「ペンギンの交尾はちょっと残念!」サンシャイン水族館・飼育担当がこっそり教える“生物たちの夜の姿”

「ペンギンの交尾はちょっと残念!」サンシャイン水族館・飼育担当がこっそり教える“生物たちの夜の姿”

「性いっぱい展」の営業時間は18時半から22時。“夜間特別営業”になっている

 東京・池袋のサンシャイン水族館で11月4日(月)まで開催中の「性いっぱい展」。生き物の“性活動”にフォーカスしたまさかの特別展で、“おさわりBOX”を始めとする体感型コンテンツも多数用意されている。これまで「もうどく展」や「へんないきもの展」など、人気の特別展をいくつも企画してきたサンシャイン水族館が、「性」をテーマにするのは初めてのこと。そこで、同水族館で飼育を担当している先山広輝氏に、今回展示されている生物を中心に「“性”の魅力」について語ってもらった。

(取材・構成=文春オンライン編集部)

◆◆◆

 生き物の“性”のあり方は実に多様で、なかでも「どのように受精するか」に注目してみてみると、「えー!」と言いたくなるような生物がたくさんいます。たとえば、私たち人間には生殖器があり、“挿入”して受精する、というパターンをとっています。しかし、アオリイカをはじめとしたイカの仲間には、そうした交接器はありません。

■イカのメスは“精子の槍”に刺されて受精する

 ではどのように子どもを作るのかというと、オスがメスに精莢(せいきょう)と呼ばれる、精子が入ったカプセルを手渡すのです。刺激を受けた精莢からは、自動で“精子の槍”が飛び出すので、それを受け取ったメスは精子に刺されて受精する……という仕組みです。精子の先端は矢じり状になっていて、一度刺さるとなかなか抜けない作りになっています。

 ただ、この精莢の受け渡しをどんな“テンション”で行うかは、イカの種類によって全く異なります。たとえばアオリイカは結構ドライで、精巣から取り出した精莢をそのまま手渡して交接終了……となる、実に淡白な部類です。それとは対照的に、コウイカはオスとメスが口をガッとくっつけて、熱烈なキスをするように精莢を渡します。

 コウイカの仲間は器用に身体の色を変えることができるので、交接の手前の段階でも、オスはメスに対して激しいアピールを行います。

 面白いのは、身体の半分はこの色、もう半分は別の色、というように、一つの身体の中で色の使い分けができるところです。メスに見えている側は情熱的な色にして性的魅力をアピールし、他のオスに見えている側は威嚇の色にして牽制する、といった姿もしばしば見られます。

■オスの精子を飲む“可愛い熱帯魚”

 他に面白い……と言ってよいかはわかりませんが、変わった受精の仕方をする生物としてはコリドラスも挙げられます。主に南米に生息している熱帯魚で、普段は川の底の方で暮らしながら、藻などを食べている小さな魚です。

 水族館では、水槽の中のお掃除屋さんとしての役割も果たしてくれています。そんなコリドラスは、その可愛い見た目とは裏腹に、「メスがオスの精子を飲む」という、少々過激な“趣味”(?)を持っています。

 魚の多くは体外受精なので、基本はオスとメスが同時に放精・放卵して、水中で勝手に受精させる、という形をとります。しかし、コリドラスの場合、オスは精子をかけるのではなく、飲ませるのです。

■いや、ちゃんと理由があるんです!

 とはいえ、そこにはちゃんと合理的な理由があります。メスが精子を飲むと、消化しきれなかったものが、数時間後には肛門から排泄されます。実はそのすぐ近くに尻ビレがあり、コリドラスのメスはここに卵を抱えています。肛門から活性のある精子が出てくると、すぐそばにある卵に自然とかかるため、非常に効率よく受精ができます。いわば受精の近道として、メスはあえて精子を飲むのです。

■クマノミが性転換する仕組みとは?

 一方で、オスとメスが入れ替わる、いわゆる“性転換系”の魚もいます。オスからメスになる魚も、メスからオスになる魚も、さらにはオスとメスを行き来する魚もいますが、たとえばオス→メスのパターンで有名なのがクマノミです。

 これは卵と精子の“製造”に関係しています。精子は製造コストが低いので、身体が小さくてもたくさん作ることができます。しかし、これは裏を返せば、身体が大きな個体が精子を作ると過剰に作りすぎてしまう、ということにもなります。

 反対に、卵を作るには栄養を含め結構なコストがかかるので、当然大きな個体のほうが有利です。こうした事情から、身体の大きなクマノミはメスになるのです。性転換ができる魚は雌雄同体で、元々オスの能力もメスの能力も持っています。そのときの状況に合わせてホルモンバランスを調整することで、性転換を行うのです。

■“性”の仕組みには進化の歴史が詰まっている

 こうした独特な“性”の仕組みは、何千年、何万年とかけた進化と生き残りの中で洗練されてきたものです。人間の目からは「ちょっと変だな……」と思えるようなものでも、実はその生物の生息環境からすれば、非常に合理的な手法であることが多いのです。

 まさにそこがたまらなく面白いところなのですが、こうした話を水槽横の短い紹介文で説明することは難しく、また、“性”の話はちょっと前面に押し出しづらいテーマでもあります。その点でも、今回の「性いっぱい展」が生き物の不思議さと面白さを知る、一つのきっかけになってくれればと思います。

■ペンギンの交尾はちょっと残念!?

 ここまで、進化の中で洗練されていった“性”を紹介してきましたが、最後に「なんで未だにそんな効率の悪いやり方を……」と思ってしまう、ちょっと残念な(?)生物を紹介しましょう。それは、水族館の人気者・ペンギンです。

 ペンギンの交尾では“挿入”はありません。ではオスが精子をかけるのか、というと、実はそれも違います。ペンギンは、メスの上にオスが乗っかって、それぞれの生殖口をくっつけて精子を「流し込む」のです。

 問題は、この生殖口が本当に小さいということです。腹ばいになったメスの背中にオスが乗っかるわけですが、バランスボールの上にバランスボールを乗せるようなものなので、そもそもうまく乗ること自体が難しいのです。その上で、お尻の先っちょにある小さな生殖口同士をピタっと合わせなければならないので、これはどう考えても至難の業です。

 
 邪魔が入ったら確実にずれてしまいますし、そもそもお互いの体型的な条件が合わなければ、どう乗っかっても不可能、ということも十分ありえます。長時間、メスの上でオスがバタバタしながら位置を微調整し続けている姿を見ると、「これは絶対不便だろうな……」と、しみじみと感じてしまいます。

■“性”の進化の原動力は「効率の良さ」だけではないのかも

 ただ、ペンギンはオスとメスの2羽がずっと寄り添って暮らす“一夫一婦制”の生き物です。メスの上で一生懸命バタバタしているオスを見守りながら、「もしかしてこの共同作業から夫婦の絆が生まれるのかな」と、ふと思ったりもします。となると、必ずしも効率の良さの追求だけが、“性”の進化の原動力ではないのかもしれません。

写真=サンシャイン水族館

INFORMATION

夜のサンシャイン水族館「性いっぱい展」

【開催概要】
2019年9月27日(金)〜11月4日(月・振休) ※休業日10月17日(木)
18時半〜22時 ※最終入場は終了1時間前になります
【会場】
サンシャインシティ ワールドインポートマートビル屋上
サンシャイン水族館 本館

※詳しくは公式HP( https://sunshinecity.jp/file/aquarium/sexy/ )をご確認ください

(先山 広輝)

関連記事(外部サイト)