「家の中で一番暑いのはトイレ」!? 猛暑に知っておきたい「熱中症リスク」18のポイント

「家の中で一番暑いのはトイレ」!? 猛暑に知っておきたい「熱中症リスク」18のポイント

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 今年7月、大阪府枚方市の遊園地「ひらかたパーク」で、アルバイトスタッフが亡くなるというショッキングなニュースがあった。原因は熱中症だった。

 他にも連日の猛暑の中、相次ぐ熱中症による体調不良で倒れる人が続出。総務省消防庁によると、今年7月29日〜8月4日までに熱中症で緊急搬送されたのは1万8347人、死亡数は57人に上っている。

 予防策は、決して他人ごとではない「熱中症」をまずは知ること。週刊文春で様々な視点から取り上げてきた、真夏の猛威「熱中症」企画をここに紹介する。

※「週刊文春」2013年8月15・22日号より転載。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のものです。

■“寒暖差”は大敵 まずは正しい対策・対処法を知ること

 今年は「1000年に1度の猛暑」になるという。7月28日の時点で救急搬送された熱中症患者は、全国で2万6860人。都内では、少なくとも60人以上が亡くなっている。

 7月下旬には涼しい日が続いたが、8月は全国的に高温となる見通しで、猛暑が戻る。熱中症にはこの“寒暖差”が曲者だという。

「今年は梅雨明けが早く、明けてすぐに熱波が来ました。そのため暑さに体が対処できず、多くの人が熱中症に倒れてしまったのです。本来ならば、このまま暑さに強い、汗をかきやすい体になっていくのですが、7月下旬に涼しい日が続き、体がリセットされてしまった。“第二の熱波”が来たとき、梅雨明け時と同じ事態になりかねません」(昭和大学医学部救急医学講座・三宅康史教授)

 夏休みが始まったことで、自宅で過ごす時間が増えたり、レジャーやスポーツに出かける機会も多いはず。それだけ熱中症のリスクも増えるが、正しい対策・対処法を知っていれば安心だ。

■「熱中症」はどう発症するのか?

 熱中症とは、体の熱を放散することが出来なくなり、体温が上昇していく病気だ。

「人間は汗が蒸発する際の気化熱で体を冷やします。ところが、脱水状態になると体内の水分が減り、汗をかけなくなる。結果、体に熱がたまり、熱中症になってしまう。熱で脳や内臓がダメージを受け続けると多臓器不全となり、死へと繋がっていくのです」(桐蔭横浜大学・星秋夫教授)

 どんな症状が出て、どう対処すればいいのか。

■高齢者は数日かけて脱水症状に

「体温が上がり始めた軽症(T度)状態なら、立ちくらみ、こむら返り、大量の汗をかく、といった症状が出ます。まずは日陰や冷房の効いた部屋など涼しい場所へ移動し、水分補給をしてください。体を冷やすことも重要で、首筋、わきの下、脚の付け根(鼠径部)に氷嚢や保冷剤をあてがうと効率的です」(三宅氏)

 中等症(U度)は、頭痛、吐き気、脱力感が見られ、重症(V度)になれば、意識がない、痙攣する、体が熱いという症状が出てくる。

「意識がなかったり、自分で水を飲めないようであれば一刻を争う事態です。すぐに救急車を呼んでください」(同前)

■「ここは危ない」注意したい熱中症リスク【自宅編】

「室内で気温30度、湿度60〜70%を超えた状態になると熱中症発症のリスクが高まります」(順天堂大学・稲葉裕名誉教授)

 炎天下で運動を続けていて倒れる、といったイメージが強いが、救急搬送された患者の4割が自宅で倒れている。さらに言えば、その7割以上が65歳以上の高齢者だ。

 自宅で一番多い発生場所は(1)リビング。約4割を占めている。

「リビングは室内を明るくするため窓も大きい分、より日差しを室内に取り込みます。特に、西日が部屋の奥まで射し込む西向きの部屋が危険です。コンクリの集合住宅は夕方4時〜5時頃になって温度上昇のピークを迎えます。日差しが傾いてきても、室温は高いままですので、油断は禁物です」(慶応大学理工学部・伊香賀俊治教授)

 次に危険なのは(2)寝室。

「高齢者は、暑い日が続いた数日間でゆっくりと脱水症状が進行しています。その状態で、水分補給をせずに暑い寝室で寝てしまい、発症するというのがパターン。発見されたときには意識がないか、すでに手遅れの状態といったケースが非常に多い」(三宅氏)

 トイレが近くなるからと、寝る前の水分補給を嫌がる人も多いが、大人は一晩の間に300〜400グラムの水分を汗か尿で排出している。寝る前にコップ1杯の水を飲むのが正しい。

■「家の中でもっとも暑い」のは意外な場所

(3)キッチンは、通気性が悪く熱がこもりやすい空間。

「火力を使っての作業なので、当然室温は高くなります。レストランの厨房では40度まで上がるという報告もあります。家庭の台所もそれに近い状態です」(神奈川県立保健福祉大学・谷口英喜教授)

 ガスコンロの熱効率は40%で、残り60%は室内の空気を暖めているだけ。

「揚げ物や炒め物をすると、5度近く室温が上がりますし、煮炊きを続けると湿度が80%を超えます」(フードコーディネーター)

 湿度が高いと、汗をかいても蒸発せず、体は冷えていかない。換気扇を必ず回し、さらにサーキュレーターなどで風を常に送るなどの対策をとる必要がある。

 昔は北側に設置されていた(4)トイレも、最近は住宅事情で必ずしもそうとは限らない。狭い密室なので、風通しも悪く、湿度が高い。換気扇はあくまで臭い対策のもので、通気にはさほど貢献しないという。南側、西側にあれば太陽の熱で温度も上がるため、家の中でトイレが一番暑いというケースも多い。

「そんな空間に長くいれば危険度は増していきます。長く息めば、血圧が上がり体に負担がかかる。汗をかいて脱水状態になる恐れもあります」(稲葉氏)

■湿度の高い「土の庭」は危険

(5)庭の手入れで、草刈りや植木いじりの最中に倒れるケースも少なくない。アスファルトに比べ、土は輻射熱を出さないため、庭は涼しいと思いがちだが、

「土はしっかりと湿気を吸収しているので、想像以上に庭は湿度が高い。だから、しゃがみ込んで作業をしていると発症してしまうことがあるのです。特に雨の翌日の晴れた午前中などは要注意です」(谷口氏)

■「忘れずに水分補給を」熱中症リスク【仕事編】

 実は、(6)満員電車で熱中症になる人もいる。

「人からの輻射熱と、密集によるストレスで発症します。押しくら饅頭の原理で異常な暑さとなり、列車内の冷房は効果がありません。周囲からの熱と自分の熱で、普段の倍くらいの汗をかくことも原因です」(同前)

 危ないな、と思ったらまずはしゃがむこと。できれば席を譲ってもらうといい。無理せずに次の駅で降りて水分補給しながら、駅員室などで休ませてもらう。

「朝食や水分を摂らずに、駅まで汗をかきながら歩けば脱水状態に陥りがちです。家を出る前に、忘れずに水分補給を」(星氏)

(7)徒歩での外回りは危険がいっぱい。

「アスファルトの路面上は、気温より5度程度高くなっています。ビルや車などからの排熱もあり、体感温度としてはさらに10度ほど高いイメージ」(稲葉氏)

 定期的にコンビニや公園の木陰で休んで、体温を下げるのがいい。

 エアコンを使えるはずの車も、実は熱中症と無縁ではない。(8)営業車で外回りするときも注意が必要。

 JAFのテストによれば、真夏の車の運転席は、僅か1時間半で50度を超える。

「そんな車内を冷やす車載エアコンは非常に強力です。ですが直射日光が車内に射し込んで熱いので、エアコンの風を長時間体にあてることになる。汗はかいていませんが、そうとう乾燥していて、脱水状態になりやすい」(三宅氏)

■夏休みでの出先は子供も要注意【レジャー編】

 待ちに待った夏休みだが、外はカンカン照りの猛暑。だが、(9)海釣りでは、恐いのは直射日光だけではない。

「海面からの反射熱もバカにできません。帽子をかぶっていても、下から日を浴びていることになる。また、長時間にわたって潮風に当り続けると、海水の塩分が皮膚の汗腺を塞ぐので危険です」(至学館大学健康科学部・朝山正己特任教授)

 定期的に濡れタオルで、肌をぬぐうと効果的。乗船中であれば、どんなに具合が悪くなっても救助には来てもらえない。普段以上のケアが必要だ。

(10)プール・海での日焼けも危険を孕んでいる。

「海面からの照り返しもそうですが、真っ白な砂浜も、鏡のような効果が。カメラのレフ板のように、ほとんどダイレクトに日差しを照り返しています」(稲葉氏)

 日焼けも、むくむほどになれば炎症で、血管の水分を奪っていくので、脱水症状の原因になる。

 日焼け止めを塗っても、

「紫外線はカットできても、赤外線はカットできないものがほとんど。熱を遮断できるわけではないので、油断していると酷い熱中症になります」(谷口氏)

■「猛暑×アルコール」非常に危険な組み合わせ

(11)バーベキュー・キャンプなど、炎天下でのアルコール摂取は、非常に危険。

「アルコールによって体が熱を帯び、汗をかき熱を逃がすといった生理機能が低下するため、いつのまにか体温が上昇し、血管が拡張したまま血圧が下がり、失神することも」(朝山氏)

 脱水症状も進んでいく。

「ビールは利尿作用があり、飲んだ量の1・1倍の水分を排出してしまいます」(心臓血管センター北海道大野病院・大城和恵医師)

 感覚が鈍る分、飲みすぎによるフラフラや頭痛なのか、熱中症が原因なのか区別が付かなくなる。そんな時は、手の痺れやこむら返りがあれば熱中症だ。

(12)野外コンサートでは、トイレが混むから、途中で抜けたくないからと、つい水分を控えがちに。満員電車と同様、周囲の人からの輻射熱もある。さらには集団心理も。

「実は、人が大勢集まり同じ行動をする場所では、熱中症が連鎖することがあります。隣の人が倒れてもパニックにならず冷静に対応しましょう」(谷口氏)

■「登山はより注意が必要」思わぬ場所でのリスクを紹介

(13)ゴルフのような仲間で行動するスポーツは、ペースを合わせようとしたり、後ろの組との距離が気になって、つい無理をしがち。いつのまにかオーバーワークとなっている。

「グリーンまで歩き続けて来て、急に立ち止まって集中する、パット時が一番危険です。このタイミングで体に異変を感じたら、プレーを切り上げたほうがいいでしょう」(星氏)

(14)登山の問題点は、大量の汗をかくのに、装備の関係で必要なだけ水分を持っていけないこと。さらに、気圧が低くなると、体の水分がより奪われるという。

「意識がはっきりしないようなら、すぐに山岳救助を呼ぶべきです。助けが来るまでの間、日陰がなければレジャーシートなどで日陰を作り、リュックの背板などで扇いで少しでも体を冷やしましょう」(大城氏)

 冷房設備のない(15)体育館では、温度上昇が激しい。

「夏の時期、朝9時頃の体育館は、すでに室温が40度近くになっています。屋根が天井になっているため、直射日光の熱をそのまま室内に取り込んでしまうのです」(稲葉氏)

 建物の大きさの割に窓が少ないのは、バドミントンや卓球などの競技も行われるため。風を通さないので、1度上がった気温は夜になっても下がらない。

「屋内競技で発症率が一番高いのが剣道です。重症に至る割合も高い。1時間の練習による発汗量は、防具をつけた場合は、つけない場合の1.5倍に」(同前)

■「持病がリスクを高める」外出しない選択肢も考える

 肥満、高血圧といった(16)生活習慣病や心臓病の人は、熱中症のリスクが高くなる。

「降圧剤は利尿作用を持つものが多く、体内の水分量が少なくなりがち。ただ、水分を摂取しすぎると心臓に負担がかかる。また、脂肪が熱発散を阻害するので、肥満体質の人も注意が必要」(東京医科大学・勝村俊仁教授)

(17)糖尿病の人は知覚神経が正常に働かず、暑さの感受性を鈍らせるので危険。

「腎機能の低下で水分吸収が上手くいかず、熱中症にかかって水を飲んだとしても、だだ漏れ状態になってしまうのです」(同前)

(18)冷え性の人も危ない。

「平熱が36度程度しかないような人は、体内の温度調節機能がしっかりと機能していない可能性があります。平熱が1度下がると免疫力は30%、基礎代謝は12〜20%も下がります。自律神経があまり働かない状態なので、発汗などがうまく行われず、熱が発散されないで非常に危険な状態になることがあります」(東京女子医科大学・川嶋朗准教授)

 “心頭滅却すれば火もまた涼し”の精神論も結構だが、死んでしまっては何もならない。熱中症という“自然災害”を甘く見ず、外出しないという選択肢も含めて慎重に行動すべきだろう。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2013年8月15・22日号)

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