【韓国GSOMIA破棄】“反日”のために北のミサイル情報を捨てた文在寅の「自殺行為」だ

【韓国GSOMIA破棄】“反日”のために北のミサイル情報を捨てた文在寅の「自殺行為」だ

伊藤俊幸・金沢工業大学虎ノ門大学院教授 ©文藝春秋

 日本の輸出管理体制の見直しへの対抗策として、韓国が検討していた「軍事情報包括保護協定(GSOMIA〈ジーソミア〉)」の破棄。韓国国内でも「協定延長へ」との予測記事が報じられていたが、それを覆して、韓国政府は8月22日、協定を延長せずに破棄することを決めた。

 今回のGSOMIA破棄について、防衛省情報本部情報官等を歴任するなど各国軍との情報共有に詳しい、元海将の伊藤俊幸・金沢工業大学虎ノ門大学院教授に聞いた。

■協定破棄で困るのは韓国だ

 率直に言って、韓国側からGSOMIAを破棄するなどバカげた話です。韓国国内が異様な状態なのだと思います。なぜならこの協定を破棄して困るのは、日本ではなく韓国だからです。文字通り「自殺行為」だと思います。

 今回、実際に破棄するという事態になり、韓国軍幹部は絶望的な気持ちになっているでしょう。同情を禁じえないというのが正直な所見です。

 まず、GSOMIAについて考える上で確認しておきたいのは、この協定は「情報交換の枠組み」ではなく、「軍事情報の保護」が目的であるということです。GSOMIAが破棄されると「拉致問題の情報まで入ってこなくなる」などといった憶測まで出ていましたが、全くの誤解です。

 詳しく説明すると、GSOMIAは、日本語で「軍事情報包括保護協定」とされている通り、締結国同士が相手国から知った軍事情報を外に漏らさないようにする協定です。実際の協定文を読んでも、第一条に「秘密軍事情報の保護を確保する」ことが「目的」と明確に書かれています。あくまで「情報の保護」が目的で、情報の交換や共有には、直接的には関係のない協定です。

■アメリカの顔にも泥を塗った

 では、どんな場面でこの協定が活用されるかといえば、防衛首脳会談や、両国軍幹部による情報交換会議の場などです。

 今回GSOMIAが破棄されたことで、そのような場に軍事に関する機密情報を持ち寄ることができなくなります。日米韓が集まって、日韓両国とGSOMIAを結んでいるアメリカが間に立っても、「日本には韓国の情報を切り取って渡す」「韓国には日本の情報を切って渡す」という膨大な手間が必要になりますし、前提となる情報に違いが出てしまい、3カ国が揃ったところで、表面的なことしか話せなくなる。その意味で、GSOMIAは日米韓連携の象徴的な協定なのです。

 韓国は今回、日本との駆け引きの中でGSOMIAを持ち出してきましたが、破棄したことで、アメリカとの連携を韓国から壊すことになりました。まさにアメリカの顔に泥を塗る行為で、政治的にアメリカに「NO」を突きつけ、「日米韓の連携をやめます」と宣言することに等しい。破棄したところで、路頭に迷うのは韓国なのです。

■日本からの「北のミサイル情報」は死活問題

 さらに、韓国が困ると思われるのが、GSOMIAが破棄されたことで、日本が捉えた北朝鮮の新型ミサイルの情報が得られなくなることです。北がいま飛ばしている短距離弾道ミサイル(メディアがミサイルと断定できないとして「飛しょう体」と呼んでいるもののことです)は、複雑な軌道で飛ぶロシア製「イスカンデル」をモデルにした新型とされ、その着弾情報は貴重です。北朝鮮のミサイルの着弾情報をいま一番持っているのは、実は、北が射場としている日本海を領海とする日本なのです。有事となれば真っ先にそのミサイルを撃ち込まれる韓国は、懸命に新型ミサイルの情報収集をしている。その情報が取れないとなれば死活問題となります。

 北朝鮮という現実の脅威があるのに、「反日」というイデオロギーのために、重要な情報を自ら捨てたということです。これで日米韓の連携は実質的に機能しなくなり、北朝鮮問題についても、日本を抜いた米韓の二国間で対策を講じることになります。「日本は関係ない」という宣言なのです。

 このように、GSOMIA破棄は、韓国にとってはデメリットしかない判断なのです。

 一方、日本が韓国から得なくてはいけないGSOMIAに抵触するような軍事情報は限られます。あったとしても、ミサイルの発射地点や兆候など人的情報の類いで、アメリカも把握している情報です。情報を扱う現場にいた感覚からしても、日本が困ることはほとんどありません。そもそもGSOMIAは、韓国軍が自衛隊の情報が欲しいがために、何度も締結を求めてきた経緯があります。

 GSOMIA破棄は、私からすれば、「それでもやりたいなら止めませんよ」と言いたくなるような判断でした。今回の破棄という判断に、韓国軍幹部は危機感を抱いていると思います。

■反日高揚のために旭日旗掲揚を拒否

 では、なぜ韓国は、このように不可解な「GSOMIA破棄」をするような国になってしまったのでしょうか。私は、韓国軍幹部が当たり前にやろうとしていることに、文大統領率いる青瓦台(大統領府)が口を出して、いびつにしているからだと思っています。

 この兆候が現れたのは昨年9月のことです。まず、文大統領によって「国軍機務司令部」が潰されました。

 この司令部は、北朝鮮のスパイを調査するほか、軍事と安全保障についての情報を大統領に報告する情報機関として大きな役割を担っていましたが、文政権の掲げる「積弊清算」(長年の政治的弊害の一掃運動)の一環で潰されてしまった。

 翌月、済州島で行われた国際観艦式では、常識外れの事態が起きます。

 文政権は、日本側に、この観艦式で艦旗(旭日旗)を掲揚するなと要請してきたのです。つまり、反日国民感情を盛り上げるために、旭日旗掲揚を拒んでみせたわけです。そもそも軍艦は国連海洋法条約で定義と特別な地位が明記され、“国家そのものが海上を移動している”とでも言うべき存在なのです。どこの国にも、他国の海軍が掲揚する外部標識について指示する権利などありません。韓国側の要請は国際法にも触れる無礼な話でした。

■アメリカの太平洋艦隊司令官も激怒した

 韓国軍はその後、他国にも「参加艦艇は、自国旗と韓国旗を掲げることを『原則』とする」と、「あくまでも『原則』」という逃げ道を用意しながらも要請し、結果として日本、中国は参加せず、オーストラリア、タイ、シンガポール、カナダなどは軍艦旗を下ろさずに参加しました。

 この観艦式でさらに驚いたのは、観艦式終了後の出来事でした。文大統領は会場の済州島に滞在しながら、韓国海軍主催のパーティーには顔を出さず、同島内で開かれていた、ある市民団体の会合に参加したのです。

 実はこの観艦式では、市民団体が海上封鎖をして、アメリカの空母が入港できないトラブルが発生していましたが、まさに文大統領が会合に参加した市民団体が封鎖していたのです。アメリカの太平洋艦隊司令官も激怒したと聞いています。

■文政権の韓国はもはや「西側」の国ではない

 さらに同年12月には、自衛隊の哨戒機が韓国海軍の駆逐艦から火器管制レーダー照射を受ける事件が起こります。事件後、韓国は海軍の活動を全く知らない人間が関わったとしか思えない支離滅裂な弁明を公然と繰り返しました。海軍幹部ではなく、文政権の意向ですべてが動いているとしか思えない事態でした。

 このように昨年から安全保障分野での異常事態が続いた上での、今回のGSOMIA破棄だったのです。政権の異常な判断にそのまま従う軍の姿は独裁国家には付きものですが、いわゆる「西側」の国ではありえません。旧知の元韓国軍人から「もはや西側の一員とはいえない」との嘆きが聞こえてくるのも納得です。

 現在の韓国の国防相、鄭景斗は空軍出身で、実は日本の航空自衛隊幹部学校にも2度留学経験のある日本通として知られています。それでも、その出自ゆえ親日派だと思われないために、何も言えないのでしょう。誰もが文政権に対して何も言えず、軍幹部までもが、文大統領に「忖度」を重ねている状態なのです。

■李明博「竹島上陸」のときよりも深刻

 これまでも、韓国の政権が反日的な政策をとることはありましたが、そんな中でも自衛隊と韓国軍の現場レベルの交流は続いていました。大統領だった李明博が竹島に上陸したあの時でさえ、現場の交流は続いていました。そんな交流も文在寅政権になってからは途絶えました。

 安全保障の分野においても、韓国とまともに付き合えるようになるには、次の政権を待つしかありません。それまで日本は淡々粛々とやりこなし、意味のない直接交渉による衝突は避けて、民間レベル、現場レベルできちんと交流を続けていくしかない。自衛隊と韓国軍は、互いに留学し、互いに作戦や設備の相談や共有をして、文字通り同じ釜の飯を食った仲間です。私は、彼ら韓国軍の現場を信じたいと思います。

 北朝鮮という国家の存在を考えても、韓国との関係が重要なのは言うまでもありません。そもそも隣国で好き好んで憎み合う必要はないのです。一日も早く、正常な日韓関係に戻ることを願わずにはいられません。

(「週刊文春」編集部/週刊文春)

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