現代の「恐竜発掘調査」その舞台裏とは?――現役調査員が明かす真実

現代の「恐竜発掘調査」その舞台裏とは?――現役調査員が明かす真実

©桂嘉志浩

恐竜の発掘調査の舞台裏を描いた『 恐竜探偵 足跡を追う 糞、嘔吐物、巣穴、卵の化石から 』が話題だ。著者であるアンソニー・J.マーティン博士とともに調査・研究をしたこともあり、現在は石川県立自然史資料館に勤務する桂嘉志浩氏が、知られざる発掘調査の魅力を綴る。

◆ ◆ ◆

 化石、特に恐竜は、子供から大人まで、また、自然科学に関心の薄い人達をも魅了するものです。私も化石の虜になった一人で、恐竜が数多く発見されているアメリカ合衆国モンタナ州にある大学に留学し、研究者にまでなってしまいました。現在勤務している石川県立自然史資料館では、子供たちから「恐竜発掘」のリクエストが多くあります。私の研究調査地域であるモンタナ州に連れて行って、体験させてあげたいのですが、楽しい反面、とても過酷なため、躊躇してしまいます。

 恐竜が生きていた当時、モンタナ州は、北アメリカ大陸を二分していた内海の海岸沿いに位置する開けた土地でした。しかし、現在は内陸となり、夏は40℃、冬は−40℃にもなるような気候で、草木もあまり生えないようなバッドランド(悪い土地)になっています。

 調査をする夏は暑いだけでなく、湿度が低いために、日中は常に水分補給をしていないと命にかかわります。しかし、朝晩は白い息が出るくらい冷え込みます。長期にわたる調査中はずっとテント暮らしで、自炊をします。

 バッドランドは地形の起伏が激しく、滑りやすいことに加え、猛毒のガラガラヘビがどこに潜んでいるかわかりませんので、化石を探して歩くだけでもとても危険です。

 化石は比較的豊富にありますが、研究に値するような良いものはまれで、一か月以上調査しても、そのような化石を一つも発見できないことはザラなのです。

■背骨ひとつが大発見につながることも

 しかし、地表に出ている部分はわずかであっても、地中に何が埋もれているかわかりませんので、落胆してもあきらめてもいけません。学生の頃、ワニの背骨が1つだけ地表に出ていたのを見つけたのですが、試しにそこを掘ってみたところ、頭骨を含むほぼ全身骨格が出てきたことがありました。

 ただし、実際は逆の場合が多く、期待して掘っても何も出ず、徒労に終わることがよくあります。

 調査が終わる直前に素晴らしい発見をすることも少なくなく、とりあえず隠して翌年まで待つということもありますし、他の研究者に発掘をまかせて帰国しなければならないこともあります。2010年の調査では、トリケラトプスの一部を発見したのですが、時間切れで帰国し、後日、発掘を託したスキャネラ博士から「大きくて長い骨がみつかり、脚の骨だと思って発掘していたら、とんでもなくでっかい角だった」と連絡を受けたことがあります。

 化石を発掘する際は、壊さないように慎重に、しかし時間が限られていますので、大胆に掘り進んでいかなければなりません。関節がつながった状態で保存された大型の恐竜だと、母岩を含めると重さが数トンにもなります。場所によっては、100キロを超えるようなものも人力で運ばなければならない場合もあり、とても忍耐と体力のいる仕事なのです。

■古生物学は警察の科学捜査に似ている?

 古生物学の研究は独特です。化石として残されるものは体の一部にしかすぎませんので、タイムマシンに乗って過去に行かない以上、生態を含めてそれがどのような生物であったかを確認することはできません。したがって、どんなに小さな手掛かりでも収集し、様々な分野の知識を結集した上で、すべての可能性を列挙し、そこから蓋然性(最も可能性の高いこと)を追求する推理の学問が古生物学なのです。また、現生生物についてさえ、日々新たな知見が生まれているわけですから、現在地球上に存在しない生物は、我々の想像をはるかに超えるものでしょう。それ故に、既存の知識に頼りすぎると、先入観にとらわれることになりかねませんので、化石の研究は想像力と創造力を駆使して、柔軟な発想で取り組まなければならないのです。

 あらゆる状況証拠を集めて調査していくという手法においては、古生物学は警察の科学捜査によく似ています。生物の死骸である化石を室内で研究するだけでなく、発掘する時から、それが保存された地層や保存状態も丹念に調べていくのです。また、活動の証として残された痕跡、つまり、足跡や巣の痕跡、糞などの生痕化石も研究対象になります。体の一部である化石は「死」の記録であるのに対し、生痕化石は「生」の記録ですので、生態を推論するためには、とても重要な手掛かりになるのです。オリクトドロメウスという新種の恐竜を発見した時には、最初は脚の骨などの一部が地表に落ちていただけだったのですが、後日の発掘の際に共同研究者のヴラキオ博士が、化石が保存されていた個所の岩石がその周囲の岩石と微妙に違うことに気がつき、「地下に掘った巣穴の中に保存されていた恐竜」という大発見になったこともありました。

■マーティン博士の『恐竜探偵』に受けた影響

 私は今夏、母校が実施した野外調査に参加したのですが、その直前に上述のオリクトドロメウスの共同研究者であるマーティン博士が著された本『恐竜探偵 足跡を追う 糞、嘔吐物、巣穴、卵の化石から』を入手し、道中だけでなく、就寝前にテントの中でも読みました。この著書は他の恐竜関連の書籍とは一線を画し、生痕化石にスポットを当てて、恐竜の謎に迫ろうとしているもので、彼の体験談がユーモアに富んだ文章で語られ、それが上手く翻訳されているため、楽しんで読むことができました。

 また、その専門的な内容に影響を受け、研究者として調査に対する取り組み方を改めて考えさせられました。実際、化石を探してバッドランドをさまよい歩いている間、これまで以上に生痕化石に注意を払うようになっていました。まあ、結局は今回もまた“空振り”で終わっちゃったけどね!

※写真を提供していただいた、ジョン・スキャネラ博士、デイヴ・ヴラキオ博士、モンタナ立大学付属ロッキー博物館に感謝します。
I thank Drs. John B. Scannella and David J. Varricchio and Museum of the Rockies, Montana State University, for providing the photos.

桂 嘉志浩(かつら よしひろ)/1964年生まれ、山口県出身。1997年 モンタナ州立大学大学院博士課程修了。2011年より石川県立自然史資料館( http://www.n-muse-ishikawa.or.jp/ )に学芸員・地学分野責任者として勤務。主として、白亜紀後期〜第三紀に北アメリカ大陸に生息していた陸生・淡水生は虫類の研究に従事。

(桂 嘉志浩)

関連記事(外部サイト)