森友取材でNHKを追われた記者が「『NHKをぶっ壊す』に賛同しない」理由とは

森友取材でNHKを追われた記者が「『NHKをぶっ壊す』に賛同しない」理由とは

NHKを退職して、現在は大阪日日新聞で記者を務める相澤冬樹氏。著書に『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』 ©文藝春秋

「NHKをぶっ壊す」……強力なメッセージだ。NHKには常に批判がつきまとう。権力寄りだという批判、あるいは左翼や反日に偏っているという批判、両側から批判にさらされる。受信料で成り立つ公共放送の宿命でもある。

■立花氏の「N国党」は、なぜ支持を集めたのか?

 だが、元NHK職員の立花孝志氏が「NHKから国民を守る党」(N国党)の党首として掲げた「NHKをぶっ壊す」というスローガンは、これまでの批判とはまったく異なる意味合いを持つ。具体的な公約としてはNHKの放送のスクランブル化を掲げているが、それは公共放送ではなくなることを意味するので、事実上、公共放送NHKの解体と同じである。

 もっとも、立花氏がN国党を立ち上げた6年前は、さほど注目を集める存在ではなかった。東京都知事選で「NHKをぶっ壊す」と連呼したことが関心を呼んだが、政治勢力として注目を集める存在とは言えなかった。

 潮目が変わったのは、この4月の統一地方選挙だ。47人が立候補し26人が当選した。これは立派な政治勢力だ。その勢いで7月の参院選にうって出た結果、立花氏が初当選して国会に議席を得ただけではなく、政党要件を満たす得票を集めた。

 その後は、「戦争発言」で日本維新の会を除名された丸山穂高衆議院議員を入党させ、渡辺喜美参議院議員と新会派を組むなど、意表を突く手を次々に繰り出し、すっかり注目の的になっている。

 一体何が潮目を変えたのだろう? 私は、NHK自体ではないかと思う。私がNHKで森友事件の取材をしていたおととしから去年にかけて、上層部から相次いだ、政権に不都合なニュースに対する圧力。私がNHKを辞めた後も「政権忖度」どころか「政権ヨイショ」とでも言うべきおかしな報道が続いている。

 これは視聴者の目にも明らかだから批判は当然強まる。そのことが「NHKをぶっ壊す」と叫ぶ立花氏とN国党への支持を集める格好になったのではないか?

■NHKをぶっ壊す「な」!

 N国党に投票したというある人に聞いたところ、「ぶっ壊す」に賛同するわけではないが、今のNHKのありようはおかしい、制度を変えた方がいい、そういう意味で投票したと話していた。まさか当選するとは思わなかったとも……。同じように「お灸を据える」意味合いでN国党に投票した人は少なくなかろう。

 そんな、一躍「時の人」になった立花氏から、私にフェイスブックで友達申請が届いた。去年、私がNHKを辞めて間もない頃だ。森友事件取材のさなかに記者を外されてNHKを辞めた、という経緯から、お仲間だと思われたのだろう。だが、私のスローガンは「NHKをぶっ壊すな」だ。「な」の一字が加わるだけで意味合いは正反対になる。だから申請にはお答えしていない。

 もっとも、私の「NHKをぶっ壊すな」は、立花氏やN国党に向けたものではない。私が「ぶっ壊すな」と言っている相手は、今のNHKの上層部である。彼らが今のNHKのおかしな報道を許し、そのことが視聴者の批判を集め、N国党の躍進を招いている。つまり彼らこそNHKをぶっ壊そうとしているのである。自分たちの在職期間さえよければ、後はどうなってもいいと考えているとしか思えない。彼らに比べれば私の方がよっぽどNHKを愛している。

■「ネットで課金」への賛同は得られるのか?

 私は常々、既存メディアの中で生き残る可能性が最も高いのはNHKではないかと考えている。それは受信料という強固な経営基盤に支えられているからだ。既存メディアはおしなべてネットメディアに押されている。その点、NHKがネットでの同時配信を始めようとしているのは、将来的にネットで受信料を集めようとしているのだろう。NHKはラジオからテレビ、そしてBSと、時代に即して受信料の性質を変えてきた。その流れに乗ることができれば、今後もNHKの経営は安泰だ。

 しかしこれは受信料を負担する視聴者の皆さまの支持があってのことだ。この内容なら受信料を払ってもよい、と思って頂けるかどうかにかかっている。ましてネットで課金となると、余計にハードルは高くなる。ところが今のNHKの報道で、広くあまねく受信料への理解を得ることができるだろうか?

 NHKは政治に弱い、とよく言われる。それはそうだ。今の放送法の規定では、NHKの最高意思決定機関である経営委員会の委員は、衆参両院の同意を得て内閣総理大臣が任命。予算は毎年、国会の承認が必要だ。人事とカネを握られたら組織は弱い。露骨に報道に介入する政権になったらなおさらだ。

■政治に弱いNHKは、まるで『国営メディア』

 私の高校新聞部仲間で、放送業界に詳しいメディアコンサルタントの境治は、N国党とNHKについての「現代ビジネス」の記事「 『NHKから国民を守る党』が、本気でNHKを激変させてしまう可能性 」で次のように書いている。

〈政治からの圧力に弱い放送局を「公共メディア」として認めることはできない。ということは、NHKの受信料を国民みんなが負担するためには、NHKのしくみを変える必要があるのだ〉

〈「国営メディア」ではなく「公共メディア」と名乗るからには、国会や政権と完全に切り離された存在となるべきだ〉

〈そこを乗り越えないとNHKの未来はないと私は思う〉

 まったく同感だ。私は、受信料に支えられた「公共メディア」NHKは日本にとって必要だと考えているし、今後も存続してほしいと願っている。だが今のままでは無理だろう。

 放送法を改正し、人事とカネを政府与党から独立させるべきだ。そうすれば、NHKにいる、志と意欲と能力の高い記者やディレクターやその他大勢の職員たちが、いいニュース、いい番組を出し続けてくれるに違いない。それしか道はないと思う。そうしないと本当に「NHKをぶっ壊す」ことになりかねない。

(相澤 冬樹)

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