2000人が死亡!? 熱中症 40℃の炎熱地獄からあなたを守る「救命マニュアル35」

2000人が死亡!? 熱中症 40℃の炎熱地獄からあなたを守る「救命マニュアル35」

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 今年7月、大阪府枚方市の遊園地「ひらかたパーク」で、アルバイトスタッフが亡くなるというショッキングなニュースがあった。原因は熱中症だった。

 他にも連日の猛暑の中、相次ぐ熱中症による体調不良で倒れる人が続出。総務省消防庁によると、今年7月29日〜8月4日までに熱中症で緊急搬送されたのは1万8347人、死亡数は57人に上っている。

 予防策は、決して他人ごとではない「熱中症」をまずは知ること。週刊文春で様々な視点から取り上げてきた、真夏の猛威「熱中症」企画をここに紹介する。

※「週刊文春」2013年7月25日号より転載。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のものです。

■熱中症が「認知症」「嚥下障害」をもたらす!?

 過去最悪のスピードで広がる熱中症。近年一番の猛暑だった2010年は、約5万4000人が救急搬送され、なんと1718人が死亡したが、

「7月7日現在、全国で7000人以上が救急搬送されています。これは2010年を大幅に上回るペース。今年は死者が2000人を越える可能性も否定できません」(全国紙厚労省担当記者)

 死に至らなかったとしても、重篤な症状は認知症や嚥下障害などの後遺症をもたらす可能性もある。

 だが、熱中症は対策次第で予防が可能な病気でもある。正しい知識こそが我が身を助けるのだ。

■特に危ないのは「高齢者」と「女性」

「人間は汗が蒸発する際の気化熱で体を冷やします。また、熱くなった血液を気化熱で冷えた皮膚に送ることで温度を下げる。ところが脱水症状になると、体内の水分が減って汗をかけなくなり、その結果、体に熱がたまり熱中症になるのです」(桐蔭横浜大スポーツ健康政策学部・星秋夫教授)

 重症化し、死に至るプロセスは聞くだに恐ろしい。

「体温が上がりすぎると、腎臓、肝臓などの内臓や脳が、徐々にダメージを受けていきます。目玉焼きを焼くと、透明だった白身がゆっくりと白くなっていきますが、似たようなイメージです。同じような状況が臓器の細胞で起きて多臓器不全となり、死に繋がるのです」(同前)

 とりわけ高齢者は重症化しやすい。2010年に死亡した1718人のうち、80%が65歳以上。これは(1)高齢者が暑さやのどの渇きに鈍感になっているからだという。実際、うだるような暑さの中で、長袖のシャツを着て上着を着ても、汗をほとんどかかないという人も多い。

 65歳以上の体温調整機能は、どんなに健康な人でも、20代の頃に比べると約3分の1程度に低下している。汗をかく量が減り、体内の熱を放散しづらくなっているからだという。

 そして、男性より女性のほうが熱中症になりやすい。

 信州大大学院医学系研究科・能勢博教授が話す。

「女性は男性に比べて筋肉量が少ないのですが、実は筋肉というのは80%が水分なのです。その分、体内の水分量も少ない。それだけ脱水症状になりやすいということです。汗腺の数に男女差はないのですが、能力に差があり、女性の方がより汗をかきにくいという性質もあります」

 夫婦で同じ部屋にいて、妻だけが倒れるというケースも多いという。

■「熱中症は再発しやすい」さらにハイリスクな人は?

(2)心臓病や高血圧、肥満の人はさらにリスクが高い。

「心臓病や高血圧の人に処方される薬には、体内の水分量を減らすような成分が入っているものが多い。つまり、最初から脱水症状に近い状態なのです。

 肥満の場合、ネックとなるのはやはり脂肪層。体重が重い分、熱産生量が多い。そもそも体が熱いのです。その上、脂肪層が熱を放散しにくくしています」(至学館大健康科学部・朝山正己教授)

 頻繁に発症してしまう、(3)熱中症リピーターも多い。

「一度熱中症になった人は、熱ストレスに対して体の防衛反応が過剰に働くようになる。以前より汗をかきにくくなるのです」(星氏)

■重篤状態で体温は43度近くに

 迅速で的確な処置が生死を分けると言っても過言ではない。

「熱中症の人がいたら、第一に意識の有無を確認して下さい。(4)意識がない、意識はあるが自力で水が飲めない、などの症状が出ていたら、迷わずすぐに救急車を呼んで下さい」

 そう警鐘を鳴らすのは、『熱中症対策マニュアル』の監修を務めた稲葉裕順天堂大名誉教授。

 熱中症は軽症(T度)、中等症(U度)、重症(V度)と症状が進行していく。

「軽症は、まだ体温が上がり始めた状態を指し、めまいやこむらがえり、大量の汗が出るなどの症状が現れます。とにかく涼しい場所に移動して水分を補給して下さい」(同前)

 症状の悪化を食い止めるためには(5)一刻も早く体を冷やすことが重要だ。昭和大医学部救急医学講座の三宅康史教授が解説する。

「濡らしたタオルや保冷剤などを太い静脈のある首筋やわきの下、足の付け根にあてると効率よく身体が冷えます。患者を横にするときは、嘔吐した場合を考えて(6)横向きに寝かせた方がいい

 また、(7)汗はこまめに拭くように。実はしたたるような汗は熱放散の意味がなく、肌を触ってちょっとじめじめしている程度がまさに“ラジエーター機能”が働く状態だという。

 一方の(8)水分補給は『塩分も一緒に』が鉄則。スポーツドリンクか、経口補水液が最適(詳しくは後述)。

「中等症になると、体温は40度ほどまで上がり、T度の症状が強度を増して現れ、嘔吐することもある。

 もっと進行すると重篤状態になり、体温は43度近くにもなる。こうなると昏睡状態に陥り、呼吸が停止するなどの危険な状態になります」(東京医科大・勝村俊仁主任教授)

 命を取りとめても、対応が遅ければ後遺症を抱えてしまう場合もある。

「体温が上がると、熱そのもので肝臓、腎臓、脳などの臓器がやられる。特に熱に弱い脳がダメージを受け、(9)認知症や嚥下障害などの後遺症を引き起こすこともあります」(三宅氏)

■築20年以上の最上階は「熱中症」になりやすい

 屋外ではなく、住宅内で熱中症になる高齢者が急増している。2010年に救急搬送された患者の6割以上がそうだった。そのうち、暑い日中に居間で倒れたケースと、夜間の就寝中に倒れたケースは、それぞれ4割を占めている。

(10)夜間に熱中症になる原因は、「住宅環境」と「高齢者の冷房嫌い」にあると指摘するのは、慶応大理工学部システムデザイン工学科・伊香賀俊治教授。

「団地など築年数の古い集合住宅は断熱材が入っておらず、天井や壁から熱がそのまま室内に入ってきます。さらに、コンクリートは一度熱を持つとなかなか冷めず、夜になっても建物自体が室内を熱し続けます。昼間の気温が36度まで上昇した多摩ニュータウンの団地では、外気温が24度まで下がった明け方でも、室内は昼間とほぼ同じ、31度前後のままでした」

 特に酷いのが最上階だ。

「搬送された患者のうち、入院する率を調べてみました。1階住民は半数が入院、中間階は80%弱が入院だったのにくらべ、最上階は90%以上が入院しています。(11)一番熱中症になりやすい住宅環境は『築20年以上のコンクリート集合住宅の最上階』です」(同前)

 では、一戸建ての場合はどうなのか。コンクリートの建物に比べ、木造は「熱しやすく冷めやすい」のが特徴。前述と同じ多摩地区の一戸建ての2階の室温は、昼間は33・5度まで上がったが、夜には28度程度まで下がったという。

「ただ、防犯や騒音などの問題で、窓を開けられない家も多い。もし寝室が2階なら(12)夏の間だけ1階で寝るのも有効です」(同前)

■熱帯夜の時期はエアコンつけっぱなし◎

 どちらにしても、大切なのはエアコンの正しい使い方。なぜかエアコンが嫌いだったり、風があたると体に悪いと考えている高齢者は多い。住宅で倒れた人の9割がエアコン設備がないか、あっても不使用だった。

「使わないというお年寄りが本当に多い。節電節約の気持ちも分りますが、大切なのは命。(13)寝苦しくて明け方に目が覚めるような時期になったら、朝までつけっぱなしにすべきです。温度は最低でも28度に設定してください」(同前)

 高齢者だけで過ごす世帯なら、(14)家族がこまめに連絡することも大事。

「家族と同居している場合でも、昼間はおじいちゃん、おばあちゃんだけが残る家庭も多い。どんな暑い環境になっているかわからないのです。(15)部屋に温度計を置いて、午後2時に電話をいれましょう。部屋の温度を聞いて、30度近かったらエアコンをつけるように促すのです」(三宅氏)

■「舌がザラザラ」危険サインを見逃すな

 熱中症予防には、その前段階である脱水症状を少しでも早く察知することが大切だ。まずは(16)尿の色と量をチェック。

「薄い黄色ならいいのですが、それがだんだんと濃い黄色になってきたら要注意。茶色に近いと完全に水分不足です。いつもよりも多めに水分補給をしてください。量が少ない、あるいは尿意があるのに出ないというのは、完全に脱水症状になっています」(星氏)

(17)鏡の前で舌の色を見るのも有効だ。

「脱水により唾液が減ると、舌の上面が赤くなってザラザラしてきます。さらに悪化すると赤黒く、デコボコになってきます」(神奈川県立保健福祉大・谷口英喜教授)

 手からも脱水状態を判断できる。(18)富士山サインと爪サイン。

「手の甲を指先でつまみ上げてみてください。水分が足りないと、皮膚の戻りが遅くなって、少しの間、富士山みたいな形が残ってしまいます。また、爪を上からぎゅっと押すと、白くなりますが、赤みが戻るのが遅いというのも同様のサインです」(同前)

■朝の心拍数で「脱水状況」を見抜ける

(19)手が痺れるのも危険な兆候。親指の先から手がピリピリと痺れてきたら、

「脱水症状により血液量が減って、手の血管が収縮しているのです。ただ、自覚症状がない高齢者もいます。手を握ってあげるのがいいでしょう。気温は高いのに、手が冷たいようだと、10分程度で具合が悪くなる可能性が高い」(能勢氏)

(20)毎朝、心拍を数えて兆候を見抜くこともできる。

「実は心拍数から、体内水分の状態がわかります。朝目が覚めたら、手首の部分で計測する。1分間で普段より5拍多くなると、血液量が100ミリリットル程度減っていると考えてください。換算すると、寝ている間に約1リットルの汗をかいたことになる。それだけ脱水しているわけですから、多めに水分を補給する必要があります」(同前)

 自分の体温を把握しておくことも重要だ。(21)舌下温を測る方法もある。

「婦人体温計などを使って基礎体温を計測します。普段より0・2度ほど高ければ、やはり脱水症状のサインです」(同前)

■起きたら「コップ一杯」を習慣に

 水分補給は重要だが、(22)がぶ飲みは無意味。というのも、一度にたくさん水を飲んでも、小腸で水が吸収されるには30分から1時間もかかるからだ。しかも吸収できる量は、100〜200ミリリットル、つまり約コップ1杯程。500ミリリットルのペットボトル一本を一気に飲み干しても、じつは半分も吸収されない。

「1日に必要な水分量は2〜2・5リットルとされています。食事で約1リットルは水分摂取していますので、残りを飲み物などで摂取する必要があるのですが、その際、(23)水よりも麦茶がおすすめ。緑茶やコーヒーにはカフェインが含まれるため、利尿作用が高いのですが、麦茶はノンカフェイン。また発汗により不足しがちなナトリウムやカリウムといったミネラル成分も豊富です」(星氏)

「ノドの渇きにも鈍感になっているので、時間を決めて飲む習慣をつけて欲しいですね。(24)起床時にコップ1杯。その後、3回の食事とその前後、入浴前、寝る間際といった感じで積み上げていけばちょうどいいと思います」(三宅氏)

「ご高齢の方は特に、トイレが近いからと、水分を控える方もいます。ですが夜間の熱中症も恐いですから、出来れば(25)就寝前にコップ1杯飲んでいただきたいですね」(勝村氏)

■経口補水液は「飲む点滴」

 バランスよく塩分と糖分を補給するのも肝要。よく「水よりもスポーツドリンクを」と言われる所以だが、吸収のスピードでいえばスポーツドリンクよりも、「経口補水液」の方が早い。

「ブドウ糖や電解質が配合されている経口補水液は、まさに『飲む点滴』です。スポーツドリンクとは吸収速度が決定的に違う。また、経口補水液は塩分がしっかりと入っており、糖分は少ない。(26)脱水症状が激しいときは経口補水液がいいでしょう」(谷口氏)

 市販されている経口補水液は、大塚製薬の「オーエスワン」。薬剤師がいるドラッグストアなどに置いてある。冷蔵庫に2、3本常備しておけば安心だ。

 オーエスワンには、ゼリータイプもある。これは咀嚼や嚥下が困難な人でも飲めるようにと配慮されて作られた。横向きに寝かされている場合でも、これなら誤嚥せずに水分補給できる。

 建築関係など炎天下で作業する人たちは、大量の汗をかくのでスポーツドリンクなどでは塩分補給が追いつかない。そんな彼らは、(27)「熱中飴」や「塩あめ」などナトリウム成分が豊富な飴が必需品。

「スポーツドリンクが苦手なお年よりも多いので、こうした飴が見直されています。ただ摂り過ぎには注意。あくまで、汗をたくさんかいたなという時に」(星氏)

■夏は「ダボダボした服」で“煙突効果”を期待

 吸汗性や速乾性が高い服装が好ましいのは当然だが、

「意外に知られていませんが、実は(28)絹は熱中症対策にもってこいの素材。綿などは吸汗性に長けていても速乾性に乏しい、一方、絹は水分をよく吸い、よく蒸発させる特性がある。あと、(29)ダボダボした服は熱が抜ける“煙突効果”が期待でき、昔ながらの甚平やステテコがまた注目されています」(同前)

 直射日光を避けるため、(30)外出時の帽子や日傘は必需品。最近は内側がチタンなどでコーティングされ、熱を溜め込まないようになっている日傘もある。

「首に直射日光があたると、頸動脈が熱され、体温が上がってしまいます。日傘をさせない男性は、(31)Tシャツよりなるべく襟付きの服を着てください。首筋を遮熱するつばのついたキャップやスカーフなどで首を覆うとよいと思います。一見涼しそうですが、地面からの照り返しをもろに受ける(32)サンダルは避けた方がいい」(谷口氏)

■メンソール『熱さまシート』は体感を冷やすだけ

 巷に溢れる熱中症対策グッズだが、なかにはあまり意味のない商品も。

「メントール成分が入った『熱さまシート』などの商品は体感が涼しくなるだけで、深部体温を下げることはなく予防にはならない。一方、(33)首に巻くタイプの冷たいスカーフやアイスノンなどは頸動脈を冷やすので効果的です」(同前)

 前述の通り、高齢者は暑さに鈍感。だからこそ目で見て暑さを知ることのできる温度計は必須だ。

「熱中症の大きな要因となる(34)温度と湿度が測れる温湿度計がオススメ。危険域に達すると、ブザーが鳴って知らせてくれるものは非常に良い。携帯タイプもあるので外出時でも役に立ちます。また、赤外線センサーで鼓膜温を測定する(35)『耳式体温計』も便利。深部体温が測れるため、熱中症の診断に向いています。一般的な『腋下体温計』だと、汗で腋の下がぬれている場合にきちんと計測できないこともあります」(勝村氏)

 夏本番はこれから。知識をフル活用して、熱中症から逃れるべし。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2013年7月25日号)

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