「最後の都心直通」相鉄への追い風と緑園都市駅「展望台」のナゾ――2019上半期BEST5

「最後の都心直通」相鉄への追い風と緑園都市駅「展望台」のナゾ――2019上半期BEST5

新たに発表された12000系。この日、報道陣向けの試乗会が行われた

2019年上半期(1月〜6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。トラベル部門の第5位は、こちら!(初公開日 2019年4月6日)。

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 3月28日、相模鉄道(相鉄)とJR東日本の線路がつながった。結節点となる羽沢横浜国大駅でレール締結式が行われた。締結式に先だって、午前中は相鉄の新型車両12000系の報道公開と試乗会が開催され、相互直通運転の開始が11月30日と明かされた。

■車両のブランド「sustina(サスティナ)」とは?

 12000系は、JR東日本へ直通運転するために設計製造された電車だ。基本設計はJR東日本の標準的通勤電車E233系と同じ。E233系は中央線や京浜東北線のほか、相鉄が直通する予定の埼京線・川越線などでも運用されている。開発はJR東日本の系列会社、総合車両製作所が担当した。

 総合車両製作所は、JR東日本の車輌製造部門だった新津車両製作所と東急電鉄グループの東急車輌製造を統合して成立した会社だ。同社の車両には「sustina(サスティナ)」というブランドが与えられている。このブランド名は東急電鉄と東急車輌製造が立ち上げ、総合車両製作所が継承している。ステンレスのJIS規格「SUS」と持続可能性という意味の「sustainable」を組み合わせた。

 sustinaはステンレス車体のブランドだと思われているけれど、じつは車両設計のコンセプト全体を示す。たとえば吊り手や掴み棒の形状、座席の高さなど、丈夫で長持ち、利用者にとって便利な存在であり続ける。人間工学の理に適った設計思想である。

 その意味では素材にこだわらない。内装の素材は布やガラス、プラスチックもある。さすがに車体はステンレスだろうけれど、ほかにsustinaの設計思想に見合う素材があれば採用されるかもしれない。ステンレス車体だからsustina、ではなくて、sustinaの理想に近い車体の素材がステンレス鋼である。

■相鉄といえばこの色を思い浮かべてほしい

 ステンレスは錆が発生しにくい。だから本来は塗装をしないで使う。E233系の車体は素材の地色を生かした銀色のまま。路線ごとに色違いの帯をまとっているけれど、それも塗装ではなくラッピングシートだ。ステンレス車体は塗装不要。したがって塗装を維持するメンテナンスも不要。車体を低コストで維持できる点が持続可能性につながる。

 しかし、相鉄はステンレス車体を塗った。YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマネイビーブルー)という深い紺色だ。これは相鉄の統一ブランドカラーとなっていて、先にデビューした東急電鉄直通運転用の20000系でも採用された。

 ここに相鉄の都心直通への意気込みが表れている。20000系も12000系も、直通先は銀色の電車ばかり。そこにYOKOHAMA NAVYBLUEが異彩を放つ。在来車両も順次、YOKOHAMA NAVYBLUEに塗り替えられる予定とのこと。相鉄の広報氏によると、阪急電鉄のマルーンのように、相鉄といえばこの色を思い浮かべてほしいそうだ。

■駅構内の施設としては不自然な「庭園展望台」だが……

 この日、12000系の発表会が行われたかしわ台駅と、レール締結式が行われた羽沢横浜国大駅は大いに盛り上がった。一方、そのほかの駅は平常通りの静かな日を過ごしていた。この中のひとつ、いずみ野線の緑園都市駅に注目したい。相模鉄道の発展の象徴となる駅である。

 緑園都市駅は、沿線の人々にとって「展望台のある駅」「庭園のある駅」として知られている。高架の複線の両側にホームがあり、上りホーム、下りホームとも、線路と反対側に展望台という名の庭園空間がある。ニュータウン開発のイメージアップか、「緑園都市」という駅名にするために庭園を造ったか。どちらも半分あたりで、半分ハズレ。そもそも展望台というくせに、目隠しの壁が建てられて、景色が見えない場所もある。

 駅構内の施設としては不自然なこの「庭園展望台」は、本当は待避線を作るための空間だ。壁とホームの位置関係を見てほしい。ここに線路を敷けば、各駅停車がこちらに進入して停車できる。そして現在の線路があるところは急行や特急が停車または通過する。

 つまり、緑園都市駅は、各駅停車を優等列車が追い越せる構造として作られた。しかし、当面は増発もなく、追い越しが必要なダイヤにならないため庭園にすることになった。いまのところ、線路に作り替える予定はない。JR東日本との直通運転が始まったとしても、当分はこのままだという。

■相鉄利用者の約7万人が直通線に

 相鉄の都心直通運転は、2000年に運輸大臣の諮問機関「運輸政策審議会」が東京圏に必要な路線として答申した「神奈川東部方面線」を元にしている。相鉄は横浜と海老名を結ぶ本線と、その途中の二俣川と湘南台を結ぶいずみ野線を運行しており、多くの通勤通学客は横浜へ向かっていた。関東の大手私鉄のうち、都心方面への他社直通運転を行っていないのは相鉄のみだった。

 都心直通運転は、本線の途中の西谷から分岐して羽沢横浜国大駅を結ぶ線路を使う。そうなると、いままで横浜まで乗ってくれた人々が、途中駅までしか乗らない。すなわち運賃収入が減るわけで、相鉄にとっては嬉しくないはず。相鉄は横浜まで来ていた利用者のうち、約7万人が直通線に移るとみている。

 しかし、相鉄は直通運転に大きな期待を持っている。既存の通勤客の変化による減収より、都心直通によって沿線人口が増え、乗客も増えると考えているからだ。約7万人の利用距離が縮まっても、それ以上の通勤通学客が増えた方がメリットは大きい。

「東京で勤務する人々にとって、相鉄沿線は住む選択肢になった」(相鉄)

 ゼロからのスタートだ。増える未来しかない。

■さらに追い風が吹いている事情

 直通運転が始まれば、二俣川〜新宿の所要時間は約44分になる。相鉄のほとんどの駅から、山手線内まで約1時間圏内になる。相鉄は都心通勤圏だ。

 さらに相鉄には追い風が吹いている。2022年の「生産緑地指定期限」だ。

 生産緑地とは、市街化区域のなかで営農を認められた土地だ。本来は市街化されるべき土地のため、宅地並みの不動産税がかかる。しかし、一代、または30年を限度として農地の存続を認めた。

 生産緑地の多くが1991年に指定されており、2022年にはほぼ全ての生産緑地が指定解除となる。宅地並みに課税されるなら、農地を宅地にした上でアパートやマンションなど賃貸住宅にするか、いっそ売却しよう、という動きが一斉に起きる。したがって不動産の供給過多、大暴落が起きるという予測もあり、業界では「2022年問題」とも言われている。

 ただし、生産緑地については国の考え方も変化している。災害避難場所の確保やヒートアイランド対策の観点から、住宅と農地の共存に舵を切った。法改正が行われ、生産緑地を「特定生産緑地」に再指定してもらうと、さらに10年間は期限を延ばせる。期限が来たらさらに10年、という具合だ。

 だから、すべての農地がすぐに住宅になるわけではない。しかし、農地を持て余している地主たちが用途変更に動くきっかけになる。2022年問題は、家を買う、借りる側にとっては朗報だ。マイホームの夢が叶う。同じ予算でもっと広い家が手に入る。そして、都心から1時間圏内で、相鉄沿線は他の大手私鉄よりも農地が多い。

■緑園都市駅が本来の使われ方をすると……

 相鉄とJR東日本の直通運転、さらに2022年に東急電鉄との直通運転も開始すると、相鉄沿線の人口は急増するだろう。わたしの希望的予想では、つくばエクスプレスなみの成功パターンになりそうだ。すでにゆめが丘駅の駅前では、大規模な開発工事が再起動している。列車の増発は必至。所要時間短縮の要望も高まり、特急・急行の増発も行われる。

 しかし線路設備がパンクしそうだ。

 そんなとき、

「ふふふ、こんなこともあろうかと、追い越し設備は準備してあるんだぜ」

 と、緑園都市駅の庭園展望台が注目される。

 緑園都市駅が本来の使われ方をする。それが都心直通運転大成功の証となるだろう。

写真=杉山秀樹/文藝春秋

(杉山 淳一)

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