スポーツ各紙「宮迫会見拒否」報道と、朝日おわび記事「安倍首相にやられたあああ」の背景にあるもの

スポーツ各紙「宮迫会見拒否」報道と、朝日おわび記事「安倍首相にやられたあああ」の背景にあるもの

6月29日、G20大阪サミットで議長国会見を行う安倍晋三首相 ©AP/AFLO

 新聞を読んでいて面白いものに「関係者」の言葉がある。

 内部に近いところからコメントを引き出せば記事は厚みを増す。

 たとえば今年1月4日の読売新聞。

「亥年選挙」の解説で「日本政府は今年のG7議長国のフランスと交渉し、8月に予定されるG7サミットより早い6月のG20開催にこぎ着けた」と書いた。そのあとの“首相官邸筋”のコメント。

《首相官邸筋は「全ては参院選を前に見せ場を作るためだ」と明かす。》(読売1月4日)

 つまりG20で成果を見せて参院選をやりたいという首相サイドの計算がわかる。※ちなみにこのとき期待された成果とは北方領土で「計算違い」だったが……。

 このような関係者コメントは説得力がある。新聞の腕の見せ所だろう。

■スポーツ紙の各一面は、宮迫「会見したくない」「逃げた!」

 しかしこの1カ月くらいの新聞を読んでいると、「関係者の話」記事の危うさも感じた。今回はそれらについて振り返ってみたい。

 まず取り上げたいのは7月20日のスポーツ紙の各一面である。

「宮迫会見拒否 逃げた!何一つ語らず引退」(日刊スポーツ)
「宮迫『契約解消でいい 会見したくない』」(スポーツ報知)
「宮迫解雇 『会見したくない』最後まで逃げ腰」(サンケイスポーツ)
「宮迫解雇 引退申し出却下 吉本と信頼崩壊」(スポーツニッポン)

 この数時間後にあの「宮迫・田村亮会見」がおこなわれた。そこで主張された経緯は「会見拒否」「逃げた」とは正反対だったのはご承知の通り。

 なぜこんな劇的なことが起きたのか。事務所の契約解消のお知らせをもとに記事を書いたからだ。

■スポーツ紙の醍醐味は「誰の言い分なのか」読みくらべること

 スポーツ新聞は芸能記事も読みどころのひとつ。きのう芸能界で何が起こったのか? を教えてくれる。各紙には芸能の担当記者がいて言わば「広報」の役割も果たしている。
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 これをもって事務所の言い分を垂れ流しているというのは簡単だが、そこから「誰の言い分なのか」「世の中にどう思わせたいのか」と読みくらべるのがスポーツ紙の醍醐味だと私は思う。

 3年前のSMAP解散報道なんてまさにそうだった。内部の人間への食い込み方がスポーツ紙によって異なり、とてつもない情報戦を連日ワクワクして読んだ。※詳しくは拙著『 芸人式新聞の読み方 』をお読みください。

 今回の「宮迫会見拒否 逃げた!」記事で考えるべき点はどこか。スポーツ紙に対してのツッコミより「これまで芸能界はこの形でオーケーだった」というシステムそのものについてだと私は思う。そこにしみじみする。関係者の情報やコメントだけで成り立っていたものが当事者の発信によってひっくり返されることは今後も起きるだろう。

■朝日おわび記事からは「安倍首相にやられたあああ」という感情が

 続いて振り返りたい「関係者」物件は、朝日新聞の「ハンセン病家族訴訟 控訴へ」(7月9日)である。

 この日の一面トップだったが数時間後に安倍首相は控訴をしない方針を表明した。つまり朝日の一面と逆の結果が出た。

 なぜ朝日は一面トップで自信満々に「控訴へ」と書いたのか。次のコメントがあったからだ。

《政府関係者が8日、明らかにした。》(朝日7月9日)

 政府関係者が言うのだから、との判断があったのだろう。しかし結果は「控訴せず」。

 朝日は翌日「本社記事 誤った経緯説明します」とおわび記事を出した。

 抜粋する。

《法務省や厚生労働省、首相官邸幹部は控訴するべきだとの意向で、あとは安倍晋三首相の政治判断が焦点でした。》

《8日、「ハンセン病関連で首相が9日に対応策を表明する」という情報とともに、控訴はするものの、経済支援を検討しているとの情報を得ました。》

《さらに8日夕、首相の意向を知りうる政権幹部に取材した結果、政府が控訴する方針は変わらないと判断しました。》

 さて、これらを読むとお詫びしている感じなのだが行間から「安倍首相にやられたあああ」という感情が伝わってくるのは私だけだろうか。なんか悔しそうなのだ。

■「控訴へと打つと誤報になるかもよ」

 実際、これまでの「安倍対朝日」の因縁からネット上では《「官邸からガセ情報をつかまされた」との陰謀論も噴出した》(東スポ7月11日付)という。

 しかし「週刊文春」の「安倍政権にハメられた? 朝日新聞大誤報のディープスロート」(7月25日号)を読むと、そこには「朝日社会部記者」が明かしたとして、

《社会部からは、「控訴へ」と打つことには反対の声がありました。法務省幹部からは「控訴へと打つと誤報になるかもよ」とも言われていた。それなのに政治部が“官邸主導”で突っ走ったのです》

 とあった。まさに「関係者」のコメントである。

 さらに別の「朝日関係者」は、

《最終的には安倍総理本人に確認するしかなかった。しかし、今の官邸担当には総理の携帯に電話してすぐ本音を確認できる記者がおらず、周辺の話で判断してしまった。ディープスロートなんていなかったのが真相で、余りにも稚拙な判断ミスです》

 と文春に証言していた。これは説得力があった。

 ああ、やはり「関係者」のコメントはたまらない!

 そして気づくのだ。結局、信じるか信じないかは読み手である自分次第なのである。一般紙、スポーツ紙、タブロイド紙、そして週刊誌。すべてを楽しむ方法はそこに行きつく。組み合わせや工夫によっては単一の媒体では得られない読み方ができる。

 そしてもう一つ。

 こうなると新聞は「関係者」や「内部」にパイプを築き、正しい情報源をいかに保つかという課題があるようにも思える。先ほど私は「新聞の腕の見せ所だろう」とも書いた。

 しかし、それが行き過ぎると単なるズブズブの関係になったり、力を持つ側の広報になってしまう。新聞の政治面・社会面とスポーツ新聞の芸能面は違う。そこはやはり別にしておきたい。

 読む側も細心の注意と自覚を持ちながら、今後も「関係者」情報を楽しみに待つことにする。

(プチ鹿島)

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