、着ぐるみを装着してから脱ぎ終わるまでがトータルで20分キッカリという決まりでした。但し、それでも暑い!! 他の着ぐるみに比べて、ヘッド(頭)が多少軽いのですが、それだけです」

■さすがに中止にするのかなと思ったら……

 業界のなかで、最も過酷な現場といわれているのが全国のデパートや住宅展示場などで行われるキャラクターショーだ。着ぐるみの派遣会社に登録し、フリーで西日本を回るCさん(20代)が現状を語る。

「アンパンマンやきかんしゃトーマス、ドラえもん、妖怪ウォッチ、このあたりはどこも30分間ショーをやって、その後、30分間のグリーティング、つまり握手会みたいなことをするわけです。灼熱地獄ですね。去年40℃越える日が続いたときは、みなダウン寸前でした」

 C子さんが昨年、一番過酷だったのは関西のある屋外の住宅展示場のアニメショーだった。

「40℃を超えると暑すぎて、なかなかお客さんも集まらない。もともと11時に始める予定だったのに、主催者が『お客さんの入りが悪いので遅らせます』とか平気で言うんです。アニメキャラたちは蒸し風呂状態のテントのなかで、10分近く待っているんですよ。どんなに辛かったか……。その結果、お風呂が大好きという設定の少女キャラの担当女性が倒れたんですよ。

 さすがに中止にするのかなと思ったら、同行していたイベント代理店のかたが『僕が入るから続投する』と言い出した。でも、背の高さからしても男性にはできない。だから役の担当者を玉突きで変更して強行しました。イベンターがやりたいと言えば、キャラクターの体調が悪くてもイベントを中止にすることはない。しかもお客さんの手前、倒れた女性をテントから出さず、蒸し風呂の中でずっと寝かせていました。辛いことは外、人前には出さないという業界の不文律なんです」

 熱中症対策にイベント前日には十分な睡眠をとることを心がけるよう主催者側から言われているが、実際にはできないという。

「キャラクターショーって朝6時に新大阪駅集合とかで、そこから揃って車に乗り込んで現場に向かうんです。そうなると朝3時とかには起きないといけないわけです。現場に着いたら、通し稽古をやります。それで夜まで働いて、事務所に戻ってからは洗濯もやらないといけない。洗濯や乾燥という着ぐるみのメンテナンスは念入りにしないと次の人に迷惑がかかる。大抵終わる時間は21時を越えますね」(同前)

■「ワキガの人の後にあたると、ウッてなる」

 ニオイも深刻な問題だという。

「着ぐるみのヘッドは洗えないので、消臭スプレーをするが、その程度ではきかないのでアルコールを水で薄めて除菌しまくります。それでもワキガの人の後にあたると、ウッてなる。香水は禁止。なので我慢するしかない。

 シャワーもないので終わったら夏は拭きまくる。暑さ、ニオイ、あと着ぐるみでタイツなどを着るときあるんですけど、それは1人1枚しかもらえない。雨が降るとベタベタして気持ちも悪いのですが、それも我慢です」(Aさん)

 日給は1万円以下で、大抵は7000円前後だという。それでも何故働くのか? 味わったことしかわからない着ぐるみの魔力があるという。

「着ぐるみの仕事って中毒性があるって、やってる子は皆言います。普段の生活では味わえない、お客さんがみんな笑顔で寄ってきてくれて喜んでくれる。それって人生でなかなか味わえない“非日常”だと思う。被っただけでスーパースターになれる。

 たまに戦隊やヒーローショーのお手伝いにいくこともあるんですけど、平日はサラリーマン、土日だけ仮面ライダーをやってるオジサンもいっぱいいます。辞められない、趣味としてやってる人もたくさんいます。給料だけじゃないんですよね」(B子さん)

■「人が入っているということを忘れないでほしい」

?“中の人”たちは今なにを求めているのだろうか。

「夢を売る商売で矛盾しますが、着ぐるみの中には人が入っているということを忘れないでほしいです。着ぐるみが体調を悪くて、命の危険があっても脱げない環境だけは絶対つくってほしくない」(Aさん)

「ちびっ子ショーの後のグリーティングでお客さまと触れあうとき、制限時間を越えて、付き添いのスタッフが間に入っても、引き止められて握手や写真をねだられることが多い。親御さんにはそのへんをしっかりしてほしい。気持ちもわかりますが、着ぐるみのなかはボロボロで1秒でも早く控え室に戻りたい人間が入っているのです」(C子さん)

 東京五輪を来年に控え、“おもてなし”の機会が増えるこの1年、着ぐるみはさらにフル活用される予定だという。

(「週刊文春」編集部/週刊文春)

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