かんぽ生命不正問題 郵政公社初代総裁が「日本郵便の不正の温床は“ノルマ体質”」と指摘

かんぽ生命不正問題 郵政公社初代総裁が「日本郵便の不正の温床は“ノルマ体質”」と指摘

日本郵政の長門正貢社長 ©共同通信社

 かんぽ生命保険の不正販売問題が波紋を広げている。

 契約を低い予定利率のものに切り替えさせたり、契約を乗り換えた顧客に保険料を二重払いさせるなど、不適切と疑われる契約は18万件を超える。

 金融庁はかんぽ生命と日本郵便への立ち入り検査に着手した。検査の結果を踏まえて、業務改善命令などを検討する方針だ。

■経営陣は本当に「把握していなかった」のか?

「国民の味方であったはずの郵便局が、手続き上のミスか、あるいは国民を騙すかたちで保険料の二重払いなどの悪質な契約を結ばせるとは言語道断。ありえない話です」

 こう語るのは生田正治氏(84)だ。2003年、商船三井の会長を務めていた生田氏は、当時の小泉純一郎首相の要請を受け、日本郵政公社の初代総裁に就任。2007年に日本郵政グループが発足するまでの4年間、民営化に向けての舵取りを担った。

「日本郵政の経営の衝に当たる方々は、問題発覚後に行った記者会見で18万件の不正販売について問われると、『把握していなかった』と答えました。しかし、保険の不適切な営業実態は昨年来、繰り返し報道されてきたこと。社内調査する時間はあったはずです」

 昨年4月に放送されたNHKの「クローズアップ現代+」では、現役局員からの内部告発に加えて、顧客から4000件以上の苦情が寄せられたことを示す内部資料も報じられている。

「この時、日本郵便の常務はNHKの取材に応じ、『行きすぎた状況だ』とコメントまでしている。不正な営業が行われていることは社内で認識されていたのではないでしょうか」

■ノルマはモラルの低下につながる

 既に多くの報道で指摘されているが、不正の温床となったのは局員に課せられた厳しいノルマである。営業成績が優秀な局員は「優績」と呼ばれ、海外旅行やパーティに招かれる一方で、ノルマを達成できない局員は「成長期待社員」と呼ばれ、営業手法の指導を受ける研修に参加しなくてはならなかった。

 実は生田氏が総裁を務めた時代にもノルマは存在したという。

「年賀はがきのノルマです。あからさまな成績至上主義があったわけではありませんが、『○枚販売せよ』と目標を課していたため、達成できなかった局員は、自分の持分を数千枚単位で金券ショップに持ち込んでいました」

 当時、全国各地で格安の年賀はがきが売られていたことから発覚し、新聞で大きく報道されるなど批判を浴びた。生田氏は即座に対応を指示したという。

「局員にとって大きな痛みであるばかりか、公社にとって不利益となると判断し、局員にノルマを課すことを禁じました。ノルマはモラルの低下にもつながってしまう。このときの教訓が生きていれば、不正販売は起こらなかったはずです」

■2000億円以上の損失になる恐れも

 生田氏はかんぽの不正は「日本国民全員にかかわることだ」と指摘する。

「日本郵政は、政府が57%の株式を保有する『国民の財産』だからです。不祥事が起これば株価は下がり、国民の財産は棄損される」

 いま政府は東日本大震災の復興財源に充てるため、年内に郵政株を売却することを計画している。1兆2000億円の売却益を得ることを目標としているが、そのためには株価が1130円を超えなければならない。ところが、不正が発覚して以来日本郵政の株価は下落を続け、1000円を割り込むこともある。

「売却益は1兆円を下回り、2000億円以上も国民の財産が失われてしまう恐れがある。他人事ではありません」

 発売中の 「文藝春秋」10月号 「日本郵政に『経営者』はいない」では、生田氏が日本郵政公社の総裁を務めた時代の取り組みや経営者のあるべき姿について、自らの経営体験を交えつつ、熱く語っている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年10月号)

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