「モンスター客との“戦い方”教えます」飲食店専門弁護士が語る“カスハラ対策最前線”

「モンスター客との“戦い方”教えます」飲食店専門弁護士が語る“カスハラ対策最前線”

”飲食店専門弁護士”石崎冬貴氏 ©文藝春秋

 モンスタークレーマーに、大人数の予約ドタキャン、そしてアルバイトによるSNSへの不適切な写真や動画の投稿……。「お客さまは神さまです」という日本の接客業文化の中にあって、これまで飲食店の経営者たちはさまざまなリスクに怯えてきた。

「今まで飲食店は泣き寝入りするしかなかったんです」

 こう語るのは“飲食店専門弁護士” 石崎冬貴氏だ。9月19日、石崎氏は一般社団法人「フードビジネスロイヤーズ協会」を立ち上げ、志を共にする全国の弁護士と共に、飲食店に襲い掛かるモンスタークレーマーや大人数の予約ドタキャンなどに、六法全書を片手に対峙している。10月1日から始まった消費増税でさらなる混乱状態に陥った飲食業界で、“リーガルV”のために立ち上がった石崎弁護士に話を聞いた。

◆ ◆ ◆

――弁護士の専門分野として、飲食業界とはどのような位置付けなのでしょうか?

石崎 普通の弁護士は案件ごとに依頼を受け「着手金」と「報酬金」をいただいています。飲食店はトラブルがすごく多いのですが、ひとつひとつの案件が小さいので、このような費用のいただき方ですと、はっきりいって、弁護士にとっては“おいしくない”分野なんですよ。だから飲食店はいままで弁護士など、法的な武器を使いこなせていなかったんです。

――飲食店にとっても訴訟はコストが高いと。

石崎 勝訴しても金額でみると少額ですからね。それに、飲食業界は零細企業の集まりです。外食産業市場は25兆円くらいの規模ですが、トップ企業の売上は6000億円程度。市場全体の2%程度にすぎない。結局、町の居酒屋やレストランなど約80万件の小規模店で産業を構成しています。だから弁護士に依頼して訴訟して、というコストをかけられる店なんてほとんどないのが現実です。

■“一流の対応”を求められる飲食店

――しかし、トラブルはたくさんある。

石崎 おっしゃる通り、トラブルは絶えないんです。それでも昔はまだよかった。言ってしまえば、個人経営の赤提灯ばかりで、粗暴な酔客が暴れても「ふざけんな、出ていけ!」って水をかけて終わりだった(笑)。しかし現在は有名チェーン店やFC店が増えて、コンプライアンスに、ガバナンスにと、普通の会社と同じ企業倫理を守る必要がでてきたんです。もし今、大手チェーン店で店員がお客さんに水をかけたら、風評で大変なことになります。

――SNSに書き込まれるなどのリスクもあり、店側の対応は“一流”を求められるわけですね。

石崎 はい。対応次第ではこちらが損害を被ることになりかねません。インターネットの普及は飲食店だけでなく、企業にとって脅威です。そのことに世間が気付いたのが、1999年に起きた「東芝クレーマー事件」です。

■1999年の事件で「クレーマー」が表面化した

――顧客が東芝にビデオテープレコーダーの修理依頼をしたところ、勝手に改造されたうえに担当者から暴言を吐かれた、という事件ですよね。

石崎 その顧客は自身のウェブサイトで暴言の録音テープを公開し、大きな社会問題になりました。「クレーマー」という言葉が一般的に広まったのもこの事件がきっかけです。

 特に飲食店は口コミサイトの評価が客足にダイレクトな影響を与えますから、敏感にならざるをえませんよね。

――インターネットの普及は飲食店にとって新たな脅威も生み出してしまったんですね。

石崎 口コミ以外にもリスク要因は増えています。たとえばネット予約によって増えた、いわゆる“ドタキャン”や“無断キャンセル”。みなさん、よくわかっていないのですが、一方的な予約の破棄は、民法上はお客さん側の「債務不履行」にあたる。ですから、お店側は、一定の範囲で損害賠償を請求することができるのです。約2年前、私はおそらく日本で初めての“飲食店ドタキャン裁判”を起こしたこともありました。

■日本初の“飲食店ドタキャン裁判”

――「日本初のドタキャン裁判」ですか。

石崎 そうです。あるお店に1人3480円で40人の貸切予約が入りました。でも連絡がないまま、当日になって無断キャンセルになったのです。もともと私が法律顧問を担当していた飲食店でしたので、オーナーから予約者に「弁護士から連絡がある」とショートメールを入れてもらいました。するとすぐに謝罪の電話がかかってきた。でも後ろでは別の場所で宴会をしているような騒がしい声が聞こえていたそうです。「キャンセル料を支払ってほしい」と伝えたら、次第に連絡がつかなくなり、最後は一切連絡が取れなくなってしまいました。

――電話が通じなくなった後はどうしたのですか。

石崎 弁護士会を通じて携帯電話会社に要請し、契約者の名義や住所を割り出しました。そして「キャンセル料を支払わなければ訴訟を起こす」といった旨の文書を内容証明郵便で送ったのです。しかし、返事がない。住民票を確認したら、契約者が引っ越していたことが発覚したので、最新の自宅住所にも同様の文書を送りました。それでも、残念ながら内容証明の受け取りを拒否された。それで裁判に踏み切ったんです。

――結果はどうなったのですか?

石崎 相手が欠席のまま審議が行われ、こちらの言い分が全面的に認められました。でも、賠償金額だけでみれば3000円が40人ぶんで12万円。私はこの件でほとんど費用をいただいていません。でも日本で初めての“飲食店ドタキャン裁判”でしたから、話題になりました。

――「無断キャンセルは訴えられることもある」ということが世間に広まったわけですね。

石崎 そうです。それが一番の功績でしょうね。飲食店って、食事という生活に身近なものを扱っているだけに“下”に見られがちなんです。お客さん側は多かれ少なかれ自分たちを「神さまだ」と思っている節がありますし。モンスタークレーマーやカスハラ(カスタマーハラスメント)の問題に怯えている飲食店オーナーは多いです。

――客側の苦情が真っ当な主張の場合もあると思います。

石崎 大前提として、お客さんがお店に対して苦情をいうのは当然です。店側も事実であれば真摯に聞くべきだと思います。ではどうやってモンスタークレーマーかどうか見分けるのか。私が顧問先に伝えているのは、「まず謝りましょう」ということです。

■モンスタークレーマーを見極める技とは

――謝ってしまうと、責任を取らざるを得なくなるのでは。

石崎 確かにそれを懸念する人は多いですね。でも謝ったことだけで法的に責任を負うことにはならないんですよ。だから安心して、まず謝ってみる。すると大抵の場合、お客さんの怒りは収まります。そこから冷静に話し合い、平和的解決への道を辿ることができるのです。でも、モンスタークレーマーはここで決定的に違う態度をとるんです。

――“モンスター”は何をするのですか。

石崎 大きな声を出したり、同じ話を何度も繰り返し、長々と堂々巡りを始めるんです。そのうち、「100万円よこせ」とか「土下座しろ」とか。こんなことを言い出したら、モンスタークレーマー確定です。

 この夏に話題となった、あおり運転殴打で逮捕された男性も、飲食店で「お茶が熱すぎて彼女が火傷した」などというクレームを4時間にわたって言っていたと報じられていましたが、いわゆる反社会的勢力とはまた別に、モラルの外にいる“反社会的な人”っていっぱいいるんですよ。

――そういう人にはどう対処するといいんですか?

石崎 例えば、私が対応したなかにこんな方がいました。高級フレンチレストランの常連客なのですが、来店するたびに店員に「一流レストランのサービスとはうんぬん」としつこく説教をするのです。上客でもあったので店側も対応を苦慮していましたが、従業員の方が疲弊しきっていたので、話し合いの結果、今後の入店はお断りしましょう、ということになりました。

――“出禁”ということですよね? そんなこと可能なんですか?

石崎 そもそも店とお客さんは対等な関係ですから、可能ですよ。焼き鳥屋さんで串を外したり、お寿司のシャリだけを残すお客さんを出入り禁止にしたって問題ありません。このケースでは特に理由は述べず、私から今後のご来店をお断りする旨を伝えました。

――納得されたんですか?

石崎 いえいえ、まったくご納得いただけませんでした(笑)。私相手に延々と不満を述べられたあと、「本店にクレームをいれる」「懇意にしている〇〇法律事務所に相談して訴訟準備中だ」と、数カ月にわたって連絡がきました。しかし最終的には連絡がこなくなった。

■ストーカー客VS.飲食店専門弁護士 緊迫の瞬間

――それで解決した?

石崎 1年後にはまた予約の連絡をいれてこられたそうです(笑)。もちろんお断りしましたが。この事例は長引きましたが、それほど悪質なケースではありません。 

 深刻だったのは喫茶店の“ストーカー客”です。ある常連客が女性従業員に対し、私的な質問を執拗にするなど、距離を詰めてきたんです。女性従業員は怯えてしまい、店側が現場に出さなくなった。常連客は激怒し、「女性従業員を出すまで帰らない」「上司を呼べ」と居座り、最終的には「食い物、気をつけろよ」などと、料理に異物を混入するような発言にまで至った。これは深刻だということで、本社の社員と私で対応し、今後の入店をお断りすることになりました。

――連絡先などはわかっていたのですか?

石崎 場所が喫茶店ですからね、予約をしてくることもありませんし、連絡先はわかりませんでした。だから来店したタイミングを見計らって、今後の入店をお断りすると明記した弁護士名義の文書を手渡したんです。そのときには警備員を近くに配備していました。非常に緊張感のある瞬間でしたが、その後は嫌がらせもなく、来店もなくなりました。

■モンスター客がいなくなることはありえない

――モンスタークレーマーはいなくならないのでしょうか?

石崎 いなくならないでしょうね。外食産業は日本国民1億2000万人が、もっといえば世界中が顧客になり得る、究極の「BtoCビジネス]ですから、なかには困った人も出てきます。ただ全体として、そういう人を増やさないとか、減らすとかってことはできるはずなんですよ。

■「お客さまは神さまです」からの脱皮

――どうすればいいんですか?

石崎 「お客さまは神さまです」の固定観念から脱皮することです。理不尽な要求や明確なルール違反には毅然と「NO」を言う。その際に徹底すべきことは、会話を録音するか、少なくともメモを取っておくことです。日時、対応者、応答内容、今後いつどちらから連絡するのか、次回お店として回答すべきことなどを、できるだけ詳細に残しておく。そうすればやりとりの齟齬が生まれにくくなりますし、紛争化した際にも貴重な証拠になります。

――それでもどうにもならないなら……。

石崎 手前みそですが、弁護士を使うことでしょうか。そうすれば、「やりすぎると弁護士が出てくるんだ」と徐々に浸透していきます。先ほど言ったように、訴訟を起こすこともひとつの手です。目先のことを考えると苦しい部分もありますが、そうやって飲食店側の意識や、飲食業界全体のプレゼンスをあげていけば、トラブルは次第に少なくなっていくはずです。弁護士だけでなく、示談代行のついている損害保険に加入するという方法もあります。

――そんなことをしたらネットに書かれませんか?

石崎 それが案外書かれない。ドタキャン問題などは最たるものですが、悪いことをしているのは相手の方ですから。道徳的に完全に優位に立っているということは大きなアドバンテージなんです。仮にネットに書き込まれたとして、それに賛同する人のほとんどは「お客さん」じゃありませんから、無視すればいい。ムキにならず、「星1つを付けられても、それ以上の星5つを取る」と、前向きになった方が生産的です。

■“飲食店弁護士ネットワーク”でトラブルに挑む

――これからは飲食店も戦っていくと。

石崎 そういう気持ちになっているオーナーさんは多いですよ。今まで散々煮え湯を飲まされてきていますからね。飲食店トラブルは今まで閉じられた空間で起きてきました。だからいつまで経っても、お客さん側のリテラシーが上がらず、トラブルは増える一方だったんです。それを今後は白日の下に法的に解決していきたいですね。

――今年設立された一般社団法人もそういった意図があるのでしょうか?

石崎 おっしゃるとおりです。飲食店は多くの業種や業態があり、しかも日本全国に散らばっています。そのため各地域に飲食店に対する熱意と、知識、経験を持った弁護士が必要です。飲食店をサポートする弁護士のネットワークを構築し、ノウハウをシェアしていきたいんです。目指すのは、飲食業界を従業員やお客さま問わず、誰からも素晴らしいと思われる業界にすることです。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)

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