皇族の減少で変わる「即位礼正殿の儀」……注目は“天皇陛下の隣席”と“文在寅大統領の親書”

皇族の減少で変わる「即位礼正殿の儀」……注目は“天皇陛下の隣席”と“文在寅大統領の親書”

天皇皇后両陛下 ©JMPA

 天皇の即位を内外に宣言する「即位礼正殿の儀」(即位の礼)と、それを祝賀する「饗宴の儀」が22日からもたれる。前回(1990年11月12日)の即位の礼を上回る174カ国の王族、元首、首脳、国際機関の使節が参列する予定で、中東情勢の緊迫などもあって、東京を舞台に「即位の礼外交」も展開される。前回と比べた時の今回の一連の儀式の特徴は、簡素化と両陛下の負担軽減だ。

■静寂の中で行われる30分の儀式

 元号が代わって半年足らずの短い期間に、新天皇の即位の礼が挙行されるのは、近代以降の日本の歴史で初めてだ。生前退位が行われたからこそで、前回の明仁天皇の即位の礼は、昭和天皇が前年の89年1月に亡くなった後、服喪の期間を置いて1年10カ月後に行われた。ちなみに昭和天皇の即位の礼も、大正天皇の逝去(1926年12月25日)から2年近く後の28年11月に行われている。

 昭和天皇が亡くなられた喪失感がまだ尾を引いていた前回の即位の礼と比べ、上皇、上皇后がご健在の今回はそうした喪失感はない。前回、明仁天皇、美智子皇后にあいさつする外国の祝賀使節はまず冒頭、お悔やみを告げた。しかし今回は祝意と慶賀の伝達となり、明るい空気が全体を支配する。

 即位の礼は午後1時に始まり、安倍晋三首相、衆参両院議長、最高裁判所長官の三権の長のほか、外国の賓客や国内の各界代表2000人が参列する。

 天皇は黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)と呼ばれる装束に身を包み、宮殿「松の間」に設置された高御座(たかみくら)に、十二単(ひとえ)姿の皇后は御帳台(みちょうだい)に登壇される。鉦(しょう=かね)の合図で参列者が起立し、高御座と御帳台の御帳が開けられると鼓(こ=太鼓)が響き、参列者は礼をする。

 安倍首相が進み出て万歳を三唱し、これに参列者が唱和する。高御座と御帳台の御帳が再び閉じられると鉦が鳴り、参列者は着席。両陛下が退出して終わる。この間、30分。音楽も説明もまったくない静寂の中での儀式だ。

■一切の説明がなく、3つの音だけで式は終了

 前回の即位の礼に参列した指揮者の故・朝比奈隆さんは「もっといかめしい感じの儀式と思っていたが、簡素でさわやかな印象だった。……一切の説明がなく、鉦のカーンで起立、鼓のポンで礼、また鉦で着席と、3つの音だけで式が終了したのが何よりもよかった」と音楽家らしい感想を語っている。

 儀式では、皇位のしるしとされる三種の神器のうち剣、璽(じ=まがたま)を侍従が捧げ持ち、旛(ばん)と呼ばれる赤、黄、緑、青の色鮮やかなのぼりが「松の間」を臨む中庭に立てられる。古装束に身を包んだ宮内庁職員も弓や太刀を持って威儀を正し、平安朝絵巻さながらの光景が繰り広げられる。

 日本に観光でやってくる中国や韓国の人たちは京都などで古い建築や文物を目にし、「ここに私たちの古い文化が残っている」と感嘆する。自分たちの国では幾多の戦乱と混乱で廃れ、資料に記録としてだけある伝統文化が、日本では現存しているからだ。皇室文化にはそれがまぎれもなく多い。

 法政大学教授(比較文化)で中国出身の王敏さんは、前回の即位の礼もテレビで見ている。「宮中祭祀に似たものが中国の古代にもありました。日本では現代にそれらが行われていることに中国人は驚きます。……中国でいえば、紀元前の始皇帝の時代の風がいまも吹いているようなものです」「即位礼のようなイベントは歴史、文化、伝統を総合的に学習する非常にいい機会です。皇室文化はアジアが共有した伝統文化の核心部分だと思います」と、王さんは語っている(10月10日付日経新聞朝刊)。

■「饗宴の儀」は回数、招待者とも大幅に削減

 前回は中庭に仮ステージを設置して参列者の席にしたが、儀式の簡素化の一環で今回は設けない。その代わり参列者は中庭を取り囲む廊下と「豊明殿」「春秋の間」などの広間に着席し、多数設置される大小のモニターを通しても儀式の様子が見られるようになる。

 即位を祝う「饗宴の儀」は、前回は4日連続で持たれ、このうち3日間は昼夜で、計7回すべてが着席、招待者も3400人に上った。今回は簡素化と共に両陛下の負担軽減のため、饗宴の回数、招待者とも、大幅に削減される。

 饗宴は22日から31日までとびとびに計4回開かれるが、着席は初日22日の晩餐会と、25日の午餐会の2回。29日と31日は午後3時からの立食となる。4回合わせての招待者は2600人と、前回よりも800人少ない。また饗宴時間も初日だけは3時間半だが、残る3つは40分〜50分に抑えられる。

■初日の晩餐会がハイライト

 ハイライトは初日22日の晩餐会である。即位の礼に参列した外国の王族、大統領、首脳へのお礼ともてなしが目的で、衆参両院議長、安倍晋三首相夫妻なども合わせて410人の規模となる。前回、初日の晩餐会の出席者は350人だったから、これを大幅に上回る。

 儀式は午後7時20分に始まる。両陛下が国内外の出席者とあいさつされ、舞楽を鑑賞。両陛下が登壇された高御座と御帳台も出席者に供覧される。その後、晩餐会に移る。

 格天井から32個のシャンデリアが輝き、雅楽の演奏が流れる豪華絢爛な「豊明殿」の晩餐会には、前回は皇太子として出席したスペインのフェリペ6世国王、オランダのウィレム・アレクサンダー国王、モナコのアルベール2世公などの元首のほか、前回に続き2度目の参列となる英国のチャールズ皇太子、フィリピンのドゥテルテ大統領、米国のチャオ運輸長官、中国の王岐山・国家副主席ら174カ国・機関の祝賀使節が顔を揃える予定だ。これも前回の158カ国・2機関を上回る。

■プリンスホテルが2600人分の料理を請け負う

 天皇の隣の最上席が誰になるかも注目される。前回は皇室と親密な交流をもってきた長老格の、ベルギーのボードワン国王夫妻が着いた。外交儀礼でいえば、同じ元首でも大統領よりも国王(女王)が優先されるため、在位期間が長いスウェーデンのカール16世グスタフ国王(在位46年)のような欧州の元首が着くとみられる。

 料理だが、前回は和食だった。外国人の賓客にはフランス料理が原則の皇室では異例だったが、サービスを考えてのことだ。数百人規模の招待客に、前菜から主菜、デザートまでコースごとにサービスすることはとても出来ない。しかし和食ならお盆に何品も盛って、事前に招待客の席に置いておくことも可能だ。

 前回は外国人の賓客のために、ナイフとフォークも添えられた。飲みものは日本酒もあったが、フランスワインは不変で、白はブルゴーニュ地方、赤はボルドー地方の最高級で、祝宴の定番であるシャンパンも出された。今回もサービスを考慮に入れれば、常識的には和食にフランスワインとなる。

 料理を担当するのはプリンスホテル。宮内庁の大膳課ではこれだけの規模の饗宴を請け負うことはできず、一般入札で同ホテルが落札した。計4回、2600人分の料理の予算は8420万円だが、22日の晩餐会にその多くが割かれる。

■参列者へのあいさつは夜中までかかる見通し

 食事時間は1時間。終わると両陛下は招待者と共に「春秋の間」に移り、食後酒を手に歓談される。この後、外国の参列者だけ「松風の間」に移り、両陛下が一人一人にお礼を述べる機会が設けられる。「皇室はいかなる国も平等に、最高のもてなしで遇し、全使節と言葉を交わし、感謝の意を表する」との姿勢を天皇、皇后は態度で示される。

 今回は前回同様、終了は午後10時50分の予定だ。しかし前回、終わったのは夜中に近い午後11時半過ぎだった。今回は人数も前回より多く、延びる可能性が高い。

 なお、残る3つの饗宴は国内の参列者向けで、最後の31日だけ駐日外国大使夫妻も招かれる。

■接遇を担える男性皇族が秋篠宮さま1人しかいない

 儀式の簡素化と両陛下の負担軽減は、皇族が減っている実情と裏腹の関係にある。たとえば今回、来日する外国の王室に対して、男性皇族による出迎えと見送りを実施しないことになった。

 前回は男性皇族が単独あるいは夫妻で26カ国の国王らを空港やホテルで出迎え、帰国時には27カ国の国王らを見送った。当時は成年の男性皇族が7人おり、このうち高齢や療養中の方を除く皇太子時代の陛下と秋篠宮さま、常陸宮さま、三笠宮寛仁さま(故人)、高円宮さま(同)の5人が単独もしくは夫妻で接遇を担った。しかし現在、対応できる皇族は秋篠宮さま1人で、とても不可能だ。

 また前回は初日晩餐会の翌日、天皇だった上皇さまと美智子さまが元首の国王・大統領を、皇太子だった陛下が王族を、それぞれの住まいに招いて茶会を催した。男女の成年皇族も分かれて出席した。しかし今回はそれだけのゆとりがないため、両陛下主催の午後の茶会に一本化する。

■日韓首脳会談で伝達される“文在寅大統領の親書”の中身は?

 ただ外国の賓客に対する、皇室と首相による接遇という、二段構えのもてなしの慣行は今回もはずさない。初日の宮中晩餐会の翌日(23日)、安倍首相夫妻は都内のホテルに外国の賓客を招いて晩餐会を開く。食事の前には、歌舞伎の「根元草摺引(こんげんくさずりびき)」、能「石橋(しゃっきょう)」、文楽の「三番叟」など、日本の伝統芸能も解説付きで披露される。

「即位の礼外交」も活発に行われるはずだ。前回はイラクがクウェートに侵攻(90年8月)した湾岸危機のさなかで、米国のクウェール副大統領、ソ連のルキヤノフ最高会議議長などを中心に多角的な接触が行われた。また中韓の国交回復前で、韓国の姜英勲首相は中国の呉学謙副首相と会い、両国間の交流を進めていくことで一致している。両国の首脳レベルでの接触は初めてだった。

 今回はトルコによるシリア国内のクルド人攻撃や、サウジアラビアの油田施設攻撃など、中東情勢が緊迫しているさなかで、即位の礼に参列予定だったトルコのエルドアン大統領、米国のペンス副大統領が来日をキャンセルした。しかし来日した各国首脳らにとっては多国間外交の格好の機会で、米中貿易摩擦、北朝鮮の核問題などを巡りさまざまな接触が行われるとみられる。

 日韓の接触も一つの焦点だ。即位の礼に参列する韓国の李洛淵首相は、安倍首相との首脳会談で文在寅大統領の親書を伝達すると言われている。親書は文書でなく口頭の可能性もある。ただ強制徴用問題など懸案を巡る両国の隔たりは依然大きく、今後の安倍・文の首脳会談に向けた環境整備になるかどうかが注目される。

(西川 恵)

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