日本で1つだけ「青春18きっぷで“船に乗れる”のはどこ?」 現地に行ってみた

日本で1つだけ「青春18きっぷで“船に乗れる”のはどこ?」 現地に行ってみた

宮島口〜宮島を結ぶJR西日本宮島フェリー

 日本三景のひとつにして、世界遺産にも登録されている安芸の宮島。広島市内からもほど近く、1年を通して国内外の観光客で賑わっている日本でも有数の観光地だ。島だから当然だが、宮島を訪れるには船に乗らなければならない。広島港や平和記念公園からの航路もあるが、主なものは2つ。宮島口の桟橋から約10分かけて宮島までを結んでいる宮島松大汽船の航路と、JR西日本宮島フェリーである。そしてこのJR西日本宮島フェリー、かつては全国各地にあった国鉄系列の“鉄道連絡船”唯一の生き残りでもある。屈指の観光地への輸送と鉄道連絡船というふたつの顔を持つJR西日本宮島フェリー、いったいどのような航路なのだろうか。実際に、現地を訪れた。

■宮島の来島者は「毎月過去最高」

 JR山陽本線宮島口駅からまっすぐ海に向かって歩いて約5分。フェリー乗り場である宮島口桟橋で出迎えてくれたのはJR西日本宮島フェリーの武安つとむ営業課長と、長年船長を務めていたという大田修司運航部長だ。取材日はちょうど台風が接近しているということもあって利用者の数はやや少なめだったというが、それでも乗船を待つたくさんの観光客が桟橋上に列を成していた。

「観光シーズンはほんとうにたくさんのお客さまが宮島に来島されます。特にここ数年はインバウンドの効果もあって宮島航路も多くの方にご利用いただいています。昨年は西日本豪雨の影響で観光産業も大きなダメージを受けましたが、国の復興キャンペーンなどのおかげもあって昨年11月から今年6月までの宮島来島人員は毎月過去最高記録を更新しています」(武安さん)

 宮島フェリーの1年あたりの利用者数は2017年が過去最高。昨年は西日本豪雨があって一時的に落ち込んだが、山陽本線が全線で運転を再開した11月以降は絶好調だとか。

「お正月の元旦とGWの中日、8月末の宮島水中花火大会で弊社航路による宮島来島人員が1日2万人を超えるんです。今年はGWが10連休だったので全体的に増えるだろうとは思っていましたが、ピークは例年通りは5月3・4・5日あたりだと思っていました。ところが、蓋を開けたらいい意味で裏切られまして。4月30日と5月1日に今までにないくらい多くのお客さまが来られて……。平成最後の日と令和最初の日の御朱印を求める方がたくさん来られたんですね。特に5月1日は約2万5800人。ある程度の混雑は予想していましたが、ここまでとは……。蓋を開けてびっくり、でしたね」(武安さん)

■「フェリーの8割が外国人観光客」というときも

 現在、宮島フェリーを利用する人の多くは外国人観光客だという。日本人のほうが多くなるのは正月やGW、お盆くらいなもので、他の時期は外国人が大半を占める。時期によっては8割ほどが外国人観光客になることもあるそうだ。その理由は、外国人観光客がお得に鉄道を利用できるフリーパス「ジャパンレールパス」でこの宮島フェリーも乗れるから。

「来られるのは……もはやどこの国が多いとかはないですね。何か特別なイベントがあるのかと思うほどヨーロッパの方が多い日もあれば、インドとかアジア系の方が多いこともある。ありがたいことに世界遺産に登録されてからはとにかく世界中からお越しいただいています」(大田さん)

 ほぼ同じルートを結ぶライバルに宮島松大汽船があるが、約10分の所要時間も180円という運賃も同じ。かつては競争相手として激しく乗客を奪い合ったこともあるようだが、今では“共存関係”。「いっしょにこの地域を盛り上げていきましょう、という関係になっている」(武安さん)のだとか。

■120年以上の歴史 “鉄道連絡船”唯一の生き残り

 JR西日本宮島フェリーのルーツをたどると、1897年に広島の実業家たちによって航路が開設されたことに始まる。現在の山陽本線を当時運営していた山陽鉄道が1903年にその航路の営業を引き継ぎ、1906年に山陽鉄道が国有化されてからは官営(国鉄)の宮島航路として長く続いてきた。

 過去、国鉄は津軽海峡を結ぶ青函連絡船や本州と四国を結ぶ宇高連絡船、さらには関門海峡をゆく航路など多くの鉄道連絡船を持っていた。そのほとんどはトンネルや橋の開通、利用者数の減少などによって姿を消してしまい、現在“鉄道連絡船”として残っている国鉄系の航路は宮島連絡船ただひとつ。観光客輸送という他の航路にはない特色が、生き残りにつながった。そうした中でも“鉄道連絡船らしさ”はしっかりと残っているそうだ。

「きっぷは鉄道と一緒に1枚で買えますし、全国のJRのみどりの窓口でもごく普通に鉄道のきっぷのように取り扱っています。ジャパンレールパスだけでなく、青春18きっぷでも乗ることができますよ。あとは特徴的なのは最終便と鉄道との接続でしょうか。宮島口から宮島までの最終便は22時42分発なのですが、それに接続する山陽本線の電車が遅れていたら出航を遅らせたり遅延時間によっては後続便を出したりしています。遅延列車の運行状況はJR広島支社の旅客指令から連絡が入りますし、逆に台風の接近などによる宮島航路の欠航などの運航状況もすべて旅客指令など関係各所に連絡体制もあります。あとは郵便輸送をやっているのも連絡船らしい特徴のひとつといえるかもしれませんね」(大田さん)

■始発は朝5時台、最終便は夜22時台

 宮島へのフェリーというと観光客の輸送ばかりに目がいくが、実際には宮島に暮らしている人や働いている人の通勤通学のための交通機関としての役割も持つ。そのため、宮島フェリーは始発が朝5時台、最終便は夜22時台と松大汽船と比べても運航時間帯が長い。観光客だけでなく地元の人の日常の足――そういう一面も、“連絡船らしさ”といえるのかもしれない。

 現在、宮島フェリーは日中15分間隔、多客期には10分間隔で運航されており、日中の宮島行きは嚴島神社の大鳥居の方に大きく迂回する“大鳥居便”として走る。

「船はみせん丸・みやじま丸・ななうら丸の3つ。通常は2船体制ですが、多客期には3船がフル稼働して走っています。大鳥居便は少し遠回りになるのですが、エンジンの回転数を調整しているので約10分の所要時間は変わりません。お客さまはみなさん弥山を背景にした厳島神社とその大鳥居を真正面から見たいですから、船が傾くというと大げさですが、それくらいみなさん鳥居のある右舷側に集まるんですよ。」(大田さん)

 ならば運航にはずいぶんたくさんの人手をかけているのかと思いきや、基本的には船長と機関長の2人体制。船長は操舵室から離れることができないため、乗船・下船の案内は機関長と桟橋業務を委託している関連会社・JR西日本広島メンテックの社員が担当しているのだとか。

「船長はずっと舵から手を離せないですよね。比較的波は静かなところなのですが、それでも潮や風の影響を受けますから、停泊中も舵から手が離せない。航行中もずっと舵を取っています。大型船では、ふつうは出入港時以外は船長が自分で舵をとることはなくて、操舵手に指示をするものなんです。ただ、ウチでは2名体制ですから船長自ら舵をとっています」(大田さん)

■船長は1回の勤務で15往復

 もちろん安全への配慮は万全。とはいえ、船において一番危険が高まるのは出港・入港だと言われる。宮島フェリーでは出港から10分で入港するのだから、とうぜんその頻度は一般的な航路とはケタ違いに多くなる。船長は通常、休憩を挟みつつ1回の勤務で15往復ほど。

「船長として採用する人は基本的にすでに他の船に乗っていて資格を持った人に限っています。なので、船を扱うことに関してはみんな経験豊富なプロ。それでもこれだけ出入港が多い航路はなかなかないですからね。国際航路だったら入港態勢になるのは1航海で1回か2回くらい。それが10分ごとですから。オートパイロットに任せられる時間帯もせいぜい数分。しかし毎日多くのお客様を安全にお運びすることに、喜びとやりがいを感じるようになるんですよ。世界遺産の宮島観光を楽しみに遠方から来られるお客様を毎日お出迎えしているわけですからね。船に乗って頂く、乗って頂けるという気持ちと、フェリーからの眺めを愉しんで頂きたいという気持ちが芽生えてきます」(大田さん)

■強雨にも強風にも“負けない”

 船というと、やはり気になるのが波や風の影響。風が強くなればとうぜん欠航せざるをえない。また、航行する海域によっては特別な注意が必要なことも多い。宮島フェリーではどうなのだろうか。

「10分間の平均風速が15mを超えるなど一定の条件下で運航の可否を判断する規定があります。ただ、欠航になるのは1年に数回しかありません。台風直撃の頻度と同じくらいですかね。もともと静かな瀬戸内海のさらに内海なので、強風が吹くことはほとんどないんです。強い雨が降っても大丈夫。もちろん船長が気を使うことは増えるんですが」(大田さん)

「大雨だとお客さまからの問い合わせも増えます。『雨がひどいけど船は動いていますか?』って。だけど雨じゃとまらない。風もよほどじゃない限り同じです。もちろん『絶対止まりません』とはいえませんが、JRの鉄道が止まっていてもこちらは動いていることなんてよくあります。鉄道の場合は止まっても代替交通がありますが、航路はそうはいかないですからね。安全に動かすことが確認できれば、可能な限り運航しています」(武安さん)

■かわいいクジラが見られたらラッキー

 実際、筆者が取材に訪れた当日は九州に台風が上陸していた。そのため宮島フェリーの運航状況も気になったが、「まったく影響はなかった」(武安さん)そうだ。

「海域としても特に船が多いところでもないですしね。クジラなどの大型動物とぶつかるようなこともありません。宮島航路では……せいぜいスナメリクジラをみかけるくらい。小さくてイルカみたいなかわいいクジラで、見られた方はラッキーですね(笑)」

 宮島の弥山にあたった風が吹き下ろしてくる“弥山おろし”や、花火大会時に急増するプレジャーボートなど注意すべき点もあるが、運航に支障きたすほどのことはほとんどない。宮島フェリーの強みのひとつといってもいいだろう。

「ですから、特にお気になさらず気軽に乗りに来ていただきたいですね。宮島口の桟橋には改札口もないので、交通系ICカードがあれば簡単に乗れる。もちろん青春18きっぷもご利用いただけます。大鳥居の近くを通る弊社の航路で、嚴島神社と弥山のスケールの大きな風景をぜひ楽しんでください」(武安さん)

 ちなみに、現在厳島神社の大鳥居は修復工事中で、真っ赤な鳥居の周囲に足場が組まれている。今後はさらに覆いができて鳥居そのものを見ることもできなくなる予定だとか。8月中ならまだギリギリ“足場越し”の鳥居が楽しめる。夏の青春18きっぷが使えるうちに、“最後の鉄道連絡船”宮島フェリーに乗ってみてはいかが?

写真=鼠入昌史

(鼠入 昌史)

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