「時には起こせよムーヴメント」吉本の内部告発騒動という“失敗革命”を振り返る

「時には起こせよムーヴメント」吉本の内部告発騒動という“失敗革命”を振り返る

宮迫・田村亮会見 ©文藝春秋

おぐら 吉本興業に所属する芸人たちの、反社会的勢力との繋がりと闇営業問題で、7月20日に宮迫博之と田村亮の2人が会見を行い、2日後の22日には吉本興業の岡本社長も会見を開きました。

速水 会見の中で話された具体的な内容については、連日メディアでも散々報じられたので、ここではあの会見からどんなことを感じたのか話していこうか。

おぐら 宮迫さんと田村亮さんの会見は、メディア史に残る重要な内部告発でしたね。

■芸の集大成を魅せた宮迫と、ありのままを正直に話し続ける田村

速水 宮迫の真に迫る涙の訴えも見応えあったけど、田村亮が社長から言われたことをそのまま話すだけでどんどん内部告発になっていったのがすごかった。

おぐら 宮迫さんは芸人としての話芸に加え、俳優として評価されるほどの演技力もありますから、話の抑揚や現場の再現性まで、さすがの出来でしたね。もちろん、芸や演技を超えた場面は多分にあったにせよ、18歳から芸人として培った話芸と演技力の集大成が、コントでもドラマでもなく、現実に事務所の社長を訴える会見でいかんなく発揮されたというのが、なんとも皮肉でした。

速水 一方の田村さんは、こんな正直者過ぎてよく芸人をやってこられたなって思うほど。

おぐら だから芸人のコンビっていうのは、本当に二人でひとつなんですよ。相方の田村淳があっての田村亮であり、当然その逆もしかり。

■「テープ回してへんやろな」を「冗談だった」の0点会見

速水 一方で、宮迫・田村の会見を受けての社長の会見は、0点の見本みたいな会見だった。最近だと日大のタックル問題の時もそうだし、いまどき危機管理と会見の重要性がこれだけ言われているのに、なにも学んでいない。

おぐら 話し合いの席で言ったという「テープ回してへんやろな」を「冗談だった」で済まそうとしたのは、けっこうな失言でしたね。

速水 これまで身内のなぁなぁで済まされていたことにも#MeTooが及ぶってこと。告発があった時点で、社会は告発者をつぶそうとする組織から守らなきゃいけないし、告発された側は第三者委員会みたいな形でオープンにして、そのことに返答しなければならないというルールがある。なのに今回、吉本の社長は、解雇を取り下げることで「身内に戻します」「それでなかったことにしましょう」と会見で言った。

おぐら そうですね。ただ、ここで重要だと思うのは、宮迫さんはこれまで『アメトーーク!』のMCを見ても明らかなように、威圧的なキャラクターを芸風にしてたわけですよね。「どつくぞ」くらいのことは普通に言っていた。それと『スッキリ』で加藤浩次が、大崎会長と岡本社長のことを「みんな怖がってる」と発言したことも話題になりましたが、加藤さんも乱暴者のキャラクターをずっとやってきた人です。当然それはバラエティ番組の中での振る舞いだとしても、相手との関係性によっては脅威に感じたかもしれない。自分自身そういう芸風で長年やってきた人たちですら、相手が会長や社長になれば恐怖を感じるってことが証明されたのは、けっこう意味のあることだったなと。

■お笑い保守層が求める「恫喝する加藤浩二」と「茶化す松本人志」

速水 加藤浩次は、本当によく言ったと思う。断然支持。てっきりこれで吉本が、松本世代 vs.加藤世代で大分裂を起こすのかと思いきや、丸め込まれる方向に行ってがっくりだよね。でも今回の件で一番驚いたのは、ケンカはやめてうまくさやに収まってほしいと思っている人たちが、特にネットに多かったこと。「加藤の乱」にしたって、加藤のたまに出る恫喝とか乱暴者のキャラクターが出ただけで、いつものやつだって納得の仕方をされた気がする。

おぐら 保守的なお笑いファンは、芸人が売れたり年を重ねたりして芸風が変わったあとも、深夜ラジオや深夜番組で暴れていた当時のキャラクターを期待しがちなんですよ。

速水 お笑い保守層ね。

おぐら そういったお笑いにおける保守的な考えを内面化している芸人もいますし。たとえば『ワイドナショー』における松本人志は、扱うニュースの内容がどれだけシリアスであろうとも、どうにか茶化してやろう的な姿勢を感じます。それでいつも炎上する。

速水 「加藤の乱」の矛を収めさせて丸め込んだのは結局、松本人志の空気をまとめる力だよね。『ワイドナショー』以降の松本人志を絡めた政治批評は、ちょっとしたブーム。「週刊金曜日」の2017年7月21日号で特集したのが筆頭かな。吉本が政権に寄ってきたことと『ワイドナショー』で松本が政治的な空気読みをしていることを結びつけるのは当然の流れとしてはいい。ただ、「週刊金曜日」的な単純な権力批判は、意味がない。その辺りは杉田俊介がnoteで批判している。

松本人志についてのノート(杉田俊介)
https://note.mu/sssugita/n/nb02c291c3fad

おぐら 優秀な芸人ほど、番組の内容によっていくらでもキャラクターを変えられるので、真面目なコメントや品行方正を求められるシチュエーションであれば、それに順応するだけですよ。

速水 お笑いが品行方正であるべきとはまったく思わないけど、情報番組とかのコメンテーターをやっている人たちのなかで、一番ぬるいのは芸人なんだよ。明るい話題を笑いに変えるのは当然うまくできるんだけど、シリアスなニュースは安易にコメントできないし、空気読むから茶化すこともできない、かといって専門的な知識もないから、どうしても世間の味方的なことしか言わない。それが求められるんだから仕方ないとはいえ、茶化すだけ松本がまし。

おぐら 専門家や世論とも違う、芸人ならではの視点で別の見方を提示するのが、コメンテーターとしてキャスティングされた芸人の役割なんですけどね。

速水 芸人が世間の味方をする正論を言うのは、完全に間違ったポジショントーク。

■松本人志のツイートにも現れた、「ファミリー」という思想

おぐら あの会見で田村亮が、吉本の側から「ファミリーだと思ってる」という理由で謝罪会見を開くのを止められたことについて、「本当に僕がファミリーだとするんだったら、僕は子供だと思ってます」「子供が本当に悪いと思ってることを謝ろうとしているのを止めるのが親ではないと思います」と発言しましたよね。

速水 あの発言は会見のハイライトのひとつだった。今回「ファミリー」は重要なテーマ。

おぐら 会見を受けて松本人志が「後輩芸人達は不安よな。松本 動きます」とツイートしていましたが、これも結局は吉本側と同じファミリー思想の表れですよね。どの事務所よりも吉本は、売れた先輩が後輩を引き上げるようなことを盛んにやっていますし、先輩が後輩にご飯をおごるのも当たり前。なので、ファミリーであることの利点も正直たくさんある。ただそれが、場合によっては圧力になったり、間違った方向へ導いたりもするっていう。

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速水 松本人志は長兄として、純粋に求められていることをやったんだよね。家族としての縁は切れないから、表面的には引き取って責任を取るとは言いつつも、長兄的な立場で「オヤジも謝ってるし、勘弁してくれや」と言っているに等しい。でもそうやって丸め込もうとするのは、大企業のやり方としてはもはや許されない。

■「うちはうち」日本の独自解釈が生み出した”ファミリー統治”

おぐら 吉本に限らず、芸能界にはファミリー文化が根強いです。サブちゃんの北島ファミリー、萩本欽一の欽ちゃんファミリー、番組単位でも『めちゃイケ』ファミリーと言ったりとか。たけし軍団や石原軍団もそう。新しいところでは、LDHがグループ名に「from EXILE TRIBE」と付けるのも、わかりやすくファミリー思想です。

速水 でもそれがみんな大好きだし、だからH Jungle With tの「WOW WAR TONIGHT〜時には起こせよムーヴメント〜」がヒットしたんだよ。「そうしてたまには肩を並べて飲もうよ」っていう歌詞に全部詰め込まれている。あれは日本的な儒教の受容のあり方そのものというか。

おぐら その延長として、「仲間がやられたんだ、黙ってられるかよ!」的なノリで報復に行くようなヤンキー作品はずっと人気あります。そういう考え方が、現実の倫理観よりも重んじられる世界を普通に受け入れているどころか、好ましいとさえ思っている人がたくさんいる。

速水 儒教には、上下関係とか礼儀とかしっかりやろうぜって孔子の思想があって、それが東アジアでは政治統治の手段として使われてきた。あらゆるところにいまだに残っているんだけど、歴史を見ても日本は、すぐ儒教に独自解釈を入れてしまう。ファミリーこそが大事でそのなかではルールよりも大事な意識ってあるよねってやつ。H Jungleっぽいでしょ。

おぐら 比喩としてのファミリーではなく、実際の家族でも「うちはうち、よそはよそ」って言いますもんね。

速水 社会をよくしたいと考えるときに、この社会で一番弱い人たちをなんとかしようと考えるのがリベラルだとすると、逆に外はいいから自分の目の前の弱っている人をまずはなんとかするべきだというのが保守なんだよね。つまり、ファミリーや近所をまずよくする。これは間違ってない。それが、俺たちだけ守られてないぞ、俺たち以外はもっと守られているのに、って思ってる人たちが増えている。

■吉本興業が目指すべき道は「品行方正」ではない

おぐら 親兄弟や近所の人に手を差し伸べるっていうのは、地元こそ大事にするべきだっていう今の風潮にも合っている気がしますけど。

速水 でもそういうファミリーの論理を突き詰めていくと、内輪のルールが絶対になって暴走したり、それこそ地域に密着した反社会的勢力との接点も生まれてくる。

おぐら 「腹減ってるならいつでも飯食わせてやるよ」と言ってくれる人が、別の場面では「俺の言うことが聞けねえのか」とか言いますもんね。

速水 父親に限らず、会社とか組織でも上に立つ人間は、すぐに「言うこと聞けないなら出て行け」って言うでしょ。で、本当に出て行ったら、圧力をかけたり、いろんな妨害をする。

おぐら 今も至るところでそういうことが起きてますよ。

速水 そう考えると、ほんと加藤の乱が失敗に終わったのがつくづく残念。やっぱり革命ができない国なんだって自覚せざるを得ないし、これはずっと続くんだなって。ウォウウォー・トゥナイトだし、ウォウウォー・フォーエバーなんだよ。こうなったらザブングル加藤の乱でもいいから……。

おぐら ザブングルは、ワタナベエンターテイメント所属ですけどね。

対談写真=山元茂樹/文藝春秋

(速水 健朗,おぐらりゅうじ)

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