「長官を攻める私でも、夫婦ゲンカは受け身です」東京新聞・望月衣塑子記者インタビュー#2

「長官を攻める私でも、夫婦ゲンカは受け身です」東京新聞・望月衣塑子記者インタビュー#2

(c)橋本篤/文藝春秋

 原則として平日の午前と午後、首相官邸で行われる菅官房長官の記者会見。今年6月以降、ここに突如として現れた一人の記者が注目されている。

「東京の望月です」と名乗ってから、矢継ぎ早に長官に質問をぶつける女性記者。東京新聞社会部、望月衣塑子記者(42)である。

 鉄壁の長官に果敢に攻め込むこの人は、一体どんな人なのか? #1につづく、インタビュー後編です。

■社会部記者はしつこくて、常に怒ってる

――菅官房長官の記者会見を取材するようになってから、社会部記者と政治部記者の文化の違いがよく分かったそうですね? 例えばどんなところなんでしょうか。

望月 質問の仕方は違うなあと、改めて感じました。政治部の方たちは日々政治がどう動くかを見ているわけで、北朝鮮のミサイルが発射されたときに菅さんや外相のコメントを取ることが仕事ですからね。一言引き出せればそれがニュースになる世界でもあるんです。だから自然と淡白になるのかも。私のように、事件取材でしごかれてきた身としては異文化でしたから、初めは驚きました。

――社会部の記者の方は、望月さんのように畳み掛けるように質問するのが当たり前だとお聞きしたことがあります。

望月 そうですね。私たちが普段、相手にしているのは警察ですが、事件についてはあまり詳しく教えてくれないんです。裁判まで伏せておきたいことが多いので。だから、新聞社に入社したばかりの駆け出しのときから、会見や取材のときに何回も何回もしつこく聞くということは徹底的に叩き込まれるんです。あと、社会部の人は、たいてい怒ってる。

――怒ってる?

望月 加計学園問題の疑惑にしても、社会部記者は一つ一つ疑惑の種をフォローして根掘り葉掘り取材します。そのモチベーションの一つは、一体どうなってるんだ! という怒りだと思うんですよ。

■文春を引用して質問したら突っぱねられた

――望月さんは官房長官への質問のときに「週刊文春によれば」とか、雑誌を引用されることがありますよね。記者会見では珍しい質問の仕方ではないですか?

望月 そうかもしれないですね。でも最近、雑誌に出ていることをここで聞くなという、会見での不文律があるということを知りました。『文藝春秋』や『週刊文春』が加計学園問題をルポした記事を引用して質問したときも、菅さんから「雑誌のことについて、政府として答えることは控えたい」と突っぱねられました。雑誌はいまや政治を動かす大きなきっかけになっているのに、政治家は「雑誌だから」「週刊誌だから」と否定して逃げることが多い。裏を返せば、それだけ雑誌が政治家にとって痛いところを突いていることの現れなんだと思います。

――望月さんの質問で印象的だったのがもう一つ。加計問題で出てきた「総理のご意向文書」を菅長官が「怪文書」と批判したことに関して、わざわざ『広辞苑』を引っ張り出してきて聞いていましたよね。あれはどんな意図があったんですか?

望月 ああ、ありましたね。「怪文書」って結構きつい意味合いなんですよ。「いかがわしい文書。無責任で中傷的・暴露的な出所不明の文書または手紙」。あれは菅さんが使った「怪文書」という言葉が、いかにひどい文脈で使われているかを、本来の意味をバシッと出して問いただしたくて入れたんです。質問するにあたって、私はけっこう朝のニュースを参考にしたりもするんですが、字幕スーパーで出るような、ああいうキャッチーな言葉をバシッとぶつけたいところがありますね。

■うちはわりと政治部と社会部の垣根が低いんです

――会見に参加している他社の記者たちの印象はいかがですか?

望月 一時期、朝日新聞の社会部記者さんは来られていましたが、常時はいないですね。いま、朝日新聞の元官邸番の南彰記者がよく来られています。私よりずっと論理的に攻め、練り込まれた質問をぶつけ、よい回答を菅さんから引き出していていて、すごいなと感心します。ジャパンタイムズの吉田玲滋記者も鋭い質問を浴びせていますね。

 毎日新聞はすごく加計問題を扱っていますが、社会部の記者の方は来ていないです。それぞれの取材が忙しいというのもありますし、政治部の敷居が高くて入れないというのもあるのかもしれません。社によっては、政治部と社会部がかなりケンカしているとも聞きますので。

――東京新聞の社内的には、望月さんの活動を後押ししているような感じなのですか?

望月 うちはわりと政治部と社会部の垣根が低いんです。「質問しにいっていいですか?」って聞いたら、「いいよ」と。でも、こんなことになるとは思っていなかったと思います。ご迷惑も多々かけていると思いますが、これだけ官邸や政権が、国民に対して、隠し事や改ざんまがいのことを続けている限りは、疑念をぶつけないわけにはいきません。読者の方から数多くの応援メッセージが来たり、購読者が増えたり、会社にとっても良い面もあるようで、批判があっても「頑張ってこい!」と背中を押してくれるのはとても有り難いことで、会社には大変感謝しています。

■いつも警察の先を行っちゃう清水潔さんは神

――ところで、記者として望月さんが尊敬される方はどなたかいらっしゃいますか?

望月 清水潔さんのすごさは別次元ですね。私たちは事件を追っていても、先に警察の捜査があって、そこにたどり着くのがやっとですが、清水さんは足利事件にしても、桶川ストーカー殺人事件にしても、先に自分で取材して犯人を特定してしまいますからね。事件屋からすると、神様みたいな存在ですよ。いつも警察の先を行っちゃっている(笑)。文筆家の菅野完さんの戦後を総括して、現代の日本の形を切り取ろうとしている姿勢にも、同世代なのにまねできないすごさを感じています。

――望月さんが記者を目指した理由はどんなものなのでしょうか?

望月 中学の頃、吉田ルイ子さんという元朝日放送のアナウンサーでジャーナリストの方が南アフリカのアパルトヘイト政策について書かれた本を読んで衝撃を受けたのがきっかけですね。世界を股にかけて、問題をあぶり出していくような生き方に憧れました。

 あと、父が業界紙の記者だったんです。いろいろな人に会って話を聞き、今の状況を見ていくという記者の仕事は面白いよ、という父のサジェスチョンの影響も大きかったと思います。

――記者の仕事に加えて、世の中を良くしていきたいという思いがあったのですか?

望月 世の中を変えていくというより、社会福祉が行き届かない人たちや、行政の狭間に追い込まれてしまった人たちの問題を自分で取り上げたいという思いはありました。東京新聞に入社するときの志望動機に「山谷の問題を書きたい」と書いた記憶があります。

■夫婦ゲンカでは、けっこう言い負かされます

――これだけ注目されていると、ご家族に心配されることはありませんか?

望月 夫は同業者なので大丈夫ですね。ただ、TwitterとかFacebookの発言に気をつけるようにとは言われています。

――変な話ですが、夫婦ゲンカとか、望月さんのほうが圧倒的に強そうな感じがしますけど……。

望月 いや、そんなことないですよ。けっこう言い負かされます。

――「それは批判には当たらない」と「菅話法」は駆使しないんですか?

望月 ハハハ、しないですよ。私が物を失くしたりして、「人としてしっかりして」って言われたら、もう逆らわずに「はい」って従います。

――お子さんもいらっしゃるということで、1日のスケジュールは大変ではないですか?

望月 でも、昔に比べれば、朝起きて夜寝られる生活になりましたから。昔は夜中の3時や4時に呼び出されて、朝6時過ぎにまた朝回りしていましたからね。今は子どもを預けて、朝9時から夕方6時か7時まで仕事をして、子どもをお迎えに行くというスケジュールです。体は健康に戻りましたね。

――でも、日中は官邸で菅官房長官とバトル。夕方はお子さんを迎えに行ってそのまま帰宅……。究極のメリハリ生活だと思います。

望月 そうですね、日中の緊張感は子どもに癒やしてもらっている感じです。でも、たまに一人でちょっと遠くに行きたいなぁ、と思うこともあります(笑)。

■これからも「政治の世界の外側の人間」として

――望月さんが定例会見に出席し続けたり、こうやって取材を受ける記者としてのモチベーションとは何なのでしょうか?

望月 新聞記事を書いて世の中に出していくことに、昔はもっと自己満足があったのですが、武器輸出についての本を出したり、講演をしたりすると、それだけではなかなか伝わっていないと感じることが増えました。講演に来てくれた方に「どこで知りましたか?」とお聞きすると、Facebook、Twitter、ラジオ……と十人十色なんです。

 だから、加計学園の問題や詩織さんの問題がいかにおかしな話なのかを伝えるためには、新聞で記事を書き伝えていくのは第一ですが、それだけではなく、Twitter やFacebook、私が知らないような媒体も含めて、全方位外交で様々なチャンネルを駆使し、見ている人たち、読んでいる人たちに投げかけていくしかないとも感じています。特に新聞を読まないという若い世代には、様々な形で問題を発信していかなければ、今の政治や社会の問題を伝えられないと感じています。

――今後も日本の政治の見過ごせない問題を伝えていくために、東京新聞以外にもあらゆるチャンネルを使っていくというお考えですか?

望月 チャンスが頂けるなら、武器輸出含めて、今の政治や社会の問題を伝えていくために、様々なアプローチをしていきたいと思っています。まずは東京新聞の記事を読んでもらって、その上で記事を読んでない人にも届けなければいけない。特にネット世代の若い子たちに、今の政治の良い面と悪い面をどう伝えて理解してもらうか。これは重要な課題ですね。そのためにもまずは、政治の世界の外側の人間として、質問をぶつけ続けようと思っています。

もちづき・いそこ/1975年東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒業後、東京・中日新聞に入社。千葉・横浜・埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。著書に防衛省取材をもとにした『武器輸出と日本企業』(角川新書)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(共著・あけび書房)などがある。

写真=橋本篤/文藝春秋?

(大山 くまお)

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