富士通などのSIerの惨状を見ていると、太平洋戦争で負けた大日本帝国を思い出す――2019上半期BEST5

富士通などのSIerの惨状を見ていると、太平洋戦争で負けた大日本帝国を思い出す――2019上半期BEST5

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2019年上半期(1月〜6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。いいね!部門の第3位は、こちら!(初公開日 2019年4月11日)。

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 猪瀬直樹さんの往年の名著に『 昭和16年夏の敗戦 』(中公文庫)があります。私も引っ越しのたびに本棚を整理するものの毎回生き残り、半年に一度ぐらいは目を通すぐらいに現代でも通用する非常に興味深い記述の多い内容に涙するわけであります。

 ここまで鮮やかな筆致で戦前の空気感や日本の俊英たちの軌跡を描いておきながら、猪瀬直樹さんご自身はカバンに5,000万円が入らず謎の借用書片手に東京都知事の職を追われてしまい『平成25年冬の敗戦』状態になっておったのが物悲しいです。本書と並び、戦前の日本組織について一般に語られるレベルで大きな影響を与えた『 失敗の本質―日本軍の組織論的研究 』(戸部良一ほか・著、中公文庫)もまた、日本って何でこんなつらくて勝てない組織なの? という話が並んでいるので興味津々であります。

■日本人が経営の組織はだいたい同じ問題を抱えている

 で、先日、日本の大手SIerであり、官公庁から大手企業、地方の中小企業にいたるまで多くの組織の情報化を支えてきた富士通グループというステキ法人について、5年勤めたとされる人物が増田(はてなアノニマスダイアリー)で実情記事を書いていて話題となりました。

5年いた富士通を退職した理由
https://anond.hatelabo.jp/20190326233147

 あまりにも感動的でストレートな内容だったため、この界隈だけでなく私の生息する社会調査やサイバーセキュリティ関連の皆さんのハートを直撃しました。もうね、キュンキュンしますよ。開発系の人たちの集まるコミュニティでは大盛り上がりでした。さすがに富士通で働いている人からは「そこまで酷い環境じゃないよ」という反論もいくつか出ていまして、細かい点では事実と異なるのかもしれません。

 しかし、この記事は富士通という組織についてですが、NEC(日本電気)や沖電気、日立製作所、NTTデータといった純正ジャパニーズ企業だけでなく、IBMや日本ユニシス、オラクルなどでも似たような状況があるようで、つまるところ「日本人が経営幹部の組織はだいたい同じ問題を抱えるのだ」という結論にいたり、無事閉会しました。そして本件記事をみなで内容吟味の末、何となくみんなで「これって太平洋戦争末期の日本軍みたいな状況なんだろうね」ということで一致したわけであります。

■毎年の就職活動でやってくる新入社員は「赤紙」

 笑えない冗談として、開発に従事する、いわば兵隊の役割になっている人たちは、退職は「戦死」扱いされ、鬱などでの離脱は「傷病兵」、大規模失注が空母の沈んだ「ミッドウェー海戦」、質の良い開発装備が揃えられず開発工程が遅れるのは日本軍の「補給・兵站軽視」に、客先常駐は「転戦」、経営陣が日経や東洋経済、ダイヤモンドで何か偉そうなことを言うのは「大本営発表」、毎年の就職活動でやってくる新入社員は「赤紙」、デスマーチになってみんな徹夜してヘロヘロになりながらも何とかテスト環境まで漕ぎ着けようとするも検収してもらえるレベルにまで至らないのを「敗戦間近」、プロジェクトの失敗を「拠点陥落」、そして不採算の事業所閉鎖や本社事業の売却などの連絡を「玉音放送」と呼ぶようです。

 全然、笑い事じゃないんですよね。

■敗戦を重ね続けた日本企業の現状

「なぜいま富士通か?」というと、突然45歳以上は再配置、適応できなければリストラ勧告という、凄いことを発表したのが発端でありまして、これもう駄目でしょって言うか、もう来るべき日が来てしまった、もう玉音放送間近なんじゃないかってみんな思っているわけなんですよね。富士通よ、お前もか。

[スクープ]独自入手、富士通の4月機構改革と人事異動の骨子
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/01799/

 高い技術力を必要とする現場という観点では、次世代携帯通信の本丸である「5G」関連で言えば、いまやアメリカ資本になったサムソン電子(Samsung)やインテル、クアルコム(Qualcomm)、中国系ファーウェイ(HUAWEI)、ZTE、フィンランドのNOKIAといった各社に、日本の大手企業がなかなか食い込んでいくことのできない現状があります。端末から基地局まで日本市場で頑張っているのは軒並み海外勢で、日本国内向けの市場にしがみついて大手から中小各社がひしめきあって競争をしていた日本企業はあまり海外では通用しなくなってしまって、敗戦を重ね、むしろ部品や素材メーカーとして部分最適を図っていくのが日本のお家芸になってしまった感はあります。

■技術的に海外勢に対抗できない今、すべきこと

 これら通信事業者方面の問題点だけでなく、日本の通信全般やシステム開発関連といった日本の情報化にまつわる大企業に共通した病理にも見えます。富士通やNEC、あるいはNTTグループやKDDIなど単に日本の民間企業がアカンという話だけではなく、『昭和16年夏の敗戦』や『失敗の本質』が指し示すように「組織の風通し」や「資源の調達に見合った作戦立案」、そして何より「組織の明確な目的」が必要で、それらが揃ってはじめて「単年度や中期の事業目標」が策定できるわけです。

 いまや、富士通やNEC単体では技術的に海外勢に対抗することはできず、むしろ技術分野においては過小資本で、事業目的をしっかりと立てて外部資金を大きく導入し、事業と利益とお客様のニーズに資する事業再編や投資を行っていかなければならない局面にあるわけです。

 何といっても、中国ファーウェイは何かと叩かれますが、大学を出て勤務経験10年にも満たない人材がアジア全体の技術戦略を検討するポストに抜擢され、30代そこそこでも決済権限を与えられて1四半期あたり1件10億ドル(1,000億円)の予算を持ち技術投資が行われている時代です。機動的に高い技術力を確保するための作戦を実施するには、優れた人材がまだ若く感度の高いうちに大口の投資を自らの判断でバンバンやっていける環境が本当は必要なのかもしれません。

 もちろんこういう実例は一面においてはバブルの様相を呈しているので、一様に賛美するのはどうかとも思います。ただし、風通しや現場に決裁権限を与えるという面では見習うべき部分は大きいとも感じるんですよ。かたや日本企業では100万円の経費でも稟議の対象となり、開発者1人当たりたかだか月間50万円程度のコストのシンクライアントのVDI(仮想デスクトップ)の導入に3年もの年月がかかる日本企業が組織の意志決定や開発環境の整備で先んじられるはずもないのです。

■日本企業のテーマは「人材流出」

 かたや、データ資本主義と喧伝され、日本国内では安倍晋三総理の指揮の元で内閣官房が中心となりGAFAM対策、つまりは海外のプラットフォーム事業者へ日本がどう対抗するべきかという謎の準備会が立ち上がるようです。気持ちはわかるけどそんなので大丈夫なんですか佐野さん。なんかこう、関東平野にピストン輸送的にB29がお腹にたくさん爆弾抱えて飛来しているところに、みんなで額に鉢巻き絞めて竹槍選手権でも始めるつもりなのかと心配になります。

 何が起きているのかと言うと、先日特徴的な記事が出て少し炎上状態になりました。

GAFAに人材流出防げ NTTコムの新キャリアパス : NIKKEI STYLE
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO42715110Q9A320C1000000/

 このインタビューに出ているNTTコミュニケーションズの山本恭子さん、名誉のために書くと界隈では悪く言う人の少ないまともな人物で、ややもすると旧弊的な組織をどうにか風通し良くしようと奮闘しているなかでの話だそうです。炎上させるやつって最低ですよね。ただ、開発の現場でラグビーボールが飛び交うようなネタにされてしまい、それを現役NTTコム社員がブログで否定、さらにその人物に対し社内の状況を克明に公表するのは如何なものかと物議を醸しておるわけです。もう少し界隈の皆さんのアナルを拡張工事したほうが良いようにも感じます。

 ここで語られる「GAFAに人材流出」というのは日本企業の大テーマです。人材が逼迫し、良い人を採用するコストを会社がどう負担するのか、いままで組織で頑張ってきた人たちと、外から引っ張ってくる優秀な人たちとの賃金格差を人事体系上、組織としてどう説得力のある形で埋めていくのかというのは重要な問題になっています。

■富士通で起こる「人材流出」のメカニズム

 富士通で言えば、誰もが口を揃えて言いますが若い人の給料はとても安く、優秀でもそうでなくてもたいして給料が変わらない時期が長くあります。しかし、若くても業界でそこそこ名前が売れるほど腕に自信のある人は、社外人脈もできてスカウトもかかり、高給が保証されるようになると、組織の目的もはっきりせず昇給も怪しい富士通には見切りをつけて、よりフレックスで、より明るい環境で、より風通しの良くて、より給料の高い外資系開発会社に簡単に移籍してしまいます。

 富士通が安く新卒を使って開発案件でこき使って有利に経営しようとしているはずが、単なる外資系の優秀な人材選抜システムになっていることになぜ気が付かないのか、不思議でなりません。戦力にならない奴に富士通などの日本企業がイチから社会人として教育し、その金看板でいろんな技術者コミュニティで名前を売る若者が自分からより良い環境を探して飛び立っていく、養分供給場所に成り下がっていることは知っておくべきです。

 逆に、組織にしがみついても今回のように45歳で見切りをつけられる可能性のある富士通にいて展望が拓けるのか? 未来があるのか? と言われれば、組織的にはいくら後から「戦死」と揶揄されようとも他の道を探しておかしくない状況になり得ます。例えば30歳で結婚して、32歳で子どもができて、45歳と言ったら中学生になるタイミングで会社から放り出されるかもしれないという危機感をもっていかなければいけないわけですよ。それなら、富士通ほど安定していないかもしれないけど、デスマーチのない給料の良いところで干されないだけの技術力を磨こう、と考える若者が出てもおかしくありません。

「大手企業に勤めている会社員」という先のない肩書よりも、どこにでも通用する技術を持ち、いろんなところからお声がかかるフリーランスの技術者であるほうが、収入面でも環境面でも有利になってしまう時代が到来しているとも言えます。もちろん、いま景気が良いから大企業よりもベンチャーや外資系のほうが働きやすいというのはあるかもしれません。ただ、この景気の良い状況なのに45歳以上は配置転換を強いる大企業が、次の景気悪化のときにベンチャーや外資系よりも多くの社員を抱えていられるという保証も無くなっているのです。

■敗戦間近ないまの日本企業の悲惨な姿

 そしてそれは、繰り返しになりますが富士通だけの問題ではないのは当然です。このNTTコムでも他の日本企業でも「イケてる人ほど、技術の研鑽のために社外の人たちと交流がある」し、「イケているので、どこの企業でも通用するスキルを持っている(と思われる)」のは共通しています。そこで、世界的な大企業であり、高給が得られるであろうGAFAMの門を叩くのはイケてる人ほど考えるであろうし、何であれば、GAFAMの側からそういう人材をサーチして引き抜きにかかってくることになるのです。

 そこにきて、最近Googleなどでは退職者ブログが流行し、Googleに勤めていた人が、Googleは良い組織で素晴らしい環境だったけどしたいことができたので辞めました、という記事が続々と掲載されることになりました。これを見て、彼我の環境の違いに愕然とする日本企業従業員はたくさんいたことでしょう。

 本当の意味でのフレックス。本当の意味での自由な開発環境。本当の意味での勤務評価に、本当の意味で必要なことは上司に自由にかけあえる企業風土。同じ人間が集まって事業をしているのに、ここまで状況に差ができるというのはどういうことなのか。

 国内で似たような企業が血みどろの競争をする一方、日本にやってくる規模の外資系企業には、世界的な競争に勝ち抜いた錚々たるブランドに強い企業風土を抱えたピカピカの会社が多くあります。国内でどれだけ頑張って官公庁や国内メガバンクの仕事をしていても、海外で通用するプロダクトとはお世辞にも言えないプロジェクトで疲弊しているのが日本企業でもあります。経営者の質の違いだけでなく、資本力、商品・サービスの構成力、利益を生み出す力が、これらプラットフォーム事業者であるGAFAMと日本企業に大きな差として目の前に厳然と突き付けられている、それが敗戦間近ないまの日本企業の悲惨な姿なのですよ。

■繰り返される失敗の本質

 東芝を見ましたか、シャープはどうでしたか、ジャパンディスプレイはいかがでしょう、それと類する事態が企業の崩壊よりも前に優秀な若手人材の大規模な流出、それも取り返しのつかない規模での喪失という現象を起こしているのは、なぜだと思いますか。

 結局は、日本を、社会を、企業をどうしたいのか、どうするのが理想であるのかという具体的なものがまったく見当たらないので、不明瞭な方針しか立てられず、貴重な人材はどんどん戦死してしまい、組織がガタガタになって利益構造が壊滅してからお金が足りなくなって身売り先を探さざるを得なくなる、それが繰り返される失敗の本質なんじゃないかと思うんですよね。

■海外企業が得をする日本の法律の"抜け穴"

 そして、GAFAM対策を日本が急がなければならない理由もはっきりしています。例えば、GoogleやAmazonは日本で合同会社しか設立しておらず、そこで、2,000万円だ、3,000万円だと高額の報酬をもらっている日本人は、その何割かを株式で支払われていたと明言しています。

Googleの退職エントリーラッシュに見る、多国籍企業のフリーライド感 | プレタポルテ by 夜間飛行
http://pret.yakan-hiko.com/2019/03/31/yamamoto_190331/

 適法ではあるのですが、確定申告で納税されるのは所得税分だけであって、いまや新たな増税枠とも言える社会保険料はこの株式で支払われた分は支払いの対象になりません。つまり、海外企業で高給取りが増えれば増えるほど、社会保険料という点では払わない人たちが増える、すなわち、日本で真面目に経営をし、またそこで働く人たちががっつりと支払わされる社会保険料によって成立する日本の保険制度は、これらのGAFAMの一部は負担せず、しかし日本の優秀な社員を高給で引き抜き、日本社会で利益を得て、事業をしていることになります。

 また、同様に一部は日本での租税もアイルランド法人などを使って回避していることになりますし、そりゃあB29が飛んでくるのは仕方ないにしても竹槍の一つも手に持っておきたいと考える日本人は少なくないのでしょう。

■日本企業が海外と戦える仕組みをどう作っていくのか

 ただ、よく考えてほしいのは、なぜ私たちは竹槍を持たなければならないところまで追い込まれてしまったのか、ということです。自分の人生を考えて、高い報酬を求めて外資系に転職していく日本人の若者が悪いわけではありません。単に「富士通はほんと駄目な組織だね」とか素朴な感想を持つのは当然としても、私たちや私たちの子どもの世代が竹槍を持たないでも望む仕事がストレスなくできるような日本社会、日本企業を育成し、海外勢とも互角に戦えるような仕組みをどう構築するべきかを考えなければならないのではないかと思います。

(著者謝辞:この記事の執筆にあたっては、富士通グループ、NEC、NTTグループほか、多くの技術者の方のご意見を頂戴し、参考にして執筆をしました。すべての文責は山本一郎にあります。お考えを寄せていただいた皆様には、深く感謝を申し上げます)

(山本 一郎)

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