《慶應ミスコンまた不祥事》「セクハラ行為は一切受けておりません」被害者が強要された“偽りの陳述書”と”精神科受診”
2019年09月18日 18時00分 文春オンライン

11月25日に最終選考が行われるミス慶應コンテスト。濱松さんは下段中央(ミス慶應コンテスト2019Twitterより)
《慶應ミスコンまた不祥事》人気No.1ファイナリストがセクハラ被害「腰を触っていた手が下に降りてきて……」 から続く
ミス慶應コンテストのファイナリストである慶應義塾大学文学部1年生の濱松明日香さん(20)が、運営団体のプロデューサーA氏(40)からセクハラ被害を受けていた問題。 セクハラの一部始終 は前編で報じたが、加害者とされるA氏、ミスコンを運営する「ミス慶應コンテスト運営委員会」、慶應義塾大学に事実確認を行った。
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■「セクハラをした事実はない」
A氏に電話をしたところ、本人が取材に応えた。
――8月2日夜に濱松明日香さんと会っていましたか?
「あ……わかんない……わかんないです」
――夕ご飯を食べてそのまま夜まで一緒にいた?
「食べてないと思います。僕……僕ですよね」
――はい、Aさんです。
「ないですね。僕……2日ですよね、大阪ですね」
――8月2日は大阪にいた?
「ええ」
――新宿のクラブ「X」でセクハラ行為を行ったという情報がある。
「あははは(笑)。なるほどなるほど」
――その確認だったのですが。
「まったくもってないですね」
――2日は大阪で仕事を?
「ええ、していますね。出張していますね」
――深夜にも大阪にいた?
「ええ、いてますね」
――(濱松さんが友人に助けを求める)LINEも確認している。
「僕は関与していないですね……わかんないですけど、僕は。それは濱松が?」
――情報提供です。
「あ〜、なるほど。そんなことがあったんですね」
――はい。
「なるほどなるほど」
――では実際にセクハラをしたという事実はない?
「ないですね(笑)。ないですね、はい。全くないですね」
――20万円を渡そうとしたという情報もある。
「えーとね、ギャラで振り込むというのはありますけど、えーと、ギャラ以外ではもちろんないですし、えーと……ギャラ以外ではないですね」
――濱松さん以外にも振り込むと?
「無論、そうですね」
――皆さんに20万ずつを?
「そうですね、あの、まあ金額は未定ですけれども、今いろいろ撮影をしていて、えっと、まあ大きな、もうすぐ発表されるような、大きなまだちょっと口外できないんですけれども、まあいろいろ沢山あるので、日々撮影していますね」
――8月2日に大阪にいたという証拠がある?
「領収書とか多分出せると思いますよ」
――あとで送ってもらえますか?
「ええ。かしこまりました」
■「悪意のある人物が事実を捻じ曲げている」
この数時間後、あらためてA氏から電話がかかってきた。8月2日は大阪ではなくクラブ「X」で濱松さんと一緒にいたと当初の主張を翻したが、セクハラについては再度否定。その後、A氏から大阪出張を裏付ける領収書が送られてくることはなかった。A氏は電話で記者にこう主張した。
「この件は、事実を曲げられたというか、非常に悪意のある人物の仕業だなと思っています。
『X』に行ったのは事実ですが、会場の下見のために、15分くらいだけ滞在しました。確かに座っているときに距離は近かったけれど、僕の友人である『X』の責任者も近くにいたので。僕も知らなかったんですけれど、濱松が大きな音が苦手らしく、店をすぐに出ました。お酒をたくさん飲んだりとか、そういったことは絶対にないです。
20万円についても、グランプリでは通常なら100万円とか出すところを、全員に10万円を出そうと考えています。なので(20万円に関しても)悪意を持った人物が事実を捻じ曲げているのではないでしょうか。濱松が酔ったときに、運営の愚痴として友人に話をしたみたいです」
■チームとして活動することを教えたかった
「その日わざわざ2人で会ったのは、チームとして活動することを教えたかったんです。協賛のイベントに濱松が出ないこともあったので、ちゃんとしろよ、というのを言うために呼び出しました。Twitterも大事だけどリアルな世界はもっと大事だよ、という話をして。呼び出してからTwitterでの荒れ具合は結構直りました。
『ラウンジ嬢ごっこしよう』なんて言うはずもない。相当悪意のある人物が事実を捻じ曲げています」(A氏)
A氏が取材を受けたことを知った濱松さんが困惑しているとも述べ、濱松さんと緊密に連携を取っていることを主張した。
「『びっくりしました。どうしたらいいんでしょう』と彼女が言うので、『自分の思いの丈をぶつけるしかないよね』という話をしたんです。それを(手紙として)送ったらどうかとアドバイスしました。『本当のことを歴然と対応すればいいんじゃない』と伝えたら、濱松は『いや怖いよ!』と言っていました」
運営委員会にも文書で事実確認を行ったところ、メールで回答があった。
■運営委員会からの回答は……
《(※個人名、クラブ名を除き原文ママ)
この度は取材、お問い合わせいただき有難うございます。
ミス慶應運営委員会、委員長のCです。
下記、ご回答差し上げます。
A本人と濱松本人から事業を聞き、濱松からは手書きにて証明をもらいました。
1,Aは濱松に対し、他のファイナリスト同様に積極的に運営に参加することを伝えるために8月2日食事をしておりますが、そこには濱松の友人もいたとのことです。また、その後にAの友人が責任者を務める「X」へ2人で出向き、イベント開催地の見学に行っておりますが、セクハラの事実はなく、短時間で離席し濱松と別々のタクシーに乗り自宅に戻っております。
距離が近かったことが、そう捉えられたのでは無いかということです。今後は誤解を招かぬよう気をつけるとのことです。
「ラウンジ嬢ごっこしよう」など言うことはなく、何かしらの依頼者(編集部注:情報提供者)の悪意があるのではと考えられます。
2,ミスコンへの貢献として20万円という対価については運営委員会としてファイナリスト全員に配分する予算です。
濱松自身にすぐ渡すわけでもなく、受け取りを拒否した事実もありません。受取額の算出は他のミスコンが高額な賞金をグランプリにだけ配分していることに違和感を感じている私達は、全員に一律の対価を支払うという方針で動いており、他のミスコンがグランプリ100万円、準グランプリ30万円ということを考慮し、20万円×6人という算出を行っております。また、スポンサーから頂く協賛金、イベントなど、都度都度のお仕事はすべての金額をオープンにしてファイナリストに公開しております。支出元は協賛金からとなります。
他の団体を否定することも避けたいため、濱松からも書面で回答を行いますのでご確認ください。
また、著作権、肖像権の観点から公開などは行わないようお願い致します。》
■手書きで「セクハラ行為は一切受けておりません」
このメールには、濱松さんが書いたという書面を写した一枚の写真も添付されていた。
しかし、濱松さんは回答が送られてくる前日の直撃取材で、セクハラの事実について認めている。濱松さんに再度事実確認したところ「文書は、実は無理やり書かされました」という。濱松さんの許諾のもと、彼女が無理やり書かされたという手書きの文書を以下に公開する。
■赤ペンで指を塗りつぶした
濱松さんが語る。
「雑誌撮影をしているときにAさんから電話がかかってきたんです。『キスなどのセクハラはされていない』『クラブは会場の下見で行った』『ラウンジ嬢の件は冗談だった』と直筆で書くように電話とLINEで指示されました。運営委員長には『これは(下書きなので)送らないから』と揺れるロケバスの中でこの文書を書かされました。『判子を押して』と言われたので、『持っていないので家に帰ったらでいいですか』と聞いたら、赤ペンで指を塗りつぶして指印でいいからと指示されました。
嘘をつくのは嫌でしたが、Aさんはとても威圧的な態度で、そんなことを言える雰囲気ではありませんでした」
■精神科に行って診断書を書いてもらう
そして、この”強要陳述書”の5日後、濱松さんから記者に電話がかかってきた。「度重なる運営委員会の圧力に耐えられなくなり、もう一度、すべてをお伝えしなければいけないと思いました」と打ち明けた。
「Aさんには『文春には事実を正直に話した』と伝えたんです。すると《各クライアントから損害賠償請求されるけど、払えるん?(※原文ママ)》とLINEで脅されました。なぜ被害者である私が賠償金を支払うのかわからなくて、直接理由を聞いたら、『ミスコンの名前を濱松が傷つけることになるから』と。『セクハラされたと大騒ぎしたら”地雷女”だと思われるから(真実を話すことを)やめろ』とも言われました。
挙げ句の果てには、私の証言が信用できないと主張するために『精神科に行って診断書を書いてもらう』と病院に連れて行かれそうになったんです。何か報復されるんじゃないかと不安でAさんに話を合わせていたのですが、もう限界です。病院へ行くのは必死で断りました。
初めは、ミスコンのファイナリストでありながら本心を打ち明けるのはとてもリスクがあると思っていました。私自身が泣き寝入りすれば済む話だとも思っていたのですが、こんな汚いやり方を許すことはできませんでした。
運営側にはファイナリストを降ろすと脅されていますが、応援してくれる人のためにもここで降りるつもりは全くありません。私自身も、セクハラを許すようなミスコンであって欲しくない。これからもミスコン活動は、一生懸命励んでいこうと思っています」
慶應義塾大学広報室にセクハラ被害について把握しているか確認したところ、文書で回答があった。
「ご質問については、本学としてはコメントをいたしかねます」
(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)